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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

2015/12/30

「おおすみ事件」不起訴の不当決定!

「おおすみ事件」不起訴の不当決定

12月25日、広島地方検察庁は、「おおすみ事件」の不起訴処分を発表した。14年1月15日に自衛艦「おおすみ」が瀬戸内海で釣船に衝突し2人が死亡、2人が負傷した事件について、裁判をする必要はない、という決定だ。発表文書によれば、「捜査により収集した証拠を検討したところ」釣船側が直前に右転したことが衝突の原因だからと考えられ、自衛艦側は予見も回避もできなかった、業務上過失往来危険・業務上過失致死傷の嫌疑不十分のため不起訴。釣船の船長は死亡しているため責任が問えないから不起訴。
納得がいかない。「真相究明を求める会」がこの事件に関する運輸安全委員会の船舶事故調査報告書(1月29日)の問題点を指摘してきたのに、公開の法廷で審理することをせず、わずか1頁の発表文書で「終わり」にしようとしている。自衛艦が6分前に進路を変えなければ進路が交叉することはなかったし、見上げるような大きな船の側面に自らぶつかっていく者はいないだろう。
検察庁発表を「中国新聞」は1面トップで報道、「朝日新聞」東京版は第3社会面に1段15行だった。

2015/08/10

砂川事件最高裁判決は「憲法の神髄」から見て誤っている

砂川事件最高裁判決は「憲法の神髄」から見て誤っている
内藤 功



――前回の新井章先生のご論考に続き、私たちは砂川事件最高裁判決についてさらに考えてみたいと思います。以下は、8月8日に内藤功先生の事務所で行われたインタビューの内容をまとめたものです。(O)

 1959年3月30日に東京地裁が、米軍駐留を許す政府の行為は憲法違反であるという判断(いわゆる伊達判決)をして、1959年12月16日に最高裁大法廷が全員一致でこれを破棄しました。その破棄の理由は2つあります。日本に駐留するアメリカ合衆国軍隊は日本の指揮管理する軍隊でないから、憲法が禁止する戦力に当たらないと、こういう形式的な理由がひとつ。もうひとつは、日米安保条約のように高度に政治性のある問題は、司法審査権になじまない、範囲外だと。この2点で破棄したわけですね。その傍論としての、憲法は自衛権を否定しない、自衛の措置を禁止しないという部分を、安倍政権は戦争法案が違憲でないという根拠にしています。
 問題は日本国憲法前文のとらえかたにあります。第1審判決は、前文第1段の「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないように」という戦後政治の原点のところを引用して、これを第二段の「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」、ここにつないでいる。「人間相互の関係を支配する崇高な理想」とは、人と人が殺し合わない、ということです。武力を使わないことです。
 第1審判決はさらに憲法前文第2段の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を維持しようと決意した」、これは前を受けますから、武力によらずに各国民の公正と信義に信頼するというふうにつながる。だから第1審判決は、「自衛権を否定するものではないが、侵略戦争は勿論のこと、自衛のための戦力を用いる戦争及び自衛のための戦力の保持も許さない」という憲法解釈をしているわけです。武力を用いないという思想が一貫している、これが憲法の制定経過、帝国議会の論議を経てきた憲法の真髄だと思います。
 ところが最高裁判決の文脈はどうかといいますと、まず憲法前文第1段の「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないように」というところを引用しながら、かんじんの第2段の冒頭の「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」、この部分は引用していません。そして前文第2段の伊達判決が言わなかったところを引用している。どういうところかというと、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占め」たいと、この部分を引用している。次に最高裁判決は憲法前文から、「全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と、平和的生存権を引用している。さらに続けて自衛権の存在を認めたうえで、憲法前文第2段の前のほうに逆戻りして、「わが国の防衛力の不足」は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」することによって補うのだから、米国などに安全保障を求めることは禁じられていない、としている。
 つまり砂川事件第1審判決も最高裁判決も、憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」して「われらの安全と生存を保持」というところを引用しています。けれども、伊達判決は戦争の惨禍の反省から人間は殺し合ってはならない、だから世界の国民の公正と信義に信頼、とつながっている。これに反して最高裁判決は「名誉ある地位を占める」と「平和のうちに生存する」の2つを、防衛力の不足を補うため「諸国民の公正と信義に信頼」と、こういうふうに結びつけている。
「憲法の真髄」というものは、ポツダム宣言以来の歴史的、政治的経過の下で捉えるべきだし、5か月にわたる帝国議会両院での審議と政府の説明によって判断すべきです。やはり伊達判決の方が正しい、最高裁のほうが憲法前文をねじ曲げたものだと思います。ですから最高裁判決は「憲法の真髄」から見て誤っていると断定していいと思います。
 さて、いま国会で審議されている戦争法案に関して政府は砂川事件最高裁判決から、2つの誤った態度をとっています。ひとつはいま申し上げた、個別的自衛権の名の下に武力を行使する、平和的生存権をその論拠にするということです。もうひとつの誤りは、日本自体が武力攻撃を受けていない場合でも密接な関係のある他国への武力攻撃の応答でも武力をもって参戦できるという、集団的自衛権の根拠にしているということです。
自衛権や自衛措置という最高裁の論理は個別的自衛権の中でも米軍の駐留を認めるという、せいいっぱいそこまでを認めたものであって、日本の自衛隊が海外に出て行って、密接な関係にある他国への攻撃を排除する、このような集団的自衛権行使はここからは出て来ない。あの裁判は米軍駐留が違憲かどうかが争点だったのであって、立川基地に当時自衛隊は全然いなかったのですから、論議になるわけがないですね。当時、我々弁護人、検察官、裁判官の共通認識として、自衛権と言えば個別的自衛権だけで、集団的自衛権を含めた自衛権を論議するなどという頭は全然なかったのです。
なお、自衛隊イラク派遣についての名古屋高裁の2008年4月17日の判決は、日本の判例として初めて、平和的生存権について具体的な定義をしております。自国の行う戦争あるいは軍事活動によって国民の権利・生命・自由が脅かされないようにする、これを差し止める国民の権利として認めているわけですね。砂川事件最高裁判決は、平和的生存権を、集団的自衛権の武力行使の根拠にしているので、考え方が全然間違っていると思います。
平和的生存権という考え方の発祥は1941年8月の大西洋憲章だと言われます。チャーチルとルーズベルトの共同宣言。文脈の第1は、ナチの圧政を頭に置いて、「すべての国民がその国境内で安全に居住することを可能とし、すべての国、すべての人類が恐怖と欠乏から解放され、生命を全うすることを保障するような平和」を求めるとしている。第2はグローバルな観点ですが、「世界のすべての国民が実際的、精神的のいずれの見地から見ても武力使用の放棄に到達しなければならない」と述べています。これは後の国連憲章の精神に通じるものです。第3は、「軍備が国境の外における侵略の脅威を与える国」について、これは日本とドイツですが、これがある限り「将来の平和は維持されない」と述べています。第4は、「広範で一般的な安全保障制度が確立されるまでは、このような国の武装解除が不可欠」だと。最後に第5、「平和を愛好する国民のために、軍備負担を軽減する、すべての実行可能な措置を援助する」と続けています。
この文脈からみても、やはり、平和的生存権というものはすべての国民に与えられており、武力行使の放棄や軍備負担の軽減につながるものだと受け取れます。これが平和的生存権の出発点です。
平和的生存権というものを歴史的な本来の意味からまったく逸脱して、こともあろうに武力による自衛の根拠にしていることの誤りをいま強調することは大事な点であると、砂川事件の弁護人のひとりとして思っています。

2015/08/07

9月12日「舘野鉄工所事故慰霊・市民のつどい」


 9月8日(火)の午前10時から、大和市上草柳の事故現場で舘野鉄工所事故被害者の
慰霊祭を行うことになりました。

 9月12日に「舘野鉄工所事故慰霊・市民のつどい もう落ちないで―ここは人の住む
街」を行います。

・日時 9月12日(土)午後2時開会
・会場 大和市勤労福祉会館3階
・内容 舘野義雄さんのお話
     ミニ講演 ヨコスカの原子力空母の今後 呉東 正彦さん
     横井久美子さんの唄
     「平和慰霊公園」設立への陳情署名運動のアピール

憲政の邪道 暴走する安倍政権

憲政の邪道 暴走する安倍政権
――集団的自衛権と立憲主義

新井 章(砂川事件弁護団)


【編集部によるまえがき】「平和に生きる権利」は武力によらない安全保障
国会で審議中の安保法案=戦争法案に対して、多くの憲法研究者や法曹界から「違憲」の声が挙がっています。これに反して、安倍政権が苦しまぎれに「合憲」の根拠としているのは3つです。1959年の砂川事件最高裁判決、1972年の集団的自衛権に関する政府見解、そして「我が国をめぐる安全保障環境の変化」。私たちはとくに砂川事件最高裁判決にこだわります。なぜなら同判決が「自衛権は国家固有の権利」と主張するすぐ前に、日本国憲法前文の「平和のうちに生存する権利」を挙げているからです。つまり「平和に生きる権利」が武力(この場合は駐留米軍)による安全保障を肯定する論理になっています。私たち「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」は、日本国憲法の平和主義を守り広げる=武力によらない安全保障を求める運動を、1985年以来、30年にわたって続けてきました。いま日本が再び海外で戦争をする国になるのか、という平和運動の正念場にあたって、あらためて「平和に生きる権利」を考える連載をお届けします。その第1回は、砂川事件弁護団の新井章先生からご寄稿いただいた以下の論考です。(O)

1.集団的自衛権問題と砂川事件最高裁判決

1-1 安倍政権による集団的自衛権行使容認政策と安保法制改正(「戦争法案」)の企ては、多くの憲法学者から「違憲」の指摘を受けていよいよその法的正当性が疑われ、国民からの疑問や批判も強まっている。
 安倍首相や高村自民党副総裁らは、この苦境から脱するための窮余の一策として、こともあろうに半世紀前の砂川事件最高裁判決(1959年12月16日)を引き合いに出し、その判示に手前勝手な解釈を加えた上で、この判決はわが国が(集団的)自衛権を保有していることを認めているなどとして、あたかもこの判決が彼らのいう集団的自衛権行使容認の主張に「合憲」の“お墨付き”を与えているかのごとく強弁している。
 
 しかし、このような安倍首相らの主張の真偽を検証するには、①最高裁判決をこの裁判事件の第一審からの流れのなかに位置づけて、当時の最高裁がこの裁判事件に関して担わされていた任務や課題は何であったかを的確に把握することが必要であるし、それに加えて何よりも、②最高裁判決の内容そのものがどのような論旨を展開し、判示していたかが、予断をまじえずに客観的・正確に把握されなければならない。

2-1 そこで、まず①の点(裁判の経過)から検討すると、そもそもこの最高裁判決は、検察側の跳躍上告(控訴審を省略 刑事訴訟規則254条1項)により、日米安保条約とそれに基づく米軍駐留を違憲と断じた東京地裁の第一審判決(いわゆる伊達判決 1959年3月30日)を、直ちに速やかに再審査すべき任務の下で行われた裁判であった。

 それゆえに、上告審の審理判断の課題も、第一審判決が採り上げた上記の問題(争点)、すなわち日米安保条約と米軍駐留の憲法(9条)適否についての審判に絞られることになったのは、当然至極の成り行きであり、最高裁での審判の過程に、わが国の集団的自衛権やその行使容認の是非をめぐる問題(争点)のごときが“登場”する余地がなかったことは多言を要しないところである。

2-2 次に②の点(最高裁判決の内容)についてみると、この判決の判示は前段と後段との二部構成となっていて、前段は、日本政府が安保条約を締結して米軍の全土駐留を許したことが、政府に「戦力の保持」を禁じた憲法9条2項に違反するかどうかという問題(争点)についての判示である。この判決では、駐留米軍は日本(政府)が保持を禁止された「戦力」には該らぬと判断され、米軍駐留は「合憲」とされている。

 後段は、日米安保条約が「戦争放棄・戦力不保持」を定める憲法9条等の非武装平和主義の趣旨に適合するか否かという問題(争点)についての判示である。この点に関する最高裁の判断は、日米安保条約の締結という事柄は高度の政治問題なので、司法判断を任務とする裁判所の審判にはなじまぬとする(「統治行為」論)、司法判断回避の結論となった。

 以上のような二段にわたる判決の内容(論旨)からしても、この最高裁判決が日米安保条約と駐留米軍の憲法9条等への適合性という問題(争点)に集中して、それ以外に、わが国固有の(集団的)自衛権のあり方やその行使容認問題についてまで触れる筋合いのものでなかったことは明白であり、ましていわんや、安倍政権の主張する「集団的自衛権の行使容認論」に法的根拠=“お墨付き”を与えるような内容ではなかったことは、一点の疑いもない。

2-3 かくして最高裁判決がわが国の集団的自衛権問題に判断を加えたものでないことはもはや明らかである。それでもなお安倍首相や高村氏は、判決の前半の部分で裁判所が、「わが国が、自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な措置をとりうることは、国家固有の機能の行使として当然のことといわなければならない」と説示している箇所をとり上げ、ここで裁判所が「自衛のための措置」と述べるのは、個別的自衛権も集団的自衛権も区別しない包括的な表現と読めるし、少なくとも集団的自衛(権)を排除する趣旨とは解されないから、この判決はわが国の集団的自衛権(行使)を否定していない(認めている)などと強弁している。

 しかし、この判決の前半が、わが国の有する個別的自衛権(の行使)に関して判示したものであることは、その論脈からしても、文辞(「自国の平和と安全」「わが国の防衛力の不足」「わが憲法の平和主義は決して無防備・無抵抗を定めたものではない」等)に徹しても疑問の余地はなく、彼らの立言は、断牽取義でなければ牽強付会の極みという以外にはないのである。

3 私は1956年に弁護士登録して砂川裁判の当時は開業3年目の若輩であったが縁あってこの裁判事件の上告審から弁護団に加わることとなり、最高裁大法廷での口頭弁論から判決言渡まで、上告審の裁判の全過程に関与することができた。従って、この裁判の経過や内容に関しては、“証人資格”をもつものの一人と自負してもいる。

2.集団的自衛権行使容認の閣議決定と立憲主義

 立憲主義(constitutionalism)とは、国家権力の行使が憲法の定めに則って行われるべきことを求める主張(思想、原理)であって、近代憲法上の大原則の一とされている。

 歴史的には、ヨーロッパ中世以降の王権等による絶対主義体制を克服・打倒する闘いの過程で登場したとされるが、わが国現憲法においてもこの思想は貫徹され、違憲立法審査制の導入(81条)や憲法の最高規範性の確認(98条)等の定めに具体化されている。

 ところで、安倍政権ははじめから承知の上で、憲法9条や前文の定める平和主義(戦争放棄・戦力不保持)の原則を軽んじ、9条等の下では集団的自衛権の行使は許されぬとしてきたこれまでの歴代政府による憲法解釈を、「閣議決定」をもって敢えて「変更」し、「集団的自衛権の行使容認」――米軍等との共同戦闘行動に踏み切ろうとしているのである。

 もし安倍政権がそのような軍事的な新方針を採択し断行しようとするのであれば、その内容が憲法9条等の平和原則にも抵触しかねない重大性を帯びているという事柄の性質上、堂々と「憲法の改正」の手続(憲法第9章)を踏んで行われるべきスジである。憲法の改正手続が実現困難だからといって、その手続を回避し、一内閣の「閣議決定」という行政決定の手続をもって「憲法解釈の変更」(憲法条項の実質的改正)を成し遂げようとするのは、立憲主義体制への挑戦という以外の何ものでもなく、憲政の邪道を行くものとの非難を免れないであろう。

3.安倍政権は「戦争法案」の強行で何を狙っているか

 この点について安倍首相自身が語るところによれば、彼にとっては1945年の第二次大戦での敗北は不本意で不名誉極まる出来事であり、それに引き続く戦勝連合国の対日占領政策によってわが国の国家主権は制限され、米占領軍の押しつけ憲法の下で、日本の伝統的な政治・経済・文化は解体・改変され、占領終結後も米国軍隊の駐留継続により、独立国家としては不甲斐ない従属的な状態に甘んじ続けさせられてきた――このような屈辱的な「戦後レジーム」からの「脱却」をこそ図るべきだというのが、彼の政治家としての信条、宿願であると思われる。

 そして、さような彼の願望を遂げる方策として、①対外的には、日米軍事同盟における両国の立場の対等化を図り(集団的自衛権行使容認や「国防軍」の創設、海外派兵の恒常化等)、日本を再び軍事大国に仕立て上げること、また、②国内的には、戦後70年で築かれてきた平和・民主・人権のわが国政治体制を解体・再編し、国家主義・権力主義的な旧体制(アンシアン・レジーム)を“復活”させること(その青写真が自民党の「改憲案」である)を企図し、狙っているものと察せられる。

 戦前日本の帝国主義・軍国主義的な対外膨張政策(韓国併合や中国大陸侵攻等)がひき起こした、無謀な戦争とその惨禍に対する冷静で真摯な反省を欠いた、このような安倍首相の「歴史認識」こそが、国内的には昨今の「戦争法案」強行の基点をなしていると同時に、国際的には中国・韓国等からの深甚な反撥を招き、欧米諸国からも「右翼・ナショナリズム」との根深い不信を表明される現況を生み出しているわけである。

 このような安倍政権の危険で憲法違反が明白な“暴挙”を葬り去るために、私たちは最後まであきらめることなく、全力で闘い抜かねばと決意している次第である。

2015/07/14

「平権懇」会員奮闘中!

現在、国会内では「戦争法案」の審議打ち切りをめぐる与野党の攻防が激しくなっていますがこれまでの闘いの中で「平権懇」会員は奮闘してきました。まず、清水雅彦さんですが戦争に反対する1000人委員会の事務局の一員となり、また、「憲法学者声明」の集約に尽力しました。
運営委員の大内要三さんは練馬に腰を据えて、講師、さまざまな企画・立案や小冊子の発行と八面六臂の大活躍です。

政府は「戦争法案」の合憲理由を「砂川判決」に依拠していますがこの間違いを指摘する声明をまとめたのが内藤功、新井章の両弁護士です。

「平和への権利の国連宣言」は仕切り直しか?
2013年2月にジュネーヴの国連人権理事会に作業部会が設けられて3会期にわたって「平和への権利の国連宣言」の議論が行われました。しかし、「文案」作成には至りませんでした。3会期の最後に「議長提案」が行われましたが、今後の推移は第29会期の国連人権委員会に委ねられています。
「1964年米軍機墜落舘野鉄工所事件」で新たな取組み開始へ
昨年の9月13日に「1964年米軍機墜落舘野鉄工所事件50周年」で事故地に「慰霊塔」を建立したところ防衛省南関東局から「国有地に勝手に慰霊塔を建てられては困る」と抗議がきました。慰霊塔を抜いて防衛省と交渉を重ねた結果「賃貸契約」が結ばれて「慰霊塔」を再建立しました。この過程で「いっそ事故跡地を平和慰霊公園にしたら」という声が出てきました。「50周年実行委員会」で討議して大和市が事故跡地を国から借りて「平和慰霊公園」にすることを求めることと厚木基地撤去を結び付けた「陳情署名運動」を行うことになりました。この皮切りの集会を下記の通りに行います。この集会に「舘野鉄工所事件」を最後まで支援し続けて下さり「おれもしも死んでなかったら」を作曲(作詞は画家の田島征三さん)された歌手の横井久美子さんが出演も決まりました。

□ もう落ちないで ここは、人の住む街
・日  時 9月12日(土)午後
・会  場 大和市勤労福祉会館
・参加費 1,000円 
・ 内容(案)ご挨拶 舘野義雄(故舘野正盛さんの四男)
歌 横井久美子 
報告 基地、沖縄と厚木

2015/04/16

現地レポート 沖縄はどうなっているのか

現地レポート 沖縄はどうなっているのか

スライド・トークによる報告 
山本英夫(フォトグラファー、名護市在住)
コメント 大内要三(日本ジャーナリスト会議会員、平権懇運営委員)

日時:2015年5月9日(土)午後2時~5時
会場:練馬区民産業プラザ(ココネリ)第1研修室
  西武池袋線練馬駅(地下鉄有楽町線・副都心線・大江戸線直通)北口直結
資料代500円、先着70人

一昨年、東京から名護市に移住し、辺野古での新基地建設反対運動に参加しつつ撮影を続けてきたフォトグラファーによる報告会

主催:練馬・文化の会 賛同:平和に生きる権利の確立をめざす懇談会、憲法を生かす練馬の会、ねりま九条の会、練馬コイノニア集会、練馬平和委員会
連絡先:田場 090-3238-9348

2015/03/19

米軍機墜落舘野鉄工所事件から51年

米軍機墜落舘野鉄工所事件から51年 
 国を相手の「裁判」について考える

杉山隆保(舘野鉄工所墜落事故50周年慰霊実行委員)

 経済産業省前に私たちが立てた脱・反原発テントは今日で1245日となる。国・経済産業省はこのテントの撤去を求めて2013年に裁判を起こした。そして、昨年の11月27日に行なわれた裁判の進行協議では今年の2月17日に「進行協議」、2月26日に「第10回口頭弁論」を行うことが裁判所、原告、被告で合意されていた。ところが12月3日の第9回口頭弁論で村上正敏裁判長は「結審し」という発言をして裁判を閉じた。
 被告側は裁判官の忌避、書記官の忌避を行ったがいずれも棄却された。被告は、第18準備書面、第19準備書面、富田隆一さんの「海野不動産鑑定書に対する批判的検討」という意見書、内藤光博専修大学法学部教授の≪いわゆる「経産省前テントひろば」に関する憲法学的意見書 -表現の自由と「エンキャンプメントの自由」≫を提出して「弁論再開」を求めた。村上裁判長はこれに応えずに「進行協議期日」の破棄、判決を2月26日に出すことを通告してきた。判決日の朝に再度「忌避」が行われた。
 判決に先立って村上裁判長は「私に忌避が行われているようだが却下します」と述べた後で判決を言い渡した。判決は7項目に分かれていたが①テントの撤去②国有地であるテントを建てている土地の返却③被告らに約2800万円を国に支払え、という3項目に仮執行を付した。
 被告は仮執行というテントの強制撤去について論議を重ねてテントの泊まり態勢を厚くする一方で仮執行の停止を求めて東京高裁に「強制撤去の停止」と「控訴」を行った。3月18日に東京高裁は「強制撤去の停止」を決定した。

 1964年の米軍機墜落舘野鉄工所事件も国を相手の困難な裁判であったが1982年12月に国が舘野さんに追加補償を行う和解が成立した。この3年後の1985年6月に「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」を仲間たちと創設した。この会の15周年集会で深瀬忠一さん(元北海道大学教授)が「国という巨大な相手でも①法廷の弁論で国を圧倒すること②大きな運動にすること③新しい理論を創りあげるという三位一体の闘いを行えれば勝利することは可能」と話されたことを鮮明に覚えている。「なだしお事件」「えひめ丸事件」「90億ドル戦費支出違憲訴訟」「カンボジアPKO訴訟」「ゴラン高原PKF違憲訴訟」「イラク自衛隊派兵違憲訴訟」に関わってきた経験から今回の「テント裁判」を改めて捉えなおしてみた。①法廷で原告である国・経済産業は「早期終結」を鸚鵡返しに述べるのみであった②脱・反原発運動の高揚期であり、東京電力福島第一原子力発電所事故で多くの市民が原子力発電に疑問を持ち始めている時期である③エンキャンプメントや内藤教授の新しい「表現の自由論」が出てきたことなどを考えると控訴審でも十分に闘えるし、勝利の展望はある。この意見は当初から私が「勝てる裁判」と主張してきた所作である。第9回口頭弁論前に烏賀陽弘道(うがや ひろみち)さんの「スラップ訴訟」批判の意見書や内藤教授の論文が予定通りに法廷に出されていれば一審の局面が変わっていたかも知れない。

 さて、表題の舘野鉄工所事件だが新しい展開が始まっている。50周年慰霊行動で事故の跡地に慰霊碑を建立したところ防衛省南関東防衛局から「国有地に勝手に慰霊碑を建てては困る。撤去しろ。」との申し入れがあった。実行委員会で議論して「事故地跡に事故の説明をする銘板を立てる計画を考慮して慰霊碑は抜き、土地の使用許可を防衛省に求める」ことにして正式な使用申請を行った。3月20日に使用申請は認可された。ところがその使用許可書の第3条の2項に「更新」を認めない旨の但し書きが書かれていた。現在、この但し書きにどう対処するかを検討している。
 他方で「銘板」だけでなく事故跡地を「平和慰霊公園」にする運動も始まり、この運動のための新しいパンフも出来上がった。舘野鉄工所事件を広めてこの事件の本質である厚木基地撤去の運動に向かおうというのである。舘野鉄工所事件は発生から51年をして国が安全保障政策を軍事に切り替えようとすることに立ち向かうこととなった。

▽パンフのタイトルは
 「爆音のない静かな空を 
  もう落ちないで ここは、人の住む街」
 頒価 一冊 500円(A5判 54ページ 一部カラー印刷 )
 ※10冊以上を販売していただける方には一部400円で預けます。

2015/01/27

集団的自衛権関連法とガイドライン再改定

大内 要三(日本ジャーナリスト会議会員)




1.7.1閣議決定は玉虫色か

 安倍政権が集団的自衛権行使容認へと大きく舵を切ったのは、昨年(2014年)7月1日の国家安全保障会議決定・閣議決定によってでした。発表文書のタイトルは長く、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」となっています。この決定がなされたことで関連法案の準備が進行中であり、その作業は日米ガイドライン再改定とシンクロすることになると言われます。
 7.1閣議決定は、解釈改憲により集団的自衛権行使を「限定的」に容認しましたが、その「限定」が具体的にどこまでかは曖昧で与党内でも不一致があります。関連法案がどのような形で出て来るか、年末から始まった与党協議の内容が少しずつマスコミ報道されていますけれども、法案が国会に提出されるのは4月の統一地方選の後になりそうです。
 だいたい、7.1閣議決定の本文中に「集団的自衛権」という言葉は、1度だけ、控えめにしか出て来ません。首相官邸HPで見ると、A4判8頁の文書になんと頁数を打っていないので該当箇所を頁・行で示すことができないのは腹立たしいことですが、前文+4章構成のうちの「3 憲法第9条の下で許容される自衛の措置」中、次のようにあります。
「憲法上許容される武力の行使は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」「他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである」
「我が国の存立」がまずキーワードです。「国民を守る」に先だって国が存立していなければ話にならない、という論理ですね。ですから、7月1日の安倍首相記者会見でも、2日の山口公明党代表あいさつでも、「国民を守る」ため「限定的」に集団的自衛権を行使する、と強調しました。
「限定的」という表現について。もし集団的自衛権行使全面容認の解釈改憲をすれば、憲法9条で禁止されるのは侵略戦争が残るだけになり、侵略戦争は1937年のパリ条約で国際法違反になっていますから憲法にわざわざ書き込むまでもなく、つまり「平和憲法」を制定した意味がなくなってしまいます。解釈改憲どころか憲法否定です。だから「憲法の平和主義を守る」と言うためには、集団的自衛権行使も「限定的」と言わざるを得ないのです。
 その「限定」の縛りが「武力行使の新三要件」だとされています。新三要件は、1960年の政府答弁書「自衛権発動の三要件」に替わるものです。
 旧三要件のうちの第1要件は、たいへん簡潔なものでした。「わが国に対する急迫不正の侵害があること」。これだけです。自衛隊法76条の規定によれば「我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」にだけ、自衛隊に防衛出動命令が出されます。自衛隊は日本を守るための必要最小限の自衛力だから外国に戦争に行くことはない、自衛隊が外国に出かけるとしても戦地には行かず武力行使をしない、という縛りが、PKO法やイラク特措法にありました。すべてこの旧三要件のうちの第1要件の考え方から来た規定です。
 7.1閣議決定にある新三要件の第1要件は、だいぶ長くなっています。「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」。
「又は」の後が問題ですね。日本に対する武力攻撃がなくても「我が国と密接な関係にある他国」が武力攻撃を受けて「我が国の存立が脅かされ」るなら自衛隊は武力行使をする、つまり戦争をするわけです。日本が武力攻撃を受けていないのに日本国の存立が脅かされる事態とは具体的にどのような場合でしょうか。国会質問で安倍首相はケース・バイ・ケースとしか答えておりません。誰が判断するのかといえば、これは国家安全保障会議です。その中核は首相・官房長官・外相・防衛相の4閣僚会議です。
 日本国の存立が脅かされたとの判断を得て首相が自衛隊に防衛出動を命ずるとき、「原則として事前に国会の承認を求める」とされていますが、これは原則にすぎません。現行法でも防衛出動は総理が命令し、国会の承認を得ることになっていますが、「特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合」は事後承認でいいことになっています。
 じつは第2次大戦後もグローバルに軍隊を派遣して各地で戦闘行為を続けている米国でも、宣戦布告の権限は大統領ではなく議会にあります。大統領が派兵命令をしても後に議会の承認が必要です。自衛隊海外派遣が国会の事後承認でいいということになれば、米国と同じになります。
 第2次安倍内閣の発足以来、首相は集団的自衛権問題関連法をガイドライン再改定に合わせるため昨年中に成立させたいと言ってきました。しかし現在は法案提出は4月の統一地方選挙後と報道されており、ガイドラインのほうも12月19日の日米安保協議会(日本の防衛相・外相、米国の国務相・国防相の4者会議)で「来年(2015年)前半」に先送りされています。集団的自衛権行使は国民を守るために必要です、戦争にはなりません、安全です、と大宣伝した結果、米国の要請に応えられない水準の閣議決定になったと思われます。
 
2.ガイドライン再改定への経緯

 現行のガイドラインは1978年に成立し、1997年に改定されたもので、「新ガイドライン」と呼ばれます。新ガイドラインを「適切な形で反映されることが期待」されたため、関連国内法が整備されました。関連法というのは周辺事態法と、武力攻撃事態法などの有事法制です。すぐに一括して整備されたのではなくて、7年かかっています。7年かかって新ガイドライン態勢がいったん完成したのですが、すぐ続いて今度は米軍再編協力の名目で日米防衛協力協議が始まり、「安保体制」は公式に「日米同盟」へと変貌しました。2004年には自衛隊イラク派兵(名古屋高裁で違憲判決が出たとおり戦地派遣です)、07年に防衛庁は防衛省に昇格しました。
 つまり、新ガイドライン態勢の枠はすでに乗り越えられています。ですからもっと早くに日米安保条約改正、あるいはガイドライン再改定が提起されて当然だったのですが、総理が毎年交代し、防衛相はもっと頻繁に交代するような状況ではそれができなかったのですね。しかし日米閣僚間の協議はなくても、自衛隊と米軍の間の協議はこの間も頻繁に行われていました。
 ガイドライン再改定の必要性を自衛隊・米軍が痛切に感じたのは、2011年3月11日の東日本大震災・原発事故の際の「トモダチ作戦」からです。このとき災害対策ではありますが、日米共同指揮所が市ヶ谷・横田・仙台に開設され、ハワイから米太平洋軍司令官が来日して、自衛隊・米軍の緊密な協議が行われました。トモダチ作戦は周辺有事の際の日米共同対処のシミュレーションとしても役立ったわけです。
 防衛省は2012年11月に「東日本大震災への対応に関する教訓事項」という文書をまとめています。そのなかで「日米共同」について、「当初、調整所要に比し、日米調整所の体制が不十分であり、各調整所の役割等が不明確な状況が生起、また、防衛省の対米窓口が不明確な状況も生起」に書いています。そこで「現在、日米間で調整メカニズムのあり方について協議中」ということになったのです。
 民主党政権の性格は鳩山首相の退陣と3.11を経て大きく変わりました。今回のガイドライン再改定も民主党政権下の2012年に日本側(森本防衛相)から提起し、米国側(パネッタ国防長官)が同意したものです。同年末に第2次安倍内閣が成立すると、安倍首相はただちに小野寺防衛相にガイドライン再改定の検討を指示して、動きが活発化しました。
 翌13年10月3日、いつもはワシントンで開催されていた日米安保協議委員会が東京で開催されて、ヘーゲル国防長官とケリー国務長官が来日しました。ここでガイドライン再改定の基本方向が設定されました。防衛省HPのまとめによれば、要点は7点です。
 ①日米防衛協力の中核的要素である日本に対する武力攻撃への対処能力の確保、
 ②同盟のグローバルな性質を反映する協力範囲の拡大、
 ③地域のパートナーとのより緊密な安全保障協力の促進、
 ④協議・調整メカニズムの強化、
 ⑤相互の能力強化に基づく適切な役割分担の提示、
 ⑥効果的・効率的・シームレスな対応を確保するための緊急事態における防衛協力の指針となる概念の評価、
 ⑦同盟強化を可能とする追加的な方策の探求、を含む。
 用語については順次ご説明しますが、日米同盟がすでに「グローバルな性質」になっているという認識、当面の課題でないとしても「追加的な方策」としてNATOなみの地域軍事同盟あたりまでは想定していることを、確認しておきたいと思います。
 安倍政権は2013年12月に国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画の3点セットを発表し、防衛政策の長期計画を示しました。その分析については別稿(『法と民主主義』14年4月号)がありますので省略します。集団的自衛権行使を法制化し、ガイドラインを再改定するなら、この長期計画は大幅な修正を迫られるのではないかと考えるのが普通でしょう。しかし安倍首相は昨年7月の国会で、「(ガイドライン再改定によって)自衛隊の体制や防衛費の見直しを行う必要はないと考えております。このため、現行の防衛大綱及び中期防を見直すことは考えてはおりません」と答弁しています。自衛隊の編成・装備・予算の10年計画はガイドライン再改定後にもそのまま対応できる、あとは国内法整備のみだと自信を持ったのでしょうか。
 しかし日米間の協議は予定通りのスケジュールでは進まず、昨年末までではなく本年前半に先送りされました。安倍首相はゴールデンウィークに訪米、オバマ大統領と会談して第3次ガイドラインをまとめたいようです。
 昨年10月8日に発表されたガイドライン再改定協議中間報告には、こう書いてあります。「自衛隊及び米軍各々の適切な役割及び任務を検討するための運用レベルの協議から、防衛協力に焦点を当てた政策レベルの対話にまで及んでいる」。「運用レベル」はオペレイショナル・レベルです。軍人同士の共同作戦協議はいいところまでいっているのに、政策レベルではまだすり合わせがうまくいっていない、日本の国内法整備についてまだ米国側の要請に応えられていない、と読めます。
 この中間報告ではガイドライン再改定の意義を、①米国にとって「アジア太平洋地域へのリバランスと整合する」、②日本にとって「閣議決定の内容を適切に反映し、同盟を強化し、抑止力を強化する」、③両国が「国際の平和と安全に対し、より広く寄与することを可能とする」とまとめています。またガイドライン再改定の最重要課題は「切れ目のない、実効的な、政府全体にわたる同盟内の調整」だと言っています。「切れ目のない」はシームレスです。
 新ガイドラインでシームレスという言葉は、周辺事態と日本有事(武力攻撃事態)への対応を切れ目なしに、という意味で使われていました。今回は違います。7.1閣議決定で示した3つのケース、グレーゾーン事態対処・集団的自衛権行使・国際安全保障協力について、切れ目なしに武力行使の新三要件が適用できるように、ということです。

3.ガイドラインは有事共同対処の基礎

 ここまではガイドライン再改定への経過についてお話ししてきましたが、次に元に戻って、現行の新ガイドライン態勢とはどのようなものかをお話しします。
 ガイドラインと俗称されているのは「日米防衛協力の指針」です。安全保障(セキュリティ)協力ではなく防衛(ディフェンス)協力についての文書ですから、純粋に軍事協力についての約束です。このことをまず頭に入れてください。
 ガイドラインは日米間の条約ではなく、政府間合意でさえありません。にもかかわらずガイドラインに従って日本の国内法が整備されたのですから、ガイドラインは事実上、日本の安全保障政策の最上級文書になっています。まさに「指針」です。
 日米4人の閣僚が「了承」して成立した文書にすぎず、日本では閣議了承はしていますが、国会の承認はありません。当時の橋本首相は国会で質問されて「国際約束ではない」とまで答弁しています。条約ですと署名国双方の言語で正文が作られますが、ガイドラインは英文のみが正文で、出回っている邦文は外務省の「仮訳」にすぎません。このように、文書の性質の軽さと、内容の重さとのギャップ、そして対米従属性がまず問題です。
 なお外務省仮訳はガイドラインの危険性を国民に悟らせないために意識的な誤訳が多いので、もう15年前の話ですが、私も加えていただいた研究会で『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』という本を出版し、増刷を5回重ねました。
「防衛協力」合意の目的は、共同作戦計画OPLAN、つまりともに戦うための台本の作成です。仮訳でも「共同作戦計画」「相互協力計画」の検討、と書かれています。
 1978の旧ガイドラインで、日本有事の際の共同作戦計画(米国ではOPLAN5051という名称が付けられています)と中東有事の日本への波及時の共同作戦計画(OPLAN5053)が作成されたことが分かっています。国会で質問されて、そのような事実があることは日本政府が認めていますが、内容は完全に秘密です。
 1997年の新ガイドラインで、朝鮮半島有事の際の共同作戦計画(OPLAN5055、台湾有事に読み替え可能)が作成されました。その存在を日本政府は認めていませんが、2001年に在日米軍司令官ポール・ヘスターが新聞のインタビューで認めています。このような共同作戦計画があるからこそ、実施に必要な周辺事態法と有事法制が整備されたのです。
 2004年の日米安保協議委員会で「日米同盟」の語が公式に使われるようになって以後、OPLAN5055は概念計画から正規OPLANに格上げされました。どう違うかというと、台本が粗筋から本番用になったのです。戦闘開始のXデー以前からのスケジュールで、具体的な物資・兵員の動きが記された膨大な別紙が付きます。
 OPLANは定期的に演習でチェックされて、アップデートされます。これは演劇が稽古を重ねて台本を書き換えていくのと似ています。そしてOPLANは有事にはそのまま作戦命令になります。何度も稽古(演習)をしているので、本番(実戦)では台本最終版通りに動けるのです。
 新ガイドライン態勢で重要なのは、単独の日本有事(日本の国土が戦場になる)は想定されず、周辺事態の波及または同時発生とされていることです。周辺事態(日本の周辺地域で戦争が起こる)ことと武力攻撃事態(日本が武力攻撃される)とは同時あるいは若干の時間差で起こるので、両者へのシームレスな対応(「整合を図る」という表現になっています)が求められました。
 これはどういうことか。「ソ連の脅威」がなくなった冷戦後は大規模な日本侵攻、つまり大軍を上陸させて日本を占領するような能力のある国はありません。自衛隊の仮想敵国は中国と北朝鮮だけですから、あり得る攻撃はゲリラ・コマンドの侵入、あるいはミサイルです。どこが攻撃されるかといえば、まず「敵」への出撃基地である在日米軍基地でしょう。日本が攻撃されるのは、米軍が日本を出撃基地として戦争をしている時、あるいはしようとしている時です。それが周辺事態から武力攻撃事態への推移です。そして、戦争中に在日米軍基地を守り後方支援(前線と基地を結ぶ兵員・物資の輸送=兵站など)を維持するのが自衛隊の役割になります。
 新ガイドライン態勢はこのような想定のもとに作られています。
 では、武力攻撃事態=有事(あるいはそのおそれ)になったと認定して自衛隊に出動待機命令あるいは出動命令をするのは誰か。武力攻撃事態法では総理だと書いてあります。しかし有事法制のうち米軍行動円滑化法にはこの場合、日米は「常に緊密な連絡を保つ」とあります。日本は米国に相談せずに戦争を始めることも自国防衛もできないのです。
 戦争は準備していないとできません。先ほど述べたように、日米共同作戦計画は定期的にバージョンアップされています。戦争準備・戦争のメカニズム(日米協議機関)は平時から稼働しているということです。それが「包括的メカニズム」と「調整メカニズム」で、新ガイドラインで整備されたものです。
 包括的メカニズムは常設で、3段階になっています。トップは今日のお話でも何度も出て来た日米安保協議委員会で、日米4人の閣僚による協議機関、2人ずつなので2+2(ツープラスツー)と呼ばれます。その下に防衛協力小委員会があり、これは日米外務・防衛の局長クラスによる協議機関です。いちばん下に共同計画検討委員会という機関があります。構成員は日米の軍人です。ミリタリー同士(ミリミリ)の協議を基本に、3段階の上に上がるほど政治・外交的配慮が加えられて、日米防衛協力が実施されるのです。
 調整メカニズムは有事の国家動員システムです。これも3段階ですが、いちばん下の日米共同調整所が自衛隊・米軍の共同作戦を指揮します。東北大震災ではこのシステムが稼働して、自衛隊・米軍が共同で災害支援をしました。有事ですから自衛隊・米軍はすでに出動しており、各省庁・自治体の協力態勢をつくることが必要です。これは関係省庁局長等会議として平時から常設されています。
 では、どのようなテーマで軍事協力の協議が行われているのか。テーマを列挙したものが「共通の戦略目標」です。2005年に策定され、07年、11年に改定されていますが、最新の11年版を見ますと、24項目あります。日本とその周辺地域の安全保障について、だけではありません。冒頭から「アジア太平洋地域における平和と安定」とありますし、北朝鮮や中国に対応、「両岸関係」(台湾海峡有事)、中東・北アフリカにも言及していますから、日米軍事協議はすでにグローバルになっているということです。グローバルな課題で日米が「共通の」認識を持つとなると、日本は米国と異なる外交・安保政策を持つことができないことになるのではないでしょうか。
 具体的には有事に自衛隊はどのように米軍に協力するのか。新ガイドライン文書に付された別表「周辺事態協力の例」を見ますと、3分野に分かれています。
 日米がそれぞれ「主体的に」行う分野の中に非戦闘員退避があります。有事に自国の民間人を助け出すのは日米両国がそれぞれ「主体的に」行うことだと、1997年にすでに決まっていたのです。安倍首相がパネルで説明した、米軍が日本人を助け出してくれるという話は、最初から虚構です。しかも有事法制のひとつ、国民保護法を見ますと、有事に民間人を避難させるのは自衛隊ではなく地方自治体の仕事になっています。
「周辺事態協力の例」の第2分野は「米軍の活動に対する日本の支援」です。まず民間施設を含めた施設の使用。そして後方地域支援(補給・輸送・整備・衛生・警備・通信・その他)。要するに自衛隊の活動はこの分野では米軍の兵站支援にとどまり、戦闘参加はしません。なお「衛生」と外務省が訳しているのはメディカル・サービスですから、医療支援のことです。有事には日本の病院・医師・看護師などは米軍に優先的に使われます。
 第3分野が曲者で「運用面における日米協力」です。「運用」と外務省が訳しているのはオペレーションですから、ここで日米共同作戦行動について述べているわけですが、非常に簡略・抽象的です。ただここで、米軍は自衛隊の警戒監視能力と機雷除去能力に期待していることが良く分かります。この分野での自衛隊の能力は、米太平洋軍のそれよりもはるかに高いのです。というよりは、自衛隊は米太平洋軍の補助部隊あるいは一部として育成されてきた、と理解するほうが正確かもしれません。
 現在の新ガイドライン態勢について、長々と説明してきました。あくまでも現在こうなっている、という説明です。そして安倍政権も米国もこれでは不十分だから日米共同作戦体制をもっと強化したい、同盟を強固にしたいと思っているからこそ、いまガイドライン再改定交渉が行われているのです。
 何が不足なのか。ひとつ、自衛隊の米軍協力が「周辺地域支援」、つまり地域が限られていること。ふたつ、自衛隊は戦地に行かず戦闘行為をしないとされていること。みっつ、日本の有事国家動員システムが不完全なこと。だから自衛隊は米軍と肩を並べて戦うことができない。憲法9条がある限り当然のことです。日本国憲法は戦争をしないことを大原則として作られているのですから。憲法改正なしでもっと米国の戦争に日本を協力させたい。それが集団的自衛権行使の解禁であり、それを織り込んだガイドライン改定です。従来の政府答弁等との整合性がこれから国会で問われます。

4.日米の戦略文書を読む

 ガイドライン再改定日米協議の前提は、米国側ではリバランス、日本側では集団的自衛権行使(まだ法制化されていませんが)です。双方がどのような長期計画を持っているのか、戦略文書を読んでみます。米国の基本文書は「国防戦略指針」と「4年毎の国防計画見直し」、日本の基本文書は「防衛計画の大綱」です。
 2012年1月に米国防総省が発表した国防戦略指針は「米国の国際的な指導力の維持――21 世紀の国防の優先順位」と題されていますが、2020年までの米国国防のありかたについての基本文書です。
 この文書が米軍のアジア太平洋地域へのリバランスを打ち出した背景には、イラク戦争での国防費増大が米国財政赤字の元凶となったことがあります。これからは国防予算が削減されるなかでも、中東に深入りするうちに手薄になった米軍の9.11以前のアジア太平洋プレゼンスを回復しなければならない。それがリバランスです。軍事的脅威となりつつある中国は冷戦時代のように封じ込めるのではなく、包囲する。低予算でそれを実現するため、米軍のアジア太平洋関与はなるべく常駐ではなくローテーションで行い、日本・韓国・オーストラリア・タイ・フィリピンの協力に期待します。
 西太平洋に進出してくる中国の「A2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略」には「統合エアシーバトル構想」で対抗します。
 A2/AD戦略とは、2009年に米国防長官が議会に提出した年次報告書「中国の軍事力」から使用されるようになった言葉で、中国軍は1980年代からこの戦略のもとに西太平洋に進出してきたといいます。A2はアンチ・アクセスの略、ADはエリア・デニアルの略です。2段階になっていまして、琉球列島・台湾とフィリピンの間・南シナ海の大部分を囲む第1列島線、より外側のグアム・フィリピン・インドネシアまで含む第2列島線を設定して、この内側では外国軍が自由に行動できないようにする、という戦略です。
 この戦略を実現するには、巨大な海空軍力とミサイルが必要です。実際に中国人民解放軍は外洋艦隊をつくり航空母艦を持ち、最近の地上発射ミサイルはグアムまで射程に入れています。海南島に基地がある潜水艦は外洋に出れば核ミサイルで米本土を狙えます。
 米国の統合エアシーバトル構想は、空海軍の一体運用で中国軍の西太平洋進出に対抗するというものです。ここではグアム基地や空母が中国軍の攻撃に対して脆弱性を持つことが問題になっています。そこで米国のシンクタンクCSBAと国防総省の共同シミュレーション研究によれば、いったん退避したのち反撃するのが有効とされています。自衛隊は統合エアシーバトル構想に関する多くの米文献を翻訳し、幹部学校で教材にしています。
 米国のもうひとつの重要文書が「4年毎の国防計画見直し」で、最新版は2014年3月に国防総省から議会に提出されました。長期的な展望で先の国防戦略指針をさらに具体化しています。
 中国軍事力の不透明性があり、北朝鮮ミサイルの直接的な脅威があるので、米軍はアジア太平洋地域を重視し、2020年までに海軍艦船・部隊の6割を集中する。相当にアジア太平洋に力を入れているように読めますが、実際には米軍は陸・海・空・海兵の4軍とも二次大戦後最低のレベルに縮小してヨーロッパや中東から撤退していくので、相対的にアジア太平洋の比重が高まるということです。戦闘機や爆撃機は新型のものが開発されますが、数は減ります。
 それでもアジア太平洋で米軍のプレゼンスを維持するためにどうするか。友好国と協力し、地域諸国軍の対応能力向上を援助します。とりわけ「日本はアジア太平洋地域安全保障の伝統的な基礎」であり、日本の「海軍プレゼンスに期待」します。
 このように米国から期待されている日本は、どのような戦略を持っているでしょうか。
 専守防衛、自衛隊はもっぱら日本の国土と国民を守ることに専念する、という基本方針は民主党政権のもとで大きく変わりました。2010年末に閣議決定した「防衛計画の大綱」の基本は、以下のようなものです。
 アジア太平洋の安定化とグローバルな安全保障環境改善のため動的防衛力を構築する。日米同盟を新たな安全保障環境にふさわしい形で深化・発展させるため、戦略的な対話及び具体的な政策調整に取り組む。――自衛隊は日本を守るだけでなくアジア太平洋を守り、世界を守るためのものになったのです。それにふさわしい形にと、ガイドライン再改定交渉が始まりました。
 そして安倍政権のもと2013年末に閣議決定した最新の「防衛計画の大綱」の基本は、以下のとおりです。
 日本の軍事力を強化することを前提としてガイドライン見直しを進め、日米防衛協力をさらに推進し、日米同盟の抑止力及び対抗力を強化する。同時に西太平洋における日米のプレゼンスを高めつつ、グレーゾーン事態における協力を含め、平素から各種事態までのシームレスな協力態勢を構築する。――軍拡路線です。「対抗力」ですから、実戦に耐える能力を高めます。グレーゾーンを含めてのシームレスです。
 そして「西太平洋」とはどこか、が問題です。これはハワイを本拠とする米太平洋軍の守備範囲と理解すべきでしょう。この地域設定は、かつての「大東亜共栄圏」を思わせます。旧日本軍は1941年12月8日、パールハーバー、マレー半島のコタバル、香港、ルソン島へ侵攻しましたが、このときの大本営発表が「帝国陸海軍は今8日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れり」でした。自衛隊はかつて旧日本軍が戦った相手の米国軍と、同じ地域で、共同作戦を行うことになるのです。
   
5.自衛隊の編成・演習の変化

 国土を守るだけでなくアジアへ、世界へと外征する自衛隊づくりが、「防衛計画の大綱」に従って進行しています。このことは報道も多いので要点にとどめます。
 自衛隊の編成を見ますと、アジア太平洋・グローバル任務のため南西地域の防護態勢が強化されています。これまで宮古島以西には米軍も自衛隊もいなかったのですが、与那国島に警備部隊をおき、那覇の戦闘機部隊を倍増する予定です。5方面隊に指揮権が分かれていた陸上自衛隊の統一司令部、陸上総隊を新編します。佐世保の西部普通科連隊をもとに水陸両用部隊を新編します。これは米国海兵隊と同等の精鋭部隊です。要するに陸上自衛隊は郷土防衛部隊からどこまでも派遣される部隊に変貌します。
 装備を見ますと、「米軍との相互運用性に配慮した統合機能を充実」するため、イージス艦2隻増、潜水艦6隻増になります。オスプレイ17機、F35ステルス戦闘機18機、新型空中給油・輸送機3機、無人機グローバルホーク3機を導入します。米軍と同じ装備、専守防衛なら使いようのない装備です。これらは2015年度予算から計上されるので、3年連続防衛予算増となります。
 米軍と「肩を並べた」共同演習・訓練が実施されています。
 2013年6に サンディエゴ沖で行われた「ドーン・ブリッツ13」は、「離島奪還」共同訓練と宣伝されました。参加した佐世保の西部普通科連隊はこの前後にも米軍とともに激しい訓練を繰り返しました。尖閣諸島防衛を想定した訓練と言われますが、離島防衛でなく奪還とされているのは奇妙です。=敵前上陸訓練であるところがミソで、日本の離島以外のところにも応用可能です。
 昨年9月に 小牧から相模湾にいたる地域で行われた在外邦人輸送訓練は、これまでに何度か行われてきたものと同様です。テロリストの潜入を防ぐため、救出の対象となる人々は外務省が国籍確認をし、防衛省がボディチェックをしたうえで運ばれます。
 同じ昨年9月に 沖縄で行われた離島防災訓練は、揚陸適地調査を含むものでした。防災出動も防衛出動も携帯するものが違うだけで動きは同じですし、これまた日本以外の地への応用が可能です。
 そして昨年11 月に全国で行われた「キーン・ソード15」は、最大規模・最重要な日米共同統合実動演習(「統合」は陸海空・海兵が共通の司令部のもとに行動すること、「実動」はパソコンの画面上でなく実際に将兵が動くこと)ですが、詳細は不明です。自衛隊3万人、米軍1万人規模の大演習です。実施場所は「我が国周辺海空域」とのみ発表されており、自衛隊の艦艇25隻、航空機250機が参加しました。公開された部分の報道を見ますと、海上自衛隊員が米イージス艦に乗艦したり、アラスカからF22ラプター戦闘機が飛来したりしており、オーストラリア軍、韓国軍がオブザーバー参加しました。
 キーン・ソードは2年に1度行われる共同演習です。周辺事態日本波及のシナリオで実施しているはずですから、さらに分析が必要です。一般に、訓練は練度を上げるためのものですが、先に述べたように演習は作戦計画を練り上げるためのものだからです。

6.自衛隊はどのように使われるか

 日米共同作戦計画文書も共同演習のシナリオも公開されることはありませんが、集団的自衛権行使が解禁されガイドラインが再改定されると、実戦で自衛隊がどのような働きをする、あるいはさせられるのか、これまでに述べた戦略文書や訓練・演習の実態から、ある程度は推定することができます。
 まず、朝鮮有事対応です。もともと日本の再軍備は朝鮮戦争を契機としており、朝鮮有事対応を最重要課題として自衛隊は育てられてきました。周辺事態も朝鮮有事を主に考えられていたわけで、新ガイドラインの眼目は朝鮮有事対応です。
 しかし現在では北朝鮮軍に大規模対南侵攻の能力はなく、脅威は核とミサイル、そしてゲリラ・コマンドです。むしろ政権崩壊対応が重要でしょう。米軍の朝鮮有事OPLANは5027(軍事介入)から5030(崩壊待機・対応)へと変わりました。
 米軍は非武装地帯前線から撤退し、有事の米韓連合司令部の作戦統制権も引き渡したいので、日米韓の共同作戦体制を作って安心したいところです。しかし朴政権の対日不信は強いうえ、韓国軍は半島統一後の最大の仮想敵は日本と認識しているので、自衛隊の上陸は絶対に許しません。日韓間ではACSA(物品役務相互提供協定)もGSOMIA(情報共有協定)も未締結です。ですから実戦になっても、自衛隊は新ガイドライン態勢での「周辺事態協力の例」以上のことはなかなかできないでしょう。ただし公海上では米軍支援は可能ですし、自衛隊が導入する無人機は情報収集に役立ちます。
 次は台湾有事対応です。先に挙げた米国の「中国の軍事力」レポートは、一貫して台湾有事対応を最重要視しています。そして中国軍も台湾正面を最重視して配置されています。米中・中台経済関係がどのように緊密になろうと、軍の論理は別なのです。
 防衛省防衛研究所編の『東アジア戦略概観2013』には、「南西諸島方面の防衛を、想定されるより烈度の高い紛争事態のなかに位置づけることも必要」という記述があります。尖閣事態は、より烈度の高い事態、つまり台湾有事の一環として起こるという想定です。米国と台湾の間には軍事同盟はありませんが、米国の国内法で台湾軍事支援が決められています。
 先に述べた米軍の統合エアシーバトル構想では、中国が在日米軍基地・グアム基地(近く日米が共同で使用することが決まっています)を攻撃することが予想されるとき、米軍はいったん後方に退避、のち反撃します。中国のICBM(大陸間弾道弾)は固定式ですから対応可能ですが、中国ASBM(対艦弾道ミサイル)は本土奥深くに配置された移動式ランチャーから発射されて2000キロ以上飛ぶので、攻撃が予知されれば大事な空母など、退避せざるを得ないのです。
 自衛隊に期待されているのは、平時には中国軍の西太平洋進出をチェックし、有事には後退した米空母打撃群の空白を埋め、反転攻勢の拠点を確保することです。警戒監視能力、対潜哨戒能力、反撃抗戦能力のいずれもが求められています。ということは、台湾有事には確実に自衛隊にも日本の民間人にも犠牲者が出るということです。
次は南シナ海有事対応です。中国とASEAN諸国との間での領土問題は、一方では2002年の南シナ海行動宣言から行動規範の策定に向けての協議で平和解決の努力が続けられていますが、中国・ASEAN諸国の軍拡も進んでいます。当面日本は巡視艇提供などODAによるASEAN諸国への「能力構築支援」をしていますが、米比共同訓練バリカタン、タイでの多国籍共同演習コブラ・ゴールドに自衛隊も参加して、存在感を見せています。
 集団的自衛権関連法で周辺事態が存立事態へと変貌すれば、自衛隊は南シナ海有事にも対応することになるでしょう。ここも西太平洋のうちであり、米太平洋軍の担当地域です。
 最後に中東・アフリカ有事対応です。自衛隊のジブチ基地は米軍・仏軍基地に隣接しています。ここへのテロ攻撃に対して米仏軍から自衛隊に共同対応が求められたとき、集団的自衛権行使が法制化されていれば応じざるを得ないのではないでしょうか。泥沼の戦争に日本が引きずり込まれて、憲法9条への国際的信用は地に落ちます。ただしこの地域を担当する米軍は太平洋軍ではなく、中東なら中央軍、アフリカならアフリカ軍ですから、自衛隊との日常的な共同作戦協議はありません。直接日米間でなくPKOあるいは多国籍軍司令部を通じての共同となるのでしょう。
 いずれにしても実戦に参加すれば、自衛隊員に犠牲者が出ますし、自衛隊員が外国人を殺傷します。集団的自衛権行使の法制化で安倍首相がどんなに「戦争には行きません」と国内で説明したところで、日米ガイドライン再改定協議ではそれで済むとは思えません。これを外務省の翻訳技術で切り抜けるのかどうかが問題です。

7.戦死者を出さない日本をいつまでも

 年末年始の新聞報道によれば、集団的自衛権関連法について12月27日に与党協議が開始され、1月下旬の国会召集前に「安保法制の全体像」をまとめ閣議決定をしたいとのことです。関連法は自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法、PKO法など十数本はあるはずです。これらの法案は今国会に提出されますが、実際には審議は統一地方選後でしょう。ゴールデンウィークに安倍・オバマ会談で合意すれば、ガイドライン再改定のほうが関連国内法より先になります。国会軽視は明白です。
 なお、昨年7月の国会で小野寺防衛相は、ガイドラインが関連法に先立っていいのかという質問に対して、「現在のガイドラインができました17年前におきましても、同じく、ガイドラインの一定の方向が決まった中で国内法整備が行われたということもありますので、そこは特にそごはない」と答えています。野党が猛反発しなかったのは残念です。
 関連法に関して新聞報道によれば、「存立事態」という新しい概念ができる、周辺事態法は新法に置き換えて地理的制限をなくす、PKO法も新法に置き換えて武器使用基準を緩くする、調整メカニズムを再編し常設化する、などと言われています。これらについて法案発表以前に論評しても意味がないと思いますが、論議になる課題を3点だけ指摘します。
 ひとつ。グレーゾーン・武力攻撃事態・周辺事態・国際平和協力をどこまでシームレスにするか、西太平洋対応とグローバル対応をどのように切り分けるか。
 ふたつ。兵站支援にとどまるか、一部表現をごまかしつつ戦闘支援に踏み込むか。
 みっつ。各省庁・自治体・民間まで含めた協力態勢をどう構築するか。
 そして、集団的自衛権関連法がたとえ今国会で成立してしまったとしても、それは第3次ガイドライン関連法の全部ではありません。現行の新ガイドラインが合意されてから関連法である有事法制が整備されるまでに7年かかりました。彼らは法整備には慎重で、あたりを見廻しつつ匍匐前進で目標地点へと進むのです。だからこそ彼らの方向性を捉えることが重要なのです。
 その基本的方向性が米軍の統合エアシーバトル構想への共同だとしたら、自衛隊は、日本は、なんと悲しい存在でしょうか。悪い表現ですが、捨て駒としか言いようがない。
 もちろん統合エアシーバトル構想を中心とする作戦計画は、米軍の予算獲得・既得権確保のためのものという性格が強く、軍事合理性に乏しいし、必要な兵器開発も遅れています。現実感が薄いのです。そして米中関係の本流は対決でなく協調です。グローバル資本にとっては発展するアジアをどのように自分の利益に取り込むかが問題です。それでも万一の事態で出撃を命じられたら応じざるを得ない軍の論理としては、戦争準備を怠るわけにはいきません。
 安倍政権の同盟強化(従属深化)路線と「押し付け憲法」改憲(自立)路線はそもそも矛盾していますから、米国が警戒しても当然ですが、それでも安倍政権が続く限り改憲へのステップとしての軍拡が続くでしょう。軍の論理が米国では国の政策の一部でしかないのに、安倍政権では中軸に座っている、その危険性を感じます。
 現実性の薄い脅威を煽り戦争準備を進めることは、一方では東アジアの脅威となり、他方で日本国内では戦争準備態勢こそが脅威となります。特定秘密保護法と朝日新聞叩きで萎縮したマスコミに、安倍政権を批判する力がどれだけ残っているでしょうか。
 それでも、私は集団的自衛権行使についての世論調査で、こんなに難しいテーマであるにもかかわらず、「分からない」ではなく「反対」を選ぶ人が過半を占めていることに対して、深く信頼と安堵を感じています。軍事協力交渉より軍隊以外の手段による安全保障の追及を優先すべきことを、多くの人が理解しています。小選挙区制によってかろうじて成立している、民意を反映しない政治が、いつまでも続いていいはずがありません。
 集団的自衛権とガイドラインの危険性について、長いお話になりました。
 今年はアジア太平洋戦争での敗戦から70年です。「戦後70年」などという言葉が日常語になっている「国」は日本以外にはないだろうと思います。他のかつての帝国主義国は第2次大戦以後も植民地戦争をしてきましたし、第三世界の多くは70年前は独立国ではありませんでしたから。「戦後70年」と言えることを誇りにしたい。70年間、戦争で誰も死なず誰も殺さなかったことを誇りにしたい。「戦死者を出さない日本をいつまでも」が、いまの私のスローガンです。

〔本稿は2015年1月10日、自由法曹団東北ブロック総会で講演をさせていただいた際のレジュメをもとに書き下ろしたものです。〕

おもな参考文献

小林秀之・西沢優『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』日本評論社、1999年
山内敏弘編『日米新ガイドラインと周辺事態法』法律文化社、1999年
山内敏弘編『有事法制を検証する』法律文化社、2002年
西沢優・松尾高志・大内要三『軍の論理と有事法制』日本評論社、2003年
松尾高志『同盟変革』日本評論社、2008年
浦田一郎・清水雅彦・三輪隆編『平和と憲法の現在』明治大学軍縮平和研究所、2009年
柴田晃芳『冷戦後日本の防衛政策』北海道大学出版会、2011年
浦田一郎『自衛力論の論理と歴史』日本評論社、2012年
布施哲『米軍と人民解放軍』講談社、2014年
田岡俊次『日本の安全保障はここが間違っている!』朝日新聞出版、2014年
自由法曹団編『徹底解剖!イチからわかる安倍内閣の集団的自衛権』合同出版、2014年
大内要三「オペレーション・トモダチとは何だったか」ちきゅう座HP、2011年
大内要三「憲法と安保のあいだ」ねりま9条の会HP、2012年
大内要三「安倍政権の安保・防衛政策と自衛隊の動向」『法と民主主義』2014年4月号
大内要三「若者を海外での戦争で死なせないための3章」練馬・文化の会HP、2014年

2014/11/02

与那国町住民投票で自衛隊基地計画はどうなる

与那国町住民投票で自衛隊基地計画はどうなる
2014.10.31
大内 要三
(日本ジャーナリスト会議会員)


 日本最西端の島、与那国に自衛隊基地を建設する計画はどうなっているか。
 民主党政権下の2010年「防衛計画の大綱」が南西地域防衛態勢強化の方向を明確にし、この方向に沿って与那国島に自衛隊基地を新設する計画を防衛省が具体的に提示したのは2012年5月12日のことだった。
この件について私は13年6月7日付で「へいけんこんブログ」に、「南西地域防衛態勢強化とは」という長めの記事を書いて以来、機会のあるたびに発言してきた(http://heikenkon.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-a896.html)。石垣島・与那国島への自衛隊配備は尖閣有事対応を名目にしているが、じつは米国の要請を受けた「想定される、より烈度の高い紛争事態のなかに位置づけ」(『東アジア戦略概観2013』)られたものだと私は述べてきた。
 与那国基地計画は当初、陸上自衛隊の沿岸監視部隊駐屯地(隊舎・宿舎・ヘリポート)を南牧場の一角に、航空自衛隊の移動警備隊(移動警戒レーダー)をインビ岳中腹に建設して、尖閣諸島を見張る、というものだった。地方紙報道と現地からいただいた通信をもとに、その後の経過をまとめてみよう。
 13年8月11日の与那国町長選では、基地誘致派の外間守吉氏が47票差(有権者1128人)で当選した。この結果に勢いを得て、沖縄防衛局は基地建設予定町有地の賃貸借契約を交わし、南牧場を経営する農業生産法人に損失補償交渉を始めた。13年11月に提示した補償額は1億1000万円だった。14年2月には2億4000万円に跳ね上がった。
 14年4月19日、小野寺防衛相は与那国町まで足を運び、離島総合振興センターで行われた「与那国沿岸監視部隊配置に伴う造成工事起工式」に参加した。小野寺氏は宮古を経て自衛隊機で与那国に飛び、起工式に参加するとすぐに那覇に飛んで県知事と懇談したという。忙しいことだ。工事が完了して部隊が配置されるのは15年末と予定された。
 流れが変わったのは、9月7日の町議選からだった。基地誘致の与党と誘致反対の野党とがともに3人ずつになった。議長を出したほうが少数になる。9月29日の議長選は投票では決着がつかず、くじ引きで与党側の糸数健一氏が議長となった。その結果、議案採決にかかわる議員の過半数を野党が制することになった。
 10月2日、町議会は基地建設関連の2議案を否決した。基地予定地周辺の町道2本の廃止案と、基地への給水施設整備のための補正予算案(670万円)である。
 基地反対派である野党側は、自衛隊配備の是非を問う住民投票を実施する意向を示していた。これに対して外間町長は、自衛隊誘致を主張して町長選で当選したのだからすでに民意は出ている、住民投票をしても結果はあくまで参考にすぎない、と述べていた。この住民投票については10月1日付『琉球新報』が「与那国陸自配備 住民投票で是非を問え」と題する社説を掲載している。
 じつは12年9月にも、住民の直接請求による「与那国島への自衛隊基地建設の民意を問う住民投票に関する条例案」が町議会で否決されて、住民投票が実施されなかった経緯がある。このときは町議会の議席は基地誘致の与党3に対して基地反対の野党2だった。それがいまや逆転している。
 そしてこの10月29日、野党側議員3名は町長に臨時町議会招集請求を行い、町議会に提出予定の自衛隊基地建設の民意を問う住民投票(中学生以上の住民を対象とする)の実施に関する条例案を示した。地方自治法101条の規定によれば、議員定数の4分の1以上の請求があれば町長は20日以内に臨時町議会を招集しなければならない。なお与那国町には高校以上の教育機関はなく、進学を希望する者はみな島を出ているから、高校生・大学生はいない。
 というわけで、与那国町では近く臨時町議会が開催され、自衛隊基地建設を容認するかどうかの住民投票に関する条例が可決され、実際に住民投票が行われる可能性が高い。沖縄知事選の結果とともに、注目されるべきことだ。
 沖縄県知事選について言えば、問題の辺野古で防衛省は選挙前に実質着工の実績を作ってしまいたかっただろうが、海底ボーリング調査のための囲いの浮具が台風で引きずられ珊瑚礁を破壊する事態が発生した。選挙中は工事強行の実力行使はしにくいだろう。
 同様に与那国でも、住民投票実施中に基地建設を進めるわけにもいかないとすれば、自衛隊配備計画は予定通りには進まず、尖閣有事の大宣伝との関係があらためて問われることになるだろう。
なお、沖縄知事選で各候補は政策を発表しているが、翁長雄志・仲井真弘多・喜納昌吉・下地幹郎の各候補の政策を見ると、自衛隊与那国基地計画に言及している者はない。

2014/10/16

日米安保ガイドライン改定中間報告を読む

日米安保ガイドライン改定中間報告を読む

2014.10.12 大内 要三

10月8日、日米防衛協力小委員会(SDC)は、ガイドライン改定協議の中間報告を発表した。全文は英文では国防総省HPに(The Interim Report on the Revision of the Guidelines for U.S.-Japan Defense Cooperation, 以下本文中ではAと略称)、邦訳文は防衛省・自衛隊HPに(日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告、以下本文中ではJと略称)、掲載された。また発表に際して米国側では国防総省広報官Jim GaramoneによるOfficial Discuss Report on U.S.-Japan Defense GuidelinesがTwitterで流れ、日本側では小野寺五典防衛相による大臣臨時会見が行われた。これらの発表文書を読んでとりあえず感じたことを記す。

1.日米同盟の現実は安保条約も新ガイドラインも超えている

 今回の協議では日米同盟の現実が安保条約の枠を超え、さらには1997年の新ガイドラインの枠をも超えてしまっていることを確認しながら、条約改正を提起することはしない。ガイドラインは政府間協定ですらない、SDC(外務省・防衛省・国務省・国防総省の局長級会議)がまとめた報告をSCC(日米安全保障協議委員会、外相・防衛省・国務長官・国防長官の4閣僚会議、俗称2+2)が了承・発表した(approved and issued)ものにすぎない。条約ではないから国会で批准されることもない。しかし実際にはガイドラインは安保条約の上位に立ち、日本の安全保障政策上の最重要文書であるとともに、日米共同作戦作成の根拠になっている。その重要性は、安倍内閣が集団的自衛権行使容認の閣議決定ならびに関連法改正を、年末にはガイドライン改定が控えているからそれまでに、と急いだ(関連法改正は来春以降に延期されたが)ことに現れている。しかしこのような状態は本末転倒であり、日本国憲法に基づき国会での熟議を経て日本の安全保障政策が作成され、国際協力体制が整備されるべきものではないのか。国の安全保障政策に関して国会軽視・反立憲主義がまかり通っている。
 このことに関して中間報告には、「日米安全保障条約及びその関連取極に基づく権利及び義務並びに日米同盟関係の基本的な枠組みは変更されない」(J)とある。日米同盟が安保条約の枠を超えていることを確認している。また米国防省広報官による発表の2番目の中見出しは「Reflection of U.S.-Japan alliance」であり、新ガイドラインの枠を超えてしまっている日米同盟の実態を第3次ガイドラインに反映させなければならないと言っている。超えてしまっている部分とは、たとえば自衛隊イラク派遣やジブチ自衛隊基地、あるいはグアム・テニアン両基地の共同使用合意などになるだろう。

2.集団的自衛権行使を前提にしながら具体性に乏しい

 中間報告は集団的自衛権「限定的」行使容認の7.1閣議決定「の内容を適切に反映し」(J)といい、それが「日本に対する武力攻撃を伴わないときでも、日本の平和と安全を確保するために迅速で力強い対応が必要となる場合もある」(J)ことだと確認している。つまり、海外での自衛隊の武力行使を前提にしている。しかしながら、具体的にどの分野でどこまで自衛隊が米軍とともに行動するかは、「次のものを含み得るが、これに限定されない」(J)と、箇条書きのリストを示すだけで明確にされていない。大事なことは先送りされている。米国は集団的自衛権行使のための日本国内法整備をしっかりとしないと納得しない、7.1閣議決定が「限定的」であることに不満を示していると思われる。
 このことに関して防衛相は会見で「ガイドラインの見直し作業と安保法制の両方は、しっかり適用できるような形ということで議論が進んでいく」「両者を整合させていくということで一致した」と述べた。国内法よりガイドラインが上位であることの確認ではないのか。防衛相は7月15日に参議院予算委員会での答弁で、ガイドラインが先で国内法整備が後という順序でいいのかと聞かれて、「現在のガイドラインができました17年前におきましても、同じく、ガイドラインの一定の方向が決まった中で国内法整備が行われたということもありますので、そこは特にそごはない」と述べた。米国の要望に従って国内法を作ることに何の疑問も抱いていない。

3.適用地域はアジア太平洋か、グローバルか

 日米防衛協力の地理的範囲に関して、新ガイドラインのいう「周辺事態」という概念は消えたが、「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域」と「グローバル」が文書中に併存して、相互関係が明らかでない。
「米国にとって、指針の見直しは、米国政府全体としてのアジア太平洋地域へのリバランスと整合する。日本にとって、指針の見直しは、その領域と国民を守るための取組及び国際協調主義に基づく『積極的平和主義』に対応する」(J)とあるので、米国側ではQDR、日本側では防衛計画の大綱、の擦り合わせで協議は進む。中間報告の文中には北朝鮮・中国の名は出て来ないが、QDRも大綱も日米と中国・北朝鮮を事実上の仮想敵国としている。ということからして、期待される自衛隊の働きは西太平洋中心で、一部グローバルの可能性も残しておく、と読める。
 私は、当面、米軍が自衛隊に期待している役割は以下だと考えるが、ここでは詳述しない。
 ①朝鮮有事:ミサイル防衛
 ②台湾有事:中国海軍の西太平洋進出のチェック
 ③南シナ海有事:ASEANの中国軍対応能力構築支援
 ④中東・アフリカ有事:ジブチ基地活用
 なお、ガイドラインが改定されたら大綱(10年先まで見越した日本の防衛政策)も改定する必要があるのではないかという問いに対して、安倍首相は7月15日の参院予算委でこう答えた。「現時点では自衛隊の態勢や防衛費の見直しを行う必要はないと考えております。このため、現行の防衛大綱及び中期防を見直すことは考えておりません」。つまり、昨年末に閣議決定・国家安全保障会議決定された大綱は、集団的自衛権行使もガイドライン改定も想定内に収めたものだ、という自信があるのだろう。

4.海外での「一体的」武力行使解禁へ

 新ガイドライン作成にあたって発明された「後方地域支援」(rear area support)という語が、今回の中間発表では消えた。後方地域支援とは、自衛隊が海外に派兵されても戦闘地域には行かない、武力行使はしない、という縛りのためであり、戦地で米軍と「一体化」した行動はしないという説明のための用語であって、周辺事態法2条・3条、イラク特措法2条に反映している。
 後方地域支援が消えた代わりに、これから詰めの協議が行われる具体的な日米協力の項目に「後方支援」(J)が登場した。「logistics support」(A)だから、常識的には後方から前線までの兵站支援であり、自衛隊は前線まで行くということだ。イラクで実施して違憲判決が出たような、武装米兵を運ぶだけで済むかといえば、「駆け付け警護」をするなら共に戦うことにならざるを得ない。

5.グレーゾーンと「切れ目のない」対処

 平時からグレーゾーン(武力攻撃に至らない侵害だが、重大事態に転じる可能性が懸念される事態)、有事まで、「切れ目のない」対応が望まれている。このため新ガイドラインで創設され、東北大震災時の日米共同対応で準用された調整メカニズムの、常設化が語られている。中間報告では「全ての関係機関の関与を得る、切れ目のない、実効的な政府全体にわたる同盟内の調整を確保する」(J)という表現になっている。
 包括的メカニズムが常設であるのに対して、新ガイドライン下の現状では調整メカニズムは必要に応じて設置され、課長級までを包括する。そのメカニズムが常設化される。「全ての関係機関」には政府機関外も含まれるだろうから、膨大なメンバーが、軍事対応のためにいつでも連絡・調整ができる態勢を組むことになる。当然、情報漏れが懸念されるだろう。秘密保護法が集団的自衛権論議に先立って制定された理由もここにあるようだ。

6.新しい「ビンのフタ」

 中間報告の続く部分に、「議論は、自衛隊及び米軍各々の適切な役割及び任務を検討するための運用レベルの協議から、防衛協力に焦点を当てた政策レベルの対話にまで及んでいる」(J)とある。「運用レベル」とは当然、軍部隊の運用についてだから、ここは共同作戦について述べている。英文では「Discussions have ranged from operational-level deliberations to consider appropriate roles and missions for the respective forces, to policy-level dialogues focusing on defense cooperation」(A)とある。
 旧ガイドラインに基づき日本有事対応共同作戦計画が作成され、新ガイドラインに基づき周辺有事対応共同作戦計画が作成されたことは議会で証言されているが、当然、内容は公表されていない。第3次ガイドラインに基づいてアジア太平洋有事あるいはグローバル有事での日米共同作戦計画作成に着手することになるが、これは民主党政権が続いていたならともかく、安倍政権下ではそう簡単にはいかないように思われる。
 なぜなら米国のアジア太平洋戦略にとっていまもっとも気がかりなのは、日韓対話・日中対話が途絶えていることだからだ。したがって、米国にとってガイドライン再改定は、安倍政権の対米自立傾向を制約し自衛隊の単独行動を許さないという、新たな「ビンのフタ」の意味も持つことになる。

〔このメモを作成するにあたって、中間報告発表前の10月5日に平和憲法研究会例会でガイドライン再改定について報告をさせていただいたこと、同会のみなさんに報告当日の討議で、またその後も含めて、さまざまにご教示をいただいたことを感謝します〕

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