弁護士の四季1 母の死
毎年、梅の季節になると母が亡くなった頃のことを思い出す。もっとも母が亡くなったのは、もう20数年も前の話である。それでも、いまでも思い出すのである。
母は、2月の寒い晩、お風呂に入って出ようとして、そのまま脳血栓で倒れ、2週間くらい意識がないまま亡くなった。病院に入院している間、いつ母の死の連絡が来るかと思おうと、何をしても落ち着かず、当時上映していた「男はつらいよ」を見ていても少しも面白くなかった。
なるべく、ベッドの側に座って母の様子を見たりしていたが、いつも眠っていて、少しも反応がなかった。倒れたとき、医師が、何ごとかの手当をすると、意識は戻らないにしても半年くらいは生きられがどうしますかと聞いた。私は、少し考えたが、その手当を断った。意識のない母では、生きていてもらっても本人にとっても子ども達にとってもつらいだけだと思ったからである。いまでも、この判断は間違っていないと思っている。
ある日、母の顔をぼんやり眺めて、昔のことなどを思い出していたら、母が手で髪の毛を整えるような仕草をした。私はそれを見て、女の身だしなみを気にするような母を思って、急に母がいとおしくなり、涙が止まらなくなった。もう一度、元気な母と話したいとつくづく思った。
しかし、母はそれから3日くらいして、いってしまった。脳死の報道を聞くと、母の死を思い出すのである。
わが母も墓石となり梅香る 信行
(榎本信行)
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