読む・読もう・読めば 11 ピストル配給
1960年5月19日、衆議院で新安保条約批准が強行採決された。24日に丸山真男が教育会館で行った講演「選択のとき」は、その後の安保闘争の盛り上がりに大きな役割を果たしたと言われる。丸山は、「争点はいちじるしく単純化されました」「権力が万能であることを認めながら、同時に民主主義を認めることはできません」「いまこそ選択のとき」と語った。そして強行採決を認めない、民主主義を守れ、の声が国会議事堂を何重にも取り巻いたのだった。
この短い講演の記録を読み返すとき、その結びの言葉が気になる。「この歴史的な瞬間に、私たちは、外国にたいしてでなく、なによりもまず、権力にたいする私たち国民の安全を保障するために、あらゆる意見の相違をこえて手をつなごうではありませんか」。気になるのは、丸山が同じ年に人民武装権を肯定する文を発表しているからだ。「権力に対する国民の安全を保障」する権利、とも読める。
「拳銃を……」と題する小文で丸山は、「各世帯にせめてピストルを一挺づつ配給して、世帯主の責任において管理すること」まで提案している。内外の「どんな権力や暴力にたいしても自分の自然権を行使する用意」が、権力の横暴や外国の侵略から民主主義社会を守る、という趣旨だ。続けて米国憲法修正2条の武装権規定にふれ、「そこに含まれた精神は基本的人権の御説教のみいたずらにかまびすしい現代の日本でももう少し考えられてもよくはないか」と書く。
そのピストルは誰が配給するのか、とつっこむのはたやすいし、銃社会・米国でどれだけの犠牲者が出ているか、数字を挙げることも簡単だ。けれども丸山がそれらのことを失念していたはずがない。『現代政治の思想と行動』増補版後記に「戦後民主主義の虚妄に賭ける」と書いた丸山が、権力に対抗する国民の気概、精神、方法について考え続けていたことを忘れるべきではないだろう。(大内要三 2007年7月15日)
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