戦時に向かう言論統制と日本国憲法の精神①
平権懇 2007年連続学習会 第5回
2007年12月15日 田島泰彦
はじめに
表題は「戦時に向かう言論統制と日本国憲法の精神」となっていますが、日本の今の言論の自由とか表現の自由が、とくに有事に関する問題であるとか、あるいは戦時的な動向とのかかわりでどうなっているのか、どういう方向にいま向かおうとしているのかということが全体のテーマです。日本国憲法とのかかわりは、おそらく充分に議論できないと思いますが、最後のところで少し触れるという程度にしたいと思います。
本論に入る前に2点ほど少し話をさせていただきます。
ひとつは、いま我々がいるこの国の状況を、どういうふうに私は認識しているかということです。
後で具体的に触れますけれども、例えば有事法制というのが作られた。2003年に最初の武力攻撃事態法ができました。あるいは自衛隊がイラクに行くということも起こりました。だから、かなりきな臭いなと、とくに戦前の経験を持たれている方などは、相当危ないところまで来ているなと、多くの人が認識しているかもしれないですね。ただそうは言っても、戦時とか戦時的状況というのは今とは違うだろうという認識が、一般的には依然としてあるのではないか。
しかし私は表現の自由とか言論統制の問題にかかわってきたので、有事とか戦時とかは遠い先の話ではないなと思います。確かにいま具体的に日本で有事法制が発令されているわけではありませんが。今日は「戦時に向かう」という表題ですが、これはかなり穏やかな表現であって、シビアな見方をすると、もう我々の国自体が戦時のある部分に入っていると、すなわち我々の立っている足のどこかの部分で、もう踏み込んできているかなというのが、私の率直な認識です。
自衛隊が武器を持って紛争地帯に入っていく、紛争地帯で活動するということがあった。これまでにも湾岸戦争でもアフガニスタン戦争でも自衛隊派遣がなされたのは事実です。しかしこの段階で自衛隊がイラクに公然と行くというのは、やはりかなり重要な意味を持っていたというふうに思います。海外に出かけて行って軍隊が活動するというのは、かなり重要なメルクマールですね、実は。自衛隊ができたときに参議院で国会決議があって、自衛隊が外に出さないと全会一致で決めた。数十年の過程のなかで、違う事態が生まれたということです。
しかも有事法制の議論は1970年代の後半ぐらいから始まったわけですけれども、このときは少なくとも研究の段階なんですね。実際に有事法制を作って我々の国をどうするということは、全然次元の違う話だったはずです。しかし小泉首相は9.11事件の直後の段階で、有事法制を作る必要があると国会で明言した。従来の経緯からして簡単にはできないだろうと私たちは思っていたところが、2年たって有事法制ができたわけです。武力攻撃事態法という大枠がまずできて、その後国民保護法ができて、有事法制の整備が一気に進んだ。
有事法制という言葉では明確ではないんですけれども、要するにこれは戦時の特別の仕組みです、平時の話ではなくて。ひとたび国が攻撃される等の事態、戦時的な状況が生じたときに特別の強力な国家体制を用意し、かつ平時には保護されてしかるべき市民の自由や権利が制限できる、そういうシステムが公然とできたということになります。
実はこれはメディアも非常に深いかかわりを持っています。一連の言論的な統制・規制が次々に始まっています。イラクの取材・報道統制もそのひとつですし、市民のレベルでも、イラク派兵について批判的なビラを配ったら逮捕されて起訴される、そういうことが平然と行われている。そして最後は憲法改正の問題まで行き着くわけですね。
憲法改正というとだいたい9条はどうなりますかという話になりますけれども、それは本丸であるのは確かですけれども、実は表現の自由をどうするかというのも非常に大きなテーマで、表現の自由自体が憲法問題であるわけです。
こういう一連の事態を見ると、これは普通のときの話ではないんですね。やっぱり有事とか戦時ということを頭に置いておかないと正当化できるような話ではない。非常に特徴的な、戦後の日本を画するような事態が一気に、とりわけ9.11以後に進んでいる。ですから、もしかすると変な方向に行くのではなくて、かなり恐ろしい方向にもう動いている、足跡がひとつ一つ重なりつつあるという段階かなと思います。
さて、そういうことを私の認識としてお話をした後で、具体的には2つ、議論しておきたい。戦時的な言論状況、言論統制というのは、いったいどういう状況になっているのか、というのがひとつです。それからもうひとつは、軍についての秘密保護のシステムの強化とか整備ですね。限られた時間ですけれども、議論をしていきたいと思います。
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