読む・読もう・読めば 32
都江堰のこと
中国四川大地震の報道に接するたびに胸が痛む。救援寄金を送るくらいしかできることがないのも悔しいことだ。余震におののく中で衣食住に欠き、感染症が広がり、さらに土砂ダム決壊の危険があるという。地震そのものの発生は天災で防ぎようがないが、危険地域が人口稠密地帯であること、耐震構造のない建築物が多いこと、そして土砂ダム決壊の危険が迫っていることは、みな人災ではないのか。
震源の近くに都江堰(とこうえん)市がある。都江堰とは紀元前250年ごろに建造され、今なお現役の治水・利水施設であり、ユネスコ世界遺産に登録されたのを記念して、灌県の地名も都江堰に改名された。むろん観光客狙いではある。かつて旧満州国建国大学に学んだジャーナリスト田中譲二氏は、1960年代と2000年の2度現地を訪れ、著書『覚え書 中国古代の水利施設都江堰と創建者李冰父子』(光陽出版社、2001年)に、都江堰建造の事情を要領よくまとめている。山を削って岷江の分流を成都に流し成都平原を潤すとともに、水を堰き止めるダムではなく、分水堤と低作堰により水量調節を行い土砂の堆積を防ぐという、古代の智慧と大工事に感嘆させられる。詳しくは同書を参照していただきたい。
しかし現代の中国政府は脱ダムではなく増ダムに邁進した。岷江の上流に06年に完成させた紫坪埔(しへいほ)ダムは日本最大の徳山ダムの倍の水量をたたえる。4万人の少数民族が立ち退いたという。円借款で建造され、電源開発が参画した。このダムに5月12日の地震で亀裂ができ、14日から緊急放流したことが、土砂ダム決壊危機の遠因だろう。紫坪埔ダムが決壊すれば都江堰市は水没するが。中国水利部は25日、地震による危険ダムは四川省内だけでも1803あると言っている。ダムで治水ができるなどと思うな、というのが都江堰の教訓であったはずなのだが。 (大内要三 2008年5月28日)

