読む・読もう・読めば 40
『黄金郷(エルドラド)伝説』を読む
時代の空気を読んだ読み物だけがベストセラーになれる。では、刊行当時に熱狂的に迎えられ、今なお読み継がれる、『コロンブス航海日誌』とデフォーの『ロビンソン・クルーソー』とドイルの『失われた世界』の共通点は何か。それは「探険帝国主義」だ、というのが本書、山田篤美著『黄金郷(エルドラド)伝説』(中公新書、08年9月刊)の主旨だ。
なるほど、そうだったのか、とあらためて思う。ロビンソン・クルーソーは絶海の孤島にひとり暮らしたのではなく、ベネズエラのオリノコ河口でサバイバル生活を送ったのだった。ロビンソンは原住民フライデーだけでなくスペイン人たちまでも従えて、島をイギリス植民地にすることに成功する。オリノコ川は後の英領ギアナへの入口であり、上流には金鉱地帯がある。
4人のイギリス人が「アマゾン川の上流」、周囲から隔絶されたテーブルマウンテンの頂部で、恐竜と猿人に出会うという物語『失われた世界』の舞台も、じつはギアナ(グアヤナ)のロライマ山だという。ロライマ山探険の記録が情景描写の種本になっていることを、著者は綿密な調査で確認した。この小説もまた、金鉱地帯をイギリス植民地に併合する動きのなかで受容されたのだった。
米国の介入でイギリスの野望は破れ、宝石と金銀略奪が主だった「探険帝国主義」の時代は終わった。いまや石油・天然ガスとウラン・レアメタルのために傀儡政権を樹てることが「帝国」の手口となった。しかし史書・地誌・小説を併せて読み解くという著者の方法は、いまも通用するはずだ。500年のドラマを一気に読ませる軽妙な語り口が、『蟹工船』が『源氏物語』と同じぐらい難しいというイマドキの学生に通用すればうれしい。(2008年9月28日)
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