読む・読もう・読めば 42
シリーズ「福祉に生きる」のこと
『レーニン全集』を見て、「これ全部、ひとりで書いたの?」と言った人がいたそうだが、ひとりで1冊ずつ書いても50冊のシリーズを完成させるのは容易ではない。商業的に失敗すれば、即、出版社の倒産につながる。ところが、大空社は10年かかって「シリーズ『福祉に生きる』」50冊の刊行を実現し、続いて11月にはさらに5冊を刊行するという。快挙と言うべきだろう。ジャンルを問わない評伝シリーズなら吉川弘文館もミネルヴァ書房も出している。しかし本シリーズは福祉関係者に限った評伝を、ひとりの人物についてひとりの著者が1冊で書きおろし、各冊定価は本体2000円という設定だから、普通の出版人なら「とても商売になりません」と二の足を踏む企画だ。
『週刊読書人』10月31日号に、一番ケ瀬康子さんとともに編集者をつとめる津曲裕次さん(長崎純心大学教授)が「編集にあたって」を書いている。当初の候補者・執筆予定者は93名、うち実現したのは15人分とのこと。既刊の50人+11月刊の5人を見ても、私が無知なせいもあるだろうが、知っている名前のほうが少ない。全容は大空社(おおぞらしゃ)ホームページで見てください。一般的には無名に近くても、福祉史のうえで大きな働きをした人はたくさんいるのだ。
すごいのは、「本伝記シリーズでは、執筆を依頼するに当たって、締切を設定していない。研究の成果が纏まり、それを伝記として書き下ろしていただくことが大前提だからである。」という編集方針だ。決して完成することのないシリーズということになり、出版人としては夢のような企画でもある。大空社は1983年創業の学術出版社で、主に復刻の揃えものシリーズをいくつも刊行しているが、なかには中途で別の出版社に譲渡せざるを得なかったものもある。本シリーズの刊行が継続されることを願い、まだ出版界というのも捨てたものではないな、とも思う。 (2008年10月29日)
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