イラク戦争で劣化した自衛隊と日本⑥
●日本の劣化と田母神「論文」
海外派兵が続くなかで、日本の政治自体が軍事優先になってきているのではないか、という危惧を持ちます。とりわけイラク参戦を決めた小泉内閣以後、3回の日米安保協議委員会(2+2)が開かれました。これらは米軍再編のお手伝いをどのようにするか、基地再編強化をどのように進めるかが課題のように言われますが、むしろ経済・政治・外交に先立って軍事から対米従属を深めることになっているのではないかと思います。自立的な経済も外交もない国に、立派な軍隊がある。このような事態は日本の劣化と呼ぶべきではないか。
平和憲法と日米安保の奇妙な共存が戦後政治の基本でしたが(むろん共存させてはならないというのが平和運動者の基本ですが)、海外派兵が日常というところまで憲法9条を空洞化させてくると、実際に憲法が改悪された時点ではすでに9条改憲状況を追認するだけになっているのではないか。あと残っているのは軍事法廷と憲兵隊くらいでしょう。国民投票法反対運動と安倍改憲政権の自滅で、改憲は遠のいたように見えますが、あちら側から見て改憲の必要がないまでに9条が空洞化することを恐れます。
イラク参戦によって、将たちと兵たちの間の亀裂が広がりました。前者が「同盟」路線だとすれば、後者が「愛国」路線に結集していくことを警戒しなければなりません。なぜならば、どちらも東アジアの平和にとって有害なものだからです。ここに出てきたのが田母神「論文」です。
引用された学者が文句を言っているくらいに、都合の良いところだけつまみ食いで継ぎ接ぎしたものは、とても論文とは言えないでしょう。また、靖国史観や、それを隊内で組織的に広めようとしたことが問題なのは当然です。さらに、自衛隊法46条による懲戒処分ではなく単なる辞職であること、高額な退職金が支払われたことも大きな問題です。しかしここでは、田母神前空幕長を防衛省が自ら切ったことについて考えたいと思います。
10月31日、アパグループが田母神前空幕長の受賞を発表した当日のうちに、麻生首相・浜田防衛相は田母神氏を辞任させました。「政府見解と明らかに異なる意見を公にすることは空幕長として不適切」という理由です。しかし問題は靖国史観ではなく、対米自立の主張にあったのではないか。このことは「へいけんこんブログ」に連載しているコラム「読む・読もう・読めば」の第43回に書きました。
辞職した田母神氏は国会喚問でも自由に自説を開陳し、さらに雑誌「週刊現代」や「Will」に登場し、緊急出版で「自らの身は顧みず」などという本まで出しています。この中では日米安保批判にとどまらず、自衛隊装備の自主開発、米軍撤退、核武装までも主張しています。
防衛省の主流は日米同盟強化路線です。その裏には、いま米国に付いていけば、米国は次第に衰退するのだから、相対的に日本の地位は上がる、という幻想があるでしょう。だから田母神氏のように、いまフライイングのように対米自立を言ってしまうのはたいへんまずい。しかも田母神氏は、順調にいけば来年は統幕長に就任するはずでした。首相官邸の司令塔機能とともに統幕監部機能も強化しようとしているとき、統幕長が対米自立を説くのはたいへんまずい。だからいま穏当に辞任させた。懲戒処分にするとかえって「愛国」派を刺戟する。麻生首相・浜田防衛相はそのように判断したのではないでしょうか。
では田母神氏は、イラク派兵で亀裂の入った自衛隊のなかで、今後影響力を広げていくのか。それとも一過性の注目を浴びただけで消えていくのか。それは、ぐずぐずと自壊しつつある自民党とも、日本の民主党とも人脈を持たないオバマ政権が、再度の「同盟漂流」をどれほど危惧するかにもかかってくるでしょう。
長文をお読みいただき、ありがとうございました。今月末の「読む・読もう・読めば」(大内要三コラム)はお休みとし、また新年にお目にかかります。よいお年を。
« イラク戦争で劣化した自衛隊と日本⑤ | トップページ | あけましておめでとうございます »
「平権懇 連続学習会」カテゴリの記事
- 榎本さんを偲んで②(2014.01.16)
- 榎本信行さんを偲んで ①(2014.01.16)
- 脱原発テントの実情と今後の見通し(2013.09.28)
- 「脱原発テントといのちを守る裁判」のめざすもの(2013.07.18)
- 脱原発・地球温暖化防止・自然エネルギー (レジュメ)(2012.10.29)
この記事へのコメントは終了しました。


コメント