朝鮮半島の変貌を見る⑦
質疑応答
――イミョンバクの対北政策は。
上原 向こうも出すものをちゃんと出してくれないとこっちもやらないよ、というふうにしていくと今のところ言っていますけれども。ただ日本と同じで、結局は財界の意向なんですね。ですから基本的にはそんなに変わらないと思います。いずれは統一したいというのが当然あるわけです。このあいだピョンヤンで、韓国側の中小企業人百数十人を呼んでレクチャーした。そのときに韓国側の参加者が言っていたのは、今までは中国でやっていたけれども、人件費がこの間に3倍くらいになってちっとも儲からない、北朝鮮の安い労働力をうまく使えるか、ということですね。そういう流れはずっと続くだろうと思います。
同時に韓国側がもっとも恐れているのは、北朝鮮が自己崩壊して、難民が雪崩を打って韓国に来る、あるいは面倒を見なければならなくなることですね。東西ドイツの統合を見ているからそう思うわけです。北の一人当たり所得が韓国の3分の1くらいになってくれないと、統一はしんどい。ケソンに工業団地を造っていま列車が南北間を毎日運行するようになっていますけど、中身は空だという話もありますね。それでもなんとか経済協力をやって、キムジョンイルの軍事独裁はいずれなんとかしてもらうにしても、今のままでは統一もへったくれもないと。もちろん戦争で統一するのはまっぴらだと、お互い親戚がいますからね。
ですから大統領が替わったからといって、そんなに変わるものではないだろうと思います、路線は。アメリカが共和党から民主党に変わっても、戦略は結局、軍部の言いなりになるのと同じようなものだと思っていただければいいと思います。
――横田に国連軍が4人来ましたね、11月に。あれは韓国にいたものですか。
上原 忘れた。さっき10大任務という話をしましたけど、韓米連合司令部が解体すると、停戦維持任務も韓国軍に移ることになるわけですね。しかし休戦協定の当事者は国連軍ですから、停戦維持任務を指揮監督するのは国連軍です。国連軍の位置づけは、かなり複雑な様相を見せて来るんじゃないかと思います。せめてその前に休戦協定を解消して、平和条約までいかなくても、戦争を終結したという形をいちおう作らないと、国際社会としてはなかなか南北ともに付き合い方が難しいということが言えるだろうと思います。
――今まさに国連の事務総長が韓国の人ですけれども、なんとかならないんですか。
上原 逆にやりづらいところがあるかも知れないですね。バン・ギムンはそれなりのキャラクターをもって国連事務総長としてはやると思いますけれども、韓国自身は日本ほどひどくはないですけれども、アメリカの顔色をうかがわないとやはり、何もできない部分はどうしてもありますので。
いま6カ国協議で核の問題がひとつの問題になっているんですけれども、例によって北は引き延ばし戦術でああだこうだ言って、先日もミサイルを撃ちましたね。通常の訓練だと誰もが見ているわけですけれども。とにかくいまブッシュがレイムダックで、もう任期切れを待つだけ、決定権がない。だから次の大統領が決まって政策がはっきりして、そいつから何が獲れるかと計算してからでないと、前に進む気にはならないでしょうね。
一方で北では2月に軍と党の3割くらいを粛正したらしいですね。「とうとう先軍政治にメスが入るか」と東亜日報は書いていましたけれども。今まで軍事一本槍でやってきたのが、そこにまた汚職がはびこってどうにもならなくなって粛正したということもあって、内部の悩みも非常に深いんです。国連食糧計画の推算では、昨年の収穫を見ると、この5年間の平均よりもさらに悪くて、300万トンくらいしか収穫がなかったというんですね。160万トンは不足するだろうというふうに言われているんですが、毎年春になると肥料と植え付け資材の援助を必ず南側に求めてきたけれども、今年はそれだけ食糧危機と言われるのにもかかわらず、援助要請がない。あるいはもっと恐ろしい事態が進行しているのかも知れません。
――1950年代のように北と南が地上で大激突するような形の戦争はもう起こりえなくなっていると思いますけれども、しかしアメリカが韓国の防衛はなるべく自分でやれというので、韓国軍はどんどん巨大化しているわけですね。この東アジアを見る場合に、韓国軍が巨大化、自衛隊が巨大化、中国軍も巨大化となると、敵国の脅威というよりも自国の軍隊が強大化することによる民衆の被害が大きくなるのではないかという懸念があります。
上原 まさに軍事は拡大再生産されるものですね。北朝鮮軍の装備がどんどん老朽化していくのに比べて、韓国軍はどんどんハイテクに変わっている。アジアの最大の脅威はやはり日米軍事同盟ではないかと思うんですね。韓国ではノムヒョン大統領の時代に米軍の戦略的柔軟性を認めるか認めないかということで大論争があった。在韓米軍が戦略的柔軟性の名のもとに、東アジアのどこかへ行って戦争をする場合、韓国もその戦争を支持しているように自動的に見られるじゃないかと。それは良くないということで、在韓米軍は韓国に張り付いていてほしい、余計なところに行かないでほしいと、ノムヒョン時代には言っていたんですね。最終的には、米軍はそういう場合には韓国政府ともよく相談してからやるという言質を取りました。
ところが今度のイミョンバク政権は、これはちょっと危険なんですけれども、日本の「普通の国家」化に対応するために、それを取り払うという路線のようです。日本の「普通の国家」化というのは日米同盟を攻守同盟にすることで、例えば佐世保のエセックスがフィリピンに行っても日本政府は全然関知しない。そういう日米同盟になっているわけです、現実に。在日米軍からイラクに行っていても、どうぞどうぞと。
在韓米軍がイラクへ行くときには、韓国国内では大騒動だったわけです。ノムヒョン大統領は、「私は大義名分のないことはしない政治家だが、しょうがない」と言って、最終的には認めざるを得なかった。逆に言うとノムヒョンは、在韓米軍をイラクに差し出すのは本来、大義名分のないことだと事実上明言したわけです。そういう点で、イミョンバクのほうは、アメリカべったりの同盟関係に韓米関係を変えていこうとしているという傾向があります。
日本に対する脅威感があるからそうなるんです。そういう意味では、日米同盟をこれ以上強化させないということが、対中国の関係でも、朝鮮半島の関係でも、非常に重要になってくるんじゃないかと、日米同盟の強化と自衛隊の海外派兵がズルズルと拡大されていくこと、それがアジアの軍拡競争の最大の要因になっているんじゃないかと、私は思います。
司会 そろそろ時間ですが、ひとこと。
上原 日本では田中角栄の時代に、またバブルのころに大開発ブームがありました。韓国はいまそういうふうになりつつあるんです。休戦ラインに近い米軍基地がかなり返還されるわけですが、その跡地で、すごい開発ラッシュなんです。土地の値段も上がっていますし、ピョンテクのあたりはアパート分譲ブームがわき起こって、ものすごいですね。物価も相当上がっているだろうと思うんですが。なんでもビジネスにしようということで、返還された米軍基地は全然浄化されていないというので、大手・中堅の土建会社などは、汚染除去はビジネスだと参入してきているんですね。そういうふうに、ゆがんだ形の再開発、産業の育成・発展がある。そういうのを見ていると、日本が駆け抜けてきた50年代から80年代を、いま一気に駆け抜けている感じがするんです。しかもそれが決していいことばかりではない、という気がしています。そういう意味では私たちは、いろんな意味での友好と連帯の関係を作っていく必要があるのではないかと思います。
付記:この学習会後、空母キティホークの帰還・退役日程は流動的になりました。また、4月15日付「東亜日報」は、今回のキー・リザルブ演習に1999年以来最大規模の米特殊部隊員約1650人が参加したと報道しており、この点を今回の演習の最大の特徴の一つとして付け加えたいと思います。