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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

2008年平権懇 学習会「朝鮮半島の変貌を見る」①

2008/04/23

朝鮮半島の変貌を見る⑦

質疑応答

――イミョンバクの対北政策は。

上原 向こうも出すものをちゃんと出してくれないとこっちもやらないよ、というふうにしていくと今のところ言っていますけれども。ただ日本と同じで、結局は財界の意向なんですね。ですから基本的にはそんなに変わらないと思います。いずれは統一したいというのが当然あるわけです。このあいだピョンヤンで、韓国側の中小企業人百数十人を呼んでレクチャーした。そのときに韓国側の参加者が言っていたのは、今までは中国でやっていたけれども、人件費がこの間に3倍くらいになってちっとも儲からない、北朝鮮の安い労働力をうまく使えるか、ということですね。そういう流れはずっと続くだろうと思います。

同時に韓国側がもっとも恐れているのは、北朝鮮が自己崩壊して、難民が雪崩を打って韓国に来る、あるいは面倒を見なければならなくなることですね。東西ドイツの統合を見ているからそう思うわけです。北の一人当たり所得が韓国の3分の1くらいになってくれないと、統一はしんどい。ケソンに工業団地を造っていま列車が南北間を毎日運行するようになっていますけど、中身は空だという話もありますね。それでもなんとか経済協力をやって、キムジョンイルの軍事独裁はいずれなんとかしてもらうにしても、今のままでは統一もへったくれもないと。もちろん戦争で統一するのはまっぴらだと、お互い親戚がいますからね。

ですから大統領が替わったからといって、そんなに変わるものではないだろうと思います、路線は。アメリカが共和党から民主党に変わっても、戦略は結局、軍部の言いなりになるのと同じようなものだと思っていただければいいと思います。

――横田に国連軍が4人来ましたね、11月に。あれは韓国にいたものですか。

上原 忘れた。さっき10大任務という話をしましたけど、韓米連合司令部が解体すると、停戦維持任務も韓国軍に移ることになるわけですね。しかし休戦協定の当事者は国連軍ですから、停戦維持任務を指揮監督するのは国連軍です。国連軍の位置づけは、かなり複雑な様相を見せて来るんじゃないかと思います。せめてその前に休戦協定を解消して、平和条約までいかなくても、戦争を終結したという形をいちおう作らないと、国際社会としてはなかなか南北ともに付き合い方が難しいということが言えるだろうと思います。

――今まさに国連の事務総長が韓国の人ですけれども、なんとかならないんですか。

上原 逆にやりづらいところがあるかも知れないですね。バン・ギムンはそれなりのキャラクターをもって国連事務総長としてはやると思いますけれども、韓国自身は日本ほどひどくはないですけれども、アメリカの顔色をうかがわないとやはり、何もできない部分はどうしてもありますので。

 いま6カ国協議で核の問題がひとつの問題になっているんですけれども、例によって北は引き延ばし戦術でああだこうだ言って、先日もミサイルを撃ちましたね。通常の訓練だと誰もが見ているわけですけれども。とにかくいまブッシュがレイムダックで、もう任期切れを待つだけ、決定権がない。だから次の大統領が決まって政策がはっきりして、そいつから何が獲れるかと計算してからでないと、前に進む気にはならないでしょうね。

 一方で北では2月に軍と党の3割くらいを粛正したらしいですね。「とうとう先軍政治にメスが入るか」と東亜日報は書いていましたけれども。今まで軍事一本槍でやってきたのが、そこにまた汚職がはびこってどうにもならなくなって粛正したということもあって、内部の悩みも非常に深いんです。国連食糧計画の推算では、昨年の収穫を見ると、この5年間の平均よりもさらに悪くて、300万トンくらいしか収穫がなかったというんですね。160万トンは不足するだろうというふうに言われているんですが、毎年春になると肥料と植え付け資材の援助を必ず南側に求めてきたけれども、今年はそれだけ食糧危機と言われるのにもかかわらず、援助要請がない。あるいはもっと恐ろしい事態が進行しているのかも知れません。

――1950年代のように北と南が地上で大激突するような形の戦争はもう起こりえなくなっていると思いますけれども、しかしアメリカが韓国の防衛はなるべく自分でやれというので、韓国軍はどんどん巨大化しているわけですね。この東アジアを見る場合に、韓国軍が巨大化、自衛隊が巨大化、中国軍も巨大化となると、敵国の脅威というよりも自国の軍隊が強大化することによる民衆の被害が大きくなるのではないかという懸念があります。

上原 まさに軍事は拡大再生産されるものですね。北朝鮮軍の装備がどんどん老朽化していくのに比べて、韓国軍はどんどんハイテクに変わっている。アジアの最大の脅威はやはり日米軍事同盟ではないかと思うんですね。韓国ではノムヒョン大統領の時代に米軍の戦略的柔軟性を認めるか認めないかということで大論争があった。在韓米軍が戦略的柔軟性の名のもとに、東アジアのどこかへ行って戦争をする場合、韓国もその戦争を支持しているように自動的に見られるじゃないかと。それは良くないということで、在韓米軍は韓国に張り付いていてほしい、余計なところに行かないでほしいと、ノムヒョン時代には言っていたんですね。最終的には、米軍はそういう場合には韓国政府ともよく相談してからやるという言質を取りました。

ところが今度のイミョンバク政権は、これはちょっと危険なんですけれども、日本の「普通の国家」化に対応するために、それを取り払うという路線のようです。日本の「普通の国家」化というのは日米同盟を攻守同盟にすることで、例えば佐世保のエセックスがフィリピンに行っても日本政府は全然関知しない。そういう日米同盟になっているわけです、現実に。在日米軍からイラクに行っていても、どうぞどうぞと。

在韓米軍がイラクへ行くときには、韓国国内では大騒動だったわけです。ノムヒョン大統領は、「私は大義名分のないことはしない政治家だが、しょうがない」と言って、最終的には認めざるを得なかった。逆に言うとノムヒョンは、在韓米軍をイラクに差し出すのは本来、大義名分のないことだと事実上明言したわけです。そういう点で、イミョンバクのほうは、アメリカべったりの同盟関係に韓米関係を変えていこうとしているという傾向があります。

日本に対する脅威感があるからそうなるんです。そういう意味では、日米同盟をこれ以上強化させないということが、対中国の関係でも、朝鮮半島の関係でも、非常に重要になってくるんじゃないかと、日米同盟の強化と自衛隊の海外派兵がズルズルと拡大されていくこと、それがアジアの軍拡競争の最大の要因になっているんじゃないかと、私は思います。

司会 そろそろ時間ですが、ひとこと。

上原 日本では田中角栄の時代に、またバブルのころに大開発ブームがありました。韓国はいまそういうふうになりつつあるんです。休戦ラインに近い米軍基地がかなり返還されるわけですが、その跡地で、すごい開発ラッシュなんです。土地の値段も上がっていますし、ピョンテクのあたりはアパート分譲ブームがわき起こって、ものすごいですね。物価も相当上がっているだろうと思うんですが。なんでもビジネスにしようということで、返還された米軍基地は全然浄化されていないというので、大手・中堅の土建会社などは、汚染除去はビジネスだと参入してきているんですね。そういうふうに、ゆがんだ形の再開発、産業の育成・発展がある。そういうのを見ていると、日本が駆け抜けてきた50年代から80年代を、いま一気に駆け抜けている感じがするんです。しかもそれが決していいことばかりではない、という気がしています。そういう意味では私たちは、いろんな意味での友好と連帯の関係を作っていく必要があるのではないかと思います。

付記:この学習会後、空母キティホークの帰還・退役日程は流動的になりました。また、4月15日付「東亜日報」は、今回のキー・リザルブ演習に1999年以来最大規模の米特殊部隊員約1650人が参加したと報道しており、この点を今回の演習の最大の特徴の一つとして付け加えたいと思います。

2008/04/22

朝鮮半島の変貌を見る⑥

駐韓米軍にかかわる諸問題

駐韓米軍にかかわるその他の問題に触れたいと思いますが、韓国は1980年代の終わりまでは軍事独裁政権だったわけです。キムデジュンが南北共同会談のきっかけとなったベルリン自由大学での講演のときに、「我々にはワイマール憲法のもとで暮らした時代はない」と物語ったと言われています。

ピョンテクのキャンプ・ハンフリーズ基地がヨンサン基地からの移転で大拡張される、たいへん残念な事態になっていま工事が進んでいるわけですけれども、結局、いくら住民が居座ろうとしても強制収用されてしまうんですね。日本では憲法9条ができたことによって、土地収用法から、土地収用の目的に軍事が削られた。ところが韓国では軍事目的の土地収用ができる。キャンプ・ハンフリーズの基地はもともと旧日本軍が作った基地だった。それを朝鮮戦争のときに米軍が拡張して、さらにまた今回、拡張されたわけですね。大本はやっぱり日帝にあるということは、我々は忘れてはならないと思います。

そういう日帝支配の負の遺産としては、例えばインチョン市にプピョン(富平)区というところがありまして、米軍基地の跡地があります。いざ返還されるとなったら、ここはオレのものだという韓国人が現れた。どういう人物かというと、日帝が支配していたときに、その土地の当時の実際の地権者から二束三文で、要するに地上げで取り上げて、まとめて日本軍に売り渡した。親日派という言葉を今でも使っているんですが、これはウチの爺さまがちゃんと買い取った、証文もあると言い出したわけですね。裁判では認められなくて、いまは地元自治体と住民の管理のもとにあるようですけれども。

このほか、米軍犯罪は多いですし、韓国国防省が返還される米軍基地を汚染の浄化をしないまま返還すると分かっていながら、韓米関係のためにそのまま受け取ってしまったので、非常に汚染問題は深刻です。

それからメヒャンニ(梅香里)の射爆場が閉鎖されたことで、韓国国内で米軍のの射爆場が不足しているんじゃないかと言われているんですが、私は必ずしもそうとは思っていないんです。米軍は例えば横須賀を母港とする空母艦載機の着艦訓練の訓練場をよこせと80年代にずっと言っていましたよね。幸か不幸か三宅島が噴火したので頓挫しましたけれども、国のほうは三宅島にNLP専用の空港を作る計画でした。いちおう軍民共用で。確かに厚木基地の爆音はひどいですけれども、実際には米軍は訓練をもっとやりたかったから場所を拡大したかったんです。いま韓国で起こっていることもそうです。クンサン沖のチク島(用字不明)にメヒャンニの代替の訓練場ができておりまして、最近もアパッチが行ってライブ・ファイア演習をやったという記事が出ていますから、実弾訓練もできるはずです。やはりハイテク兵器になると消費する弾薬の量がどんどん増えていくんですね。演習に使う総量が増えるから、どうしても場所がもっと必要だということになってきているわけです。

騒音公害訴訟も各地で、日本にならった形で進展しております。

それから、いま非常に心配されているのは、チェジュド(済州島)にまったく新しい海軍基地を作ろうとしていることです。これは横須賀・佐世保・ホワイトビーチに続く、米軍のアジアでの軍事拠点になるんじゃないかということで、国際的にもたいへんな憂慮を生んでおります。

平和に生きる権利を写す鏡

朝鮮半島とアジアは、我々にとって「平和に生きる権利を写す鏡」じゃないかと思います。日本の旧軍時代の慣習が残っている韓国では、軍内にリンチとかがすごく多いんですね。最近になってようやく不審死究明委員会というのが作られまして、調査した45人のうち1割くらいの死因はでっち上げで、暴行されて死んだんだと出ております。そういう意味では、本来、軍隊を持たないという日本国憲法というのは、我々はやはり大事なんだなと思います。

先ほど演習の実態を詳しく述べましたが、東アジア全体に対してアメリカはちゃんと責任をもってやっていますよと、この2月、3月に米軍は見せているつもりでいるわけです。しかしそれはどういう道なのか、ということですね。

米軍はインドネシアで津波災害が起きたときに、病院船マーシーを派遣しました。マーシーとは「慈悲」とか「情け深い」という意味ですけれども、病院船は本来、戦場で傷を負った兵隊を治して戦場に送り返すのが仕事なわけですから、それのどこが情け深いのかと私は思うんですけれども。災害のときにそういうものを出すようにしたのは、地域安定化作戦です。災害によってアメリカに友好的なインドネシア政府が倒れるようなことがあっては困る、あるいは難民が太平洋に出て暴徒化したら、治安が非常に混乱する。それを防ぐための安定化作戦なんですね。

日本でいま、前倒しでいま国民保護計画に基づく形で進められている防災訓練、あるいは陸海空の自衛隊がイラク帰りの米兵によって、共同訓練と称して教育されていくということがどんどん進んでいる中で、本当に朝鮮半島およびアジアというのは、我々の鏡になるんじゃないか。その中で私たちは憲法と平和を見つめながら、まさに平和に生きる権利を確立するために闘っていかなければならないと思います。

今日の雑駁な話が多少のヒントになればうれしいです。

2008/04/21

朝鮮半島の変貌を見る⑤

Uehara004 作戦計画が変更か

 このような演習を見ると、作戦計画が変化したのではないかと思うんですね。「韓半島有事、米軍の支援規模は」という朝鮮日報の記事を読みます。日本語版が出たのが3月10日ですが、韓国語版では3月5日にすでに出ています。あまり軍事情報を外に出したくなかったのか。

「現在の韓米による作戦計画によれば、韓半島で全面戦争が起きた場合、米軍は韓国に大規模な増援を行う。戦争開始から90日以内に総兵力69万人、艦船160隻余り、航空機2500機余りが主な内訳だ。艦船には空母5個戦団が含まれる」。アメリカが現在持っている空母が全部で12杯ですから、大変なものです。「韓半島に派遣される空母は排水量9万トンを超える超大型原子力空母で、80機以上の艦載機を搭載している」。

「航空機はレーダーに捕捉されないステルス爆撃機のB-2をはじめ、B-1、B-52爆撃機、世界最強のステルス戦闘機F-22、F-15、FA-18、地上攻撃機のAC-130、MH-60をはじめ、ヘリコプターなどで構成される。米本土だけでなく、アラスカ、ハワイ、グアムなど太平洋地域の基地、沖縄、日本本土の在日米軍基地から出動する」。

「在日米軍基地に配備された空母1個戦団と」、これはこのままいけば今年の夏にジョージ・ワシントンに替わるわけですけれども、「アラスカ基地のF-15戦闘機、EA-6B電子戦機などは全面戦争がおきる可能性が高いか、実際に戦争が起きた直後に真っ先に韓半島に派遣される」。これはちょっと古いですね。いまアラスカにはF-22がすでに配備が始まっていますので、F-22がくることになるでしょう。

「しかし、専門家らは米国の安全保障戦略と作戦概念の変化、戦時作戦統制権の韓国軍への委譲、イラク戦をはじめとする対テロ戦争などにより、増援規模が大きく減少すると見ている。地上戦は韓国軍が受け持ち、米軍は海軍、空軍主体で支援を行うとの戦略に基づき、増援兵力は69万人余りから10万-20万人に削減される可能性が高い。」69万といっていたのが、えらく減るもんだなあという感じがします。「海軍、空軍もステルス機、イージス艦、先端精密誘導爆弾ミサイルなどの最新鋭武器の比重を高める一方で、韓半島に配備する兵器の規模が削減すると見込まれる」。

 こういう予測記事というのは、簡単には書けないはずです。というのは、地上軍が69万から10-20万に激減するのは、作戦計画の変更が前提とされていないとおかしいわけです。朝鮮半島をめぐりましては、シナリオがあるんです。コンプランCONPLANというのがありますが、コンセプト・プランの略ですね。これを「概念計画」というふうに日本語では訳しておりまして、だいたいこういう方向で、というプランです。これが実際に、こういうことが起こった場合にこの部隊をこういうふうに運用して、という、部隊名まで出して具体的な動かし方まで決めていくと、オープランOPLAN、オペレーション・プランになります。

 いま読み上げた朝鮮日報の記事に出ているのは、全面戦争がおきた場合のプランです。これはOPLANないしCONPLANの5027なんです。これについては「北の南侵防護主に『作戦計画5027』拠点早期占領作戦に変わる」という、ちょっと古いですが去年の2月26日付の中央日報の記事があります。昔は向こうが攻めてきたら、まず駆けつけられる者は駆けつけて、まず防ぐ、止める。その間に大規模増援軍がやってきて一気に押し返して、北朝鮮軍を滅ぼす。というシナリオだったんですが、今度は、第1段階でピョンヤンをトマホークや合同直撃弾JDAMなどハイテク兵器、精密誘導兵器でもって一気に叩く。第2段階で大規模兵力を投入して制圧作戦を行う。というふうに変わるというのが、この観測記事です。

 イミョンバク政権に変わりましてから、作戦計画がいろいろある中でも5029というのが浮上します。5029は、北朝鮮が自己崩壊する場合を想定した計画です。これは2006年の1月でしたか、北朝鮮の中で起こることに対して作戦計画を作るのは内政干渉に当たるのではないかと、ノムヒョンは考えたわけです。それでCONPLANをOPLANにすることに待ったをかけた。イミョンバク政権のもとでは、本格的にOPLAN化しようという動きが、今のところ進んでいます。といったことでシナリオも変わり、シナリオの変化にまた演習の流れも対応しているわけですね。

今回の演習について北朝鮮は、武力挑発だとか、こういうことが朝鮮半島に破壊を招くとか、ありとあらゆる文言を尽くして、相当しつこく連日非難報道をやったようです。

北朝鮮は実際に脅威なのか。韓国とアメリカ側の評価を見ます。

「北朝鮮の軍事力は弱化したが脅威」であると在韓米軍のベル司令官が2月2日に記者会見で述べた。聯合通信報道です。まだ脅威だと強調するか、弱くなったと強調するかで非常に意味が違うだろうと思うんですね。

「最大の憂慮は北朝鮮通常兵器の脅威」というのは、同じベル司令官が「ウォールストリート・ジャーナル」のインタビューに答えた2月23日付の記事です。逆に言うと、北朝鮮の通常兵器は脅威だけれども、あとは大して怖くはないと言っているわけですね。この中で、「北朝鮮の兵器は老朽化しており、訓練も不足しここ数年間軍事力が低下したものの、北朝鮮軍は明らかにソウルに向けたロケットや在来式の大砲などを動員する能力がある」。これが脅威だと言っているわけです。

「北朝鮮のミサイル開発生産は自給自足水準」と、アメリカではもう報告書が出ている。3月4日付ワシントン発聯合通信ですが、「北朝鮮は弾道ミサイル生産のため原資材と部品を外国から輸入しているが、弾道ミサイルの開発と生産ではほとんど自給自足の水準であると米情報当局が評価していることが分かった」。よそに売るほどの余裕はないと言っているわけですね。

 このように両面に読めるんですが、要するに脅威が続いているとは書いているけれども、強まったとは一切書いてないわけですね。

韓国軍・韓国社会の変化

 韓国社会の変化にちょっと触れたいと思います。

朝鮮戦争が起こりまして1950年の4月17日に、李承晩大統領が作戦統制権をマッカーサー、当時の国連軍司令官に譲りました。李承晩は朝鮮戦争の休戦協定には署名しませんでした。非常におかしな話ですけれども、南側の当事者は国連軍なんですね。

 78年には韓米連合司令部が発足しましたので、こちらに作戦統制権は国連軍から移った。とは言っても韓米連合軍司令官は駐韓米軍司令官が務めるということになっているので、相変わらず米軍が握ることに変わりはありません。しかしすでに平時の作戦権はだいぶ前に韓国側に返還されているんですけれども、2012年4月17日を期して、戦時の作戦統制権も返還されることになっております。これには若干の条件づけがありまして、要するに韓国が自分で北の脅威に対処できるということが証明された暁には、というより、この2012年までにその軍事力を韓国軍が蓄えるということで、計画されて進められてきたわけです。

 10大任務というのがありまして、半年ごとにそれぞれの任務についてアメリカ側が検証してテストして、はい合格、となったら韓国軍にその任務を移譲するということで、もう任務移譲が進んできているわけです。この間アメリカは、在韓米軍から陸軍の2個旅団を引っぺがしてイラクへ持っていって、それも韓国にはもう戻さない。アメリカに戻る。というように、地上軍を減らしています。

 10大軍事任務のうち9つ目の戦時気象予報任務が2006年の12月31日に韓国に移りまして、残るのはあとひとつだけです。残ったひとつは昼夜間探索救助です。ミリタリー・マニアなら「コンバット・レスキュー」と言ったほうが分かりやすいと思うんですが、要するに昼夜間、悪天候を問わず、敵の後方に置き去りにされた味方の兵隊を捜索して、敵の攻撃に応戦しながら救出する、これが昼夜間探索救助という任務です。この任務が韓国に移ると、もう韓国軍は戦時作戦統制権を握る。合同の作戦計画に沿って米軍は増援をやりますが、そのとき指揮権は韓国軍が握っているという、いちおう形はそうなります。

 作戦統制権が完全に移譲されますと、米韓連合司令部は解体することになっています。ただし南の人たちはやはり心配性と言いますか、同じ民族同士で血で血を洗う戦争をやったものですから、心配でしょうがない人はいるもので、作戦権が移譲されても北の核問題が解決されない限りは米韓連合司令部は解体しないでくれという、1000万人署名運動を展開している団体があります。韓国というのはそういうところです。

 一方で市街化した地域の基地の移転もやっていますね。これは日本よりずっとマシかなと思うんですけれども。チャンウォン(昌原)というところの第39師団が、周辺が都市化したので隣の郡に移るということで合意していますし、光州事件で有名なクヮンジュの飛行場も、移転作業が具体化しています。この間、日本で北朝鮮の脅威が言われるのと裏腹に、カンウォン(江原)道、これは北と隣り合っているところですが、今年、海岸の鉄柵を12.5キロ撤去する。全体からすればわずかですけれども、いまさら北朝鮮からボートに乗って攻めてくる時ではないというので。海水浴場とか、そういう観光開発を進めます。

 インチョン(仁川)は、朝鮮戦争のときに力関係を一変させた上陸作戦が行われたところですが、ここの一角のパルミド(八尾島)は、有事保護区域になっているんですが、そこも8月から一般開放するという動きです。北朝鮮と海をへだててすぐそこです。

 と言ったようなことで、韓国には北朝鮮が攻めてくると思っている人たちもまだいますけど、一般的にはもうそうではないということですね。

 一方では軍学共同が非常に進んでおります。要するに韓国軍がアメリカのトランスフォーメイションのマネをしているわけですね。トランスフォーメイションという言葉が出る前にはRMAというのがありました。軍事革命ですね。大昔であれば例えばICBMの基地でカナヅチを1丁買うのに、町の金物屋に行けば1個50セントで買えるものが、業者を通じて買うと300ドルぐらいになってしまう。そういうバカなことは止めようということから始まったのがRMAだったんです。民間企業の合理性をマネしようということで、米軍は今ではインターネットで一般競争入札をやっています。それを韓国軍でもどんどんやっておりまして、今年に入ってからですが10ぐらいの大学と研究機関と提携協約を結んでおります。韓国軍のパイロットが大学の夜間課程に在籍して卒業証書をもらえるという協約とか、そういうことも進んでおります。

一方で徴兵制の徹底も進んでいます。ちょうど私がハングルの勉強を始めたころ、NHKのハングル講座で4コマ漫画の紹介をやっておりました。若いお嬢さんがお父さんに、「今度、彼氏連れて来るわ」と言うんですね。2コマ目ではお父さんが、「その男は徴兵は行ったのか」。「ええ、もちろんよ」と娘さんは答えるわけです。すると親父さんは、「そんなやつはイカン!」と言うんですね。昔は徴兵に行かないと男じゃないと言われたわけですが。だから「なんでよ!」と娘さんは聞くわけです。お父さんの言うには、要するに人脈や金脈を使って徴兵なんかいくらでも逃れられる。そんな金もコネもないような奴は将来の見込みもない、そんな奴のところに大事なお前を嫁にやるわけにはいかない、というオチだったんですね。

ところが最近になりまして、サッカー選手が高血圧とか肩の脱臼とかと偽って徴兵逃れをしたのが、大々的に摘発されています。韓国では一部の財閥だとかエリート層の特別扱いがひどかったんですね。大統領でも刑事犯で捕まらなかった人はほとんどいないんです。ノムヒョンは清潔なほうだと思いますけれども、甥がひとり逮捕されています。イミョンバクは閣僚候補者が次々と灰色になってきて、組閣が非常に遅れるという状態に、すでになっております。ですから非常に日本の戦前の社会を彷彿とさせるような、学閥・財閥の支配している社会です。徴兵制に対しては公平を期すという点では、ある意味では平等性が進んでいるのかなあと思います。

障害者に対する配慮も、十数年前には全然なかったんですけれども、ワールドカップのときに相当認識が変わりましたね。障害者は当然のごとく福祉を受けるべきものだという。それまでは昔の日本と同じように、差別の対象でしかなかったんです。やはりワールドカップを機に、トイレをきれいにしようというキャンペーンがあって、全国の公衆便所が非常にきれいになったそうです。

2008/04/20

朝鮮半島の変貌を見る④

一連の演習を見る

 本番が2日に始まりますと、2日から3日にかけて首都防衛司令部転地移動訓練というのがありました。次の資料は、「首都防衛司令部、23日未明に首都圏で転地移動」という、聯合通信の228日の報道です。

「陸軍首都防衛司令部は来月2日と3日の明け方、ソウルを起点に、クヮチョン(果川)、アニャン(安養)、ウィワン(儀旺)、コヤン(高陽)一帯で戦車および装備の移動を実施すると28日発表した」。

2日にはチングァンドン(鎮寛洞)-クパバル(旧把撥)-ウォンダン(元堂)駅-ウォルルン(元陵)駅の区間で」、この時にはソウルの北を何十キロか移動したということですね。「3日にはナミョンドン(南峴洞)-クァンムン(官門)三叉路-クァリョン(葛峴)洞-ウィワン駅の区間でそれぞれ行われ」ると。地図で見ると、1日目の移動と2日目の移動は全然関係ないんですね。「同月15日には復帰のために逆順で移動する」。たぶん、出発するところと帰着するところはそれぞれ意味があるんでしょう。

「今回の移動は戦車砲射撃訓練のためのもので、住民に及ぼす騒音と交通停滞の不便を減らすため、午前4時から1時間の間に行われる」。この時間ですからたぶん空砲を撃つこともなくて、弾を込めるところまでを訓練したのかなと思います。

「首都防衛司令部は移動する軍装備を撮影する行為は軍事保安に抵触するとするとともに、市民の理解と協力を求めた」。迷惑にならないように明け方にやるんだから我慢してくれよと、写真を撮ったりしたらスパイ罪で捕まえるぞというアナウンスですね。

 3日にはニミッツがプサンの近海で訓練を公開しています。同じ3日にはアラスカから来たストライカー部隊は、もう自分たちの持ち分の訓練は終わって、68人中の半分、34人はすでに帰っている。残りの連中もすぐに帰ります。

 34日にはピョンテク(平澤)市、これは米軍の移転に伴う基地の大拡張で非常に大きな闘いがあったところですけれども、そのタンジン(唐津)港でNBCテロ対処訓練が行われた。Nはニュークリアですが、いわゆる核攻撃を想定した訓練ではなくて、ダーティー・ボム、放射性物質を爆発でまき散らすようなことを主に想定した訓練です。米軍の場合にも2つは必ず分けてやっています。

この訓練の内容が次の資料に出ていますが、「平澤、唐津港でNBCテロ対処訓練」という34日付の聯合通信の記事です。

「海軍第2艦隊司令部は4日午前、キョンギ(京畿)道ピョンテク市タンジン港一帯で民・官・軍合同」、というところが重要だと思うんですね、「NBC対テロ訓練を実施した。この日の訓練は国際旅客ターミナルに停泊した船舶と周辺建物に化学弾テロが発生したというシナリオに基づき、患者移送、汚染地域統制及び除染、テロ犯鎮圧等で、2時間ほど行われた。テロの通報を受けるとただちに海軍第2艦隊司令部と陸軍第51師団等の関係機関の対テロ部隊が投入され、汚染地域に近づく人員と車両を統制して汚染地域内の患者を病院に移送した。続いて民・官・軍合同調査班が出動して汚染地域探知及び警報態勢を構築して周辺地域除染活動を繰り広げ、逃走路を遮断した後、テロ犯を鎮圧する作戦を成功的に終えた。海軍第2艦隊司令部関係者は『人命と財産の被害を最小化するとともに、テロ犯を鎮圧するのが焦点となった』とし『実戦のような訓練を通じて有事事態に備えていく』と述べた」。

 ずいぶん大変なことをやっているんだなと思うんですが、考えてみると、ついこの間大阪港でも、洞爺湖サミットの大阪会合に備えまして、似たような訓練をやっているわけですね。韓国のような非常に緊張した地域と日本がだんだん変わりなくなってきているということを思い出させます。

5 日にはナムヤンジュ(南楊州)市ピアムリ(比岩里)で、傷病兵の後送訓練をやっています。これは、敵の攻撃でもってかなり大勢の死傷者が出たということを想定してやっているわけです。このことに直接触れているわけではないんですが、「国軍医務司令部碧蹄病院、戦時連合患者処置能力強化」という「メディカルトゥデイ」の8日付けの記事があります。

「国軍医務司令部ピョクチェ(碧蹄)病院は」、場所はコヤン市です。「訓練を通して戦時の韓国軍及び米軍の負傷者発生時に迅速な応急処置を実施した」。「国軍医務司令部隷下のピョクチェ病院は08KR/FE(キー・リザルブ及びフォール・イーグル)演習期間中、連合司令部医務課主管で韓米連合患者後送FTX(実働訓練)を陸軍第1師団と連係して作戦計画地域一帯で実施したと発表した」。「病院によれば、連合患者後送FTXは戦時の韓国軍及び米軍の負傷者発生時に最寄りの医務施設で処置後、自国医務施設に後送する訓練として迅速な応急処置と連続性ある患者後送システムを検証するために07年UFL演習(これはウルチ・フォーカスレンズ演習のことで、去年の10月にやっています)に続き、今年に2番目に実施された」。今年とは今年度のことだと思います。

「今回の訓練は韓国軍第1師団と米第2師団がともに参加し、第1師団作戦計画地域」、というのはたぶん、ソウル北西部の休戦ラインに近いところだと思いますが、「で発生した患者を師団大量戦傷者処置班が出動して迅速な患者処置後、国軍医務司令部ピョクチェ病院に後送して負傷者の生命を救護する手順として進められたと伝えた」。

「特に今回の訓練の間、国軍医務司令部ピョクチェ病院では米軍患者の診療記録を英文で作成し、米軍患者が自国医務施設に後送されても治療記録が連係されるようにしたとし、野戦で使用している応急処置表を改善するため戦傷者カードの記録及び活用度を検証することにも多くの努力を傾けたと述べた」。

「国軍医務司令部ピョクチェ病院長チェ・ビョンソプ中佐は」、やはり軍人なんですね、「『今回の訓練を通して米軍に対する戦時医務支援能力と患者後送手順を検証し、両国の医務支援システムを相互理解するのに貴重な経験となった』と述べた」。米軍の看護兵が救出した韓国兵の患者のカルテは、ハングルではきっと書いてくれないと思うんですが。

 同じ5日にはロシアの偵察機が韓国の防空識別圏を侵犯するということがありました。

 6日にはソウルのカンソ(江西)区で、ハンガン(漢江)の橋梁復旧訓練が韓米合同で行われました。橋の途中が攻撃されて落ちたと、その部分を復旧するという訓練ですが、実際に作り直した橋の長さは30メートルぐらいですから、土手でやったんじゃないかと考えております。

 テグでは同じ6日に第50師団が空中浸透対処防護訓練をやっています。韓国軍の独自訓練です。聯合通信の「陸軍第50師団、空中浸透対処防護訓練」という記事があります。

「陸軍第50師団は6日、テグ飛行場一帯で、韓米連合キー・リザルブ及びトクスリ演習の一環として飛行場防護のための訓練を実施した」。韓国のマスコミの日本語サイトでは、「浸透」を「侵攻」というふうに訳しているんですが、私はどうも「浸透」のほうがニュアンスが伝わるのではないかと思います。そういった状況を仮想して、「主要街区と陣地占領、火力及び検問所運用等を通して、重要施設である飛行場を防護する実戦的訓練を展開した。軍は訓練で作戦要所間の戦闘協力体制を構築して浸透した敵を早期撃滅するとともに状況を終了させた。第50師団関係者は『今回の訓練は国家の重要施設を敵の攻撃から守って戦闘準備に万全を期すために行われた』『作戦計画の効率性を検証して訓練で現れた問題点を補完する機会とする』と述べた」。かなり生々しい訓練が行われたわけです。

 3月7日に正規の演習は終わっているんですが、翌8日にも韓米両海兵隊がロドリゲスで市街戦の合同訓練を行って、イラク帰りの米兵がお手本を見せた。10日にはプサンで、原潜オハイオの乗員と韓国側の潜水艦の乗組員を招待して、韓国の伝統芸能の公演が行われた。3月7日にフィリピンを出たエセックスは、10日にはもう舞い戻って来ておりまして、連合環境確証訓練という良く分からない訓練を14日まで行っております。14日からニミッツ空母打撃群がエセックス遠征打撃群と合同して、17日まで遠征打撃軍演習をやっている。これも一連の演習だと思います。

2008/04/19

朝鮮半島の変貌を見る③

Uehara003 米参加部隊の装備と訓練を公開

 もうひとつ今年の特徴は、アメリカ側の参加部隊の装備と訓練を、徹底して公開したとことです。昔は「チーム・スピリット」演習をやっていましたので、1978年からその際の横田基地監視活動に参加してきましたが、そのころ韓国は軍事独裁政権の時代でしたから、何がどう起こっているのか、さっぱり分からなかった。今はネット社会のおかげで英文とハングルの資料が読めますけれども、こんなに出したのは初めてです。それでもまだ隠されている部分があると思いますが、とにかく徹底して公開したということです。

 資料を読みますが、「連合司令部、『キー・リザルブ』演習浮上に総力」という、228日付の聯合ニュースです。

韓米連合司令部が「参加する米軍戦力と実際の訓練過程をすべて公開しその背景に関心が集まっている」。「すでに24日にはアラスカから韓国に展開されたストライカー戦闘旅団の実射撃訓練を、26日には原子力潜水艦オハイオも公開した」。「すべてを公開することでこの演習の『浮上』に総力を注いでいる状況だ」。「米軍はこの間この演習に参加する航空母艦を公開したことはあったが、原子力潜水艦に対する接近は徹底して遮断してきた」。

実際、チネ(鎮海)港に原潜がいることを緑色連合が暴露しまして、放射性物質を山の上に捨てているんじゃないかという告発もやって、問題になったことがあります。ところが今回は原潜を堂々と丸見えのプサン(釜山)港に係留して、マスコミ公開までやった。

 原潜オハイオが来るということはだいぶ前から報道されていたんですが、そのオハイオの中身が問題でした。というのは、オハイオはトライデント・ミサイルを積む戦略ミサイル原潜として建造されたわけです。しかし数年前にはオハイオ・クラスの4隻を改造しまして、大量にトマホークを発射する、それから海軍の特殊作戦部隊シールズを海中から秘密潜行艇で敵の奥深くに浸透させていく、という任務に変えられているんです。実際にプサンで公開されたときには新しい能力で公開したんですが、それまではトライデント原潜としての古い情報で公開しておりました。

「米軍が演習に参加する核心戦力と訓練日程を公開するよう許容したことに対して一部では一種の対北武力示威だという分析も出されている。キー・リザルブ演習の目的が対北抑止力強化にあるために北韓(韓国では「北朝鮮」とは絶対に呼ばないわけで北韓。韓国マスコミも日本向けに出すときは「北朝鮮」に直しています)に武力挑発の誤った判断を犯してはいけないという心理的圧迫を加えるためではないかという分析だ」。

「しかし実際の戦闘と類似した状況の訓練過程はもちろん、原子力潜水艦まで詳細に公開することで、むしろ北韓を不必要に刺激しうるという指摘もなくはない。連合司令部関係者は『米軍は訓練をするたびごとに公開するという立場』だとし『実際の訓練内容をすべて合わせてみればそれほど大きい規模ではない』と述べた」。それは北朝鮮から見てもわかるだろう、ということですね。これは当たっているのかどうか分かりませんが。

公式開始日以前から始まっていた

 どんなふうに進められたかを見ていきます。ニミッツ空母打撃群は124日にサンディエゴを出港して、28日付で第7艦隊に移管しております。それまでは東太平洋の第3艦隊に所属していたわけですが、キティホークの代わりということで第7艦隊に移管した。29日にはロシアの爆撃機4機が日本の領空を侵犯して、そのうちの2機がニミッツに接近したという事件がありました。11日にはニミッツは佐世保に入りまして、15日にはもう出港しております。それからプサン(釜山)に入るまでの間、何をやっていたかは明らかではありません。いろいろな事前の演習をやっていたんだろうと思います。

 同じ215日にはテグ(大邱)、ちょうど韓国では真ん中へんの内陸ですけれども、そこにC17という輸送機でアメリカのストライカー小隊が到着しております。ストライカーはいまイラクでさかんに使われている装輪装甲車です。タイヤを8本使っていますが、戦車よりも機動性が高いものです。

 21920日にはチネ(鎮海)に事前集積船のルマス、4万トンクラスですが、沖縄の第3海兵隊の兵器・弾薬コンテナを荷卸ししております。オハイオが21日にプサンに入港。翌22日には韓米合同演習の事前指揮所演習が行われておりますが、これは韓米両国の将校・参謀クラス、主要指揮官のブリーフィングに近いものだったと思います。ずらっと並んで説明を聞いているというような写真が出ていましたので。23日には早くもストライカー部隊は、休戦ラインに近いロドリゲス演習場で訓練したという報道がありました。

26日にオハイオがプサンでマスコミ公開。同じ日にチネで事前集積艦のルマスと、洋上補給艦のホウィーラーが公開されました。韓国の報道では船の名前は出てこなかったんですが、あとでアメリカ海軍の報道で詳しい内容が分かったわけです。洋上補給艦のホウィーラーは、パイプを8マイルつないで補給艦ルマスまで油を持って行ける。ルマスからは2マイルのホースを伸ばして相手の船に給油できる。だからホウィーラーから半径10マイルまで給油ができるという、恐ろしい能力を持っている。このときは10マイルは伸ばさなかったと思いますが、デモンストレーションをやったそうです。パイプがつながっているところの写真は公開されておりません。

 27日には米本土ワシントン州フォートルイスにあります特殊作戦部隊が、ソウル南方のソンナム(城南)基地で韓国兵を特訓中だという記事が出ています。28日にニミッツ、プリンストン、ジョン・ポール・ジョーンズの3隻がプサンに入港して、ニミッツが公開されております。同じ28日にはニミッツ空母打撃群のチャッフィーと、横須賀を母港とするマッケインが、半島東側のかなり北朝鮮寄りのトンヘ(東海)に入っております。同じ日にこれもニミッツ空母打撃群のヒギンズがポハン(浦項)に入港しております。29日にはチネで、カリフォルニア州ヒュエメネのシービーズ、これは海軍の工兵部隊と言っていいかと思いますが、滑走路の緊急復旧訓練をやっております。

トンヘに入港したマッケインは31日に、今までのはみんなマスコミ公開だったんですが、ここで住民も含めて一般公開されております。一般公開されたのはこのマッケインだけです。

 カリフォルニア州にはトゥエンティーナイン・パームズという広大な基地がありますが、その第1海兵師団の第7連隊が同じ1日、ロドリゲス演習場で手本を見せて、市街戦訓練をやった。また岩国の米海軍は、海兵隊とFA18を共同運用しておりますので、このときは海軍の指揮下でやったんだと思いますが、ロドリゲス演習場内で模擬弾を投下した。ちゃんと在日米軍からも来ているわけですね。この岩国のFA18は、韓国の中部イエチョン(禮泉)という韓国軍の空軍基地に750名が約1ヵ月間展開しました。単に爆撃演習とかをやっただけではない。1個中隊は本来、600人ぐらいですから、750人というのはたぶん地上支援する部隊を含めてですね。基地防衛だとか、NBC対処だとか、そういうことをする部隊も連れて行ったので、こういう人数になったのではないか。

 というわけで、演習が公式に開始されるのは32日ですが、それ以前にもうこれだけのことをやっているわけです。

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2008/04/18

朝鮮半島の変貌を見る②

Uehara002 RSOIからキー・リザルブへ

 先ごろ行われました韓米連合軍事演習「キー・リザルブ」および「フォール・イーグル」の分析を中心にお話しするのがいちばん具体的かなと思います。「キー・リザルブ」は指揮所演習、「フォール・イーグル」は実動訓練、韓国風に言うと「野外機動演習」です。しかしこれは一体として行われています。公式にアナウンスされた期間は32日から7日までの6日間です。「キー・リザルブ」は韓国の日本語ウェブサイトでは「解決のための鍵」と訳されているようです。「フォール・イーグル」は韓国では「トクスリ」と言いますが、「クロハゲワシ」のことす。

「キー・リザルブ」は以前「ROSI」と呼ばれていたのを、今年から改称されました。中身は拡大こそすれあまり変わっていないんですが、主たるものは同じです。ROSIReseption, Staging, Onward Movemento & Integrationの略ですね。レセプションは朝鮮半島有事の際に増援する米軍の受け入れのことです。ステイジングは翻訳が悩ましいですが、ハングル訳では待機の意味になっていますね。前線よりちょっと手前のところに待機して、そこで前方に投入するための訓練をやっていく。オンワード・ムーブメントは、そこから前線に運ばれる、つまり前方展開です。そしてインテグレーションですが、部隊が動くときには兵隊と武器は必ずしも一緒に動くわけではないんです。例えば兵隊が前線に行って、弾を撃ち尽くしてしまえば再補給が必要なわけで、あるルートをとって再補給される。あるいは最初に投入されるときでも、兵隊はこっちから行くけれども武器は鉄道でこっちから行くということもあり得る。それから前線に入って他の部隊との統合を成し遂げるということも含めて、インテグレーションというのだと思います。

「キー・リザルブ」と改称されて、ある意味では格上げはされているんですが、もともとはそういう、非常に実戦的な演習であるということです。その実戦部分、野外演習部分が「フォール・イーグル」です。

参加米軍の主体は米本土部隊

 今年の演習の特徴は、これは韓国マスコミでは声を大にして主張されているんですが、参加米軍の主体がかなり米本土部隊に切り替わっているということです。全世界的に米軍がそういう戦略を打ち出しているらしくて、前方展開基地は維持するけれども削減する。いざという時にはアメリカ本土から飛んでいけばいいという方向です。

 なぜかというと、要するに駐留経費がかかるからです。いちばん金がかからないのは日本、その次は韓国ですが、他はほとんど金は出さない、下手をすると土地代を取られる。というわけで、いざというときに出せばいいんだというふうになったわけです。

 横須賀を母港としている空母キティホークが、そろそろ退役します。いま台湾の総統選とチベットの暴動があったためと言われていますが、3月18日から何日か出航しております。総統選が終わったのでまた戻って来ると思いますけれども、3月末か4月始めにはまた出航しまして、5月末にアメリカ本土に帰り着いて、退役することになっています。したがって横須賀のキティホーク空母打撃群が今回の演習では使えないわけですね。それに代わって空母ニミッツ打撃群が参加しました。空母ニミッツ打撃群は124日にもうサンディエゴを出発しました。「キー・リザルブ」が実施されるというアナウンスが米韓連合司令部からあったのは22日ですが、このアナウンスをする前に演習がすでに始まっていたわけです。

佐世保にエセックスという強襲揚陸艦があります。乗るのは沖縄にいる海兵隊です。それが昨年まではROSI演習に参加していたんですけれども、今年は128日に沖縄に到着、214日には海兵隊を積み終わりまして、アメリカとフィリピンの合同演習「バリカタン」に行ってしまった。219日にフィリピンに到着しています。「バリカタン」演習を終わってフィリピンのスービック港を出たのが37日ですから、今回の「キー・リザルブ」の「本番」日程にはまったく関与していないという、異例の事態とも言える状況がありました。そういう意味で、米本土部隊が主体になって今回の演習が行われたわけです。

2008/04/17

朝鮮半島の変貌を見る①

Uehara001

08.03.29 平権懇学習会報告

朝鮮半島の変貌を見る ──韓米連合軍事演習の分析から

上原久志

司会 韓国では昨年12月に大統領選挙がありまして、ハンナラ党のイミョンバク(李明博)が当選しました。少数与党ですから、総選挙で安定政権になれるかどうかが注目されています。民政に移管して5代目、韓国は政党の離合集散が激しくて、10年もつ政党がまれなところですけれども、今回の政権の最大の課題は、米軍再編でぎくしゃくした米韓関係の修復だと言われています。すなわち米日韓の軍事一体化を進めることが大きな課題になっているわけです。朝鮮半島は北もたいへん気になりますけれども、いま朝鮮半島の状況を見ていく上では、ふだんあまり新聞に報じられないような、米韓関係を軍事の方面から見ることも必要なのではないかということで、上原さんをお招きしました。

 上原さんは平和委員会で基地調査活動を長く続けてこられた方です。韓国の基地調査運動との交流のために向こうに行かれて、なぜ言葉が通じないのか、日本語で話すのはたいへん失礼だし、お互いに英語で話すのもどうも、というようなことがあって、一念発起してハングルを学ばれて読み書きができるようになった。今日お配りした資料も、かなりの部分はご自分で訳されたものです。

 では、お話をうかがって、その後、質疑討論に移りたいと思います。

上原 この3月で私は50の大台に乗ったのですが、42歳のときでしたかね、ハングルの勉強をしようと思ったのは。きっかけは今言われたようなことです。ハングルでは片仮名表記の問題がありますね。例えば私は「韓米連合軍事演習キー・リザルブ」と書いていますけども、韓国マスコミが日本語のウェブページに書いているのは全部、「キー・リゾルブ」なんです。Key Resolveを、ふつう日本人だったら「キー・リザルブ」と読むだろうなと思います。韓国ではどうもスペルを優先する癖があって、それにハングル読みではザジズゼゾがなくて、ジャジジュジェジョになる。ですからハングルでそのまま読むと「キー・リジョルブ」になります。たまたま『軍事研究』誌を見ましたら石川巌さんが「キー・リザルブ」と書いていたので、私もこれでいくことにしました。

 地名なんかは、相互主義に基づくと片仮名で書くほうが自然ですけれども、片仮名で地名を書くと、それでなくとも馴染みのないものがよけい馴染みがなくなってしまうと思いますので、なるべく漢字名が分かるものは漢字名も書いております。

 用意した資料のほとんどは、韓国のマスコミ等に載ったもの、それから米軍の出している「エアフォース・リンク」ですとか、「スターズ・アンド・ストライプス」です。そういったものから引っ張り出した情報です。朝鮮半島には当然ながら北と南があるわけですが、情報としては韓国側とアメリカ側のものしかない。そういった条件の中で見ていくということも了解しておいていただきたいと思います。

 述べたいのは、いまアメリカによる同盟変革というものが全世界的に進められていますが、その中で韓米同盟がいまどうなっているのか、それと日米同盟との対比はどうなのか、ということです。

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