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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

2008年平権懇 学習会「自衛隊の変貌を見る」

2008/08/13

自衛隊の変貌を見る⑨

○本当のことを知らせよう

 去年新日本婦人の会が全国で、市民生活に自衛隊がどう忍び寄っているかを調査して、一覧表で出しました。武装した部隊が子どもの目に触れるところで町を行軍する。お祭りやスーパーに装甲車を展示する。子ども向けのキャンプや体験入隊をやる。こういうのは無数にあって、日本平和委員会の全国大会でも、今年はこの報告がいちばん多かったです。

また「朝雲」新聞によりますと、626日付の1面を使いまして、自衛隊がいかに市民と接触しているかを書いています。見出しは「児童、学生、地域住民が自衛隊を体感」。まず生活体験入隊ですが、会社の新入の従業員を4日間ないし3日間、敬礼から始めて背嚢を背負っての行軍訓練、精神教育。百十四銀行というのが徳島にございますが、新入女子行員さん68名を訓練させたということです。また駐屯地の96式装輪装甲車、これはイラクに行っている車輌ですが、子どもたちに鉄兜をかぶせて乗せる。それから中学生の課外学習で救急法を教える。体験航海や体験飛行もさせる。

 結論を急ぎますが、「子どもを戦場に送るな」「教え子を戦場に送るな」「兄よ銃を取るな」という、これですね。「アニーよ銃を取れ」という映画がありましたが。そういうことが、いま本当に大切なんじゃないでしょうか。

自衛隊は本当のことを隠しているわけです。イラクでアメリカがどういう戦争をやっているか、航空自衛隊がそこにどういうことを行っているか、「あり方検討会議」が自衛隊をどういう方向に持っていこうとしているか、北富士演習場ではどういう訓練が行われているか、子どもに本当のところを何も話さないでこういう体験をさせれば、子どもたちは応募するようになるでしょうね。ですから戦争を全然知らない子どもたちに、お母さん、お父さんと先生、社会の人、先輩が、自衛隊はこういうものだよと、本当のことを教えてあげることが必要です。それとも自衛隊がこういう宣伝をやって子どもを獲得するか、その取り合いなんです。

そのときに名古屋高裁の判決の、戦争準備から自由を守る権利というのは、使えるのではないでしょうか。戦争の恐怖から逃れる権利というのは、いま言っておかないと、赤紙が来たときには遅いんではないですか。戦前の歴史はそれを教えているのではないでしょうか。

 いろんなことをお話ししましたが、一箇所でもお心に残る点がありましたら、それを皆様方のご研究、ご活動にお使いいただければ、望外の幸せとするところでございます。

2008/08/12

自衛隊の変貌を見る⑧

Naitou004 ○自衛隊の変貌を見る指標

陸海空の自衛隊がどういうふうに変わっていくか、どういう指標で見るかをしっかり確立しておくと、いろんな森羅万象が整理されて、重点と非重点が区別されると思います。私はそのいちばんいい文献は、「朝雲新聞」の平成16122日号に全文載っております、「防衛力のありかた検討会議」の文書だと思います。ここには2004年の11月に防衛庁長官に対して、将来陸海空の自衛隊をどういうふうにもっていくかというイメージ、性格が具体的に書いてある。

一部を紹介しますと、陸自は普通科を中心に強化を図る。戦車・火砲を削減する。最近、山梨県平和委員会の調査によりますと、北富士演習場で第一師団の各部隊が訓練をやってきたんですが、ここ4年来の特徴は、榴弾砲の訓練が半分に減ってきている。普通科連隊による小銃・小火器の訓練が増えてきている。それからFTC(富士トレーニングセンター)はハイテク機器を備えていて、陣地防御訓練をやるんですね。いまの戦闘で中隊長以下何人戦死した、この攻撃は失敗、この攻撃は成功というのがコンピューターで全部出てくる。明らかに日本に上陸してきた敵軍と戦うという軍隊ではなくて、外地で人間を相手にする戦闘、テロ組織を相手にする戦闘に陸上自衛隊が変わってきている。4年前にはこの文書に書いてあった意味が分からなかったんですけど、4年たってこれが現実になってきたんですね。

もうひとつ中央即応集団も、「あり方検討会議」で創設することが謳われたものです。このもとに化特殊武器防護隊を入れる、緊急即応連隊を創設する。今年の331日に宇都宮に緊急即応連隊は発足いたしました。それからこの「あり方検討会議」では、海外派兵は国連の安保理決議が出たら30日以内に行うと。これはかなりのことですよ。常時即応態勢にある部隊を何個か決めておかないとできない。それから外国の軍隊が日本の本土に上陸してくる可能性は低いけれども、離島には小部隊が来るかもしれない。そういう場合に備えた部隊を作っておく。

海上自衛隊ですが、外線部隊の自衛艦と、内線部隊である地方隊所属の艦艇とあって、地方隊の艦艇はわりとのんびりしていたんですね。そんなに遠くへ行かなくていい。ところが今年の3月末に編成替えをしまして、地方隊の護衛艦を全部、護衛艦隊司令官のもとに提供することになったわけです。護衛艦隊司令官はこれをフォース・プロバイダー、供給者といたしまして、フォース・ユーザーである自衛艦隊に必要に応じて提供するわけです。インド洋に派遣する必要があれば、地方隊の艦艇を含めた護衛艦隊の手持ちの軍艦から派遣すると、こういう形になりました。したがいまして、それもこの2004年の11月の文書に書いてあったことです。

例えば「さわゆき」という軍艦がありますが、これは横須賀地方隊第21護衛隊の所属、これを編成替えで第11護衛隊にしまして、護衛艦隊司令官のもとに提供します。本来は横須賀の近く、大島とか硫黄島とか、そのへんで動いている船なんでしょうが、本年の洞爺湖サミットに際しまして警備のために、大湊に回航を命ぜられた。7月上旬に青森県尻屋岬の沖で、乗り組みの水兵さんが碇の部屋、揚碇室の扉の綱にライターで火をつけて火災が起きてですね、それを取材する青森放送のヘリコプターが取材に向かった途中、付近で墜落しました。

まだ詳細を知りませんが、「さわゆき」はさぞ任務が変わって兵隊が大変だったろうなと思いますよ。おそらく、インド洋に行ったときどうするか、補給艦を守るときどうするか、というような、今まで横須賀地方隊でのんびりしていた時と違った訓練をされていると思うんですね。ある新聞が「一等海士は、今までと違った任務がきて負担が増えてイライラしてやった」と書いていますが、本当だと思いますね。

アメリカの軍艦との給油の一体化の問題ですが、去年、日本共産党の小池参議院議員さんが予算委員会で、米海軍のホームページからとった写真を示しました。前方手前はアメリカのアイゼンハワーという原子力空母です。艦上には艦載機が待機しております。1機が発艦したところです。この空母を護衛する任務をもちまして、前方左舷3000くらいありますか、アメリカの巡洋艦が右側、左側にいますのが日本の補給艦「ときわ」です。パイプがひっぱってありまして、米巡洋艦に補給しているんです。まさに空爆作戦中のアメリカの艦隊、空母艦隊にこういう形で給油しているわけですね。

航空自衛隊の変貌についてもお話ししたいと思います。ここでは、対地攻撃の訓練を始めたということが重要ですね。これまで爆撃の演習場は、主にグアム島の北西にある無人の珊瑚礁でした。「朝雲」新聞の710日号によれば、最近アメリカのアラスカで行われた「レッドフラッグ・アラスカ」というアメリカ空軍の演習に、航空自衛隊第2航空団のF15戦闘機が参加しました。

特徴をいくつか挙げますと、第1はですね、KC135という給油機から給油を受けて、千歳から7時間で太平洋を横断したんですね。

2点目は、F15はアメリカ空軍のアグレッサー部隊と交戦訓練をしたと。アメリカ空軍と対等に訓練をやっている。アグレッサー部隊は仮想敵部隊で、昔はソ連の空軍の飛行機をそっくりそのまま、服装もソ連空軍と同じ服装の操縦士がやっていたんですが、いまはどこの国なんですかね。

3点目は、電子戦下の戦闘であると。守るほうは電波を発信して目潰しして、攻めるほうはまたそのレーダーを目潰しするという、こういう状況下での戦闘訓練をやっている。4点目は、状況によってアメリカの空軍の飛行機を航空自衛隊の指揮下に置く訓練もしている。5点目は、早期警戒機767というレーダーを頭に積んだ飛行機を飛ばしておきまして、そこから多数の戦闘機に情報を提供している。

 最後に6点目ですが、ついでにアメリカ空軍の誇るステルス戦闘機、つまりレーダーに見つからない戦闘機を視察してくる。以前に日本はこれを入れようとして小池百合子前防衛大臣がアメリカに行ったけれども、アメリカは日本に秘密保護法がないから、そんなものがやれるかというので断られたというものです。それからC17大型長距離輸送機も見学する。こういうような状況です。

 それからミサイル訓練についても「朝雲」新聞に記事が出ていますが、初めて日米の実動ミサイル訓練を7月中に実施する。海上自衛隊はイージス艦「こんごう」、それから航空自衛隊はPAC3の部隊が参加して、日米の共同訓練を海、空、宇宙空間を通じてやる。

2008/08/11

自衛隊の変貌を見る⑦

○集団的自衛権と集団的安全保障

もうひとつ重要な文書は、明らかに名古屋高裁判決を意識して出されたと思いますが、624日に出されました、いわゆる安保法制審の報告書、これもいまの自衛隊の変質問題を法制面から見るうえで注目していきたいと思っております。

これは柳井もと駐米大使を長とする安倍前総理の任命した委員会の報告書であります。現在の憲法解釈を変更することを提言する、というのが結論です。集団的自衛権の解釈変更という側面だけが強調されて報道されていますが、正確に読みますと2つの面があるんです。集団的自衛権の解釈を変更することと、それからもうひとつ、国連の集団的安全保障のために活動している自衛隊には、憲法91項は適用されないという、大胆な解釈を打ち出しているということです。

安倍前総理がこの柳井懇談会に諮問した具体的ケースは4つあります。第1は、日本の軍艦とアメリカの軍艦が公海におきまして共同作戦行動をとっているときに、アメリカの軍艦が攻撃を受けた場合に、それを日本の軍艦が守れるようにしてやると。これは集団的自衛権の行使の問題ですね。今まで日本人の頭にあったのは、例えば給油のためパイプでつないでいるときに、相手のアメリカの軍艦に攻撃があったときですが、そうではない。海上作戦というのは、日米の艦艇が数百キロ離れて共同作戦をやる場合があるんですね。太平洋を渡って来る艦隊が、それぐらいの大きさの陣形をとることがある。そういう場合を含めて敵を撃てるようにするということです。

2は、アメリカに向かっていると判断された弾道ミサイルを見過ごさないで、日本列島からミサイルを撃つ。これも集団的自衛権です。アジアの某国が弾道ミサイルを撃つ場合に、それはまずアメリカを意図して撃つということを前提にいまのミサイル防衛システムというものは組み立てられている。ですからこれは集団的自衛権の解釈の問題です。

3番目はいわゆる「かけつけ警護」と申されております。外地において多国籍軍の活動に従事中の自衛隊の隊員が、別のところで攻撃されている、同盟国軍の部隊を助けるためにかけつける。これは集団的自衛権という視野ではない。集団的安全保障で国連の決議に基づいて活動している部隊には、そもそも91項の武力行使の制限は適用されない、ということを言っているわけですね。

4点目は、補給・輸送です。これまで武器・弾薬を除くという解釈をやってきた。それから前線へは補給を行い得ないと言ってきたけれども、それでは集団的安全保障の仲間入りができない。今後はその場合にも、集団的安全保障で参加している部隊には国際基準と同様にやるという、大胆な解釈変更です。

しかし、さすがに内閣法制局は、50年来やってきた解釈を変更することはできないと思います。私は212年、参議院議員を勤めまして、内閣法制局というのは意外と頑固な役所だと、敵にすると本当に憎たらしいが、味方にするとけっこう頼りになるものだという、複雑な感じを持ったのであります。法制局ぐらい頑固な、旧態墨守のお役所はないと思うんですね。その役所がいま私が説明したような提言を簡単に呑むわけがない。福田総理はしたがって提言直後の談話で、我々内閣はこういう解釈変更をやるつもりはないと言っておりました。しかしこの内閣がいつまで続くか分かりません、新しい内閣ではどうなるか分からない。そういうことを見越して出した報告だとも思います。

この報告が出た624日の2日後の26日に、北朝鮮の外交当局がですね、6か国協議の議長国である中国政府に対して、核処理の状況の申告をいたしました。同日、ブッシュ大統領はテロ支援国の指定を解除することを米国議会に提示した。このような状況はもう24日には察知されますから、北朝鮮を6カ国協議で封じ込めているときに弾道ミサイルがどうのこうのという提言を出した場合には、いかにも気の抜けたビール以上の間の抜けたことになるので、あわてふためいて624日に柳井さんたちは出したのかなあと思っております。

2008/08/10

自衛隊の変貌を見る⑥

Naitou003 ○続発する不祥事と文民統制

その前提に立って、いまの自衛隊の問題をいくつかお話しします。

これは米軍人の問題ですが、とくに日本本土で特徴的なのは、この3年来、アメリカ海軍横須賀基地において第7艦隊の基幹的な艦の乗組員が、もっとも凶悪なる殺人事件を起こしているということです。200613日に殺害された横須賀の女性の事件、私は被害者のご主人の山崎さんの代理人になって、第1回弁論で7分間しゃべった。この事件はですね、女性に道を聞くふりをしてバッグを奪おうとした。女性が拒否した。それに対して拳骨で鼻が陥没するくらい打撃を与えた。マンションの廊下に引きずり込んで、今度は体をコンクリートの壁にぶつけた。次に倒れている女性を靴で踏みつけた。いうことで、内臓破裂による出血多量で死に至らしめたんですね。強盗殺人事件です。刑事事件は無期懲役で、犯人は横須賀の刑務所に入っています。

 このようなことは兵隊でなければできないことです。今年起きました、タクシー運転手さんに対する殺害もそうです。こういう事件がアメリカ海軍の中心的軍艦、キティホーク、カウペンス、ブルーリッジの乗組員で、順番にひとつずつ起きている。これはやっぱり、戦争参加艦艇が日本にそのまま入って来ることによる事件です。ストレス解消のために、もう酒しかないんですね。

 自衛隊も海外派兵をやっていくと、人間の変質というのが必ず起きてくるだろうと思います。現に陸上自衛隊で九州の演習場の近くで、タクシー運転手を刺殺した事件が起きております。

 昨年来の自衛隊、とくに海上自衛隊における事件として、インド洋の給油量を事実に反して報告した事件、それから野島崎沖の「あたご」の漁船衝突轢断事件、業界との癒着の守屋前次官の事件、等々が発生しております。根源は対米従属・海外派兵・業界との癒着の自衛隊の変貌のなかで、そのしわ寄せが現場の隊員に行って、こういう事件が起きたということです。業務量が多くて基本的な任務が疎かになっている。

715日に発表されました防衛省改革会議の報告書は、それらの不祥事に触れているんですが、問題を幹部職員の規則遵守が徹底していないこと、それから隊員のプロフェッショナリズムが確立していないことだと書いて、本質から目をそむけております。そしてそれに乗じてですね、制服組を防衛省の中枢に入れて、制服組の発言を組織的に強化しようというものです。

規則遵守の徹底については、防衛省事務方のトップが、自分には規則の適用がないと思って、倫理監督官になっていたということがいけないんだと。補給艦の航海日誌をシュレッダーにかけたという事件というのがありました。「しらね」の艦橋の戦闘指揮所に冷蔵庫を持ち込んで、それが火事になったとか、イージス艦の情報を第一術科学校の教官が漏らしたとかいう事件もありました。そういう問題も規則の徹底ができていないということだけにしています。

そして秘密についての規則遵守をやっていないのは、情報保全隊の強化と警務隊の強化によって解決していくというふうに持っていくのです。防衛調達の透明性につきましては、無策に等しくて、例えば監査機能を強化するとか、もうお題目だけですね。外国メーカーと直接取引するとか、これは財界・兵器産業との根本的な癒着体質というものを変えない限りは、こういう弥縫策ではできないと思います。プロフェッショナリズムの確立は確かに大事なことです。だけど、初歩的なことがなぜできていないか等、ことの本質にさかのぼっての反省はないということですね。

そこで文官と制服自衛官を一体化していって、そこに緊張感を醸成させていくということに絞っていって、提言にしているわけです。これは文民統制とは何かという問題ですね。本来の文民統制は軍隊からの安全なんです。しかし石破大臣の認識は、それは旧軍が国を敗戦に導いた過去の日本にとっては重要であったが、自衛隊誕生以来54年間の実績から見て、自衛隊に民主政治を破壊する可能性はなくなったと、したがって文民統制の考え方は、軍隊からの安全という機能はもちろん堅持するが、軍隊を活用した安全が重要になっていると。こういう考え方を打ち出しました。

また、総理大臣をどのように補佐するか。補佐官を政治任用で任命する、高度の軍事知識をもった人間を補佐官に任用すると言っています。おそらく現職自衛官または退職自衛官を任用する含みだと思います。そして防衛省の司令塔機能を強化する。この報告書に言う文民統制というのは、国民が防衛政策を統制することだと、ここらへんまではいいですよ。しかしこれは、国会が内閣総理大臣を指名する、その内閣総理大臣が自衛隊の最高指揮権を持つとともに、防衛大臣を任命する、このことが文民統制の根幹だと限定しております。

この報告書は五百旗頭防衛大学学長が主に執筆されたということですが、この案は現行の内部部局と統幕・陸幕・海幕・空幕の組織は基本的に存続させながら、まず内局の、防衛大臣の最高補佐機関の防衛参事官制度というものを廃止したわけです。50数年来、防衛に関する基本政策・方針を決定する防衛参事官は現在8名、一時は10名おりました。これは防衛省だけではなくて他の省庁からも参加して、自衛隊が勝手な行動をしないように抑制する、戦前の日本軍部の台頭の厳しい反省の上に立った制度であります。しかしこれを廃止して、その代りに防衛大臣補佐官を任用で任命する。それから防衛会議というのをつくって、そこに幕僚長4名を入れた防衛会議でこれを補佐する。というふうに、幕僚長の地位を、大臣を補佐する段階に格上げするわけです。

防衛政策局というナンバーワンの局長は文官にしておくけれども、次長・課長に現職の自衛官を入れる。統合幕僚監部の副長以下に文官を入れて、そのかわり本来統幕を統制すべき防衛省の運用企画局を廃止する。部隊の運用は全部、制服の統幕に任す。これは大きな問題だと思いますね。そして兵器の整備、装備については、内局と幕僚部を包括した整備部門をつくる。火事場泥棒とある人が称しましたが、不祥事をなくすためと称して、それに便乗して、制服組の発言力強化をはかるというのが「防衛省改革報告書」の狙いであります。

2008/08/09

自衛隊の変貌を見る⑤

○平和的生存権はふところが深く広い

3点は、平和的生存権に関する非常にふところの深い判決の説示であります。ふところの深いと申しますのは、「等」という言葉が非常にたくさんあるんですね。例えば「戦争の準備行為等」ということになりますと、準備行為の準備行為も入って来るのかなあと思いますし、これはもう今後の、平和運動を現実にやっておられて、その中で憲法を使おうと考えておられる方々、なにか根拠はないかと思っている方々、ずいぶん使えるんじゃないかと。これとこれを使ったらどうかというのがいっぱい出てくるような感じが、じつはしているわけです。

これを用いて、いまの日米同盟の変革・再編についての違憲性をついていったらどうなのかと。日米同盟の変革・再編というものがいまの自衛隊の変貌の根源であります。これは亡くなられた松尾高志さんが御著「同盟変革」のなかで解明されたことでした。アメリカ軍は911以後の対テロ戦争、テロリスト・ネットワークを軍事力を含めて打破するという、世界史上いまだかつてない横暴かつ傲慢というべきか、残酷なる戦争をいまやっている。しかも世界規模でやろうとしている。イラクの次はアフガニスタンだ、イランだと。

これをなんら批判することなく日本政府は、05229日の「共通の戦略目標」でアメリカと共にテロリストを敵とする戦略に合意した。051029日にはアメリカと日本の軍隊の役割・任務・能力を分担を決めて、それから米軍基地の再編の具体像を決める。0661日にはそのロードマップで、2014年を期限とする。0751日には実施状況をチェックする。こういう4つの日米同盟の文書は、わが国の主権国家としての誇りにかけて、しかも憲法の条項と精神にかけて、憲法違反の廃棄宣言をするに値する文書だと思います。まず、主権在民の日本国憲法に反する。正式案件で議題にしていないから、国会の最高機関という議会制民主主義に反する。もちろん憲法9条の平和主義に反する。それから日本国民の基本的人権を侵す。地方自治を侵す。という5点において、究明すべき問題だと思っております。

米軍基地の兵力の再編・強化の問題と同時に、後でお話しする米軍・自衛隊の一体化、外征軍への変質という2つの問題がこの日米同盟から出てくる。これを憲法違反の問題に結びつけて、いま全国に巻き起こっている7000を超える「9条の会」の力、運動と、沖縄・座間・相模原・岩国・横須賀等々で盛り上がっている基地反対闘争というものと結びつける設定は、この名古屋高裁の判決の憲法の論理なのではなかろうかと。こういうふうに思っております。

4点目の活用は具体的な、身近な問題です。つまり原子力空母の母港化による国民の生命への危険、それから乗組員5000人が常時基地周辺にたむろすることによる犯罪の問題、これと平和的生存権との関係はどうなのか。平和的生存権はもとより、横田・厚木の爆音訴訟の問題です。最近、自衛隊の武装した部隊が銃をもって市街地に出てきました。迷彩服で銃を持って、場合によっては装甲車を従えて市街地を行軍する訓練をしています。自衛隊の適令者である子どもたちに対する調査・協力を学校ないし役場に求めるとか、もっと露骨に、適令者の子どもさんまたは親御さんにダイレクトメールで応募するように求めていく。最近は自衛隊の兵器展示等の機会にこれを子どもにさわらせる。制服を試着させる自衛館というのが渋谷に開館しました。それから情報保全隊の活動があります。こういうものはまさに、戦争準備のための活動です。これに対抗するために平和的生存権を活用していくことができるのではないか。

最後の第5点は、そういう基地の再編、訓練の強化、自衛隊の露骨な行動というものが頻発するに従いまして、アメリカ追随の中央政府でなく、地方自治体が住民の盾になっていただきたい、という要望が非常に強くなっている。この際、地方自治体の首長さん、あるいは議員さん、あるいは職員さんにこの判決をお読みいただいてですね、地方住民の平和的生存権を守るという観点がまさに地方自治体の果たすべき責務であると。したがってより確信を持って、ただ住民の生活・福祉を守るというに留まらず、平和的生存権を守ることは高裁判決でも定められた我等の責務であるという自覚をもって対抗していただくことを期待するのであります。もちろん単に期待するのみではいけないので、住民の側が積極的に判決を地方自治体の方にご説明し、ことあるごとにお話しをして、ご協力をいただくということが必要ではないかと思います。

最後に申しますが、この判決の中身を矮小化してですね、ここまでしか認めていない、ここまでしか言っていないと、あまり位置づけを早くしないで、無限にゴム風船のようにふくらんでいく可能性がある、柔軟なものであるということから、これを研究し、これを使っていく必要があるだろうと思っております。

2008/08/08

自衛隊の変貌を見る④

○派兵恒久法を阻止するために

 活用の第2点は、派兵恒久法を阻止するうえでの非常に強い論拠が加わったということです。恒久法については私は日本平和委員会の機関誌「平和運動」の本年2月号に、問題点を指摘しておきました。

 福田総理などは一般法と呼びますが、恒久法の名で運動のなかに広がっている。面白いことに恒久法というのは、法案がいま決まっているわけではないんです。法案は決まっていないけれども、反対運動は平和勢力を中心に非常に広がりを見せてきている。日本平和委員会事務局長の言葉を借りて言うと「先制攻撃」、我々が攻勢をかけているというのが、今の政治情勢であるわけであります。

 ただし法案はないけれども叩き台はあります。石破茂さんが自民党国防部会の防衛政策小委員長のとき、068月に作成した。彼はかなりの専門家ですから、自分で鉛筆握って書いたと思いますが。これが石破試案であります。全文は60か条、うち23か条は船舶検査に関するものです。

この法案のポイントは3つありまして、第1は自衛隊の海外派兵の出動要件を拡大している。第2は出動した自衛隊がどういう行動ができるか、武器使用がどこまでできるか、この要件を緩和している。第3は現実に米軍が行っている掃討作戦、海上阻止作戦への積極的参加を、ということです。

 第1条で国際平和協力活動の定義をしております。自民・公明両党のプロジェクトチームでは「6つのメニュー」という表現で言っております。人道復興支援、停戦監視、安全確保、警護、船舶検査、後方支援。この6つのうち注目すべきはやっぱり安全確保です。これは掃討作戦そのものへの参加だと思います。これも他国軍隊の警護を含めた掃討作戦への介入ですね。船舶検査は水・油に限らない海上阻止活動へのアメリカの艦隊への協力。後方支援というのは武器弾薬を含めた後方支援という点が非常に問題になると思います。

石破試案の第258項で危害射撃について規定しています。現行制度のもとでは相手の人間に危害を与える、つまり殺傷するということは、海外での活動でも刑法36条正当防衛または37条緊急避難の場合に限られておりまして、極端に言いますとこれに違反して武器使用した場合には、その隊員が警務隊によって捜査の対象となり、その部隊の出身地の地方検察庁が立件して起訴し、裁判所が審理するということになりかねない。こういう現行法のしばりを緩めまして、次の各号のいずれかに該当する場合にも危害射撃ができると、こういうふうにしたわけなんですね。この文言は非常に回りくどいのですが、読み解いていくと、部隊が安全確保・警護活動を命ぜられて行動中、武器を持たないが多数集合して暴行を加える危険があると認めた場合、武器を所持した人間による暴行の危険がある場合は、武器を使って人に危害を与えてもいい。自衛隊の部隊が警護活動中、暴行侵害を受ける危険があれば、武器を使用して危害を与えてもいい。平たく言うと、こういうふうに拡大しようとするのです。

このことは、現場の部隊指揮官の裁量権が非常に広がることなんであります。戦場の雰囲気からいって、撃てという命令が非常に出しやすくなる。撃てという命令を出して、現実に撃って、相手が殺傷されても、裁判所にかけない。そういう環境に置かれた兵隊がどういうことをするか。そういう意味で、これは非常に重要な条文であると思います。

それから、今まで作ろうとしてできなかった掃討作戦のマニュアルを、26条以下で法文化したということです。これは制止から、物を開示させることから、建物への立ち入りから、全部に、法律上の根拠を与えた。それから34条以下では、海上での臨検のマニュアルを作ろうとしている。信号弾を使うこととか、検査官を乗り込ませることとか、港へ回航するとか、乗組員を引き渡すとか、普通の国の海軍がやっている臨検を法律条文化しようとしているということであります。

民主党はいま野党第1党として自民党と対決姿勢をとっているわけですが、知られていないのは民主党の出した「国際的テロリズムの防止、根絶のためのアフガニスタン復興支援特別措置法」のことです。昨年の1221日に参議院に出されて、そして自民党が廃案にしないで、これは使えるという思いからでしょうか、621日に閉会いたしました通常国会におきましても、次期臨時国会に継続審査となった。生きているんですね。この中で注目すべきは民主党案の25条で、「安全保障の原則に関する基本的な法制をすみやかに整備する」と。中身はいっさい書いてませんが、テロ阻止活動、海上阻止活動に参加するための法制を速やかに整備することを謳ったということは、これはひとつの火だねが残っているということです。

また民主党案は、アフガニスタン本土で活動しておりますNATO軍の国際治安支援部隊、ISAFに協力するということを、明文をもって書いているのであります。ISAF部隊は当初、タリバン政権崩壊後のカブールと周辺の治安対策のためにできたものですが、その後アメリカの「不朽の自由」作戦と連携しまして、当初任務を逸脱して掃討作戦をやっている部隊です。したがって町村官房長官は当初、ISAFは武力行使を伴う部隊だから、民主党案こそ憲法違反だとまで言っておったんですが、最近では変わりまして、ISAFの輸送ぐらいなら、というふうに変わってきまして、6月中旬に政府は調査団を防衛省中心にアフガニスタンに派遣いたしました。

さらに民主党案の第20条で、武器使用の制限を緩めているというところも、頭に置いておく必要があると思います。もちろん現在の政局、民主党の政権獲得のための戦略、それから衆議院選挙で野党色を出さなければいかんという政治判断、とくに07年の参議院選挙に当選した新しい方のなかに、いわゆるリベラル派が存在している、こういった点から、これがすぐに出てくるとは私は即断はいたしませんが、火だねが残っているということは、独自の私どもの恒久法に対する警鐘を鳴らすという活動が、いっそう重要だと思っております。

名古屋高裁との結びつきの第2点に話を戻しますと、これはもう単純な論理であります。空輸でさえ憲法違反とされたわけですから、いま挙げたような恒久法石破試案の内容は武器の輸送、海上における臨検作戦、陸上における掃討作戦への参加を可能にする、これはもう明白に憲法違反だろうと。この確定判決をもとに法制局に迫った場合、内閣法制局の中にも必ず動揺が起こりうる問題ではないかと私は思うんであります。

2008/08/07

自衛隊の変貌を見る③

Naitou002 ○判決をどう活用するか

 次に、この判決をどう活用するかという問題について、お話をします。まずこれまでの例では、違憲判決が9条関係で出た場合の政府側の反応というのは、異常に強力でありました。

ひとつは砂川事件のときのことです。今年の4月に私の昔からの友人である新原昭治さんが、アメリカの国立公文書館にいらっしゃって、1959年の砂川1審判決から後の最高裁弁論に向けての、アメリカ大使館と国務省との間の電報を入手してまいりました。私はそれを見て非常にびっくりしたんですが、59329日、米軍駐留違憲判決が下りますと、翌日の朝、午前8時に駐日大使が外務大臣・藤山愛一郎氏のところにやって来てですね、跳躍上告を暗にそそのかした。藤山外相は1時間後の岸内閣の閣議に出て行って、その方向を決めた。ただしその後最高検と東京地検は2日間議論しまして、東京地検は東京高裁のほうがいいと言ったらしいんですが、最高検が最後に押し切って、跳躍上告を43日にしたという経過なんですね。

 そのとき最高裁長官は、とにかく弁護団と会わなかったんですよ。15人の裁判官のうち田中耕太郎長官ともうひとり、2人だけ会わなくて、13人は全部僕らと会ってくれたんです。ところがその長官が、駐日大使と会って、現在、松川事件を含む3000件の事件が最高裁に滞留しておるというから、早くとも9月の判決だと言った。それを大使は電報で国務省に連絡しています。まあ、日米同盟というのはこういうものだということを示したものですね。

 長沼判決の場合はここで申し上げるまでもなく、裁判長に対する書簡による干渉があり、忌避申立、訴追申立等の連続攻撃が行われて、判決後は裁判官を地方に不当に転勤させるという措置が取られたのであります。

 今回は福田総理は、「主文では勝った」とか、「憲法違反は傍論に過ぎない」と言い、外相は「ヒマになったら読む」、幕僚長は「航空自衛隊は関係ない」という態度でありますので、このレベルの反論であれば、前の2回に比べて弱い。こういう場合は学習会を全国的に行って読み合わせをやって、まずこれを定着させることが重要です。すでに一般のマスコミは翌日以後はピタッと報道いたしません。これを忘れさせる戦略だと思うんで、逆にこちらは忘れさせないということが大事だと私は思います。67日に岡山で行われた全国弁護団・原告団の会議でもその方向を決めてやっております。

 名古屋高裁の判決の活用については、5点申し上げたいと思っております。

 第1は今後の政局とのからみです。空輸作戦を91項違反と断定された判決が確定したわけですから、これを使わない手はないんで、遠慮はいっさいいらない。100パーセント使っていく必要がある。

 まず当面の焦点になっているクウェートのアリ・アルサレム基地から、引き続き週34

回、C131輸送機によるバグダッド基地その他への空輸が依然として行われておるわけでありますから、この判決に基づいて、根拠法であるイラク特措法をただちに廃止させる。さらにもうひとつの筋としては、本年の12月末日をもって国連安保理の決議1720号が失効します。国連安保理が再び多国籍軍の駐留を認める見込みはない。多国籍軍の根拠がなくなればイラク特措法の存立の根拠が12月末をもって消失する。この問題は秋の臨時国会で徹底的に追及していただかなきゃならないと思います。

 関連してインド洋派遣艦隊の問題です。昨日、再開後第3次の補給艦と護衛艦が佐世保から出港いたしました。この艦隊の活動は、イラク自由作戦、アフガニスタンにおける不朽の自由作戦、インド洋における海上阻止行動、3つの海上作戦を命令されているアメリカの中東軍、第5艦隊、中東方面の海軍部隊、その指揮下のイギリスやパキスタンの海軍に給油をすることです。海上自衛隊は直接米空母に給油している証拠はないんですが、アメリカ海軍の給油艦に給油して、アメリカの給油艦から米空母キティホーク、アイゼンハワーに給油されている。してみるとこのイラクの判決の、米軍の武力行使と一体になった行動というものについて、これはどうなんだと。確定判決を適用して、新テロ特措法の違憲性をつくということが非常に大事な問題になると思います。

 しかもさっき指摘しましたように、内閣法制局の伝統的な見解、大森法制局長官時代以降の伝統的見解を元にしても違憲だというのですから、この判決とこの見解を手元に置いて、キリキリ詰めていただいたら、政府は本当に立ち往生する。言い逃れをするにしても、何回も審議ストップに追い込むことができるんじゃないかと思います。参議院では多数を占めている野党だから、あまり質疑をしないで最後に否決するということだけではなくて、充実した審議をやってもらいたいと、議員経験のある私としては期待しているところなんです。

2008/08/06

自衛隊の変貌を見る②

○この判決を得るまでの経緯

 イラク派兵差止訴訟については、私は4年間微力ですが、若干の討論に参加しましたので、その経験に基づいて、いくつかの感想と今後の運動の参考を申し上げたいと思います。

 この裁判は全国で11の裁判所、北から言いますと、札幌、仙台、宇都宮、東京、甲府、静岡、京都、大阪、名古屋、岡山、熊本、この11地裁に提訴しました。

 いちばん最初は札幌地裁で、箕輪登もと防衛政務次官・自民党の衆議院議員が提訴したわけです。20031218日に札幌弁護士会の法律相談所にお見えになりまして、小泉総理にイラクへ行くなと言いたいんだが、自分はもう議席がない、裁判官なら聞いてくれるであろう、従ってイラク派遣をやめろという裁判を起こしたい、という申し入れでした。法律相談所の方がびっくりしてですね、会長・副会長にご相談して、札幌・釧路・函館・旭川と、全道4つの弁護士会400人以上の弁護士さんに弁護団に入らないかと照会を出したところが、4分の1を超える109名の方が代理人になってよろしいというので、2004128日に札幌地裁に提訴した。従いましてこの裁判は、自衛隊合憲論者であっても、海外派兵は絶対に許さんという人を含めた裁判になっていったのであります。

2番手が名古屋です。これは原告3251名、愛知県の方が主力ですけれども、インターネットで全国から原告を募集して、大原告団になった。集団訴訟の威力を発揮したということが言えると思いますね。

 注目すべきは仙台の裁判で、イラク派兵差止訴訟ともう1件、裁判を起こしています。航空自衛隊松島基地において、クウェートに派遣される航空自衛隊の隊員の壮行会を行った。このときに松島基地周辺の自治体が公費を金一封包んだ。これは公費の憲法違反の支出ではないかと裁判を起こしました。

 これらの裁判を起こした原告団の方々の思いを込めた陳述書があります。名古屋、大阪、甲府、静岡では300頁ないし400頁を超える分厚な陳述書が印刷されております。これを見ますと、まず広島・長崎被爆のご体験のある方、それから沖縄戦の体験のある方、外地で敵の捕虜を刺殺したことのある方、外地で飢餓寸前になった方、内地において勤労動員で工場で苦労された方、学童疎開で苦労された方、もっと若くてベトナム戦争あるいは今度のイラク戦争の映像を見て戦争を考えた方。そういう方々が自分の体験とイラクの市民の思いをオーバーラップさせて、この訴訟に踏み切ったというんですね。これを本当に読んだ裁判官は、なんとかせにゃならんと思ったと、私は思うんです。

 ただご承知のとおり日本の裁判官は、憲法第9条、安保・自衛隊問題について、常に腰が退けて逃げ腰です。例えば長沼判決一審の裁判長、福島重夫さんは、いま退官して弁護士をやっておられますが、2003年の96日に札幌で行われた一審判決30周年のときに、こういうスピーチをされたんですね。「一つ言いたいことは、自衛隊がこうまでなったということは、裁判所がいわゆる怠慢というような、歴史の中において裁判所は責任を負うべきだと思います。それはチェックする機会は充分ありました。だけど結局やらなかったという怠慢さというのは、僕は裁判所が一班の責任を負うべきだと思います。」

 法務省は、平和的生存権は具体的な権利ではないということ、自衛隊の違憲・合憲問題は強度の政治問題であるということ、この2つはおそらく1973年の長沼第2審以来築き上げてきた路線だと思います。これを金城鉄壁としてですね、訴えを撃退するという構えであります。これに対して3方向から突破しようと。ひとつはさっき言いました、原告の思いを裁判官に分からせるということですね。2点目はイラク戦争の実態、戦争の意図、状況、それと自衛隊のいまの関与の仕方、イラクの市民の被害というものを、新聞を中心にした資料を証拠化して提出して、裁判官によく説明をしていく。3点目はさっきの福島元裁判官の言葉などを引用してですね、いまこの日本が戦争直前の状況になっているときに、裁判官というものの果たすべき責務を説くと。この3つの線で各裁判所で原告は奮闘されたと思います。

 とくに名古屋高裁の特徴は、DVDの上映の許可をとりまして、イラク戦争の生々しい実態を裁判官に映像を通して見てもらったということもありました。もうひとつは名古屋地裁の内田裁判官はとくに本件のために津地裁から出てきたと思われた方でありますが、不当な訴訟指揮をやるということで、これに対しては忌避の申し立てをした。それから名古屋市内および裁判所庁舎前での宣伝行動を徹底して行った。私はこういう裁判官に対する行動を門前でやることについては少し慎重にすべきではないかという意見を申し上げたんですが、名古屋高裁の原告団は断固としてやりますということで、立派でしたね。そういう姿勢が、裁判所に反省のチャンスを与えたのではないか。

 04年、05年はまったく絶望的に近い状態が各地であったように思います。しかし2006716日に陸上自衛隊がサマワから撤退しましたのは、ひとつの転機になった。以後は焦点が航空自衛隊に絞られましたので、立証の努力も半分に減ってきた。そこで情報公開法により防衛省に対して、何を運んでいるかという資料請求しましたところが、出てきたものはほとんど黒塗りの資料なんです。薬や医療器械をバグダッドに輸送しているということは消してないんですよ。それから、国際連合の職員さんを空輸したことも消してないんです。しかし他はほとんど何を運んでいるかを言っていない。ということは、まず多国籍軍の兵員であろうという推論が成り立つわけなんで、これを資料化して衆議院、参議院の各野党の主だった論客に提出して、ぜひ防衛省にこの点を究明してくれとお願いしました。2007221日に衆議院のテロ・イラク特別委員会で、防衛省の山崎運用企画局長がですね、多国籍軍の兵員の輸送が大半であるということを認めました。その会議録を各裁判所で証拠に引用しました。

 そして昨年の323日に、名古屋地裁のもうひとつの部の田近裁判長による判決がありました。結論は棄却なんですけれども、理由中におきまして一般論ですが、平和的生存権はすべての人権を保障する基礎にある、憲法9条は平和的生存権を国の側から保障するものである、憲法9条に違反する国の行為の結果、生活の平穏が害された場合には、賠償請求が可能であると書いた。当たり前のことですけれども、この程度のことも今までの裁判所が言わなかったのを言った。これを大いによりどころにして、さらに1ミリでも前進しようということを、お互いに確認いたしました。

 076月には志位共産党委員長が、情報保全隊というものがイラク派兵反対の国民運動に対して全国的に調査・監視の活動をしていることを暴露しました。これは本件裁判にも大いに使用すべきだとして、志位委員長の暴露された自衛隊の内部資料を証拠に提出し、準備書面で追加しました。これに対する法務省の反応は、非常に早くてですね、わが方の書類提出の3日後に早くも、このような主張は本件とは無関係だという反論をしてきたので、逆にこれは弱点なのではないかと我々は推察した次第です。

 名古屋高裁の審理に戻りますと、これは本年の131日、近代史の専門家でいらっしゃる山田朗教授の尋問をもって結審をいたしました。その前には小林武教授の尋問を行っております。そうして結審したのですが、417日の判決言い渡しまで2ヶ月半ほどあります。私はこのときに思い出したのは、1967329日の恵庭事件の判決のことなんです。あのときは67年の125日に最終弁論で、判決まで2ヶ月ある。我々は甘くてですね、憲法9条違反、ゆえに無罪、という判決が出るというふうに、9割方信じていた。蓋を開けてみますと、憲法問題に触れない無罪判決であった。その体験からいって、2ヶ月半の間に政府の何らかの介入・干渉、あるいは裁判官の心変わりがあるやも知れないと思いましたので、みなさんと討論してですね、判決文を手に取るまで、最後の最後まで気を緩めず、要請行動、葉書等を行うということを実行しました。

 判決は417日に出まして、52日に確定しました。原告団・弁護団はそれぞれ、上告をするかということを討議をいたしまして、弁護団は全会一致、原告団会議は圧倒的多数をもって上告しないことに決めたんです。主文では負けたんですから、上告して闘うのが本則なんでしょう。しかしながら今の最高裁の現状では、憲法のほかのテーマについてはともかく、9条に関する限り、これ以上のものが出るであろうか。ひょっとして平和的生存権はもとより、91項の解釈そのものも覆される可能性があるのではないか。そうするとこの判決、獲得したものをしっかり我々が踏まえて、宣伝して運動に活用するということがより大事なんではないかと、両方の利害得失を徹底的に討論してですね、その結果、上告しないことに確定いたしました。

私が心配したのは、原告団の中で1人でも闘うぞというので、おおそれながらと受付に出してしまえば上告したことになるので、「その点どうするのか」と言ったら、名古屋の弁護団は「いや、絶対大丈夫です、統制が取れてますから」と。しかしやっぱり心配になったんでしょうね、最終日の夜の12時まで受付付近に何人かの方が夜を徹して立っておられまして、もし間違ってこられた方にはお話ししてご納得いただくという態勢をとったと聞いております。

2008/08/05

自衛隊の変貌を見る①

Naitou001 08.7.19 平権懇学習会 自衛隊の変貌を見る

内藤 功            

○名古屋高裁の違憲判決

 まず417日の名古屋高裁の判決についてでありますが、自衛隊の変貌を批判し、自衛隊の変貌と闘う上で、この判決がどういう位置づけになるか、という視点からお話ししたいと思います。

 判決はアメリカのイラク戦争に関する証拠に基づいて事実認定をやっております。

「イラク攻撃の大義名分とされたフセイン政権の大量破壊兵器は、現在に至るまで発見されておらず、むしろこれが存在しなかったものと国際的に理解されており、平成1712月には、ブッシュ大統領自身も、情報が誤っていたことを認めるに至っている」。

「当初の有志連合軍及びCPAからの主権移譲後の多国籍軍に参加したのは、最大41か国であり、いわゆる大国のうち、フランス共和国、ロシア連邦、中華人民共和国、ドイツ連邦共和国等は加わっておらず」次々撤収し、現在21カ国になっていると。

 それから「イラク各地における多国籍軍の軍事行動」として、ファルージャと首都バグダッドの2例を挙げまして、アメリカ軍による攻撃が開始され、空爆が行われ、クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾、マスタードガス及び神経ガス等を使用して、大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器と呼ばれる白リン彈が使用されたともいわれる」。これによりファルージャの多くの民間人が死傷し、少なく見積もって2080人であると。

 丹念に集めた新聞記事、インターネットの情報、出版物等を原告弁護団が証拠化して提出したものにより、手堅く認定しております。同様に首都バグダッドの状況についても、具体的に認定をしております。とくに平成188月から15千人をバグダッドに集中して掃討作戦を行ったということですね。

 裁判所が作成して配布した判決要旨は、全国紙でこれを全文出しましたのは、「しんぶん赤旗」だけであります。ほかの全国紙を見ましたが、毎日新聞だけは平和的生存権のいちばん肝心な部分を全部書いておりますが、ほかの新聞は省略していますので、本当の判決の神髄が分からない。

 この判決には3つの神髄というものがあると思います。1番目がイラク空輸が憲法91項違反であるということ。「現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法22項、活動地域を非戦闘地域に限定した3項に違反し、かつ、憲法91項に違反する活動を含んでいる」。前提としての政府解釈は、アメリカの武力行使との一体化というというところを判断基準にしております。政府は非常に反論しにくいだろうと思います。

 第2点は平和的生存権の問題です。「憲法の保障する基本的人権は平和の基盤なしには存立し得ないことからして、全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利である」と。このように認めたのはおそらく裁判所の判決では初めてのことで、長沼の判決よりもさらに深めたという面があると思います。さらに法的な権利として認められるべきものである」と。また「局面に応じて自由権的、社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利」であるとも言っています。

 とくに私が注目しますのは例示としまして、「戦争の遂行、武力の行使等や戦争の準備行為等によって個人の生命、自由が侵害され又は侵害の危機にさらされ、あるいは現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされるような場合、また憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合」には、「裁判所に対し当該違憲行為の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる」というところですね。これからの運動と研究にとって無限に深められる可能性を内含していると思います。

 3点目の神髄は、裁判官が人間の言葉をもって語ったということです。損害賠償請求の判断なんですが、「控訴人らは、それぞれの重い人生や経験等に裏打ちされた強い平和への信念や信条を有している」と。「9条違反を含む本件によって強い精神的苦痛を被ったとして賠償請求している」と。「そこに込められた切実な思いには、平和憲法下の日本国民として共感すべき部分が多く含まれている」と。裁判官としての共感を述べた。そして「決して間接民主制下における政治的敗者の個人的な憤慨、不快感又は挫折感に過ぎないなどと評価されるべきものではない。」これは、名古屋地裁の1審判決、それから甲府地裁の判決に対する、名指しではないが批判ですね。

 ただし本件の結論、主文はですね、「具体的権利が侵害されたとまでは認められず」、「賠償請求において認められるに足りる程度の被侵害利益が未だ生じているということはできない」。残念ながら棄却ということですね。

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