読む・読もう・読めば 46
ガザの物語
新年はガザ攻撃のニュースで、少しもめでたくなかった。数え切れないほどの国連決議を無視するイスラエル政府は、それでも麻生政権と違って国内では圧倒的に支持されている。旧ソ連・東欧圏から流入した「ユダヤ人」を加えて失業率は高い。迷惑至極なハリネズミ人工国家を作り維持する米英の責任は重い。
ガザはアフリカとアジアを結ぶ交易路上の町だから、古代エジプト・メソポタミアの史料にすでに現れる。『旧約聖書』には創世記からゼカリア書までの22箇所に出てくる。いま数えたわけではなくて、『旧約聖書語句辞典』とか『新共同訳聖書コンコーダンス』などの便利な本があるのだ。なかでも有名な箇所は、「士師記」第16章のサムソンとデリラの話だろう。
イスラエルをペリシテ人から解放すべき大力のサムソンは、ペリシテ人のデリラを愛し、その奸計にかかって大力の源、髪の毛を剃られた。捕らえられ眼を刳り抜かれたサムソンはガザで獄につながれる。サムソンは叫ぶ。「ああ、神よ、どうぞもう一度、わたしを強くして、わたしの二つの目の一つのためにでもペリシテびとにあだを報いさせてください」。再び髪が伸びて力を取り戻したサムソンは、大勢のペリシテ人の満ちた家の柱を倒し、自分も下敷きになって死ぬ。
これを愛と改心の物語と解して表題に使ったのが、オルダス・ハクスリーの『ガザに盲いて』で、1936年の作品。ガザもサムソンも出てこない現代小説だ。8ポイント2段組400頁を超える長編で短い章ごとに時間が行ったり来たりするので、まことに読みにくい。野暮を承知で短縮すれば、主人公アントニーが親友ブライアンの自殺、初めて愛を意識したヘレンとの行き違いを経て、ミラー博士との出会いにより「非暴力・無抵抗主義平和運動」に加わり、愛国主義者の脅迫を無視して演説会に行こうとするところで終わる。なにしろ『恋愛対位法』『すばらしき新世界』のハクスリーだから、マルタン・デュ・ガールの『チボー家』に比べても平和運動に加わる必然性が観念的だが。
20世紀前半の英米文学は、ロレンスもエリオットも読まれなくなって、ジョイスだけが気を吐いているのが少々淋しい。欧米の知識人にとって欧米以外は「土人」の国だった時代の文学なのだから、ある意味当然ではあるが。ちなみにイスラエル建国は1948年だった。 (2009年1月14日)
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