読む・読もう・読めば 55
「あたご」事件最終報告を読む
防衛省は5月22日、イージス艦「あたご」による漁船沈没事件の事故調査「最終報告」書を公表し、同時に事件関係者38人を懲戒処分とした。報告書は昨年3月21日の「中間報告」(本コラム第28回で取り上げた)に比べてはるかに詳細であり、また1月22日の海難審判裁決を尊重して、事故の主因は「あたご」にあるとの認識を前提としている。自衛隊が「自分が悪かった」と認めているわけだから、これから始まる刑事裁判も最初から勝負はついていることになる。しかし、裁判ですべてが明らかになり、再発防止に大いに役立つかといえば、そう安心はできない。
報告書を読むと、艦内での乗員の弛緩ぶりがよく分かる。第2当直士官は「雨も降っていないのに見張り員が艦橋内にいることに違和感」を持ったが、所定の位置に戻るよう指示しなかった。警報装置は「作動するような設定となっていなかった」。レーダー上で見つけた目標にシンボルを付けたが「画面が見づらく目標の情報表示が繁雑になると思い」消去した。当直体制を変え当直員を減らしたのは、ハワイで行われた「装備の確認試験」(つまりイージスシステムのチェック)の報告書を書くのに忙しかったからだった。07年8月の「訓練練度の評価試験」では、事故時とたまたま同じメンバー、同じ順序で当直の交代があり、「視界不良時の見張りへの指示」や「目標の確認」が要改善事項として指摘されていた(のに改善されず事件は起きた)。
事故の「直接的要因」を2点、「間接的要因」を7点挙げているが、見張り員が所定の場所にいなかったことも、自動操舵を続けていたことも、警報装置が作動しなかったことも、艦長が仮眠中だったことも「事故の要因とは考えられない」という。このあたりは海難審判裁決に助けられたような感じだ。
まだ明らかにされていないというか、まったく問題にされていないことも多い。通報の遅れは重大問題ではないか。救難体制に不備があったのではないか。事件当日「あたご」に発着した3機の自衛隊ヘリは何を運んだのか。レーダーの記録がないのは何故か。そして何よりも、衝突回避の行動を取らなかったのは、軍の驕りがあったからではないのか。等々。88年の「なだしお」事件のとき、航泊日誌の改竄を朝日新聞がスクープしたのは、海難審判2審の審理中だった。「あたご」事件でも、まだこれから明らかになることがあるはずだ。
38人の懲戒処分者中、氏名が公表されたのは4人。海難審判の指定海難関係人と同じ。艦長と事故時の当直士官が停職30日、事故前の当直士官が停職20日、船務長が戒告だった。「なだしお」艦長の休職処分に比べても、いかにも軽い。 (2009年5月28日)

