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主筆
朝日新聞社は2007年6月26日付で船橋洋一氏を主筆とした。68年同期入社の秋山耿太郎社長の引きと言われる。主筆とはなんともレトロな響きのポストだが、朝日では親中派の広岡知男氏が社長と兼務して以後は30年にわたって空白になっていたポストであり、社長直属だから4本社編集局長(当時、東京本社編集局長は外岡秀俊氏)、論説主幹(当時は若宮啓文氏)よりも上位になる。船橋氏は北京支局員、ワシントン支局員を経て経済部次長を務めた後は部長、局長という一般的な出世コースに乗らず、再度渡米してアメリカ総局長を勤めて帰った後も特別編集委員・コラムニストという特異なポストにあった。これは彼がハーバード大学、ブルッキングズ研究所等での共同研究の経験から培った人脈により、ジャパン・ハンドと呼ばれる米国対日政策作成グループに近すぎるという警戒があったからだろう。船橋夫人の木下玲子さんもまた、著書『ファースト・チーム』の取材等を通じてクリントン夫妻と親しいという。
米国外交問題の雑誌として権威ある『フォーリン・アフェアーズ』08年9-10月号に、船橋氏は「アジアに遅れを取らずに 米国と新パワーバランス」という論文を書いた。「米国が中東に関与する結果、アジアに対する米国政府の注意が低下するのは仕方がない。しかし不運なことである。」「アジアのリーダーの大部分は、米国政府が、日米同盟関係を米中関係の発展と調和させる努力を行い、2つの関係を併せて包括的なアジア太平洋政策にまとめていくことを期待している。」「中国あるいは日本が支配的地位を得るかも知れないという見通しは、他のアジア諸国を不安にさせる。」要するにアジアの安定のために米国は盟主であり続けよと言っているわけだ。
この延長線上で、船橋氏は本年5月5日の朝日新聞コラムに「拝啓鳩山由紀夫首相」と題して次のように書いた。「沖縄基地問題は、日米の対中政略と分かちがたく結びついている。中国を開かれた世界秩序に組み込むには、アジア太平洋における盤石の日米同盟が不可欠だ。この戦略目標を念頭に、米軍基地の役割と効用を改めて位置づける政策協議が必要である。」こうして、普天間は少なくとも県外に、という鳩山首相の夢は、米国・日本外務省・メディアの包囲のなかで潰えた。
船橋氏は21世紀臨調のメンバーであるだけでなく、日米欧主要国に政策提言をする三極委員会日本委員であり、世界経済フォーラム(ダボス会議)フェローでもある。讀賣新聞のナベツネさん、NHKのシマゲジさんが政治に関与したと言っても、スケールが違う。こういう国際政治経済の中にいる人が朝日新聞の論調を主導しているのは、「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き」という朝日新聞綱領、「権力から独立し」という朝日新聞記者行動基準から見て、疑問がある。 (2010年6月29日)

