読む・読もう・読めば 83
風しもの村
最後の本をまとめるのは著者ではない。家族、友人、親しかった編集者など、残された人々だ。遺稿集。どんなにたくさんのすぐれた本を世に出した人でも、しめくくりの最後の本で、評価が(いちおう)定められる。
こんなに巧みな絵を描く人だったのか、と貝原浩さんの画文集『風しもの村』を見てあらためて吃驚した。チェルノブイリ原発事故で放射性物質が撒き散らされて立入禁止になった、ベラルーシのチェチェルスク村に住み続ける、「サマショーロ(わがままな人)」と呼ばれる人々の群像だ。老人ばかりではない、子どもたちもいる。あの林に入ってはだめ、この川に入ってはだめと教えられて育つ。人々の顔は明るく、眼に力がある。すでにたくさんの小説や映画や漫画に描かれている核戦争後の世界の、現実の姿のようでもある。
別のページには、コンクリートで固められ「石棺」と名付けられた4号炉のスケッチがあり、板を打ち付けて封印された家々のスケッチがある。貝原さんは書く。「ありとあらゆる知恵と金をもって、いまの状態から抜け出さねば、私達の享受する一切の文化文明生活なんぞ、一体何になろうか。」「毒にも薬にもならないオリンピックなぞに声をからすな、知恵を出せ! 金を出せ! 人を出せ! 「ガンバレ!! ニッポン」。
貝原さんは装幀家、イラストレーター、デザイナーとしてたくさんの仕事をした。平和運動のポスターやチラシにもたくさんの戯画風イラストを描いた。私と同世代の人だから良く理解できるが、そこまで描かなくても、と思うものもある。でもやっぱり絵が描きたかったのだろう。1992年、バルセロナ・オリンピックの年に彼はチェルノブイリの子どもたちへの医療支援をする人々とともにベラルーシを訪れ、帰国するとわずか2か月で大判の和紙10枚に画文をまとめた。そこには彼の技術と思いが凝集されている。
5年前に亡くなった貝原さんの作品、「風しもの村」と「チェルノブイリ・スケッチ」をもとに、みごとな編集で画文集に仕上げたのは芸大工芸科で同級の友人、宮澤賢治の画本で名高い小林敏也さんだ。核問題を考える人に勧めたい。貝原浩画文集『風しもの村』パロル舎、2010年7月刊、2800円+税。 (2010年8月14日)
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