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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

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2011年1月

2011/01/30

イージス艦「あたご」事件の公正な判決を求める 2.26横浜集会

海上自衛隊の最新鋭艦「あたご」が、千葉県野島崎沖で漁船「清徳丸」に衝突し沈没させ、2人の犠牲者を出した事件から2年が過ぎました。
この間、海難審判所裁決は、事故の主因を「あたご」の監視不十分と認定し、海上自衛隊第3護衛隊に安全教育を徹底するよう勧告しました。また防衛省は、「あたご」が安全航行の基本を怠ったことが事故の直接的原因とする最終報告書を発表し、前艦長ら38人を勧告処分としました。
しかし、2010年8月23日に横浜地方裁判所で刑事裁判が始まると、自衛隊側は「無罪」を主張し、5人の強力な弁護団を繰り出して争っています。取調べの不備を指摘されて検察は押され気味です。
業務上過失致死罪に問われているのは事故当時の当直士官とその前任者のみで、前艦長も自衛隊組織も責任を問われておりません。16回の公判で証拠調べが終わり、1月中に論告求刑、最終弁論を経て、3月にも判決が出ます。
私たち平権懇は、安保の犠牲者に寄り添いながら憲法の平和条項を守り発展させることを基本姿勢として活動してきました。潜水艦なだしお事件、えひめ丸事件に続く海難事件として「あたご」事件にも注目して、いちはやく声明を発表し、2009年3月に東京で「イージス艦『あたご』による漁船沈没事件を考える」シンポジウムを開催し、市民によ真相究明を訴えました。
今回は、横浜で公正な判決を求める集会を開催いたします。ぜひ成功させ、世論を喚起したいと思います。みなさま、お誘いあわせのご参加ください。
226日土曜日 午後1時半~4時半
ヨコハマジャスト1号館8階会議室(横浜駅東口)
報告 田川俊一(弁護士・海事補佐人)、大内要三(編集者・平和運動者)ほか
司会 吉田悦花(平和に生きる権利の確立をめざす懇談会 事務局長)

主催・平和に生きる権利の確立をめざす懇談会

連絡先・090-5341-1169 (杉山)

ブログ:http://heikenkon.cocolog-nifty.com/blog/

 

会場の都合によりテレビカメラ等の機材を伴う取材はお断りします

賛同人・賛同団体

芦澤礼子(米軍人・軍属による事件被害者を支える会・関東)、麻生多聞(鳴門教育大学准教授)、アンポをつぶせ!ちょうちんデモの会飯島滋明名古屋学院大学准教授)、生田あい(変革のアソシエ)、稲生義隆(弁護士)、内田雅敏(弁護士)、浦田一郎明治大学教授)、浦田賢治(早稲田大学名誉教授)、大内美南(小児科医)、小幡利夫出版会社顧問)、加藤哲郎早稲田大学客員教授)、菊地宏義(東京歴史教育者協議会)、郡司勇(東京芸術座 制作部長)、佐藤和利(弁護士)、清水あつ子明治大学教授)、清水透(慶應義塾大学名誉教授)、杉原浩司(核とミサイル防衛にNO!キャンペーン)、高橋峰子(市民)、竹中正陽(船員の情報誌「羅針盤」編集発行人)、内藤功(弁護士)、中出律東京歴史教育者協議会)、野副達司(日本友和会会員)、林郁(作家)、平出吉茂(福祉施設職員)、山内敏弘(一橋大学名誉教授)吉岡しげ美(音楽家)、和田隆子9条の会・オーバー東京)、渡辺真知子アムネスティ)

読む・読もう・読めば 94

その後の「あたご」

海上自衛隊にイージス護衛艦は6隻ある。旧型の「こんごう」型が4隻、新型でより大型の「あたご」型が2隻。ただし「こんごう」型のほうが先にミサイル迎撃能力を持つように改修され(それまでは捜索・追尾能力のみ)、実際にハワイで実射実験をした。成功率31敗。イージス・システムは米国製でブラックボックスだから、テストも改修もハワイまで出向かなければならない。

三菱重工長崎造船所で建造されていた「あたご」の就役は2007315日。行進曲「軍艦」に送られて配備先の舞鶴に出港した。そしてハワイでの装備認定試験を終えた帰途、08219日未明、千葉県野島崎沖で漁船「清徳丸」に衝突、沈没させた。海難審判所は事故の主因を「あたご」の監視不十分と認定。防衛省は09522日、衝突当時の当直士官だった長岩一佐と艦長だった船渡一佐(正しくは「船」でなく舟扁に公)を停職30日とするなど、乗員38人を「職務上の注意義務違反」「指揮監督の義務違反」で懲戒処分とした。これに先立ち08328日付の人事で船渡一佐ら6人は護衛艦隊司令部付となり、新艦長として清水一佐が就任している。現在、長岩三佐は刑事裁判で係争中のため休職中であり、衝突当時は仮眠中で操船に関わっていなかった船渡一佐は立件されず、0971日付で広島県江田島の海上自衛隊第一術科学校研究部長に就任した。今回の裁判でもこの肩書きで証人となっている。

2010年、清水艦長のもと「あたご」は護衛艦「あけぼの」、潜水艦「もちしお」とともにカナダ海軍創設百年記念国際観艦式に参加し、その足で623日から81日までハワイで行われた14カ国海軍共同によるリムパック2010演習に参加した。空母(今回の演習では米海軍の「ロナルド・レーガン」)護衛を任務とするイージス艦の参加は、当然ながら集団的自衛権の発動を前提としている。

20101217日、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」とともに閣議決定された「中期防衛力整備計画(平成23年度~27年度)」には、「あたご」のBMB対応改修、すなわちミサイル迎撃能力付加が盛り込まれた。 2011129日)

2011/01/16

読む・読もう・読めば 93

初の海外派兵

龍馬はとりあえず脇に置いて大雑把な話。明治維新を実現した力は薩摩の近代的軍隊だった。その装備は長崎で英国商人のグラバーを通じて購入した。島津斉彬の富国強兵策が没後に花開いたわけだ。財源の少なからぬ部分は琉球・奄美の黒糖、つまりは植民地支配であったけれども。米国では人口3000万人台のときに62万の戦死者を出した南北戦争が終わったばかり、ロシアは極東に、英国は清国に、それぞれまだ地盤を固め終えていない間隙をすり抜けて明治政府は成立した。

1871年すなわち明治3年10月、首里から宮古へ戻る途中の琉球御用船が台風に流され台湾に漂着、乗員はパイワン族の集落に収用されたが、12月になって逃走し、54人が殺害される事件が起こった。牡丹社事件という。これを理由に日本政府が台湾に出兵したのは2年半後の74年5月だった。大久保利通は征韓論の矛先をずらすことで政府の当面の危機を回避したかったのだろう。陸軍中将・西郷従道が独断で出兵したというのは俗論。ろくに軍艦もないのに3600人を派兵、戦死6人、主にマラリアによる病死531人。北京に乗り込んだ大久保は英国の調停により償金を得て、日本初の海外派兵は終わった。

このときに調印された3箇条の日清互換条款には明記されていないが、日本国民である琉球の民を清が統治する台湾原住民が殺害したという事実認定を前提として償金が支払われたわけだから、台湾は清国領、琉球は日本領だと相互認定したことになる。琉球王国が滅亡し沖縄県が設置された、いわゆる「琉球処分」は1879年、これで薩摩藩→明治政府による琉球間接統治は終わる。

菅直人首相の座右の銘は高杉晋作の「人生只一度」だという。騎兵隊を結成して長州藩を倒幕に向けた彼は大政奉還の前年に病死している(病死にもかかわらず靖国神社に祀られている)。維新までの人、高杉よりも、維新から本領を発揮した大久保に学んでほしいものだが、海外派兵は別。  (2011年1月15日)

2011/01/11

シンポジウムの記録 米軍人・軍属による事件被害を考える

質疑討論

大内 質疑討論の最初に、山崎事件の原告、山崎正則さんに発言していただきます。

山崎 私が妻を米兵に殺されたのは200613日の朝早くです。私に警察から連絡があったのは当日の昼でした。警察に呼び出されて、私は犯人扱いされました。写真を撮られて指紋を採られて、取調は明け方まで続きました。そのころにはもう犯人が米兵であることは分かっていたのに、家宅捜索までされました。私は犯人を見つけてほしくて警察に協力しました。

 防犯カメラに、妻の映像と声が記録されていました。妻は「助けて」と叫んでいました。私は助けてやれなかった。聞きながら、私は男ながら泣きました。そして、敵を取ってやると誓いました。

 犯人は捕まって、裁判で無期懲役の判決を受けました。けれども日本政府は何の責任もとらない。日本政府の政策で基地を置いているじゃないですか。そこから何の規制もなく米兵を出しておいて、このような事件があったときに、米兵個人の問題だと、被害があったからといって謝罪をするわけでもないし、補償もしない。こんなことでは私の妻は浮かばれない。まだまだ高裁、最高裁もあります。国に痛みを伴うような判決が出ない限りは、米軍の犯罪はなくならないですよ。再発防止や自主規制をしたって、すぐ解除する。本当に平等な判決をしてほしい。平等な地位協定にしなければいけない。そういう観点から闘っております。ぜひ私の気持ちを汲んでいただき、みなさんのお力をお借りしたいということで、今日はお話をしております。

 現場検証のビデオに写った犯人の姿、殺す寸前の写真があります。これを見たら悔しいですよ。これが本当の犯人です。このビデオがあったから私は、犯人にされず、ここでしゃべっていられると思います。このビデオの存在を警察は私に隠して、でも米兵には見せているのです。犯人の米兵が残忍に殺しているときの様子を、逮捕後、米兵は警察の捜査の中で再現しています。この殺害場面の再現写真を見たら、私は絶対に許せないという気持ちになりました。

 横須賀の刑務所の食事、全然違うんですよ。日本の受刑者と米軍の受刑者が違う。日本の受刑者は3日に1回しか、シャワーを浴びられないのですが、米兵は毎日浴びられます。食事も全部違います。米兵の受刑者のほとんどが、満期前に仮釈放で出てしまうということもあります。

大内 急な発言のお願いで、たいへん失礼いたしました。それでは会場のみなさんのご質問・ご意見を含めて、討論に移りたいと思います。

山本 私は沖縄を中心にして米軍基地を見ていますけれども、8月に岩国に行きましたときに聞いた話を紹介します。私が行きつけの喫茶店がありまして、そこのママから聞いた話です。岩国の駅前にバスのロータリーがありまして、左へまっすぐ行くと岩国市に向かう角にパン屋さんがあるんですね。その店が深夜に石を投げられて、ガラスを割られた。たまたまメインの通りなので、防犯カメラにもろに制服を着た米兵がやっているのが写っていて、犯人も特定できたんですけれども、そのお店の社長さんが商工会議所や警察に行っても、取り上げようとしなかった。市議を通じてようやく事件化したけれども、物を壊したくらいではなかなか事件にもならない、統計の数にもあがってこない。米軍基地肯定派のさまざまな圧力があって、そういう状況があるという話を聞きました。

佐世保の例を布施さんが話されていましたけれども、どこでも大なり小なりそういう状況があるんだと思うんですよ。そもそもなしにされてしまうという現状が大きな問題だと思います。

木下 こういう被害というのは、自分でも少しは分かっているつもりでいたんですけれども、今日こうやって話を聞いてですね、不平等性なんていうなまやさしいものではないと、とにかくびっくりしています。こうした問題はマスコミがきちんと取り上げて位置づけて、大きな問題にしていかなければいけないんだと思うんですけれども。

私の妻が若いころ、20代の後半だったか30代の初めか、横須賀のほうへ車に乗って一人で仕事をしているときに、米兵の奥さんに後ろから車でぶつけられて、鞭打ちになったんですね。ずっとそれから首が痛いと話していて、今でもクーラーをつけることは嫌いです。彼女もまた、被害の事件の数にはおそらく含まれていないんでしょう。

質問なんですけれども、日本における事件の被害の在り方とか、あるいは相手軍隊に対する配慮ですね、こういったことが諸外国と比べたときにどういった特徴があるのか、そのへんについて教えてください。

布施 諸外国と比べてということですが、この問題は表に出た地位協定以外にも、さまざまな取り決めが何重にも重なっていて、さらに密約があるということですね。刑事裁判権に関して言うと、日米地位協定でもNATO協定でもそうですけれども、公務外については受け入れ国側に第一次裁判権があるというのが、アメリカが譲歩できる最低ラインというか、それ以上は絶対に譲れないというラインです。日本が諸外国と比べて若干違うのは、日本政府は、裁判権を放棄したことは一度もないと言っているんですね。なんでかというと、裁判権放棄というのは、アメリカ側から放棄してくれという要請があったときに日本側がそれを放棄するもので、要請がないうちに不行使にしているのは放棄ではない。自主的にアメリカのために不行使にしているということなんですけれども。

たとえばドイツでは、93年に若干変えられたんですけれども、ボン補足協定のなかで基本は放棄なんだというふうに決められていて、ただドイツの司法が重要と考える場合、その放棄の撤回というか、制限することができると書いてあるんです。ドイツにとってきわめて重要だと考える場合に、この事件に関しては放棄しないとアメリカ側に声明できる。ただ声明できるだけで、アメリカ側がそれをイエスと言うかどうかはアメリカ側に判断が委ねられています。だから実際は、ほぼ100%、ドイツはいまでも放棄しているんですね。そういう意味では、日本は世論の力、沖縄の闘いのようなことがちょっとはあると思うんですが、ドイツに比べれば裁判権を行使していると言えると思います。

イギリスにも米軍基地がありますけれども、イギリスの放棄率はかなり低い。じつはアメリカ陸軍の法務局に情報公開請求をしまして、諸外国のデータを取り寄せたんです。イギリスの場合は20%台だったと思います。オランダは70パーセント台。

あとひとつ地位協定の関係で焦点になっているのは、身柄の問題です。日本の場合はアメリカ軍の手中にある、つまり日本側が逮捕する前に被疑者が基地に逃げ帰ってしまってしまったケースでは、起訴するまで身柄はアメリカ側にある。これについても95年に沖縄少女暴行事件が起こって、抗議の声が沸き起こって、地位協定の運用を見直すということで、日米間の協議が行われまして、重要犯罪については起訴前に身柄を渡すように要請することができる、それに対してアメリカ側も前向きに対処するという仕組みが作られた。山崎さんのケースではそういう形で、起訴前に犯人の身柄が日本側に移された。ただ、そういうケースは本当に数えるぐらいしかないんですね。

そういうことは、現段階では韓国もやっていないし、ドイツもやっていないので、日本の外務省は、日本は他の国に比べてこの問題ではいちばん進んでいると言っています。しかし、そもそも公務外については日本側に裁判権があるわけですよ。裁判権がある方に身柄があるほうが普通ですね。それなのに最終的にアメリカ側が身柄を確保したら起訴までというのは、なるべく日本側に裁判権を行使させないようにするいろんな仕組みのひとつで、合理的なものではないですね。アメリカにとって有利で、われわれにとっては不合理というか、理屈に合わない話です。ドイツに比べていいか悪いかという話ではなくて、ドイツも韓国もすべての国で、少なくとも公務外で裁判権があるものについては身柄を確保するというように変えるべきです。実際に民主党は野党時代に地位協定の改定案を作って、そういうふうに変えようとしていたんですね。それがどこかへ行っている。

中村 諸外国で米軍の犯罪がどうなっているのかは、私もすごく興味があって、過去の新聞記事をチェックしてみたのですが、なかなかそういう記事は少ないですね。毎日新聞のヨーロッパ駐在の方が、ヨーロッパでは沖縄のように性犯罪が大きく問題になることはない、みたいなことをコラムに書いているぐらいしか見たことがありません。沖縄の嘉手納空軍基地、日本の海軍・海兵隊基地は、性犯罪発生の割合が高いというデータが出ているアメリカの新聞記事をもらったことがあるのですけれども、やはり日本の米軍基地というのは住民と接しているというところが特徴だと思います。アメリカ本国の場合と違いまして。やはり公務外の事件は日本がかなり多いのではないかという印象を持っています。弁護士会とかで世界の米軍基地がある国を回って米兵事件の調査をする必要があると思います。重要なご指摘ではないかと思いました。

布施 いちばん新しい地位協定を作ったのはイラクです。国連とか多国籍軍ではなくて、いまはアメリカとイラクの間で地位協定を結んで米軍が駐留しているわけですけれども、その地位協定を作る前に、じつはイラクから日本に調査に来ているんです。結果的にどういう地位協定になったかというと、公務外についてはイラク側に第一次裁判権があるんですけれども、公務外でかつとくに重要な事件でない限り、と、要するに日本が密約にしているものを表の地位協定本文に入れているんです。ちょうど秘密文書が国会図書館でに公開禁止になった時期に、イラクでそのようなことが起きていたんで、新原さんなどは、そういうものも影響しているんではないかとおっしゃっていました。

そういうふうに、新しく地位協定を作るときに、当然その政府はアメリカが他の国とどういう地位協定を結んでいるのかを参考にします。実際にフィリピンとアメリカが1950年代に地位協定を結ぶ交渉をしていたときに、フィリピン政府は日本の表向きの行政協定を見た。アメリカ側はフィリピンに対して、日本が密約にしている部分を含めて要請しているわけです。フィリピン政府としては、なぜ日本では公務外で日本側に裁判権があるのに、なぜ、第二次世界大戦で連合軍側にいたフィリピンが、敵国であった日本よりも悪い条件で地位協定を結ばなければいけないのかと強く主張した。そのときにアメリカは日本の岸内閣に対して、この密約を表に出してほしいと打診してくるわけです。日本政府は、そんなことをしたら保守政権が危なくなってしまうと言った。そういうふうに、外国のこともからんでくる問題があります。

最近でいうと、これも表には公開されていないものですけれども、何を公務とするかという定義があります。これは日米合同委員会で合意されているんですが、たとえば基地の中でパーティーがあって、米兵が酔っ払って帰りに運転して自宅に帰る途中に、飲酒運転で人身事故を起こしたとします。それも公務中にされてしまうんですね。それが自公政権末期に明らかになって、国会でも取り上げられて、さすがに時代遅れだろうと。実際にアメリカも飲酒運転も公務だと主張してきた事例は最近ではないので、この部分は廃棄を求めると自公政権がアメリカ側に言ったんですね。この件はどうなっているのかと、ついこの前、外務省と交渉したときに聞いてみたんです。そうしたら、強く要求しているけれども、なかなかアメリカがうんといってくれないと。これはたぶん、日本だけの問題ではないからですね。おそらくいろんな国と同じような合意を結んでいる。逆に言えば日本で変えれば他の国に対しても地位協定を変えていく要因になると思います。

芦澤 思い出したことですけれども、2004年に海老原代表と一緒に韓国に行ったときに、韓国の米軍事件の被害者のお兄さんにお会いしました。その被害者の方は大学4年生の女性で22歳の方で、高速道路で信号無視の米軍が運転する車と衝突した事件なんですね。韓国では米韓地位協定が2001年に一部改正されていまして、殺人、強姦、ひき逃げ死亡事故など12の凶悪犯罪に限っては、起訴時に韓国側に米軍人・軍属の被疑者の身柄を引き渡すという規定ができていました。その前は韓米地位協定は日本よりひどいものだったんですけれども。韓米地位協定改正の初めての適用ケースだったのが、この衝突事件でした。日本の地位協定はできてから未だに1回も改正されたことがないというのが非常に大きな問題です。韓国もじつはすごく反米運動が非常に盛り上がっているときで、それで市民の後押しで改正されたというケースなんですね。日本の場合も、もっと市民の後押しがないと、なかなか改正には至らないんだなあということで、日本の運動の在り方についても非常に反省させられました。

小幡 私も長いこと関心はあっていろいろ調べたんですけれども、こんなにひどいことになっているとは知りませんでした。勉強不足だったと反省しております。合衆国軍隊の犯罪の統計がありますけれども、これはアメリカの4つの軍隊のなかで、海兵隊はどれぐらいだとか、軍種によっての統計はあるんでしょうか。

布施 アメリカではちゃんと統計を取っていますけれども、海兵隊は海軍省の中にあるので、海兵隊を別には統計を取っていないんですね。海軍、陸軍、空軍の別です。ただ、海兵隊が海外で駐留しているのは沖縄だけです。しかも沖縄の海兵隊はローテーションで配備されて、しかも前方配備、アフガニスタンやイラクに送る前の段階、ベトナムに送る前の段階で沖縄で訓練をして前線に送って、また日本によってアメリカ本土に戻って、ちょっとリラックスしてまた前線へ、というローテーションで回っている。しかも若い兵士たちですから、犯罪率は高いことが想定できます。

大内 会場に、『逐条批判 日米地位協定』という本を書かれた著者のお一人である榎本信行先生が見えていますので、ひとことコメントをお願いします。

榎本 だいぶ昔に書いたので、忘れているんですが。地位協定17条、裁判権の問題ですね。もともと密約が分かる前でも、アメリカがなかなか身柄を引き渡さないとかいう問題がありまして、密約がだいたい予想されていたんですね。それで民事裁判権についても公務外の場合はアメリカ兵に直接請求するということしかできないので、どうしたら金のないアメリカ兵から金を獲得するかという問題は、沖縄で弁護士がだいぶ苦労しておりまして、見舞金ということしか依然としてないわけです。この新しい裁判の判決を待っていたんですけれども、残念ながら主文は負けたようですけれども、裁判長に任せるのはちょっと、内心苦慮したようです。新聞記事によりますと横浜地裁の水野邦夫裁判長は、これは判決外で発言したんですかね、「関係各位が理解し、悲惨な事件をなくすよう努力していきたい」と言ったということなんですけれども。この水野裁判長はもと青法協の会員で、わりとリベラルな人だと思うんですけれども、この人の法廷指揮がどうだったのか、中村さんにお聞きしたいですね。

中村 水野邦夫裁判長は提訴後、途中から来られたのですけれども、水野裁判長になられてから調査嘱託を2回実施して、裁判長自らこの質問事項をつけたいといった形で、いい感じの流れになっていたことは確かです。ですけども、米海軍司令官の尋問をやらないとか、終盤になってちょっと雲行きが怪しくなりました。左陪席が、訴訟の終盤、横滑りで横浜地裁の別の部からやってきました。裁判体の構成に途中でそういった変更がありました。裁判長の指揮というよりも、裁判全体としての流れが終盤になって悪くなったような気がします。水野裁判長の判決言渡の後のメッセージからしますと、原告を勝たせたい気持ちもあったのではないかなと思っております。

杉山 訴訟指揮の話ですけれども、今の例は悪い例だと思うんですよね。舘野鉄工所事件の東京高裁のときは国側が裁判長を変えて、最高裁から下ってきた裁判長が職権和解をしたんですけれども、そういう意味で言うとやっぱり運動の力というか、当時、舘野鉄工所事件を支える会というのは約2000人いましたから、そういう力というのが一方であるのかなという気がしました。やっぱり裁判長の裁判指揮というのは、それなりに裁判に非常に影響します。イラク訴訟のときも、椎葉事件でも、記者会見やなにかを使いながら弁護団がいろいろアプローチした。そういう意味ではやはり裁判だけではなくて、裁判の外でどれぐらいの運動を進めるかが鍵です。地位協定を変えるにもやっぱり相当な運動をしないと、なかなか動かないのかなと。沖縄に任せている私たちが、もっと責任を感じなければいけないんじゃないかなと思いました。

大内 もう、まとめていただいたような発言がありました。

私からひとことだけ言わせて下さい。今年が安保50年ということで、いろんなところで安保のお話をさせていただきましたけれども、必ず述べたのが、アフリカのジブチに日本の自衛隊が初の海外基地を現在作っているという問題です。ジブチに滞在するに当たって日本はジブチ政府との間で地位協定を結びました。この地位協定がまったくひどいものでして、刑事も民事も含めて裁判権は日本側が持っています。なんでジブチなんかに日本の自衛隊がいるかといえば、隣のソマリアの海賊対策を名目としているわけです。実際にはソマリアに大国の都合のいい政権を作らせる、軍事的に周りから圧力をかけて、アフリカ連合、暫定政府、その依頼を受けたという形で自衛隊があそこににらみをきかせている。しかも47億円かけて新しい基地を造るということは、来年夏には期限切れになってしまうソマリア派遣というものが、これからもずっと続くであろうと、アメリカのアフリカ支配に対して協力する体制をこれからもずっと取るつもりであることの声明であるわけですね。早ければ来週末にも新しい「防衛計画の大綱」が閣議決定されますけれども、その中で、日本の自衛隊は何のためにいるのか。いちばん最初には日本の平和と安全を掲げましたけれども、2番目には世界の平和と安定を掲げています。崩壊国家があった場合にはそこに「民主的」政権を作るのも自衛隊の役割とするような、そういう「防衛計画の大綱」が、いま作られようとしているということです。これだけ地位協定によって米軍にコケにされている日本が、同じことを外国に輸出しようとしているということは、とても重大なことだろうと思っています。

布施 いまのお話に関連して。20082月に沖縄のコザミュージックタウンというところで、海兵隊による暴行事件が起こったんですけれども、その直後に私たち日本平和委員会が要請に行ったときに、外務省の地位協定室長がこういうことを言ったんです。「日米地位協定17条(刑事裁判権条項ですけれども)は、日米地位協定の根本だ。イラクに行っている自衛隊が言質で結んでいる地位協定で、日本側が自衛隊にかかわる裁判権のすべてを持っているように、17条を崩すことで問題がある」。だから地位協定改定は慎重にやらなければいけないと言ったんですね。これはどういうことかと言うと、日米地位協定はいま公務外については日本側に第一次裁判権がありますけれども、全部日本側に裁判権があるように変えたら、自衛隊が海外に行ってその国と地位協定の交渉をするときに、日本はアメリカとこういう協定を結んでいるのに、ウチの国では全部自衛隊側に裁判権をよこせというのはおかしな話じゃないかと突っ込まれますよね。

実際に自衛隊はジブチでもそうですし、イラク、クウェートで結んでいる地位協定も、基本的には刑事については、公務であろうが公務でなかろうが、すべて自衛隊側に裁判権があるというふうに規定されています。日米地位協定を変えてしまったら、自衛隊が海外派兵で行ったときにその地位協定を変えざるを得ないかもしれないということを、地位協定を変えない、ひとつの要因だというふうに言っている。これまで日米地位協定によってたくさん被害を受けてきた側が、今度は外国の人たちに対して泣き寝入りを強いる立場に立ちながら、そのことを理由に日本人の被害者も泣き寝入りにせざるを得ない状況をこれからも続けていくという、とんでもないことになっている。日米同盟はそこまで来ているということを考える必要があるかなと思っています。

大内 そろそろ、まとめに入っていただきます。

中村 今日のお二人のお話をお聞きして、やっぱり米兵犯罪の問題というのは、かなり根深い問題であることを、あらためて認識させていただきましたし、布施さんの裁判権密約問題ですね、すごく丹念に調べていただいて勉強になりましたし、芦澤さんは被害者の方に寄り添って地道に活動されていることに、敬意を表したいと思いますし、今日このシンポジウムを企画していただいたことを契機に、これからも米兵犯罪の問題ですね、大きく市民の方々にアピールしていきたいなと思います。

芦澤 今年「被害者の会」は結成して14年になるんですけれども、被害者自体が名乗り出るのがたいへんハードルが高いというのが、この14年関わってきた実感です。4件の裁判を闘いましたけれども、その中で海老原さんを除く3件の方は、いまこの会にはほとんど関わっていらっしゃいません。やっぱり「被害者の会」をやっていること自体が、お金を取ることが目的じゃないかとか、とくに沖縄だと親戚に米軍関係者がいるとか、いろいろなプレッシャーがあって、なかなかこういう運動に関わりきれないというところがあります。正直言ってそれは実感します。ですから、「被害者の会」という名前があるからと言って、被害者の方がたくさん集まっているとは、決して思わないでください。ただ、読谷の被害者の家族の方は、私たちの会をホームページで調べて、そしてわざわざ連絡を下さいました。読谷は刑事裁判の判決が出ましたけれども、いま民事裁判を闘おうということで準備を進めていらっしゃいます。「被害者の会」も支援を続けていこうというふうに思っています。

海老原さんが今回、「被害者の会通信」の最新号で書いていらっしゃることなんですけれども、14年前にある被害者の方からお手紙をいただいたということを挙げています。平成885日に被害者の方がお手紙を下さったんですけれども、この年にちょうど海老原さんも息子さんを亡くしています。で、海老原さんが書かれているのは、この被害者の方が下さった匿名の手紙を14年経って読み返した感想は、「14年経っても今も、基本的なことは何も変わっていないじゃないかという挫折感そのものでした」、ということを書いていらっしゃいます。私はこの海老原さんの文章を読んで、非常に「申し訳ない」と思ったんです。政権交代はひとつのチャンスだったはずなんです。民主党もマニフェストに「日米地位協定の改定」というのを掲げていて、日米地位協定の改定の民主党案というのも何回か改定されて出しているし、それは今でも民主党のホームページをたどって見ればあるはずです。先ほど出た17条の問題についても、かなり突っ込んだ改定案を出しています。鳩山前総理大臣自身も、沖縄等基地問題議員懇談会という会の代表をされていましたし、地位協定の改定を掲げて総理大臣になったはずなのに、未だにこのことについては何も手を付けられていません。鳩山さんが総理大臣になった後で、地位協定の改定に関しては、「雨天間基地の問題が解決したら手を付けます」と記者会見では述べられていました。でも、普天間問題がいつ解決するか、いま見えていない状態です。そうしたらいつまでたってもこの問題は手を付けられないのか、手を付けないつもりなのか、ということなんですね。また来年の通常国会が始まりますけれども、服部良一議員とも私はずっとこの問題を一緒にやってきたわけですし、来年こそはなんとかしなければいけないというふうに、今日は新たな決意を、山崎さんのお話もうかがって、させていただきました。ぜひこの問題に関して、みなさんとご協力して、がんばっていきましょう。今日は本当にありがとうございました。

大内 民主党政権が頼りにならないとすれば、市民の力で、運動で、被害者・家族を支えていくほかはない。そして地位協定を少しでも変えさせていく、そういう声を突きつけていかなければならないだろうと思います。これで本日のシンポジウムを終了いたします。

シンポジウムの記録 米軍人・軍属による事件被害を考える

報告3 布施祐仁

裁かれない米兵犯罪と密約の闇

0.くり返される性犯罪

 中村先生のお話にもありましたけれども、タクシー運転手の田畑さんが米兵を横浜駅まで乗せた。お金を払わずさっさと降りていったわけですね。それで追いかけて行ってマネー、マネーと言ったら拳骨で殴られて鼻の骨を折って、入れ歯が3つに砕けた。さらにマネーと言ったら、階段のところで投げ飛ばされた。警察が何を言ったかというと、アメリカの法律なるものを持ち出して、アメリカではちょっとでも触れたら殴られても仕方がないと。なるべく事件にしないようにするという配慮をしていたんですね。

 こういう話というのは田畑さんの事例に限りません。これまでも、日本人の場合だったら当然起訴されるような事件が、なぜか米兵の場合、不起訴になるという事例が、けっこう沖縄や横須賀であった。何かあるんではないかということが言われてはいたんですけれども、その背景に何があるのかということは、なかなか明らかにはなっていませんでした。

 それが明らかになったのは、一昨年、アメリカの国立公文書館で、米兵犯罪について、とくに日本で重要な犯罪以外は不起訴にすると、そういう密約の本文が見つかったからです。で、私も取材を始めました。

 私がこの取材を始めるきっかけになったのは、その密約が見つかったということもあるんですけれども、それと同時にひとりの米兵犯罪の被害者の訴えを直接聞いたことでした。その方は2002年に同じく横須賀で米兵に強姦された被害者、オーストラリア人のジェーンさん(仮名)です。

 ジェーンさんは2002年の46日の未明に米兵に暴行されます。横須賀基地の中に友人がいたので、すぐに基地に飛び込みます。横須賀基地から神奈川県警に通報が行きまして、警察官がやってくるわけです。オーストラリアでは小学生のころから、暴行されたときにどういう対応をしたらいいか、学校で習うらしいですね。まずは証拠をしっかり保存するのが大事、まずは病院に行くのが大事だということをジェーンさんは習っていた。だから警察に、病院に行きたいから救急車を呼んで欲しいと訴えた。ところが警官は全くそれに耳を貸さなかったんです。それどころか、犯人はあなたが探さないと事件にはなりませんよと言った。犯罪の直後で動揺しているなかでの冷たい発言です。

 その後、事情聴取をされるわけですけれども、ジェーンさんの話によれば、自分が被害者ではなく犯人のように扱われているのではないかと感じたということです。病院に行きたいと言っても行かせてくれない。取り調べに当たった男性警察官は、暴行されたときの様子を説明しても、ほとんどまともに聞いているとは思えない。午後3時になって解放された、10時間以上警察署で聴取を受けていたわけですけれども、その間、食事はおろか水1杯出て来なかった。「まるでゴミ扱いされてしまった」とジェーンさんは言っていました。

 結局、この事件は不起訴になるわけです。なので、この密約が見つかったときに、ジェーンさんは「やっぱりだ」と。これまで30年近く日本に住んできて、日本人は親切だというイメージがあったのに、なんでこの警察官だけはこんなにひどい、冷たい人間なのか、不思議に思っていた。何かあるんじゃないかと思っていたところ、密約が見つかって「やっぱり」という感想を述べられていました。

1.明らかになった裁判権放棄密約

 裁判権放棄密約というものが1953年に日米間で結ばれていました。その密約の一部を読んでみます。「日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがないと述べることができる」。こういう約束を、当時法務省の法務課長だった津田實さんという方が、日米合同委員会の分科会で署名している。

 なんでこういう密約が結ばれたかということですけれども、実はこの1953年の10月、日米行政協定が改定されるんですね。17条の刑事裁判権に関するところです。それまでの行政協定は、米兵が日本で犯罪を犯したら、すべて米軍側に裁判権があった、日本側はいっさい裁判権がなかったわけです。まことに占領時代そのままの協定となっていたんですね。しかしこの年に、アメリカの議会でNATO協定が批准されます。NATO協定は、公務外で起こった犯罪については米軍の受け入れ国の側に第一次裁判権があると規定しているんですね。なんで同じ独立国である日本が屈辱的な協定を結んでいなくちゃいけないんだという声が挙がるわけで、それで日本もNATO協定と同じように改定しようというようになります。

 実際に、現在の地位協定と同じく、公務外については日本側に第一次裁判権があるというふうに、表向きは協定を変えます。その裏で、形式的には日本側に第一次裁判権があっても、「いちじるしく重要な事件」以外は日本側はそれを行使しませんと、アメリカに約束していたんです。当時の新聞を読むと、「ようやくこれで日本も独立国になった」とか、「被害者が泣き寝入りすることは解消される」というふうに歓迎している。じつはそういう売り込みに隠れて、それまでと同じように日本側は裁判権を行使しない、米側が裁判権を行使するというように、密約を結んだということです。

 この文書が見つかったわけですけれど、当時は日本政府、自公政権ですけれども、その日のうちに、河村建夫官房長官が何を言ったか。「検察当局において法と証拠に基づいて適切に処理している。日本人による事件と米軍構成員による事件とで起訴すべきか否かの判断に差はない。昨年の起訴率を見ても、米軍構成員のほうが高くなっている。密約はないということは結果から明らかだと思っている。」密約はないんだと全否定しました。

 その根拠として彼が挙げたのが起訴率です。実際に米軍犯罪の起訴率のほうが日本人よりも高いんだから、そんな密約なんかあるはずがないでしょうと。しかし一方で、例えば横田の在日米軍司令部の、当時法務部国際法主席法務官だったソネンバーグさんが、2001年に発行された本の中で、こういう記述をしているんです。「日本は非公式な合意を結んで、『特別な重要性』がない限り、第一次裁判権を放棄することにした。日本はこの合意を忠実に実行してきている」。

 これからいっても河村官房長官の話はおかしいなと私は思いましたけれども、その段階ではじつは米軍犯罪の起訴率は公表されていなかったんです。法務省のホームページとかを見ても、そんなものはどこにも出ていない。唯一、国会での質疑応答を調べてみたんですけれども、社民党がこの問題を取り上げていて、起訴率のデータが出ていました。それを見ると、確かに2007年のデータで見ると、米兵犯罪は49%、日本全体で40%という起訴率で、米軍犯罪のほうが高くなっているんです。あれ、と思いました。しかし何かカラクリがあるんじゃないかとも思いました。

 情報公開法を使って、より詳細な統計の開示請求をかけました。当初、法務省はそんなものは存在していないと言ったんです。しかし日本という独立国に外国軍隊が駐留していて、その米兵らが犯罪を犯して、日本側がどういうふうに裁判権を行使したかということは、主権にかかわる重大なことです。その実態をつかんでいないなどということはまずあり得ないと私は思いましたので、ないはずはないだろうということで、請求を取り下げないで、そのまま進めて下さいと言ったんですね。

 最初私は罪種別の統計を請求したんですけれども、「罪種別はないけど都道府県別ならありますよ」とか、私の請求を変えさせようとするんですね。いろいろやりとりをして、5か月かかりました。

 最後に1年分だけ出してきたんです。「全部出せ」と言ったら、この統計は保存期間が1年間なので、過去の分は全て廃棄したと言うんですね。そうだとすると、50年以上にわたる日本の裁判権の実態はもう政府でさえ把握していない、記録さえ残っていないことになってしまう。そんなはずはないだろうと、今度は「コピーも含めて残っていないんですか」、と聞いたら、なにかモゴモゴ言っているんですよ。これは怪しいと思って、次にコピーも含めて出してくれと請求したら、コピーがありました、と言うんですね。

 罪名         米兵らの  不起訴人員数 起訴率 日本国内における      

                   起訴人員数                                     一般の起訴率

                                                       

公務執行妨害           0              10          0%            54%

住居侵入                  17                78         18%        51%

強制わいせつ               2                17         11%             58%

強姦                       8                23         26%             62%

殺人                       3                 1         75%             58%

傷害・暴行                  64               174         27%             58%

窃盗                      37               474          7%             45%

強盗                      33                13         72%             81%

詐欺                      0                39          0%             67%

横領                       0                36          0%             16%

自動車等による          427              2140         17%             11%

業務上過失致死傷                                                       

道路交通法違反         1889               249       88%             82%

                                                       

犯罪全体                   2692              3655       42%             46%

自動車による過失致死  376               1266       23%             54%

と道交法違反を除く犯罪                                             

 結局、01年から08年分の統計のコピーを出してきました。それで見えてきたのが表の罪種別のデータです。見ていただければ分かるんですけれども、いちばん右は日本全体の起訴率です。その左が米兵の起訴率。日本全体に比べて、きわめて米兵が低くなっているんですね。全体ではだいたい同じぐらいになるんですが、これは犯罪件数の圧倒的に多いのは交通犯だからです。スピード違反なら切符を切られて罰金を納めますけれども、裁判にかけられて刑務所に収監されることは、まずないですね。それを除いて計算すると、この表のいちばん下になります。米兵犯罪の起訴率23%、日本全体では54%。

 さらに密約の存在を裏付ける資料として日本側の資料もあります。法務省刑事局が昭和47年に発行した、米兵犯罪をどういうふうに検察官が処理するかのマニュアルなんですけれども、この中に密約とほぼ同じ内容が記されています。これに載っている1953107日の法務省刑事局長通達の一部を読みます。

「日本国に駐留する合衆国軍隊の地位ならびに外国軍隊に対する刑事裁判権の行使に関する国際先例にかんがみ、その運用上極めて慎重な考慮を払わなければならないものと思慮する。」「日本側において諸般の事情を勘案し、実質的に重要であると認める事件についてのみ、第一次裁判権を行使するのが適当である。」

 この資料は検察官向けのものとして秘密指定されているんですけど、国会図書館が古本屋から入手して公開していたんですね。それを新原昭治さんという方が見つけて共同通信に知らせて、ニュースになった。そうしたら法務省が国会図書館に、秘密文書だから公開するなと要請して、それ以降公開禁止処分になった。斎藤貴男さんなどがそれについて裁判をやって、再び公開されたんですけれども、かなり大事なところを黒塗りにされた状態で公開されています。

 ここにいろんな秘密の約束があります。例えば先ほど少年事件の話がありましたけれども、少年事件については米兵犯罪の場合は家裁に送致しないで不起訴にしなさいと、ちゃんとここに書いてあるんです。

 この法務省文書に、日本側に裁判権があるにもかかわらず不行使にするひとつの理由として挙げているのが、米軍側に処分を委ねたほうが有効だと判断した場合と書かれている。実際に日本側が裁判権を放棄した場合は米側に裁判権が移るんですけれども、米側がどういうふうに裁いているかというと、やはり非常に甘い処分になっています。

 例えば、06年から08年まで3年間の統計ですけれども、日本側が裁判権を行使しないで不起訴にした1058人中、米軍が軍法会議にかけたのはたった10人しかいない。軍法会議まではかけないけれども、上官が懲戒処分にするという、レベルの低い処分の仕方があるんですが、どれだけ処分しているかは日本政府はいっさい把握していない。つまり犯罪を犯した米兵をどのように米軍が処分しているかについて、日本政府はいっさい把握していない。これは犯罪を繰り返させないためにどういう政策を持つかということを、放棄していると感じています。

 先週、佐世保に行っていました。佐世保で日本平和大会という集会があったんですけれども、そこにアフガニスタンのジャーナリストを呼んだんですね。私、ずっと一緒に行動していたんですけれども、大会が終わったときに、彼がナイトクラブに行きたいと言うんです。それで連れて行ったんですよ。そしたら米兵だらけなんですね。そのナイトクラブはビルの上階にあるんですけれども、エレベーターを降りた瞬間、迷彩服を着た米兵が6人ぐらいフロアにいるんです。パトロール中のMP(憲兵隊)でした。アフガニスタン人の彼を米兵だと勘違いしたんでしょう、「この店には女も酒もたくさんあるぜ」みたいな感じで言うわけです。MPという取り締まる立場の、監督責任のある米軍が、兵士たちがナイトクラブに行って酒と女を手に入れるということを、もう当たり前だと思っていることを象徴しているなと感じたんです。

 その後、もう1軒違う店に行ったんですね。ママさんがいろんな話を聞かせてくれたんですが、佐世保はあまり犯罪が起こっていないというふうに表向きはイメージがあるんですけれども、表には出てこないけれども、日本の女性は本当にひどい目に遭っていると。例えば店で出会って、アイ・ライク・ユーなどと日本人はシャイだからあまり言わないけれども、米兵は言うわけですよ。いい感じになって、俺のアパートに遊びに来ないかと言われて行ったら、そのアパートに56人の米兵がいて集団で暴行されたりとか。そういう話をもう何度も聞いたと言っていました。でもそういう被害に遭ったことは警察に言うこともできないし。ママさんは、日本人の女は馬鹿だと、簡単にだまされてしまうと言っていましたけれども、そうだとしてもそんなことが許されるわけじゃないですね。そういう表に出てこない被害、数字に出てこない被害が本当にたくさんあることを感じました。

2.日米安保体制の核心をなす裁判権放棄問題

 米兵にとっては18歳とか20歳とかで初めて海外に出て、慣れない土地で厳しい訓練をしながら生活するというのは、非常にストレスがあるわけですね。ついこの間亡くなられたチャルマーズ・ジョンソンさんという、CIAの顧問も勤められた方が、こういうふうに指摘しています。

「生まれてこのかた見たこともなく、まったく理解できない風土のなかに、18歳から24歳までの若いアメリカ人が数千人規模で配備すれば、米軍基地を受け入れた諸国を悩ませる事件が絶え間なく頻発して問題になる。米国大使は駐留国当局を訪問し、兵士たちの不始末を謝罪する。この光景がたちまち定例行事になってしまう。親しい同盟関係にある英語圏の国であってさえ地元住民は、外国兵の性的暴行と飲酒運転に眉をひそめる。イギリス人は米兵を、『金遣いが荒すぎ、性欲が出すぎ、駐留が長すぎ』と皮肉った。今も何も変わっていない。」

 本当にもう兵士たちにはストレスがあって、犯罪は起こるべくして起きている。基地を置いている限り、米兵犯罪はなくならない。それを前提にしたときに、アメリカ軍としてはどういう政策を採るべきかとして考えられたのが、裁判権放棄密約というものです。

 これはなにも日本だけではなくて、米軍は世界中に米軍基地を置いている国に対して要求しています。ホームページを検索しても出てきます。アメリカ国防総省の司令書の中にも、こういうものがあります。「駐留国当局との関係、手続を確立し、諸協定の許す範囲で、米側の裁判権を最大化しなければならない。」アメリカにとってはそれが司令官の義務なんですね。米軍基地を受け入れている国がなるべく裁判権を行使しない、裁かないための秘密な取りきめを最大限にするというのが、アメリカの基本方針になっています。

 これは何故かというと、そこに基地を置いている限り米兵たちは犯罪を犯す。そのときにその国の法律で裁かれて、兵士たちがその国の刑務所で収監されるようなことになってしまえば、軍全体の士気に関わるというわけです。これはなにも僕が勝手に言っているわけではなくて、密約の結ばれた当時の外務大臣の岡崎勝男さんという方がこういうふうに言っています。「米側は(守ってやっているのだから)刑事裁判権などは、全部米軍の管轄にする位の礼を尽くすのは当然だし、いちいち外国の裁判にかけられるのでは米軍の士気にも影響するという意識が強かった」。

 軍にとっては被害者の人権よりも、まず軍の戦闘能力を維持するために、軍人たちの士気を優先するわけです。これは日本の自衛隊もそうで、北海道で航空自衛隊の駐屯地で上官に性暴力を受けた女性自衛官が裁判を起こしましたけれども、彼女は上官に最初に事件について相談したときに、「自衛隊が被害者のお前と男の加害者のどっちをクビにするかといったら、どっちだと思う?」と言われたという話があります。そういう思考が常に働くところが軍というところです。

 53年にNATO地位協定をアメリカ議会で批准したときに、付帯決議を上げています。そこで何と言っているかというと、駐留米軍の司令官は、被告が米国では与えられるべき憲法上の権利を保障されないと判断する場合は、受け入れ国当局に裁判権を放棄することを要請する、と。まあアメリカでは何でもそうですけれども、自分たちの刑事制度、法制度がいちばん民主的で進んでいると、外国の遅れた法制度、刑事制度のもとで、国を守るためにわざわざ海外にまで行っている若者たちが裁かれるのは耐え難いと考える。こういう付帯決議を付さなければ、NATO協定を批准できないような状況だったんです。

 アメリカは全世界中に基地を置いているわけですけれども、基地を置くことと切り離せないものとして、裁判権を放棄させる取りきめが存在しているという関係になると思います。これを証明しているいくつかの事例があるんですが、2つ紹介します。

 ひとつは1976年にタイが米軍基地を完全撤退させた話です。ベトナム戦争が終わってタイも政権が変わって、まずは軍事顧問団を残して米軍が撤退する合意がされます。タイ政府がその時に何を言ったかというと、これまでは裁判権は公務中についてはアメリカ側にあったわけですけれども、それをすべて、公務中だろうが公務外だろうがタイ側が裁判権を持つようにすると。アメリカはそれでは米軍を駐留させられないということで、軍事顧問団を含めて撤退しました。アメリカにとっては、それぐらい刑事裁判権は重大だった。

 もうひとつの事例は、1993年のドイツのボン補足協定の大幅な改定です。おおむねドイツの法律や主権を米軍基地や米軍の行動に適用するというふうに変えられるんです。だからドイツに比べて日本の地位協定は遅れているというような比較がされます。けれどもじつは、改定のときに刑事裁判権にはほとんど手が付けられなかった。ドイツではほぼ100%、放棄した。日本以上に米軍に対して放棄しているんです。

 こういう交渉の様子をいろいろ見ていくと、米側は刑事裁判権をなんとしても守る、これを変えさせない、そのために他の条項では譲歩するという立場を取りました。それはたとえば環境条項とかでは大幅に譲歩して、刑事裁判権については、あくまでも強くそこにこだわるんですね。民主党政権も地位協定の改定を提起すると言って、まずやりやすいところから、環境からやりましょうと言っていますけれども、ドイツの経験から学べば、環境だけで終わってしまう可能性が大いにあると危惧しております。

3.さいごに

 安保や基地に関しては賛否のいろんな意見を持っている方がいらっしゃいますけれども、犯罪を犯した米兵がきちんと裁かれないとか、日本の政府が被害に遭った市民を守るのではなくて加害者の米兵を守るというのは、これがいいと思う人はいないはずです。多くの人と手をつなげる問題ではないかなと思っています。ただ関心がまだなかなかない。関心を呼ぶということがまず大事だと思います。しかし本質的には、日本に米軍基地を置くかどうかという安保条約の核心に迫らざるを得ない問題、安保そのものについても向き合わざるを得ない問題です。

 いまアメリカ国内でも、世界中にこれからも基地を置き続けていいのかということが、問い直され始めています。これははっきり言うと経済的な要因なんですね。アメリカが世界に基地を置くためにどれだけのお金を使っているか、みなさんご存じでしょうか。じつは国家予算の約1割を使っているんです。一方でアメリカは財政赤字がすごいです。巨額な赤字を毎年作り出している。このままでは財政が破綻してしまうという危機感が、アメリカの中でも広がりつつあるんですね。つい最近、財政赤字をどういうふうに解決していくかというオバマ大統領の諮問委員会が、在外基地の3分の2を削減、という提言をまとめました。私たち日本国民にとってもチャンスだというふうに思います。

 なかなか複雑なのは、この北東アジアでは北朝鮮の問題とか中国の問題とかが起きて、まさに冷戦時代のような緊迫した状況が作り出されていることです。そういうことを含めて、刑事裁判権、安保条約、日本に基地を今後も今のような形で置かせ続けていいのかということを、多くの人たちと一緒に考えるチャンスが来ているのではないかなと考えています。

シンポジウムの記録 米軍人・軍属による事件被害を考える

報告2 中村晋輔

神奈川米軍犯罪国家賠償訴訟

私は八王子で弁護士をしております。先ほどの芦澤さんのお話に出た武蔵村山で起きた米兵の子によるロープ事件、これは東京地裁立川支部で判決が出たのですが、これは注目すべき事件だと思いました。判決内容のいい悪いは別として、共犯者の他の少年について日本側の裁判権放棄に基づくことが指摘されています。主犯以外の少年は家裁送致がなされないで釈放されたのです。少年事件の場合、全件家裁送致しなければいけないことが少年法に書かれているのですね。検察庁が法律に違反することを行っているということで、弁護側はかなり争いました。私は判決文を読んだわけではないのですけれども、新聞報道を見る限りでは、この裁判所はラフな判断をしているのではないかという印象を持ちました。主権国家が裁判権の行使・不行使を判断するのは当然のこととしたようなのですけれども、検察庁が家裁不送致を都合良く決めてしまっていることの問題点をどこまで考えていたのかと疑問に思います。米軍関係者の少年が日本国内で起こした刑事事件の取扱いについて、今まで争点として必ずしも明らかになっていなかったということもあり、注目すべき事件だと思います。

1.地位協定と損害賠償請求

 先ほど芦澤さんのほうからお話がありましたけれども、実際に公務外の米兵事件のほうが圧倒的に多いわけです。そして公務中の米兵事件についても問題はあるということが、最近明らかになっています。

 2005年の八王子のひき逃げ事件というのは、八王子市内で小学生3人がお弁当を買いに行こうと横断歩道を渡っていたところ、米兵が運転する車にはねられたという事件です。一人のお子さんは頭から血を出して入院をしたぐらいの重傷だったのです。当日、米兵は緊急逮捕されたのですけれども、公務証明書が発行されて、その日のうちに釈放されてしまいました。公務中の刑事事件は日本側に第一次裁判権がなく、日本側が裁判権を行使できずに、米海軍側の懲戒処分で終わってしまった。後でもお話ししますけども、公務中の事件の民事賠償については、日本側が責任を負う仕組みにはなっていますけれども、示談で終わってしまうことも多く、内容が明らかにならないことが多いのです。

 山崎正則さんの事件は、横須賀市内で、山崎さんの妻の佐藤好重さんが200613日に米兵に殺された事件なのですけれども、この加害者も米海軍の兵士です。公務外の事件ということで、日本側が刑事裁判権を持つことになり、横浜地裁で無期懲役刑の判決を受けております。米軍関係者が収容される横須賀刑務支所で服役していると思われます。米兵と国を相手にして、山崎さんが原告になって民事損害賠償請求をしているという状況です。

 損害賠償裁判を提起するに当たっては、日米地位協定が問題になります。公務中の場合は、日米地位協定185項に規定があり、被害者は、日米地位協定の実施に伴う民事特別法に基づいて日本政府に対して損害賠償請求することができることになっています。

 公務外の場合は日本政府が民事損害賠償責任を取らない仕組みになっています。アメリカ側による見舞金の支払いのみです。日米地位協定には「合衆国の当局は、遅滞なく、慰藉料の支払いを申し出るかどうかを決定し、かつ、申し出る場合には、その額を決定する」(186(b))とあります。実際に支払うかどうかはアメリカ側が決めることですし、いくらにするかもアメリカ側が決めます。防衛省の担当者が山崎さんに対し「金額はいくらでも書いていい」と言ったのは、そのような仕組みがあるからです。アメリカ政府が査定して見舞金を支払うことになっています。ただ報告書は日本側が作ったりするのですけれども。日本側が責任を取らない仕組みになっているのは、地位協定の規定によるものです。

 先ほど芦澤さんのお話にもありましたけれども、SACO合意というのができまして、米軍側の見舞金と裁判所の確定判決と、その差額を日本政府が支払うということになったわけです。運用上の努力というだけではなくて、実際に支払われているようです。ただ米兵を被告として裁判を起こさなければいけない。裁判所の判決もしくは和解を取らないと日本政府はお金を払ってくれない。これは被害者側にとっては大きな負担になっていると思います。

 米兵は、ほとんど体ひとつで日本に来ますから、財産を持っていないわけですね。そうすると判決で勝ったとしてもどうやって回収するかという問題が出てきます。SACO合意により、判決を取れれば見舞金との差額を日本政府が払うということにはなりましたけれども、そもそも裁判を起こすといったことには、かなり周りからの圧力や、米兵を相手にすることのプレッシャーがあります。それだけでなかなか被害者が立ち上がれないということで、SACO合意から10年ぐらいたった時点でも数件ぐらいしかこの制度が使われていないと言われています。

 

2.山崎裁判

 山崎さんの裁判の話になりますけれども、この事件は200613日の早朝、横須賀市において出勤途中の佐藤好重さんが、空母キティホークの乗組員に約10分間の暴行を受けて殺害され、現金約15000円を奪われたという事件です。10分というのは、かなりひどい暴行です。この米兵はベンチプレス177キロというぐらいの怪力の持ち主で、それを女性に対して爆発させた。刑事の裁判所が「執拗で残忍きわまりない」「冷酷非道と言うべきである」と言うぐらいの、悲惨な事件でした。この米兵には、20066月、横浜地裁で無期懲役刑が言い渡されています。

 20061020日に夫の山崎さんが、米兵と国を相手に民事損害賠償請求訴訟を提起しました。国を相手とする裁判は、まだ現在も続いています。米兵を相手にする裁判は少ないうえに、国を相手にするというのはかなり珍しい裁判です。かつて沖縄で城間さんという方が国を相手にしたことがありますけれども。

 われわれ弁護団として、公務外の事件をどう闘うかということで、米兵本人の責任というよりも、米海軍の上司らに責任があることを追及しています。米海軍上司らが、外出禁止措置、飲酒禁止措置、飲食店立入禁止措置をせず、パトロールをしなかった。そういった米海軍上司の監督義務違反を主張しています。

 民事特別法第1条の条文を読んでみますと、「アメリカ合衆国の陸軍、海軍又は空軍の構成員又は被用者が、その職務を行うについて日本国内において違法に他人に損害を加えたときは、国の公務員又は被用者がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合の例により、国がその損害を賠償する責に任ずる。」というふうに書かれています。「その職務を行うについて」と書かれているところからすると、公務外の米兵事件で、国を相手にして勝つということは、容易なことではありません。

 またこの民事特別法は、「国の公務員又は被用者がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合の例により」ということで、日本の公務員の場合と同じように国家賠償法の規定をそのまま準用しているのです。兵士というのは軍隊に24時間拘束されているわけですし、日米地位協定により特別な地位にあるわけですから、それを一般の日本の公務員と同じような規定で損害賠償責任を定めてしまっていいのかといった、基本的な問題があると思っています。

3.判決の意義と問題点

 山崎さんの裁判では11回の口頭弁論がありました。米兵本人を刑務所で尋問したり、在日米海軍司令部に対して、どのような米兵犯罪防止措置を取っているかという調査を実施したり、あとは横須賀市基地対策課の前課長を法廷に呼んだりしました。こちらが強く求めていた、在日米海軍司令官を法廷に呼んで証人尋問を実施することについては、裁判所が採用してくれませんでした。このような審理経過でした。

 結論として米兵に対しては勝訴判決だったのですが、国に対しては敗訴判決ということになりました。そもそも米兵に対して裁判を起こすケースは少ないので、山崎さんが、原告として立ち上がって提訴したこと自体が大きな成果だと思います。そのあと、山崎さんが立ち上がったことで他の被害者も提訴に至ったということがありました。

 裁判所が後発事件にも使える法的解釈を示したのは、かなり大きな成果でありました。在日米軍は日本国民の生命、身体等の安全を守ることをその使命の一つとしていること、在日米軍は日米安保条約及び日米地位協定により特別な地位に基づいて駐留していることを指摘した上で、判決はこう書いています。

「米海軍人が日本国民の生命、身体等に危害を加えた場合、当該行為が勤務時間外において職務の執行とは関係なく行われたものであったとしても、それが在日米海軍司令官の監督権限の不行使に基づくものと認められ、その監督権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事案の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、民事特別法1条等の適用上違法となり得る。」下線を引いたところが重要ですが、勤務時間外で職務外でも違法となり得るという解釈を示してくれたことは、大きな成果でした。

 国の側は、この裁判で何を言ってきたかといいますと、

「在日米軍人は、勤務時間外において、当該在日米軍陣の自発的意思に基づいて、職務執行に関係のない自由を享受することについて、基本的に在日米軍当局から拘束を受けるいわれはないのであって、在日米軍当局は、在日米軍人の勤務時間外の私生活上の全般を指揮監督するような権限を有していない。」

 長くて意味の分かりにくい文章なのですけれども、要は勤務時間外のことについては米兵個人の問題であると、そもそも勤務時間外の米兵事件だと違法になり得ない、というようなことを主張していたわけです。枠組み論としては、原告側が勝って、国の主張が認められなかったと言えると思います。

 さらには裁判所が米軍側の監督体制に苦言を呈しました。判決の理由として、次のことを言ってくれたということがありました。

「結果的に本件犯行が発生したことは遺憾ではある」「当裁判所は、本件のような不幸な出来事が繰り返されないよう、在日米海軍当局に限らず、在日米軍当局において、これまで米軍人による事件等の防止に向けて積み上げてきた経験を参考に、適切にその監督権限を行使し、その時々の状況に応じた有効な監督措置を講じていくことが必要であると思料するものである。」

 原告側に理解を示していることが書かれているわけです。違法とまでは言えないけれども、米海軍がちゃんと監督をやっていたとは認定しなかったということです。

 なぜ原告側が負けてしまったかという判決の問題点ですが、在日米海軍司令官の広範囲な裁量を重視したということです。どのような監督措置を取るかは、基本的に軍隊の司令官による、状況に応じた専門的・技術的な判断が必要であると。そういったことを重視して、本件についての監督義務違反を認めなかったのです。

 原告側が力を入れて主張・立証してきたのが軍隊の本質論です。原告側は、軍人だからこそ、このような悲惨な事件が起きた、米兵は軍人として訓練を受けて、人を殺すための訓練を日常的に受けているからこそ、今回のような事件を起こしたということを主張・立証してきたのですが、この点は、判決文ではまったく触れられていないです。横浜地方裁判所は、正しいとも間違いだとも言わず、裁判所として何らの判断も示しませんでした。

 米軍情報に対するアクセスの困難性ということもあります。米軍人が軍隊の中でどのような懲戒処分を受けたか、そういう軍隊の記録、ミリタリー・レコードとか言われているのですけれども、そういった文書を裁判所を通じて取り寄せようとしました。在日米海軍司令部からこの文書の提出を拒否されました。原告が努力しても、原告側の立証が不十分になってしまうという点で大きな問題があると思っています。

 被告を国とする損害賠償請求については、控訴審での審理が続いています。現在、東京高等裁判所で闘っています。3回の口頭弁論と3回の進行協議を行っています。淡路剛久先生という民法・環境法の著名な学者が横浜地裁の第一審判決について法律時報に論文を書いて下さっていて、基地被害の問題で被害者側に負担を負わせるべきではないという視点で書かれています。控訴審の準備書面で淡路先生の論文を引用させていただいております。控訴審において、米海軍が行っている外出禁止令とか飲酒禁止令の実態について、裁判所を通じて調査質問事項を出したのですが、在日米海軍は不十分な内容の回答をするにとどまりました。

 米軍は犯罪が起きると、「反省の日」とかいって、軍人などに対して外出禁止令を出すのです。でも、しばらくするとこれも解除してしまう。若い兵士に対しては「リバティ・カード」といいまして、カードの色分けによって、このカードを持っている兵士は外出していいとかいけないとかを分けているのです。海兵隊の場合は色が違うのですが、海軍の場合は青のカードを持っている人は門限なし、白のカードを持っている人は門限ありといった形です。

 好重さんを殺害した米兵は、横須賀市の「どぶ板通り」にあったバーで酒をかなり飲んだ上で、本件の犯行に至ったわけです。「オフ・リミッツ」と言いまして、飲食店や飲食店街を立入禁止にするといった措置も米軍は実施したりしています。

 そういった米軍による規制実態を明らかにして、2006年のこの事件当時、米海軍上司らが、米海軍軍人による事件防止のためにやるべきことをやっておらず、違法であるとの主張をしています。

4.他の諸事件

 田畑さんというタクシー運転手さんが暴行を受けたりした事件。この事件は好重さんに対する事件の後に起きた事件なのですが、米海軍当局が出した飲酒規制を破っていた米兵による犯行でした。米兵によるタクシー強盗事件は多発しています。田畑さんを殴った米兵は、横須賀ではパトロールが厳しいからと横浜まで行って飲んでいました。犯罪被害者の田畑さんに対する日本の捜査機関の対応がとてもひどくて、警察官が「アメリカでは体に触れた場合は人を投げても犯罪にならない」と嘘の話をして、被害届を出させないようにした。検事も「米兵を特定できないから起訴できない」と言って、事件化させないようにした。横浜の弁護士さんたちが抗議をしたところ、やむなく一人だけ起訴した。数人でタクシーに乗っていて、共犯者がいたのですけれども。しかも強盗傷害ではなくて傷害だけという、軽い罪で起訴をした、という事例です。

 中川さんに対する事件は、横須賀で起きた、在日米海軍人事部副部長の軍属による傷害致死事件です。米海軍関係者は日本でバーを経営してはいけないという米海軍の通達があるのですけれども、この軍属は、通達に違反して横須賀基地のゲートの前でバーの経営をしていたのです。お客さんを店の外に突き飛ばして死亡させたという事件ですが、この事件も、国の責任を追及して、いま横浜地裁で闘っています。

 このような米軍人等による犯罪というものは、沖縄だけではなくて神奈川でも多発しているのです。そこはみなさんあまり認識されないかもしれません。沖縄の場合はひとたび事件が起こると県民ぐるみで抗議が起きますけれども、なかなか神奈川でそこまで大きな抗議運動になっていません。ですが、実際には米軍人等による凶悪犯罪がかなり発生しています。好重さんの事件の後も、タクシー運転手さんに対する強盗殺人事件や、女性2人に対する殺人未遂事件が起きています。

 こういった犯罪の契機は、兵士自体が人殺し訓練を受けていることです。米兵は、敵の人間性を否定するような訓練、「キル! キル! キル!」とか「ブラッド! ブラッド! ブラッド」などと叫ばされたり、人殺しの訓練をしています。日本に来る米軍人には若者も多く、事件を起こすのは若い軍人が多いです。初めての他国での生活で、過酷な訓練をしているので、飲酒でストレスを発散して犯罪につながるといったことが起きています。大したことを犯さなければ処分されないだろうというような規範意識の低下もあると思います。

 また、米軍と国が行っている「良き隣人」政策ということがあります。佐藤好重さんは、加害者の米兵から「ベース」と横須賀基地へ行く道を尋ねられて、親切にも教えてあげたのです。そこをいきなり殴られたのです。米兵に対する警戒心がまったくないまま今回の事件が起きてしまった背景には、米軍と国が「米兵はいい人ですよ」という作戦をかなりやっているということがあります。空母キティホークという、山崎さんの妻を殺した米兵の所属する空母の兵士が、市内の掃除をしてアピールをしています。横須賀基地の開放は、かなり若い人たちにも人気がありますね。「ネイビーフレンドシップデー」とか「よこすかみこしパレード」とか、「グランドイルミネーション」とか、空母を見せたりとか、そういったことを行って、軍隊の本質を覆い隠すようなことが実際に米軍基地のある地元横須賀で行われています。日本政府と米軍、さらには地方自治体が一体となってこういうことが行われています。他方で、犯罪の実態は表に出していません。そういうことが背景にあります。

 あと私どもが問題だと思っているのは、事件を起こした米軍関係者の受刑者が特別な待遇をされているということです。再び犯罪を起こさないように更生させるのが刑務所の役割なのはずですが、逆に優遇してしまっている。毎日シャワーとか、冬の暖房設備とか、食事の献立にステーキなど肉類が多くて、ケーキなどのデザートも多く付けている。補助食料が米軍から刑務所に入れられているのです。

 私は2人の米兵受刑者を尋問するために横須賀刑務支所の中に入ったのですけれども、2人とも血色がかなりいいのです。受刑者と思えなかったですね。食事がおいしかったとか施設がよかったというような日本人受刑者の話は聞いたことがないです。米兵受刑者を優遇する日本政府は、恥だと思いますし、多くの日本国民はこういったことを知らないですね。新聞報道でこの問題が取り上げられているのですが、日本政府は、国会で追及されても、長年そのままの状態にしています。

 いろいろ地位協定の問題はあるにしても、実際に行われている運用が問題なのです。米軍の犯罪の実態とか米兵を取り巻く状況とか、日米地位協定の条文に出てこない、すごく根深い問題があります。民主党は以前、日米地位協定の改定を言っていましたけど、今はあんまり言わなくなっているようですね。規定には出ていない問題がものすごくあるのではないかと、私はこの米軍人・軍属の損害賠償請求訴訟を通じて感じています

シンポジウムの記録 米軍人・軍属による事件被害を考える

報告1 芦澤礼子

米軍人・軍属による事件被害

1.海老原大祐さんと「被害者の会」

 今日は専門家がお二人いらっしゃいますので、専門的なことはあとのお二人にお任せして、現場でどのようなことをやってきたかということを中心にお話をしたいと思います。

「米軍人・軍属による事件被害者の会」は、できましたのが199617日です。この1996年という年がどういう年か、というのをちょっと振り返ってみましょう。その前年の1995年に何が起こったか、みなさん、気が付いた方は? 1995年、何が起こったでしょう。

 沖縄の婦女暴行事件という声がありましたけれども、そうです。1995年の9月に沖縄で米兵4人による小学校6年生の女の子の暴行事件がありました。そのときに沖縄では8万人の人々が集まって、抗議の県民大会が行われて、アメリカ政府と日本政府がそれによって協議を始めまして、96年にSACOというものができました。SACOとは「沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会」のことで、在沖米軍基地の整理・縮小問題を協議するために1年間の期限付きで1995年の11月に設置されたものです。

 その協議が行われているまさにそのとき、1996年の2月に、海老原鉄平さんが沖縄県の中城村でバイクに乗車中に、右折してきた乗用車が衝突して、翌日死去されるという事件が起こりました。加害者は米海軍所属の上等兵でした。海老原さんは当時19歳、大学進学のために沖縄に渡って浪人生活をしていて、ちょうど受験が終わったときにこの事件に遭って、亡くなりました。父親の海老原大祐さんはそのときに兵庫県の高校の先生をされていましたが、そのときに初めて日米地位協定というものに向き合うことになったのです。

 ここに『日米地位協定 基地被害者からの告発』という、岩波のブックレットで出ているものがあります。もうかなり前のものですけれども。ここに海老原大祐さんの手記が載っています。私も読んで涙が止まらない、なんていうことだろうというふうに思ったんです。冒頭、こういうふうな表現になります。

1996222日夜7時過ぎ、食事中の自宅に突然の悲報が届きました。沖縄県宜野湾警察署からです。『お宅の息子さんが交通事故に遭われまして……、現在意識不明の重体です……。相手は米軍人さんです……』。電話に出た妻は驚くというより頭の中が真っ白になったようでした。妻から夜間定時制高校に勤務する私に連絡がきた時のようすで、それは察することができました。『とにかく落ち着くように』としかいいようのない私も、内心穏やかではなく全身が凍りつく思いだったのです。」

 米軍人・軍属を相手の事故に遭った人がどういうような思いをするかというと、相手が米軍関係者であるということが分かった時点で、もうパニックに陥ってしまうということが大部分なのです。海老原さんはいろいろな被害者の方にこの後お会いするんですけど、皆さん大体同じような状況だったそうです。

 この事故があった次の日、一睡もせずに海老原さんたちは息子さんの遺体に対面するために沖縄に向かいます。そして那覇空港に着いたときに、米軍関係者が「迎えに行きます」と言ったのに20分も待たせて、そのうえ米軍の法律顧問という日本人が一緒に来ていたんですね。その人が何と言ったかというと、「中部病院では事故を起こした米兵が謝罪したいと待っています。上司も一緒です。ぜひ受けてください」。そのあと、「補償金については日米地位協定に基づき、私たちが責任を持ってお支払いをします。弁護士は立てないほうがいいですよ。お金がかかりますからね」。「まったく自分勝手に自分の都合ばかりを話す法律顧問にはあきれてしまいました」というのが海老原さんの述懐です。つまり「日本人の」法律顧問が、補償金については日米地位協定に基づいて責任を持って払うから、弁護士は立てないほうがいいですよ、とまず冒頭に切り出したんですね。

 そのあと、海老原さんは病院に行って息子さんに対面します。「加害米兵とその上司から謝罪を受けました。彼らは見舞金を持参し、手渡そうとしました。いったん私は断ったのですが、法律顧問の説得でやむなく受け取ることになりました。見舞金は米兵が1万円、上司が2万円でした。彼らは謝罪が終わると潮が引くように一斉に引き上げ、その後は米軍から何の連絡もありませんでした。息子の遺体を兵庫県の自宅に搬送する手立てや、告別式に参列すること、そして弔電すら一切なかったのです。」

 これが米軍と、それから米軍の窓口になるべき沖縄防衛局、そのときは那覇防衛施設局ですが、被害者たる海老原さん一家に対する対応でした。海老原さんが怒ったのは、米軍の仕打ちに対してももちろんですが、そもそも被害者の立場に立たなければならないはずの日本政府が、何をしたかということなんです。

息子さんの遺体を連れ帰るときに空港の片隅に2人のネクタイをした人物が立っていました。その人たちがそっと近づいてきて、「見舞金 那覇防衛施設局」と書いた袋を差し出しました。「しかし防衛施設局も見舞金を手渡すだけで、被害者に対する説明は当初一切ありませんでした。正式に連絡があったのは『四九日』を過ぎてからです。米軍同様、告別式参列や弔電の一つもありません」。日本政府側もこういう対応だったんですね。米軍だけではなくて、日本側もそうだったということが、海老原さんのその後の戦いの原動力であったわけなんです。

 亡くなって6日後に、息子さんの沖縄で借りていたアパートに、大学の合格通知が届きました。鉄平さんは沖縄国際大学に入るために一生懸命勉強して、そして合格を勝ち得たときにはもうこの世にいなかった。「悔しさと無念さで涙が溢れ出し、アパートの壁を何度も何度も叩いてそこら中に当たりちらしました」。「なぜあの米兵は連絡すらしてこないのだろう。那覇防衛施設局や米軍関係者からの連絡もどうなっているのだろう。疑問と不安と憎しみはつのるばかりです」。と海老原さんは書いています。

 で、海老原さんは関係者の方に「地位協定の勉強をしたほうがいいですよ」と勧められて、そして初めて地位協定というものを知り、そして裁判を起こすわけです。

 民事裁判を海老原さんは起こします。それと同時に被害者のみなさんを沖縄で訪ね歩いて、海老原さんを含めて4件の裁判を起こしました。412日に海老原さんは那覇地裁に提訴したわけですけれども、413日に「米軍人・軍属による事件被害者の会」というのが発足しました。

 米軍による犯罪というのは公務中と公務外で非常に扱いが違ってくるんですけれども、「被害者の会」の裁判は4件とも公務外の裁判でした。沖縄ではそれ以前もたくさんの米軍による事件・事故が起こっていたわけですけれども、この「被害者の会」の4件の裁判が起こるまでは、公務外の米軍犯罪に対する民事訴訟というのは、たった1件しか起こったことがなかったんです。そしてこの4件の裁判はいずれも勝訴しました。

2.米軍人・軍属による事件事故の発生数

 それでは米軍人・軍属による事件・事故というのは、年間に何件ぐらい起こっているのでしょうか。これは防衛相の統計で、「米軍人等による事件・事故数及び賠償金等支払実績」というデータです。日米安保条約、今年で改定されて50年になるわけですけれども、米兵等がこの間に引き起こした事件・事故の総数は役20万件超と言われています。そして年間ではこの10年間で、だいたい1500から2000件の間でずっと推移しています。そして表を見てお分かりのように、公務中と公務外では、圧倒的に公務外のほうが多くなっています。

年度       公務中件数 公務外件数     合計件数   うち沖縄             

2000        260     1,474       1,734            957

2001        345     1,388       1,733              951

2002        317     1,624       1,944             1,059

2003        315     1,764       2,079             1,159

2004        255             1,611       1,866           1,010

2005        239     1,516       1,755             1,012

2006        193     1,356       1,549              953

2007        224     1,288       1,512              953

2008        186      409        595              218

 そして沖縄の件数をごらんになって分かるとおり、沖縄が圧倒的に多くなっています。皆さんがご存じの数字だと思いますけれども、日本の米軍基地の75%が沖縄にある、その通りの数になっているわけですね。圧倒的に多いのは沖縄ですが、その次に多いのは、どちらだと思いますか。「神奈川でしょう」という声が出ました。防衛施設局は防衛施設庁の管轄でしたが、札幌、仙台、東京、横浜、大阪、広島、福岡、那覇の全国8箇所でした。2007年に防衛施設庁が防衛庁に統括されたために防衛局という名前になって、いまも北海道、東北、北関東、南関東、近畿中部、中国四国、九州、沖縄の8箇所に分かれているんですけれども、神奈川は南関東に入ります。統計上、沖縄の次に事件が多いのが南関東、3番目が北関東ということになっています。要するに沖縄の次に基地が多いのが神奈川、北関東というのは横田がそれに当たります。大きな基地があるところすべて、このように米軍人による事件・事故の件数が多いということが分かると思います。

 ただこの防衛省統計は、事件・事故のすべてを網羅しているわけではありません。示談で済ませている場合が非常に多いわけで、統計上に出てこない数が多いと考えてください、統計上に出ているだけでもこれだけあるということです。

 2008年からは統計の仕方が変わったようで、個人情報保護ということが関わっているというふうに共同通信の報道では出ていたんですけれども、2008年からちょっと少なくなっています。

3.日米地位協定とその問題点

 ここで地位協定について簡単に触れておきます。正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく……」と長いものですけれども、1960年の新日米安保条約に基づいて締結された協定です。地位協定というのは他国の軍隊が駐留するときには必ずあるものでして、韓国にもありますし、もちろんドイツにもありますけれども、どこでも他国の軍隊が駐留するときには必ず地位協定というものを作ります。

 日米地位協定は1952年に結ばれた日米行政協定を継承しているもので、内容的にもそれをずっと継承していて、ほとんど不平等条約がそのまま残っている形になっています。一度も改定されたことはありません。韓国の地位協定は改定されたことがありますけれども、日本では運用の改善という形でずっと推移しています。運用改善、運用改善と言いながら、なかなかその運用改善が効果を発揮しないというのが現状です。

 地位協定のなかで米軍人・軍属による事件被害関連の条項は、第17条、これは刑事裁判権に関する条項でありまして、あとは第18条、民事請求権に関する条項です。

 いま非常に問題になっているのは、被疑者の拘禁に関する問題ですね。犯罪を犯した米軍人・軍属を日本側で拘束できない事態がいま発生していまして、大きな問題になっているんですけれども、それが第173項の(c)と言われる条項なんです。読んでみますと、「日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は、その者の身柄が合衆国の手中にあるときは、日本国により公訴が提起されるまでの間、合衆国が引き続き行うものとする。」つまり犯罪者が基地の中に逃げ帰ってしまうと、起訴するまでは手出しができない、という状況になってしまうわけですね。

4.武蔵村山ロープ事件と地位協定

 ただ、この条項では「軍隊の構成員又は軍属」という表現になっていまして、この中には「家族」という言葉はひとことも入っていません。実は米軍の家族が引き起こす事故というのも非常に多いです。

「武蔵村山ロープ事件」というのは、2009年に発生した事件で、この間判決が出たばかりですけれども、米軍の子供4人による犯行です。で、この173(c)に関しては米軍人・軍属の子供に関しては規定がないにも拘わらず、武蔵村山ロープ事件に関しても息子たちが横田基地内に住んでいたということで、米軍がずっと引き渡さないというようなことが起こりました。米軍が引き渡さないのは、この173(c)にも違反しているということになりますね。地位協定に違反しているということです。

 なんでこのようなことが起こってしまったか、私は疑問に思いました。布施祐仁さんが書かれた『日米密約 裁かれない米兵犯罪』という本を私も読んだんですけれども、ここで地位協定に書かれていない密約が非常に解明されていました。

ご紹介したいのは、『地位協定の考え方』という外務省の機密文書です。これは日米地位協定の解説書、裏マニュアルと呼ばれているものなんですね。「琉球新報」が2004年のお正月、11日の紙面でこの存在について大々的にすっぱ抜いたんです。そのことが『日米不平等の源流』という本に詳しく書かれていて、読んでいくと、なんで日本はこんなに踏みつけられなければいけないのか、アメリカに日本側が譲歩して譲歩して譲歩する、日米地位協定の文面にもないような譲歩の仕方が、これでもかというふうに書かれていて、こちらの機密文書も広義では密約というふうに言えるのではないかと思います。

 173(c)のなかには米軍人・軍属の家族も当てはまる、家族も引き渡さなくていいんだということが、じつは機密文書の『地位協定の考え方』のなかに書いてあるということが分かりました。ああなるほど、これに基づいて武蔵村山ロープ事件でも家族を引き渡さなかったんだということが分かって、びっくりしたんです。家族についても、米軍人・軍属を「逮捕した場合と同様に取り扱われるべきものと解される」というふうな一文が、この『日米地位協定の考え方』のなかに書いてあるんですね。

私はいつも疑問に思うんですけれども、いま私は国会議員の秘書をやっていまして、毎日毎日、外が非常にうるさいんですね。尖閣列島のことですとか、北朝鮮による砲撃のこととか、毎日毎日ものすごくうるさい、「日本は弱腰外交だ」「菅直人は腹を切れ」と、すごい言葉がいっぱい出てくるんですけれども。中国や北朝鮮に対しては弱腰外交だと叫んでいる人々が、こういう日米地位協定のあり方、アメリカに対しては弱腰外交だとなんで言わないのか、と非常に思うわけなんですが。

 もうあまり時間がありませんので、「被害者の会通信」をご紹介します。これは2か月に1度くらいのローテーションで発行しています。最新号ではこの間の報道記事のまとめ以外に、読谷村でのひき逃げ事件についての記事があります。それから岩国市内でひき逃げ事件、これは被疑者が通勤途上であったということで、公務中という扱いをされています。公務中の場合は第一次裁判権は米軍にあって日本にはないという規定が地位協定のなかに書いてあるんですけれども、公務中であるか公務外であるかというのは、日本側の判断ではなくて、あくまでもアメリカ側の判断になるわけなんですね。結局、加害者は不起訴になったんです。この件に関して弁護士の方が書かれています。そして武蔵村山の事件に関する私の記事も入っています。

5.米軍犯罪対応マニュアル

「米軍犯罪被害者救援センター」というところがあります。私たち「米軍人・軍属による事件被害者を支える会」には「関東」と「関西」があったんですけれども、「関西」が名前を変更して改組しまして、いま「米軍犯罪被害者救援センター」という名前になっています。ここが『米軍犯罪対応マニュアル』というものを2010年、出しました。米軍犯罪に遭ったときにはどうすればいいかというマニュアルです。

先ほど言いましたように、米軍相手の事件・事故だとどうしたらいいか分からない、頭の中が真っ白になってしまうという人が多いなかで、これがあればどういうふうに対応したらいいのか分かります。公務外・公務中のそれぞれ対応の仕方が違うんですけれども、これを見れば分かるということになっています。どういう文書を防衛局に提出したらいいのかということまで、文書の書式が実物大で刷り込まれているので、これをコピーして使えばいいという、非常に便利なものになっています。これが便利に使われない世の中のほうがいいに決まっているんですけれども、今までこういうものが日本になかったんですね。

 実は被害者の会で韓国との交流がありまして、私も6年前、海老原代表と一緒に韓国の米軍犯罪の事故の被害者に会いました。韓国には「駐韓米軍犯罪根絶運動本部」というNGOがあり、この運動本部がこういうマニュアルをもう2004年の段階ですでに作成していたんですね。で、この韓国のマニュアルは、韓国政府から助成金を受けて立派なものを作って、それを各地に配布して、すぐに被害に遭った人には対応がとれる体制を作っていたんです。その時から、いつかはこういうものを日本でも作らなければいけないということで、ずっと検討してきて、今年作ったのがこちらです。

 CD-ROMが付いています。少しだけ、どういうものかとお見せしたいと思います。

「米軍関係者による事故・事件で被害にあったら」どうするか。「米軍関係者とのトラブルは他とは違う」。ふつう被害者は損害賠償を請求できますし、加害者は裁判にかけられます。「ところが、加害者側が米軍関係者だったら、その当然な対処が難しくなります」。「これは、日米地位協定で特別に定められているからです」。

 で、「裁判権はどうなっているか」。先ほど、地位協定の17条のお話がありましたけれども、要するに第一次裁判権のことがここに書かれていますね。公務中の事件・事故の場合は米軍側が第一次裁判権を有すると。

 このようにビジュアルですぐ分かるようなものを作成して、CD-ROM付きでなんと500円という破格の値段で販売しております。ぜひご覧下さい。

 とりあえず私の持ち時間は終わりましたので、ここで終わりにさせていただきます。ありがとうございました。

2011/01/01

2011年あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いいたします。ただいま、2月26日のシンポジウムに受けて準備を進めております。みなさまのご支援よろしくお願い申しあげます。

平和に生きる権利の確立をめざす懇談会 理事一同

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