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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

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2011/01/11

シンポジウムの記録 米軍人・軍属による事件被害を考える

報告3 布施祐仁

裁かれない米兵犯罪と密約の闇

0.くり返される性犯罪

 中村先生のお話にもありましたけれども、タクシー運転手の田畑さんが米兵を横浜駅まで乗せた。お金を払わずさっさと降りていったわけですね。それで追いかけて行ってマネー、マネーと言ったら拳骨で殴られて鼻の骨を折って、入れ歯が3つに砕けた。さらにマネーと言ったら、階段のところで投げ飛ばされた。警察が何を言ったかというと、アメリカの法律なるものを持ち出して、アメリカではちょっとでも触れたら殴られても仕方がないと。なるべく事件にしないようにするという配慮をしていたんですね。

 こういう話というのは田畑さんの事例に限りません。これまでも、日本人の場合だったら当然起訴されるような事件が、なぜか米兵の場合、不起訴になるという事例が、けっこう沖縄や横須賀であった。何かあるんではないかということが言われてはいたんですけれども、その背景に何があるのかということは、なかなか明らかにはなっていませんでした。

 それが明らかになったのは、一昨年、アメリカの国立公文書館で、米兵犯罪について、とくに日本で重要な犯罪以外は不起訴にすると、そういう密約の本文が見つかったからです。で、私も取材を始めました。

 私がこの取材を始めるきっかけになったのは、その密約が見つかったということもあるんですけれども、それと同時にひとりの米兵犯罪の被害者の訴えを直接聞いたことでした。その方は2002年に同じく横須賀で米兵に強姦された被害者、オーストラリア人のジェーンさん(仮名)です。

 ジェーンさんは2002年の46日の未明に米兵に暴行されます。横須賀基地の中に友人がいたので、すぐに基地に飛び込みます。横須賀基地から神奈川県警に通報が行きまして、警察官がやってくるわけです。オーストラリアでは小学生のころから、暴行されたときにどういう対応をしたらいいか、学校で習うらしいですね。まずは証拠をしっかり保存するのが大事、まずは病院に行くのが大事だということをジェーンさんは習っていた。だから警察に、病院に行きたいから救急車を呼んで欲しいと訴えた。ところが警官は全くそれに耳を貸さなかったんです。それどころか、犯人はあなたが探さないと事件にはなりませんよと言った。犯罪の直後で動揺しているなかでの冷たい発言です。

 その後、事情聴取をされるわけですけれども、ジェーンさんの話によれば、自分が被害者ではなく犯人のように扱われているのではないかと感じたということです。病院に行きたいと言っても行かせてくれない。取り調べに当たった男性警察官は、暴行されたときの様子を説明しても、ほとんどまともに聞いているとは思えない。午後3時になって解放された、10時間以上警察署で聴取を受けていたわけですけれども、その間、食事はおろか水1杯出て来なかった。「まるでゴミ扱いされてしまった」とジェーンさんは言っていました。

 結局、この事件は不起訴になるわけです。なので、この密約が見つかったときに、ジェーンさんは「やっぱりだ」と。これまで30年近く日本に住んできて、日本人は親切だというイメージがあったのに、なんでこの警察官だけはこんなにひどい、冷たい人間なのか、不思議に思っていた。何かあるんじゃないかと思っていたところ、密約が見つかって「やっぱり」という感想を述べられていました。

1.明らかになった裁判権放棄密約

 裁判権放棄密約というものが1953年に日米間で結ばれていました。その密約の一部を読んでみます。「日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがないと述べることができる」。こういう約束を、当時法務省の法務課長だった津田實さんという方が、日米合同委員会の分科会で署名している。

 なんでこういう密約が結ばれたかということですけれども、実はこの1953年の10月、日米行政協定が改定されるんですね。17条の刑事裁判権に関するところです。それまでの行政協定は、米兵が日本で犯罪を犯したら、すべて米軍側に裁判権があった、日本側はいっさい裁判権がなかったわけです。まことに占領時代そのままの協定となっていたんですね。しかしこの年に、アメリカの議会でNATO協定が批准されます。NATO協定は、公務外で起こった犯罪については米軍の受け入れ国の側に第一次裁判権があると規定しているんですね。なんで同じ独立国である日本が屈辱的な協定を結んでいなくちゃいけないんだという声が挙がるわけで、それで日本もNATO協定と同じように改定しようというようになります。

 実際に、現在の地位協定と同じく、公務外については日本側に第一次裁判権があるというふうに、表向きは協定を変えます。その裏で、形式的には日本側に第一次裁判権があっても、「いちじるしく重要な事件」以外は日本側はそれを行使しませんと、アメリカに約束していたんです。当時の新聞を読むと、「ようやくこれで日本も独立国になった」とか、「被害者が泣き寝入りすることは解消される」というふうに歓迎している。じつはそういう売り込みに隠れて、それまでと同じように日本側は裁判権を行使しない、米側が裁判権を行使するというように、密約を結んだということです。

 この文書が見つかったわけですけれど、当時は日本政府、自公政権ですけれども、その日のうちに、河村建夫官房長官が何を言ったか。「検察当局において法と証拠に基づいて適切に処理している。日本人による事件と米軍構成員による事件とで起訴すべきか否かの判断に差はない。昨年の起訴率を見ても、米軍構成員のほうが高くなっている。密約はないということは結果から明らかだと思っている。」密約はないんだと全否定しました。

 その根拠として彼が挙げたのが起訴率です。実際に米軍犯罪の起訴率のほうが日本人よりも高いんだから、そんな密約なんかあるはずがないでしょうと。しかし一方で、例えば横田の在日米軍司令部の、当時法務部国際法主席法務官だったソネンバーグさんが、2001年に発行された本の中で、こういう記述をしているんです。「日本は非公式な合意を結んで、『特別な重要性』がない限り、第一次裁判権を放棄することにした。日本はこの合意を忠実に実行してきている」。

 これからいっても河村官房長官の話はおかしいなと私は思いましたけれども、その段階ではじつは米軍犯罪の起訴率は公表されていなかったんです。法務省のホームページとかを見ても、そんなものはどこにも出ていない。唯一、国会での質疑応答を調べてみたんですけれども、社民党がこの問題を取り上げていて、起訴率のデータが出ていました。それを見ると、確かに2007年のデータで見ると、米兵犯罪は49%、日本全体で40%という起訴率で、米軍犯罪のほうが高くなっているんです。あれ、と思いました。しかし何かカラクリがあるんじゃないかとも思いました。

 情報公開法を使って、より詳細な統計の開示請求をかけました。当初、法務省はそんなものは存在していないと言ったんです。しかし日本という独立国に外国軍隊が駐留していて、その米兵らが犯罪を犯して、日本側がどういうふうに裁判権を行使したかということは、主権にかかわる重大なことです。その実態をつかんでいないなどということはまずあり得ないと私は思いましたので、ないはずはないだろうということで、請求を取り下げないで、そのまま進めて下さいと言ったんですね。

 最初私は罪種別の統計を請求したんですけれども、「罪種別はないけど都道府県別ならありますよ」とか、私の請求を変えさせようとするんですね。いろいろやりとりをして、5か月かかりました。

 最後に1年分だけ出してきたんです。「全部出せ」と言ったら、この統計は保存期間が1年間なので、過去の分は全て廃棄したと言うんですね。そうだとすると、50年以上にわたる日本の裁判権の実態はもう政府でさえ把握していない、記録さえ残っていないことになってしまう。そんなはずはないだろうと、今度は「コピーも含めて残っていないんですか」、と聞いたら、なにかモゴモゴ言っているんですよ。これは怪しいと思って、次にコピーも含めて出してくれと請求したら、コピーがありました、と言うんですね。

 罪名         米兵らの  不起訴人員数 起訴率 日本国内における      

                   起訴人員数                                     一般の起訴率

                                                       

公務執行妨害           0              10          0%            54%

住居侵入                  17                78         18%        51%

強制わいせつ               2                17         11%             58%

強姦                       8                23         26%             62%

殺人                       3                 1         75%             58%

傷害・暴行                  64               174         27%             58%

窃盗                      37               474          7%             45%

強盗                      33                13         72%             81%

詐欺                      0                39          0%             67%

横領                       0                36          0%             16%

自動車等による          427              2140         17%             11%

業務上過失致死傷                                                       

道路交通法違反         1889               249       88%             82%

                                                       

犯罪全体                   2692              3655       42%             46%

自動車による過失致死  376               1266       23%             54%

と道交法違反を除く犯罪                                             

 結局、01年から08年分の統計のコピーを出してきました。それで見えてきたのが表の罪種別のデータです。見ていただければ分かるんですけれども、いちばん右は日本全体の起訴率です。その左が米兵の起訴率。日本全体に比べて、きわめて米兵が低くなっているんですね。全体ではだいたい同じぐらいになるんですが、これは犯罪件数の圧倒的に多いのは交通犯だからです。スピード違反なら切符を切られて罰金を納めますけれども、裁判にかけられて刑務所に収監されることは、まずないですね。それを除いて計算すると、この表のいちばん下になります。米兵犯罪の起訴率23%、日本全体では54%。

 さらに密約の存在を裏付ける資料として日本側の資料もあります。法務省刑事局が昭和47年に発行した、米兵犯罪をどういうふうに検察官が処理するかのマニュアルなんですけれども、この中に密約とほぼ同じ内容が記されています。これに載っている1953107日の法務省刑事局長通達の一部を読みます。

「日本国に駐留する合衆国軍隊の地位ならびに外国軍隊に対する刑事裁判権の行使に関する国際先例にかんがみ、その運用上極めて慎重な考慮を払わなければならないものと思慮する。」「日本側において諸般の事情を勘案し、実質的に重要であると認める事件についてのみ、第一次裁判権を行使するのが適当である。」

 この資料は検察官向けのものとして秘密指定されているんですけど、国会図書館が古本屋から入手して公開していたんですね。それを新原昭治さんという方が見つけて共同通信に知らせて、ニュースになった。そうしたら法務省が国会図書館に、秘密文書だから公開するなと要請して、それ以降公開禁止処分になった。斎藤貴男さんなどがそれについて裁判をやって、再び公開されたんですけれども、かなり大事なところを黒塗りにされた状態で公開されています。

 ここにいろんな秘密の約束があります。例えば先ほど少年事件の話がありましたけれども、少年事件については米兵犯罪の場合は家裁に送致しないで不起訴にしなさいと、ちゃんとここに書いてあるんです。

 この法務省文書に、日本側に裁判権があるにもかかわらず不行使にするひとつの理由として挙げているのが、米軍側に処分を委ねたほうが有効だと判断した場合と書かれている。実際に日本側が裁判権を放棄した場合は米側に裁判権が移るんですけれども、米側がどういうふうに裁いているかというと、やはり非常に甘い処分になっています。

 例えば、06年から08年まで3年間の統計ですけれども、日本側が裁判権を行使しないで不起訴にした1058人中、米軍が軍法会議にかけたのはたった10人しかいない。軍法会議まではかけないけれども、上官が懲戒処分にするという、レベルの低い処分の仕方があるんですが、どれだけ処分しているかは日本政府はいっさい把握していない。つまり犯罪を犯した米兵をどのように米軍が処分しているかについて、日本政府はいっさい把握していない。これは犯罪を繰り返させないためにどういう政策を持つかということを、放棄していると感じています。

 先週、佐世保に行っていました。佐世保で日本平和大会という集会があったんですけれども、そこにアフガニスタンのジャーナリストを呼んだんですね。私、ずっと一緒に行動していたんですけれども、大会が終わったときに、彼がナイトクラブに行きたいと言うんです。それで連れて行ったんですよ。そしたら米兵だらけなんですね。そのナイトクラブはビルの上階にあるんですけれども、エレベーターを降りた瞬間、迷彩服を着た米兵が6人ぐらいフロアにいるんです。パトロール中のMP(憲兵隊)でした。アフガニスタン人の彼を米兵だと勘違いしたんでしょう、「この店には女も酒もたくさんあるぜ」みたいな感じで言うわけです。MPという取り締まる立場の、監督責任のある米軍が、兵士たちがナイトクラブに行って酒と女を手に入れるということを、もう当たり前だと思っていることを象徴しているなと感じたんです。

 その後、もう1軒違う店に行ったんですね。ママさんがいろんな話を聞かせてくれたんですが、佐世保はあまり犯罪が起こっていないというふうに表向きはイメージがあるんですけれども、表には出てこないけれども、日本の女性は本当にひどい目に遭っていると。例えば店で出会って、アイ・ライク・ユーなどと日本人はシャイだからあまり言わないけれども、米兵は言うわけですよ。いい感じになって、俺のアパートに遊びに来ないかと言われて行ったら、そのアパートに56人の米兵がいて集団で暴行されたりとか。そういう話をもう何度も聞いたと言っていました。でもそういう被害に遭ったことは警察に言うこともできないし。ママさんは、日本人の女は馬鹿だと、簡単にだまされてしまうと言っていましたけれども、そうだとしてもそんなことが許されるわけじゃないですね。そういう表に出てこない被害、数字に出てこない被害が本当にたくさんあることを感じました。

2.日米安保体制の核心をなす裁判権放棄問題

 米兵にとっては18歳とか20歳とかで初めて海外に出て、慣れない土地で厳しい訓練をしながら生活するというのは、非常にストレスがあるわけですね。ついこの間亡くなられたチャルマーズ・ジョンソンさんという、CIAの顧問も勤められた方が、こういうふうに指摘しています。

「生まれてこのかた見たこともなく、まったく理解できない風土のなかに、18歳から24歳までの若いアメリカ人が数千人規模で配備すれば、米軍基地を受け入れた諸国を悩ませる事件が絶え間なく頻発して問題になる。米国大使は駐留国当局を訪問し、兵士たちの不始末を謝罪する。この光景がたちまち定例行事になってしまう。親しい同盟関係にある英語圏の国であってさえ地元住民は、外国兵の性的暴行と飲酒運転に眉をひそめる。イギリス人は米兵を、『金遣いが荒すぎ、性欲が出すぎ、駐留が長すぎ』と皮肉った。今も何も変わっていない。」

 本当にもう兵士たちにはストレスがあって、犯罪は起こるべくして起きている。基地を置いている限り、米兵犯罪はなくならない。それを前提にしたときに、アメリカ軍としてはどういう政策を採るべきかとして考えられたのが、裁判権放棄密約というものです。

 これはなにも日本だけではなくて、米軍は世界中に米軍基地を置いている国に対して要求しています。ホームページを検索しても出てきます。アメリカ国防総省の司令書の中にも、こういうものがあります。「駐留国当局との関係、手続を確立し、諸協定の許す範囲で、米側の裁判権を最大化しなければならない。」アメリカにとってはそれが司令官の義務なんですね。米軍基地を受け入れている国がなるべく裁判権を行使しない、裁かないための秘密な取りきめを最大限にするというのが、アメリカの基本方針になっています。

 これは何故かというと、そこに基地を置いている限り米兵たちは犯罪を犯す。そのときにその国の法律で裁かれて、兵士たちがその国の刑務所で収監されるようなことになってしまえば、軍全体の士気に関わるというわけです。これはなにも僕が勝手に言っているわけではなくて、密約の結ばれた当時の外務大臣の岡崎勝男さんという方がこういうふうに言っています。「米側は(守ってやっているのだから)刑事裁判権などは、全部米軍の管轄にする位の礼を尽くすのは当然だし、いちいち外国の裁判にかけられるのでは米軍の士気にも影響するという意識が強かった」。

 軍にとっては被害者の人権よりも、まず軍の戦闘能力を維持するために、軍人たちの士気を優先するわけです。これは日本の自衛隊もそうで、北海道で航空自衛隊の駐屯地で上官に性暴力を受けた女性自衛官が裁判を起こしましたけれども、彼女は上官に最初に事件について相談したときに、「自衛隊が被害者のお前と男の加害者のどっちをクビにするかといったら、どっちだと思う?」と言われたという話があります。そういう思考が常に働くところが軍というところです。

 53年にNATO地位協定をアメリカ議会で批准したときに、付帯決議を上げています。そこで何と言っているかというと、駐留米軍の司令官は、被告が米国では与えられるべき憲法上の権利を保障されないと判断する場合は、受け入れ国当局に裁判権を放棄することを要請する、と。まあアメリカでは何でもそうですけれども、自分たちの刑事制度、法制度がいちばん民主的で進んでいると、外国の遅れた法制度、刑事制度のもとで、国を守るためにわざわざ海外にまで行っている若者たちが裁かれるのは耐え難いと考える。こういう付帯決議を付さなければ、NATO協定を批准できないような状況だったんです。

 アメリカは全世界中に基地を置いているわけですけれども、基地を置くことと切り離せないものとして、裁判権を放棄させる取りきめが存在しているという関係になると思います。これを証明しているいくつかの事例があるんですが、2つ紹介します。

 ひとつは1976年にタイが米軍基地を完全撤退させた話です。ベトナム戦争が終わってタイも政権が変わって、まずは軍事顧問団を残して米軍が撤退する合意がされます。タイ政府がその時に何を言ったかというと、これまでは裁判権は公務中についてはアメリカ側にあったわけですけれども、それをすべて、公務中だろうが公務外だろうがタイ側が裁判権を持つようにすると。アメリカはそれでは米軍を駐留させられないということで、軍事顧問団を含めて撤退しました。アメリカにとっては、それぐらい刑事裁判権は重大だった。

 もうひとつの事例は、1993年のドイツのボン補足協定の大幅な改定です。おおむねドイツの法律や主権を米軍基地や米軍の行動に適用するというふうに変えられるんです。だからドイツに比べて日本の地位協定は遅れているというような比較がされます。けれどもじつは、改定のときに刑事裁判権にはほとんど手が付けられなかった。ドイツではほぼ100%、放棄した。日本以上に米軍に対して放棄しているんです。

 こういう交渉の様子をいろいろ見ていくと、米側は刑事裁判権をなんとしても守る、これを変えさせない、そのために他の条項では譲歩するという立場を取りました。それはたとえば環境条項とかでは大幅に譲歩して、刑事裁判権については、あくまでも強くそこにこだわるんですね。民主党政権も地位協定の改定を提起すると言って、まずやりやすいところから、環境からやりましょうと言っていますけれども、ドイツの経験から学べば、環境だけで終わってしまう可能性が大いにあると危惧しております。

3.さいごに

 安保や基地に関しては賛否のいろんな意見を持っている方がいらっしゃいますけれども、犯罪を犯した米兵がきちんと裁かれないとか、日本の政府が被害に遭った市民を守るのではなくて加害者の米兵を守るというのは、これがいいと思う人はいないはずです。多くの人と手をつなげる問題ではないかなと思っています。ただ関心がまだなかなかない。関心を呼ぶということがまず大事だと思います。しかし本質的には、日本に米軍基地を置くかどうかという安保条約の核心に迫らざるを得ない問題、安保そのものについても向き合わざるを得ない問題です。

 いまアメリカ国内でも、世界中にこれからも基地を置き続けていいのかということが、問い直され始めています。これははっきり言うと経済的な要因なんですね。アメリカが世界に基地を置くためにどれだけのお金を使っているか、みなさんご存じでしょうか。じつは国家予算の約1割を使っているんです。一方でアメリカは財政赤字がすごいです。巨額な赤字を毎年作り出している。このままでは財政が破綻してしまうという危機感が、アメリカの中でも広がりつつあるんですね。つい最近、財政赤字をどういうふうに解決していくかというオバマ大統領の諮問委員会が、在外基地の3分の2を削減、という提言をまとめました。私たち日本国民にとってもチャンスだというふうに思います。

 なかなか複雑なのは、この北東アジアでは北朝鮮の問題とか中国の問題とかが起きて、まさに冷戦時代のような緊迫した状況が作り出されていることです。そういうことを含めて、刑事裁判権、安保条約、日本に基地を今後も今のような形で置かせ続けていいのかということを、多くの人たちと一緒に考えるチャンスが来ているのではないかなと考えています。

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