読む・読もう・読めば 112
老子を読もう
1月5日、オバマ政権は「米国のグローバル・リーダーシップを維持する」と題した文書を発表し、前年2月のQDR(4年ごとの国防計画見直し)文書を修正した。QDRは20年後まで見通した計画文書だから、わずか1年後の修正は異例だ。ここでは中東ではなくアジア太平洋が「最優先」課題とされている。米中が軍事的に覇権競争の時代に入ったということか。しかしこの2月14日のオバマ・習近平会談では、競争的共存のための擦り合わせが行われている。中国は米国国債の最大保有国だし、最重要な貿易相手国だから、米中全面戦争などできるはずがない。しかし軍には軍の論理があるから、かつての米ソの場合と同様な地域的軍拡競争が行われ、代理戦争的な小競り合いも想定されるのだろう。
かつての中国の指導者たちはみな古典の教養が深かった。毛沢東は「愚公山を移す」と、『列子』を引いて人民の勝利を語ったし、蒋介石は「恨みに報ゆるに徳を以てす」と『老子』を引いて対日賠償請求を退けた。二世政治家の時代になったいまの中国の指導者たちは、どうだろうか。台湾や南海の「核心的利益」に対する干渉は武力をもっても排除する、という姿勢は、中国古典の「徳」や「仁」や「道」よりも、むしろ「満蒙は日本の生命線」という少し昔の日本の姿勢に似ている。
『老子』は春秋戦国時代の老聃の著作ではなく、道家集団が長い年月をかけて今に伝わる形に編纂したものと言われる。「老荘思想」から道教へ、という流れとはまったく別に、本来の『老子』は統治論であり、帝王学だ。しかも弁証法に基づく主体性論として読める。いまの中国の指導者たちにぜひ読んでほしいのは、第80章の小国寡民論と、30章の覇権否定論だが、まあ無理でしょうね。それぐらい知ってるよ、と言われてしまうだけか。30章の冒頭だけ引いておく。「以道佐人主者、不以兵強天下。其事好還。」奥平卓さんの訳(徳間書店『中国の思想』Ⅵ)によれば以下のとおり。「『道』にのっとって君主を助ける者は、武力に頼って覇者となる策を取らない。むしろ兵を引いて、他国と争うまいとする。」
(2010年2月16日)

