読む・読もう・読めば 113
あたご事件控訴審傍聴記1
イージス艦「あたご」の2自衛官を無罪とし、衝突の原因は漁船「清徳丸」が直前に右転したことにあると判定した昨年5月11日の横浜地裁不当判決から9か月余。東京高裁で2月23日、控訴審の初公判が行われた。平成23年(う)第1545号、第12刑事部に係属。井上弘通(裁判長)、山田敏彦・佐々木直人の3裁判官の合議。海難審判や地裁公判では傍聴券の抽選が行われたが、今回はそれもない。それだけ世間の関心は薄れてしまったということだ。しかし私たちは、軍艦が民間船を追い散らすような、軍事優先の海を許したくない。いつまでもあたご事件を追及し続ける。
広い第102号法廷の傍聴席は報道陣や関係者を含めても30人余で、空席が目立った。自衛隊側からは舩渡健前艦長など、被害者側からは遺族関係者3名が傍聴席に並んだ。13時30分開廷。後瀉桂太郎(元航海長)・長岩友久(前水雷長)の両被告への人定質問。2人は判決確定を待たずにすでに自衛隊に復職している。
続いて控訴趣意書提出。検察側は吉田幸久検事ひとりだけ(吉田幸久検事)で、要旨を読み上げることもしない。控訴趣意書は公表されないから、傍聴人にはまったく話の筋が見えない。報道が、たとえば日経新聞が「検察側は『一審判決が独自に認定した清徳丸の航跡は、不自然な方向転換をしなければたどりえない極めて不合理なものだ』と強調。あらためてあたごに回避義務があったと主張した」と書き、あるいは神奈川新聞が「検察側は『原判決は明らかな事実誤認がある』と、一審判決の破棄を求めた」と書いているのは、渡された報道資料をもとに書いているのであって、公判では検事は何も語っていない。
続いて被告弁護人(地裁と同じ峰主任弁護士など5人組)が激しい調子で答弁書要旨を読み上げた。控訴趣意書は原判決の不合理を具体的に示していない。検察の清徳丸航跡の特定法は、誘導尋問によるものだ。証拠の取捨選択が恣意的だ。検察は必要な捜査を怠り虚偽の主張を重ねている。棄却を求める。
検察側は新たに5人の証人調べを申請、被告側の全不同意で、打合せのためいったん休廷。14時45分再開。結局、3人の証人調べが採用された。私たち平権懇主催の2回のあたご事件集会に参加・報告してくださった、日本海事補佐人会会長の田川俊一弁護士は、検察側が証人申請をしたにもかかわらず留保となった。採用された証人に対しても、検察側の主尋問が各30分要求であるのに対して、弁護側の反対尋問は各120分。嫌がらせに近い。次回以降、3回の公判が予定されている。4月3日、5月15日、5月30日、いずれも13時30分から。
地裁では公判前整理により、あたごの見張りの不備と、清徳丸の航跡に争点が絞られた。事故当時仮眠中だった艦長も、証拠隠しの疑いのある海上自衛隊幹部も責任を問われなかった。あたごが事故直前まで清徳丸の存在に気づかず、海上衝突予防法に定める避航船(衝突を避けるため進路を変える義務のある船)であるにも関わらず進路を変えなかったことは明らかであるのに、その責任は問われなかった。だいたい、大事な若い跡取りを乗せた漁船が、わざわざ軍艦に体当たりするように進路を変えることなどあり得るだろうか。事故直前の清徳丸の航跡には決定的な証拠が何もないのだから、大状況、すなわちあたごが避航船であることを重視した、常識的な判決が下されるべきだったと思われる。今回、井上裁判長はどのように裁くのか、引き続き注目したい。 (2012年3月1日)
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コメント
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本コラムだけでしか、「あたご事件」の東京高裁控訴審公判について詳細を知ることができないは悲しいが事実だ。事件それ自体をめぐる力関係は明らかに不利であるように思えるし、法曹界全体もこのところ問題多発である。証拠を改ざんしてまで厚生省高官を逮捕した障害者郵便制度悪用事件や陸山会事件の小沢“金脈”訴訟でも検察側のダメさ加減が白日の元にさらされているし、大阪では弁護士資格をもつ市長が職員の思想調査を是としたり憲法改悪さえも公言している。裁判所もどうなっているのか、法曹界の信頼が失われているなかで、この裁判もどうなっていくのか、前途を楽観できない。
他方、軍事問題を巡り年末から嫌なニュースばかりだ。国会での議論もなしに無論国民への説明もなく一遍の官房長官談話で武器輸出三原則を緩和し、早速英国との間で新兵器共同開発に着手するようだ。目下検討中なのはPKO武器使用基準の緩和。この2点ともに昨年9月ワシントンで前原がしゃべっていたこと。「売国」とは言いたくはないが・・・
投稿: 小幡利夫 | 2012/03/06 11:06