読む・読もう・読めば 122
第3次アーミテージ報告
8月15日、米国の民間シンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)は「日米同盟」と題する文書を発表した。〈http://csis.org/publication/us-japan-alliance-1〉2000年、2007年のものに続く、第3次アーミテージ報告ということになる。副題Anchoring Stability in Asiaでは、なんだか「安定」が重複している感じだが、「アジアの安定性を確固たるものにする」というような感じだろうか。要するに近く始まる第3次日米ガイドライン策定協議のための叩き台のような文書だ。著者として表紙に掲げられているのは、毎度おなじみリチャード・アーミテージとジョセフ・ナイ。発表時の映像を見るとお二人とも老けてきたが、今なお米国民主・共和両党相乗りで対日本政策の基本をつくるジャパン・ハンドラーの重鎮なのだろう。
同報告は序文からすでに挑発的で、「日本は一流国であり続けることを望むのか、二流国に転落するのか」と問うている。一流国とは何かといえば、経済力、軍事力、グローバル・ビジョン、そして国際的指導力の4条件を備えるものだという。台頭する中国、緊張する東アジアにありながら首相がコロコロ替わって何の対応もできないのは情けない、ということだろう。一流国に止まりたければ日米同盟強化のためにもっと応分の負担をせよ、という結論が最初から透けて見える。しかし冷静に考えれば、戦後日本政府は一貫して米国追随を続けてきたからこそ、グローバル・ビジョンも国際的指導力も育たなかったのではないか。
同報告の本文はエネルギー安全保障、それも原発から始まる。世界の脱原発世論の高まりに危機感を覚えているのだろう。「原子力は日本の包括的安全保障に必須」という主張は、米国から日本へ技術移転した原発輸出ビジネスの分野で、中国に負けては困るという、米国の都合からか。続けて天然ガス、メタン・ハイドレードときて、最後が石油、というのは意外(世界の石油争奪戦はそろそろ終わりということか、日本は戦力外ということか)だが、ここには再生可能エネルギーは出て来ない。次章の「経済・貿易」ではむろんTPP推進。
次章「近隣諸国との関係」では、真っ先に韓国が出て来る。朝鮮半島から撤退しつつある米国は、日本と韓国の協調による北朝鮮対応(核を含めた)に期待しているわけだ。歴史問題で日韓がぎくしゃくしているなら、米国を加えた3国の非公式有識者会議を活用してはどうか、とまで提案している。1964年、日韓会談の最終場面で米国の仲介が役立ったことを想起しているのだろう。
これに対して続く対中国の節は、いまひとつ明快でない。が、次章の「新たな安全保障戦略に向けて」では、中国軍拡の脅威に対抗するために、米軍のエアシーバトルと自衛隊の動的防衛力による共同対処を求めている。このあたりは最近の日米共同演習の実態分析と併せて、さらに読み込むことが必要だ。集団的自衛権行使が共同対処の障害になっている、という強調は従来どおり。そして普天間問題で「過去にとらわれず」と書いているのは微妙なところだ。
こうしてざっと第3次アーミテージ報告を見てくると、日米同盟に関する、つまり軍事に関する勧告文書でありながら、日本の政治・経済・外交のすべてにわたって、米国はまだ日本を属国としておきたいことが良く分かる。しかしこれは対日文書であって、米国の対東アジアの中心は中国、という姿勢がより明らかになれば、日本は都合良く使い捨てられることになるのだろう。ジャパン・ハンドラーも世代代わりしつつ、米国内での力もまた衰退していくのだろう。まさに日本のグローバル・ビジョンが問われているのだと思う。
(2012年9月1日)
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保守のシンクタンクCSISに対するリベラル側にはBrookings Institionがある。ルーズベルト大統領のニューディール政策に貢献した。もっと有名なのが外交問題評議会Council of Foreign Relations。ジョージ・ケナンの冷戦論文を掲載した雑誌Foreign Affairsを出版。英国には王立国際問題研究所Royal Institute of International AffairsとMilitary Balanceを出版している国際戦略研究所International Institute for Strategic Studiesがある。スウェーデンにはSIPRI年鑑で有名なストックホルム国際平和研究所Stockholm International Peace Research Instituteがある。それぞれ影響力が大きいようだ。
投稿: 小幡利夫 | 2012/09/04 17:30