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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

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2013/03/24

安倍改憲政権の矛盾について

安倍改憲政権の矛盾について 

主に軍事的側面から

大内 要三

1  安倍政権のシナリオへの疑問

 昨年(2012年)12月の総選挙で改憲をマニフェストに掲げる自民党が絶対多数の議席を占める結果となり、第2次安倍政権が成立した。本年7月の参院選で改憲勢力が議席の3分の2以上になれば、改憲への道が見えてくる。日本国憲法最大の危機という表現も、決して大げさではない。

 安倍首相は一方では任期中の明文改憲をいい、他方では早期に集団的自衛権行使を可能にする解釈改憲をしたいという。これは誰にでも分かる矛盾であって、解釈改憲で済むなら明文改憲の必要はないし、明文改憲の目算が立つなら解釈改憲の必要はない。明文改憲はいかにもハードルが高いが、それ以前に解釈改憲が急がれる理由がある、という状況認識があるのだろう。

 9条改憲以前に集団的自衛権の政府解釈を変更するのは、日米同盟強化=米国の戦争へのいっそうの協力への見返りとして、日本の領土紛争への米国の介入を期待するからだろう。確かに尖閣問題で日中間の緊張がある。これまで北方4島問題、竹島問題で米国が日本のために何もしてくれたことがないにもかかわらず、というか、ないからこそ、いっそうの同盟強化を望むわけだ。

 しかしながら、ここにも明らかな矛盾がある。明文改憲は占領軍からの「おしつけ憲法」を廃棄して独立日本の新憲法を制定すること、すなわち米国からの独立宣言であるはずなのに、解釈改憲は日本の米国へのいっそうの従属を深める結果になる。従属を深めてから独立するのか。

 そして、とりわけ対中国対応に関して、第2次安倍政権の思惑は明らかに第2次オバマ政権の思惑と食い違っている。以下、軍事・安保問題を中心に米日それぞれの重要文献をいくつか読み解くことによって、そのズレ具合を見る。

 なお、本稿は119日に平権懇学習会で行った報告をもとに文章化したものであり、以後の事象を取り込んでいない。

2-1  グローバル・トレンド2030

 Global Trends 2030 は昨年1210日に米国のNational Intelligence Council (NIC)が発表した文書で、Alternative Worlds という副題がついている。NICは国家情報局と訳されるが、CIAFBIなどの諸情報機関を統轄する部署だから、この文書もそれなりに権威のある、2030年までに世界がどう変わるかの予測であり、これを参照しつつ米国は対外・国内政策を立てていくことになる。2009年に発表されたひとつ古い版、Global Trends 2025は日本の外務省や防衛省がきわめて重視してきたし、全訳もある。

 まず、国際社会のなかの米国の地位がどうなっていくかについて。

・中国は2030年の数年前には米国を超え、世界最大の経済大国となるだろう

・ヨーロッパ、日本、ロシアの経済は相対的に緩やかに低下していくだろう

・米国は2030年においても、他の国家の中での「同輩の中の筆頭」としてとどまる可能性が高い

・パックス・アメリカーナ、つまり1945年に始まった国際政治におけるアメリカ優位の時代は、急速に終焉した

 要するに米国単独覇権の時代は終わる、米国の国際的地位の凋落傾向は止められない、と自ら認めているわけだ。昇る中国と沈む米国、という基本的枠組みがここにある。

 では、今後の国際紛争に米国はどう対処するか。

・国内紛争が起こることは少なくなり、その規模も小さくなるが、国家間紛争の可能性が残ることに注意

・今後15から20年間は、米国はある程度まで、世界秩序の組織的な守護者・保証人の役割を果たし続けるだろう

・イスラム教徒によるテロリズムは、2030年までには終焉するだろう

・多極化が進むアジアに地域安全保障の枠組みのないことが、地球上の最も大きな脅威のひとつ

 弱くなっても憲兵は憲兵。そして国際紛争の焦点は「アジア」。中東イスラム圏が脅威でなくなるなら、懸念されるのは東アジアになる。

 ではズバリ、未来世界はどのように予想されるか。これが全然ズバリでない。4つの可能性が並列されている。だからこそこの文書の副題はAlternative Worldsと複数になっているわけだ。

①立ち往生の世界(Stalled Engins) 。米国・ヨーロッパが内向きになり国際社会をコントロールする能力を失って、国家間紛争が起こる

②連携の世界(Fusion) 。中国の政治改革が進み、アメリカンドリームが復活する

③格差の世界(Gini-Out-Of-The-Bottle) 。国際的にも各国内でも、ユーロ内でも勝者と敗者の格差が広がる。中国は愛国主義を強め、多くの国が破綻し、主要国同士の紛争が起こるかもしれない

④非国家の世界(Nonstate World)。国家よりも NGOや多国籍企業がリーダーとなる、不均衡な世界

 もちろん米国にとっては③がベストなのだろうが、それが困難であることもよく承知している。だから全体としてこの文書は、ゆるやかな米国のスローダウンの中での諸国が国際協調のために努力することを望み、とりわけ、地域での安全保障が確保されることを望んでいる。くれぐれも東アジアで紛争など起こしてくれるな、という願望を含んでいるわけだ。

2-2  世界のリーダーであり続けるために

 次に読む文書は昨年13日に米国国防省が発表したSustaining U.S. Global Leadership : Priorities for 21st Century Defense。いちおう2020年までを見据えた国防基本政策文書だ。オバマ政権は2010年に議会に対してQDR4年ごとの国防見直し)、NSS(国家安全保障戦略)を発表しているにもかかわらず、このような文書を出したのは、5年間で約20兆円の国防費大幅削減を求める議会への対策と、既成権益確保を求める軍への対策の両にらみだろう。

 ざっと中味を見る。

・国土防衛:もし抑止に失敗し、相手が脅しや軍事力によってわれわれの国益に挑戦す る場合に備えて、米国の国益を守るために対処する準備を整えていなければならない

・過去8年間の作戦は、陸軍に不均衡な負担を強いてきたが、今後はかなり長期にわたる航空および海上の会戦も予想し、備えなければならない

・アジア太平洋と中東でのプレゼンスを維持し同盟を強化する

・軍を削減するがよりフレキシブルで即応性の高い、テクノロジーの進化したものに

・軍の主要ミッション10項目:①テロ・非正規戦争対応、②2正面作戦能力の維持、③中国・イランのA2/AD(接近阻止・領域拒否)対応、④大量破壊兵器対応……

 以上、「強大な米軍」の看板は維持するが中身は細ることが見え透いている。2正面作戦能力、つまり世界の2つの地域での紛争に対応できる能力の維持は、すでに2006年のQDRで事実上放棄されている。中国とイランが当面の対応対象となっているが、その対応は同盟ですることになる。そこで対中国では自衛隊の役割が重くなる。ただし米国の国防政策があくまでも抑止能力が先で戦闘能力が後、という構造は確認しておく必要がある。

 

2-3  中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書

 では中国の軍事力強化に対して、米軍はどのように対応するのか。昨年518日に国防省が発表したMilitary and Security Developments Involving the People's Republic of China 2012を見る。この文書は毎年新版が発表されている。

・中国の指導者は21世紀最初の20年間、経済成長・発展に焦点を絞り、自国周辺の平和と安定の維持を求め、米国他の国々との直接的な対決を避けてきた

・中国が国際社会における新たな役割や責任を担うようになるにつれ、中国軍の近代化は、より遠方地域でも幅広い任務が遂行可能となることに重点が置かれている

・主要な焦点は台湾海峡の不測事態への備えであり、中国の軍事投資の大半を占める

2011年にA2/AD戦略を可能とする能力を向上させ、以後はその任務を大きく拡大しようとしている

・米国防省は中国との健全で、安定的、信頼できる、継続可能な軍レベルの関係構築を模索している

 文書の末尾にはさまざまなデータが挙げられ、A2/AD戦略に関して、例の第一列島線・第二列島線を示す地図も大きく掲げられてはいる。しかし本文では、米軍にとって対中国では今なお「主要な焦点」は台湾有事であって、東シナ海有事はもちろん、南シナ海有事も二の次になっている。これは米国内台湾ロビーへの配慮、台湾への武器輸出を続ける防衛産業への配慮もあるのだろう。

2-4  第3次アーミテージ報告

 昨年815日にCenter for Strategic & International Studiesが発表した日米同盟強化に関する文書、The U.S.-Japan Alliance : Anchoring Stability in Asiaは、Richard Armitage & Joseph Nye が著者代表となっている。おなじみの民主・共和両党共同による日本への勧告文書であり、2000年、2007年のものに続く「第3次アーミテージ報告」と呼ばれる。今回は冒頭から脅迫調になっている。この文書について私はすでに簡単な別稿を書いたし、ネットで探せば全訳もあるので、ここでは大筋のみを見る。

・日本は一流国であり続けることを望むのか、二流国に転落するのか

・エネルギー安全保障(原子力、天然ガス、メタンハイドレード、石油):原子力は日本の包括的安全保障に必要不可欠

・経済・貿易:TPP推進

・近隣諸国との関係:歴史関係で日韓がぎくしゃくしているなら、米国を加えた3国の非公式有識者会議を活用してはどうか 

・新たな安全保障戦略:南シナ海で中国軍拡の脅威に対抗するため米軍のエアシーバトルと自衛隊の動的防衛力による共同対処を

 特徴的なのは、原発、TPP、防衛の順になっており、軍事優先ではないことだ。もちろん憲法に関して、集団的自衛権に関しての対日要求は従来通りではあるけれども、3.11事態での「トモダチ作戦」が集団的自衛権行使禁止、憲法9条の縛りを乗り越えて成立したと評価していることは見逃せない。

3-1  日本を、取り戻す。

 ここまでは米国側の基本文書を読み解くなかで、凋落する米国からの対日要求がどのようなものであるかを見てきた。以下で安倍政権の基本的姿勢についての文書を2点だけ読む。他にも自民党の改憲試案は、私どもにとっては「平和に生きる権利」の全否定という点でも大問題だが、すでにこれを分析し論ずる文書がいくつも出ているので、ここでは扱わない。まずは昨年の総選挙における自民党のマニフェスト文書「自民党重点政策 日本を、取り戻す。」の、注目すべき部分を箇条書きにしてみる。

・日米同盟の強化のもと、国益を守る、主張する外交を展開します

・官邸の司令塔機能を強化するため、「国家安全保障会議」を設置します

・日本の平和と地域の安定を守るため、集団的自衛権の行使を可能とし、「国家安全保障基本法」を制定します

・防衛大綱・中期防を見直し、自衛隊の人員・装備・予算を拡充します

・憲法改正により自衛隊を国防軍として位置づけます

・統合運用を進め、自衛官と文官の混合組織への改編、部隊運用組織の統合など防衛省改革を推進します

・米国の新国防戦略と連動して自衛隊の役割を強化し、抑止力を高めるため、日米防衛協力ガイドライン等を見直します

・在日米軍再編を進める中で、抑止力の維持を図るとともに、沖縄をはじめとする地元の負担軽減を実現します

・国際貢献をさらに進めるために、「国際平和協力一般法」を制定します

・尖閣諸島の実効支配を強化し、島と海を断固守ります

 見られるとおり、じつに正直に、自民党は改憲志向政策を述べている。しかもこのマニフェストをくまなく収録した立派なパンフレットを、全戸配布に近い形で普及した。その上で総選挙で絶対多数を得たことで、このマニフェストが国民多数の支持を得たつもりで各項目の実現をめざしているわけだ。

 しかしながら「日本を、取り戻す。」といいながら対米従属を強める結果となる矛盾を、自民党は感じていないのだろうか。

3-2  柳井懇報告

 1次安倍内閣当事、首相の諮問による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(柳井俊二座長)の答申は、首相が交代した2008624日になって出されたため、凍結されたものと思われていた。それが第2次安倍内閣の成立によって、答申も懇談会そのものも、ゾンビのごとく再生しようとしている。08年答申の主要部分は以下のとおり。

「我が国による集団的自衛権の行使及び国連の集団安全保障への参加を認めることについては、憲法第9条の下で認められるのは個別的自衛権の行使のみであって、それを超える武力の行使は憲法に違反するというこれまでの政府解釈を変更することになる。このような憲法解釈は、長年にわたって確立したものであって憲法改正によらなければ変更できないという意見もある。しかしながら、つぎの理由により、このような変更は、解釈によって可能である。第一に、憲法第9条が禁じているのは、『国際紛争を解決する手段として』の『国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使』であり、国際法上我が国が固有の権利として有する集団的自衛権の行使及び国連憲章に基づく集団安全保障措置への参加を明文上禁ずるものではない。第二に、個別的自衛権しか行使できないという従来の解釈は、過去その時々の安全保障環境や政治状況に照らしつつ、個々具体的な問題に直面して、政府が主として国会答弁で表明してきたものである。第三に、これまでの解釈が過去の安全保障環境や政治情勢を反映した歴史的なものである以上、その解釈はこのような環境や情勢が激変した前世紀末から21世紀にかけての時代に適合せず、その変更が迫られているものと考えられる。よって、解釈の変更は必要であり、かつ、変更は政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能であり、憲法改正や立法措置を必要とするものではない。」

 せっかくの答申だが、政府の憲法解釈変更だけではあまりに安易だというわけで、第2次安倍政権は立法による解釈改憲を志向しているわけだ。

4.  まとめとして若干の考察

 以下、走り書きになるが、読み解いた諸文書から若干の考察。

 本稿の冒頭に述べたように、安倍政権は幾重にも矛盾した改憲政策を実施しようとしている。明らかな矛盾があるのは、米国の対日要求が国際政治の次元と軍事の次元で異なっているからだ。日米同盟強化をあくまでも軍事優先志向で考えるところに、安倍政権の読み違えがある。

 安倍首相は第1次内閣を組閣した当事のままの精神状態で、レンジで解凍したごとく第2次内閣を組閣した。しかし米国側を見ると、ブッシュ・ジュニア政権下で重要な地位にあったジャパン・ハンドラーたちはいまやみな引退して、オバマ政権下の重要人物はみな東京上空をスルーして中国に飛んでいる。この状況変化を安倍首相がなぜ認識できないのか、不思議だ。

 政治・外交の論理と軍の論理とを分けて考える必要がある。誰も戦争を望まないが、戦争能力を国際政治上の手段のひとつとして使う。軍のほうでは、命ぜられたときに確実に任務が遂行できる態勢を望むから、どうしても軍拡志向、同盟拡大志向になる。偶発戦争回避のためには軍縮交渉や軍同士の交流が必要であり、軍の暴走を防ぐシステムが必要であり、よりラディカルには、軍備撤廃=日本国憲法9条の論理が必要だ。

 国際的地位の低下を免れないと自認している米国は、自ら安らかな衰退を望んでおり、その妨げとなるような地域紛争、たとえばEUの分裂、日中韓の間の対立・紛争、イスラエルの暴走のような事態が起こることを迷惑視している。しかし現実にその可能性がある間は、米軍はいかなる事態にも対応できる態勢を維持しようとするだろう。自力で対応できなければ、同盟軍への要求が強まる。

 当面、米国・米軍が日本政府・自衛隊に望むのは、①中韓との間での紛争への自力対処、②中国海軍の太平洋進出のチェック、③朝鮮有事対処への協力強化、④在日米軍基地機能の強化、⑤米国の戦争への協力、ということになるだろう。

 とにかく、米国はグローバルな軍事的負担を軽減したい。中国軍の脅威に対しては日本・韓国・オーストラリア・ベトナム等との共同で対処したい。しかし同時に中国の経済発展に期待し、その市場を確保したい。中国が大量の米国債を保有することからも、米中全面対決などあり得ない。尖閣「領土」問題で東アジアに波風が立つことなど米国にとっては迷惑以外の何物でもないから、尖閣領有については日中のどちらにも与しない。

 1997年新ガイドライン(日米防衛協力指針)が周辺事態対処=朝鮮有事とそれに連動する日本有事対処を眼目としていたのに対し、公式にはこれから協議が進められる2013年第3次ガイドラインは、自衛隊イラク派兵以後の実態の公認・拡大としてのグローバル同盟を眼目とする。

 現実に自衛隊ジブチ派兵は在日米軍なみの在外自衛隊の特権を規定する地位協定に支えられており、危害射撃容認のハードルを越えている。海空自衛隊は専守防衛をはるかに超えた装備をもち、日米共同演習は実戦的になっている。

 しかし米軍が自衛隊の役割分担拡大を望んでいるとしても、米国は日本が東アジアで紛争を起こすことを回避したい。ここに米国の対日要求の最大の矛盾がある。第2次安倍政権はこれを解読できていないように思われる。   2013年3月14日稿)

  

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