読む・読もう・読めば 126
あたご事件控訴審傍聴記 7
4月4日、第11回公判。びっくりしたのは、裁判の最終局面なのに、年度替わりの人事異動で担当検事が交代していたことだ。新任は北英知検事。もっとびっくりしたのは、最終弁論だから検事側もせめて提出文書の要旨ぐらい口頭で述べるかと思っていたところ、「提出書面のとおり」としか述べなかったこと。前任者が書いたものだろうから、無理もないか。ところが翌日の新聞報道を見ると、たとえば神奈川新聞は「検察側は、衝突角度、清徳丸の衝突直前の速力などをあらためて検証。一審が認定した事実は『論理則、経験則に違反し、事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らか』と無罪判決の破棄を求めた」ことになっている。記者クラブには書面のコピーが渡されているのだろう。しかし法廷で読み上げられないのだから、私ども傍聴人にはこの書面に何が書いてあるのか分からないし、公開されないままに終わるわけだ。
弁護側は峰隆男主任弁護人が20分余にわたり提出文書の要旨を読み上げ、控訴棄却、無罪を訴えた。主張は、清徳丸の航跡について、控訴審における証拠調べについて、あたごの避航義務について、事実取り調べについて、事実誤認について、と全面的だ。そして「2名の方が亡くなられたことには哀悼の意を表する」けれども、被告らは事故発生当時から被告が社会的な批判を受けてきたことから、「名誉回復を」求めるという。
事故直前に清徳丸がどのように動いたかについて地裁判決は、検察側の主張も弁護側の主張もしりぞけて、裁判所独自の航跡図を示した。そのうえで清徳丸が右に舵をとって、直進するあたごの前に出て来なければ、衝突しなかったと認定した。これは防衛省の事故調査委員会の結論とも、海難審判の結論とも異なり、しかも決定的な証拠は何もない推論にすぎない。このような推論から、大前提としての、海上衝突予防法の規定ではあたご側が避航船であったことも、あたごの見張り体制がまことにお粗末であったことも、帳消しにされている。異常な判決と言わざるを得ないが、判決要旨では詳細が不明だった。幸いに昨年10月1日付『判例タイムズ』に、きわめて長文の判決全文が掲載された(ただし被告人は仮名になっている)。読めばあらためて、木を見て森を見ない判決に慄然とする。
福島原発事故以後魚の市場価格は暴落し、船の燃料価格は上昇し、漁業従事者の平均年齢は60歳を超えている。TPP加盟となれば国際競争に勝てず、さらに日本漁業は衰退するだろう。そのような四重苦のうえに、軍艦が漁船に優先する習慣が定着してしまったら、どうなるか。当初から主張してきたように、私は裁判の枠組み自体に疑問があり、また2名に限定されてしまった被告人に対する刑が重ければ重いほど良いとも思わないが、少なくとも無罪はあり得ないと思う。6月11日の判決に注目したい。 (2013年4月5日)
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傍聴まことにごくろうさまです。マスコミの関心は消えてしまったのでしょうか。さて被告は「名誉回復を」求めているとのことですが、裁判中にもかかわらず異例にも「閑職」らしいとはいえ復職している彼らにどのような「名誉ある」地位が与えられるのでしょうか。再び第一線の艦艇乗務とか艦隊司令部幕僚への配置とか本省配属とか、あるいは海外勤務とか?被告ご本人に「海の男」としての矜持を尋ねてみたいものです。
投稿: 小幡利夫 | 2013/04/08 10:46