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2013/04/23

アベノミクス・TPP・そして改憲

アベノミクス・TPP・そして改憲

安倍政権のたくらむものは……

大内 要三(日本ジャーナリスト会議会員)

序 第2次安倍政権の成立事情

 昨年末の総選挙では、誰もが驚くほど自民党が圧勝して、1226日に第2次安倍内閣が成立しました。今日は「安倍政権のたくらむもの」というお題をいただきましたけれども、時間も限られていますので、経済と憲法にテーマを絞ってお話をいたします(文章化にあたっては、人名に敬称を略させていただきます)。

 安倍政権が何をしようとしているかは、じつは総選挙のときに自民党がばらまいた「重点政策2012」というパンフレットに、みんな書いてあるんですね。「まず、復興。ふるさとを、取り戻す。」「経済を、取り戻す。」「教育を、取り戻す。」「外交を、取り戻す。」「安心を、取り戻す。」そして「みんなで、新しい日本をつくろう。」というもので、かなり詳しく書いてあります。自民党各候補者のテレビの政見放送では冒頭に安倍が出て来て「取り戻す、取り戻す」と繰り返していましたけれども、滑舌が悪いのか「トリモロス」としか聞こえない。私は自民党は日本をトリモロスのか取り漏らすのか取り壊すのか、と思って聞いていました。

 選挙で圧勝した安倍はこれで国民の支持を得たとして着々とこれらの政策を実行に移しているわけですが、実際には現国会・現政権は民意を反映しない選挙制度で作られたものです。自民獲得票は、対有権者数で言うと小選挙区で25.5%、比例区で27.6%にすぎません。有権者の4分の1の支持で安倍政権は成立したのです。小選挙区制によるマジックですね。

 自民圧勝というよりは、民主大負けの選挙でした。いわゆる「政権交代」に期待したのに、福祉は充実しない、景気は良くならない、消費税は上げることになった。東北大震災・福島原発事故に適切な対応ができなかった。この民主党政権への批判の高まりによって、自民党が漁夫の利を得たわけです。

 しかし、後からどのような分析をしようと、いったん国会で多数を制すれば、次の選挙までは政権党が日本政治の方向を決めてしまうのが事実です。選挙制度がおかしいと言っても、その選挙制度を決めるのも国会です。だとしたら、次の国政選挙である7月の参議院選挙、もうあまり日数がありませんけれども、ここに向けてどうするかを考えていくことが必要だと思います。

1.アベノミクスとは

 では、安倍政権のたくらみについて、まず経済政策からご説明します。

 アベノミクス、という言葉が新聞やテレビによく登場します。ミックスジュースのミックスではなくて、エコノミクス(経済学)と「アベ」をつなげた言葉で、「レーガノミクス」にならって日本のマスコミが作った言葉です。米国のレーガン大統領の経済政策がレーガノミクスでした。レーガノミクスや、最近亡くなった英国のサッチャーによるサッチャリズムは、福祉を切り捨てて弱肉強食社会に戻る、新自由主義で知られています。

 首相になった安倍は228に国会の施政方針演説で、「『三本の矢』を、力強く、射込みます。大胆な金融政策であり、機動的な税制政策、そして、民間投資を喚起する成長戦略です。」と言いました。残念ながら、それだけ聞いても何のことだか分からない。少し分析してみましょう。

 第1の矢「大胆な金融政策」。インフレによるバブルの再現です。インフレターゲット(物価上昇率の目標)を2%に定めて、ここに達するまでは政府主導で景気を刺激する。どのようにするかというと、国債をどんどん発行して日本銀行に買わせる。政府の財政赤字を無制限に日銀に引き受けさせるわけですから、政府が使えるお金が増えます。ですから金融緩和と言っても、庶民にどんどん銀行がお金を貸してくれることではなくて、あくまでも日銀が対象、今まで禁じ手だったことを日銀がするわけです。

 流通するお金が増えればインフレになる、インフレになれば塩漬けになっていたお金も購買に向けて動く。したがって景気が良くなる。というもくろみですが、日本だけでインフレが進めば円安になって、輸出産業には有利になります。しかし物価上昇でいちばん困るのは年金生活者です。輸出には有利でも輸入品の値段は上昇します。すでに安倍政権成立以後、ガソリンも電気代も小麦も、じりじりと上がっていますね。

 いま円安と日本企業の株価上昇が続いていますけれども、これは期待感からの投機によるもので、実体はありません。実体経済以上に見かけの好景気になる、それがかつてのバブル経済であって、そのなかで格差が広がるのを私たちは経験しました。インフレは大資産家には有利でも庶民には不利になるのではないでしょうか。

 第2の矢「機動的な財政政策」。国家予算の使い方です。日銀から引き出したお金をどう使うか。

 2012年度補正予算は13.1兆円、13年度予算は92.6兆円、これを切れ目なく使うというのですが、うち10兆円は公共事業に使います。道路、橋、建物などの建設で景気を刺激する。田中角栄の日本改造計画を思い出す、新味のない政策ですね。とりあえず建設業は潤いますが、採算の合わない新幹線や高速道路を作っても、維持管理が大変ではないでしょうか。

 財源はもちろん国債ですけれども、それだけではありません。来年4月に8%に上がる消費税、これも「我が国経済の成長等に向けた施策」に使うことが、昨年8月の消費税法改正の際に附則18条で決まっています。

 国債とは国の借金ですね。13年度末には750兆円という巨額になります。国民ひとりあたり589万円。金利だけで年に22兆円を超えます。いつ、誰が、どうやって返済するのでしょうか。

 では、ふくらんだ国家予算は福祉など、本当に必要なところにも回すかといえば、これはしないんです。老齢社会の進行で社会保障費が増えるのは、生活保護費を削って対応します。いま生活保護受給者は215万人、収入が生活保護基準未満の世帯は500万を超していますけれども。医療費増は高齢者の窓口負担増で対応します。1割から2割に負担が倍増することはすでに決まっているのですけれども、これまではその実行を猶予してきました。地方の貧困化による地方交付税増は、地方公務員の給料減で対応します。

 それなのに、原発事故を起こした東電は税金で救済します。出資1兆、交付国債24262億円です。東電は電気料金も値上げしますから、国民からは二重取りですね。

 防衛費は11年ぶりに増加します。自衛隊員287人増、大型護衛艦(要するに軍艦です)の健造、新型戦闘機F35の購入、ミサイル防衛の充実、島嶼防衛用と称して水陸両用車の輸入。

 こういう国家予算の使い方でいいのでしょうか。

 第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」。またまた大企業への規制緩和です。どういう分野で緩和するかはTPP交渉(後ほど説明します)をにらみつつになりますけれども、重点分野は米国からの要請で決まっています。

 ひとつは医療分野の民間開放です。混合診療が全面解禁されます。最先端の医療を受けようと思えば、健康保険が適用されないので自己負担。まともな総入歯を作ろうとすれば保険適用外で何十万円、という時代がありましたね。これと同じように高度ながん治療を受けられるのは金持ちだけ、という時代になるのでしょうか。健康保険では間に合わないなら民間のがん保険に入って準備しておかなければならない。国民健康保険と民間保険の両方が必要になる。手ぐすねを引いて待っているのは、テレビコマーシャルを垂れ流している、外資系の保険会社です。

 もうひとつは「多様で柔軟な働き方の実現」です。正社員でも終身雇用の保障はない、時間外労働に賃金が保障されない雇用になります。

 これらは日本市場への大幅参入をもくろむ米国の通商代表部からの規制緩和要求でもありますけれども、日本財界からの要求でもあります。日本経団連は昨年9月に「規制緩和要望」を発表していました。

 このように規制緩和は所得格差を広げますけれども、大企業の経営を楽にします。そして大企業に対する税制優遇は改めないのです。日本の大企業の内部留保は莫大で、昨年度末で267兆円にのぼると推定されます。ここに1.8%課税するだけで消費税率増は不要になります。内部留保は「いざという時」のためにため込んだお金ですが、いまが「いざという時」でなければ、いつ使うのでしょうか。

2.TPP参加で国民生活は

 こうした安倍政権の経済政策の影の主役がTPPです。

 TPPとは、トランス・パシフィック・パートナーシップ(環太平洋連携協定と訳されます)の英語の頭文字を並べた略称です。関税をなくして物品やサービス、人とお金の移動の制限をとりはらうことを目的とする国同士の取り決めです。関税をなくしますから、安い外国の製品が入ってくれば国内産は競争に負けます。

 2009年、4か国で協議が始められました。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ。どれも経済小国ですから、小国同士の助け合いから始まったわけです。その後、米国が参加したことで性格がまったく変わりました。世界一の経済大国、米国の権益を守ることが優先されるようになったのです。

 問題は、環太平洋とはいっても、肝心の中国、ロシア、韓国などは参加を表明していないことです。いま日本の貿易相手国のランキングを見ますと、2011年の輸出入総額で、1位は中国、全体の20.6%を占めています。2位が米国で11.9%、3位が韓国で6.3%。こういう実態があるのに、中国・韓国などが参加しない経済協力協定に日本が参加するのは異常ではないでしょうか。

 2009年にすでに協議は始まっていると申し上げましたが、どのような交渉が行われているか、内容は4年間は公表されません。また途中から参加した国は、参加以前の合意事項はすべて認めさせられます。ですから、TPPに参加するとこうなる(だろう)という話はすべて、参加国からこっそり聞いていることと、米国から要請されていることとを合わせた話です。

 日本の参加を検討すると言い出したのは菅首相、2010年のことでした。野田首相が米国と「参加のための協議を開始」したのは2011年。そして安倍・オバマ会談を経てこの315日、安倍首相が参加を表明しました。

 関税をなくしていちばん打撃を受けるのは日本農業です。日本政府自身が315日の参加表明と同時に発表した「関税撤廃した場合の経済効果について」という文書に、はっきりと書いています。国産米は3割減、小麦・大麦・乳製品・砂糖・澱粉は壊滅、牛肉9割減、豚肉7割減。食糧自給率は39%から27%に落ちる。それでも、トータルには日本経済にとって有利だというのです。日本農業の国際競争力を高めるよい機会だとも言います。すでに超高齢化が進み、専業経営が限りなく不可能に近くなっている日本農業の実態を見ますと、国際競争力を高めたければ大資本による大規模経営化か、付加価値の高い、つまり超高級な産品に頼るしかなくなるでしょう。米作農業を中心とした農村社会の崩壊は、日本の伝統文化の基盤をゆるがすことになると思いますけれども、「美しい日本」を求める安倍首相は米作より米国を選んだのでしょうか。

 関税をなくして米も牛肉も安くなって、牛丼はもっと安くなる(今でさえ、こんなに安くて大丈夫かと思いますが)、良かった良かった、ということになるのか。問題のひとつは、食品の安全基準が「国際標準」に合わせて引き下げられて、遺伝子組み換え食品、残留農薬、食品添加物の危険が増すことです。もうひとつは、世界人口がさらに増加していくなかで、国際的に食糧不足になる危険があることです。しばらくは食品が安くなっても、だんだん高価になる、あるいは輸入されなくなることを考慮しなければならないでしょう。

 そして、TPP参加の影響は農業・食品にとどまりません。たとえば知的財産権の保護強化で、特許使用についての規制は厳しくなり、実験データなどが公表されなくなる恐れがあります。その結果ジェネリック医薬品が製造できなくなると、薬の値段が上がります。

 また、投資家対国家紛争条項というものがあります。関税をなくして物品やサービスが国を越えて自由に行き来できるようにするわけですから、ある国がこの自由化をさまたげるような行為をすると、そのために損失をこうむった企業からその国が訴えられるのです。つまり食品の安全基準も「国際標準」より厳しくすることができなくなるわけです。

 ざっと見てもこれだけ問題のあるTPPに、ではなぜ安倍政権は加盟を推進しているのでしょうか。

 もともと自民党はTPP参加に否定的でした。選挙ポスターに「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。日本を耕す! 自民党」というのがあったことは有名な話ですね。それが2月の安倍・オバマ会談で「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」というので参加表明をした。日本の事情も考慮して、関税全部を撤廃することは勘弁してくれることになった、日本の聖域は残った、というわけですが、本当でしょうか。日米合意文書は玉虫色の表現になっていますし、日米間合意だけでTPP参加国すべての合意をとりつけたことになるわけでもありません。

 日本が米国いいなりになっている根元に、日米安保条約があります。この条約は基本的には安全保障にかかわるものですが、第2条には日米が「国債経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を推進する」とあります。これを根拠に米国は日本の経済政策に介入しているのです。

 そして日本の財界もこれに追随していまして、2010年の日本経団連提言では、「世界第一の経済大国である米国を含むTPP交渉に参加し、先進的なルール作りを進めることは、わが国の戦略的な地位を高める」と書いていました。彼らが守るのは日本経済ではありません。すでに多国籍に展開した企業です。すでに日本企業の海外投資・海外生産の利益は年間14兆円に達しています。海外で生産したものを世界で売るためには、国際的に、関税の壁がないほうがいいのです。

 さて、このように問題の多いTPPへの参加に「反対」する、日本農業を「守る」というだけでは、守勢に立って元気が出ないですね。発想の転換が必要です。それは「国益」に惑わされることなく「民益」を考えることです。海外需要の増加に期待して輸出競争力を強化するより先に、内需の拡大を考えることです。少々高くついても自給率を上げて食糧安全保障をはかることです。米国一辺倒ではなく、東アジア全体の共存共栄を考えることです。日本経済は、そのように組み替えることが必要だと思います。

 安倍政権はTPP参加を表明しました。しかし、これで参加が決まったわけではありません。先に協議を進めている国々それぞれに同意をとりつけることが必要です。米国との協議もまだ終わっておりません。TPP全体の協議は7月、9月、12月に会合が予定さていますが、そのどこから日本が参加できるか、まだ分からない。そして、たとえ安倍政権が途中からの参加を許されてTPP協定に調印したとしても、それで終わりではありません。TPPのような国際協定は要するに国同士の約束ごとですから、条約の一種です。条約は国会が批准を承認しない限り有効になりません。日本国憲法733項の規定です。内閣が何をしようと、国会がノーと言えばTPP参加は避けられるのです。

3.憲法改正へのたくらみ

 経済、TPPに続いて、憲法のお話をします。

 安倍政権が憲法改正に意欲を燃やしていることはよく知られています。そのたくらみには、3つの段階があります。第1は、憲法そのものは変えずに読み方を変えること。第2は、中身に入る前に憲法の変え方を変えること。第3は、憲法を全面的に変えること。少々複雑になりますので、ひとつずつご説明します。

 第1段階。憲法改正はしないけれども、読み方を変える。解釈改憲といいます。どこの読み方を変えるかというと、92項です。92項の読み方を変えて自衛隊が米軍と肩を並べて戦えるようにする。集団的自衛権行使の解禁、というふうに言われます。

 よく知られていますように、日本国憲法第91項は戦争を放棄しています。2項は軍隊を持たないと決めています。では自衛隊は何なのかというと、政府解釈では「自衛のための最低限の実力」であって軍隊ではありません。自衛隊はそういう性格のものですから、たとえ外国に出かけて行っても「武力の行使」はしません。武器が使えるのは「正当防衛又は緊急避難」のときだけです。こういう縛りはもちろん、憲法9条に細かく書いてあるわけではありません。国会での憲法9条の読み方、適用をめぐっての論議の結果として、政府を代表しての内閣法制局の答弁として定着してきたものです。

 ですから、そう簡単に変えることはできません。政府解釈だから政府が「変えることにした」と言うだけでは済まない。そこで、自民党の重点政策2012、最初にご紹介した昨年の総選挙での自民党のマニフェストですね、ここには「国家安全保障基本法」という新しい法律を作って憲法の読み方を変えようという方針が書いてあります。

 集団的自衛権とは何か。先ほど、これを解禁して自衛隊と米軍が肩を並べて戦えるようにする、と説明しました。これまでの政府見解では集団的自衛権とは、「日本の同盟国が攻撃されたとき、日本が直接攻撃されていなくても日本への武力行使とみなし、反撃する権利」だと言っています。日本を守るのではなく同盟国を守るために戦うのが集団的自衛権の行使だと。これは「自衛」の範囲を越えてしまうので、どう考えても自衛隊の仕事ではない、憲法違反だというのがこれまでの政府解釈、これまでの公式な憲法9条の読み方だったわけです。

 しかも日本政府はこれまで、日本は集団的自衛権を持っているけれども使わない、と言ってきました。使わないなら持っていないのと同じではないか、という論議もされていますが、これは違います。持っていても使わない権利はいくらでもある。タバコを吸う権利は成人ならみなもっているけれども、その権利を行使するかどうかは個人の自由です。タバコを吸う権利を行使しないことが尊敬に値するのと同様に、集団的自衛権を行使しないと決めた国は国際社会で尊敬される、そこに9条の価値があります。

 集団的自衛権という言葉は比較的新しい言葉でして、1945年に国際連合ができたときに国連憲章51条に出て来たのが最初です。国連は最初から「自衛権」に関しては矛盾をはらんだものでした。というのは、1928年のパリ不戦条約で戦争が国際法違反になったあとも、「武力の行使」は、武力攻撃を受けたときの自衛権の発動として、それも国連が対処するまでの限定的に、許される、というのが国連憲章の規定だからです。

 日本の憲法9条は、確かにすばらしいものです。しかし、国連憲章、安保条約、憲法9条の関係をこれまでどう日本政府が説明してきたかを理解していないと、足下をすくわれることになりかねません。それがこの集団的自衛権の問題だと思います。

 本日は安保の問題に深入りする余裕がありませんので、お話を進めます。

 改憲のたくらみの第2段階。憲法の変え方を変える。憲法96条に改憲についての規定があります。大事なので少々長く引用します。「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」

 衆議院・参議院ともに議員の3分の2以上が賛成しないと、国民に対して改憲の提案ができません。国民に提案した後の国民の承認を得る方法については、第1次安倍政権のときに成立した国民投票法で、そのやり方が決まっています。

 ですから、いまの憲法を変えることは、けっこうハードルの高いことであるわけですね。国会議員の3分の2以上、そして国民の過半数の賛成が必要ですから。とりわけ9条を変えることには抵抗が強いでしょう。ですからまず憲法の変え方を変えておいて、つまり96条を変えて国会議員の過半数の賛成があれば改憲の提案ができるようにして、それから憲法の全面改正をしたいと自民党は考えました。第2次安倍政権が成立したとき、安倍首相はこう言っています。「国民投票法という憲法を変えていくための橋をかけた。いよいよ橋を渡って最初に行うことは96条の改正だ。」

 しかし憲法の変え方を変える、というのはいかにも姑息です。民主党も、「96条よりも改正の具体的な中身の議論が必要」だと言っています。

 そして、96条をまず変えるにしても、その手続きは現在の96条にしたがって行われることになります。もし96条改正について国会の3分の2の賛成を得ても、国民投票で否定されたら、当分の間、改憲への動きは止まるでしょう。しかし96条が変えられてしまったら、全面的改憲が容易になることは間違いありません。

 改憲のたくらみの第3段階が、全面改憲です。自民党は昨年4月に出した「日本国憲法改正草案」がその全貌を示しています。これまた自民党「重点政策2012」からの引用ですが、その中身については次のように要約されています。

 ①国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三つの原則は継承

 ②わが国は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴である天皇陛下を戴く国家であることを規定

 ③国旗は日章旗、国歌は君が代とする

 ④平和主義は継承しつつ、自衛権の発動を妨げないこと、国防軍を保持することを明記

 ⑤家族の尊重、環境保全の責務、犯罪被害者への配慮を新設

 ⑥武力攻撃や大規模自然災害に対応した緊急事態条項を新設

 ⑦憲法改正の発議要件を衆参それぞれの過半数に緩和 など

 この改憲案を詳しく批判的に解説した論文や書物がいくつも出ていますし、ここ練馬でも何回か学習会が持たれていますので、詳しく述べることは控えます。しかし大事なことは、自民改憲案は9条を変えることに止まらない、ということです。権力を縛るのが憲法という現在の発想から、国民を縛るのが憲法だという発想に転換しようとしています。たとえば「国民の権利」に代わって「国民の責務」をいい、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と規定しています。

 以上、ご説明してきた3段階の改憲策動を、同時に進めているのが安倍政権です。もちろん第3段階が本命ですけれども、その前に第1、第2段階を実現したい。ここにはたいへん大きな矛盾がふたつあります。

 ひとつ。読み方を変えることで済むなら憲法自体を変える必要はない。逆に憲法を変えることを目指すなら、いま読み方を変える必要はないでしょう。

 もうひとつ。自民党はずっと改憲の理由について、いまの憲法は米国から押しつけられたものだから、独立日本の新しい憲法が必要だ、と言ってきました。米国から独立したいのなら、なぜ米国の戦争にいっそう協力できるように9条の読み方を変えるのか。たいへん矛盾しています。

 それでも、憲法を変えようとしているのが自民党だけではないということ、衆議院は改憲派が3分の2以上になっていることを見ておかなければなりません。昨年の総選挙のマニフェストを見ますと、12党のうち自民のほか維新の会、国民新党、幸福実現党、新党大地、新党改革が改憲を主張していました。みんなの党、未来の党は、解釈改憲を主張していました。民主党と公明党は憲法については明記しませんでしたが、日米安保強化を主張していました。日本国憲法の読み方を変えることにも、条文を変えることにも反対していたのは、社会民主党と日本共産党だけでした。総選挙の結果は、護憲派の敗北だったということです。

 昨年は憲法について党内の意見調整ができずマニフェストに書き込めなかった民主党は、今年の224日に開いた定期大会で「民主党綱領」を採択して、憲法について次のように書きました。「私たちは、日本国憲法が掲げる『国民主権、基本的人権の尊重、平和主義』の基本精神を具現化する。象徴天皇制のもと、自由と民主主義に立脚した真の立憲主義を確立するため、国民とともに未来志向の憲法を構想していく。」なんとも抽象的で玉虫色ですが、「未来志向の憲法を構想」というところは改憲につながります。

 もちろん、民主党のなかに明確な改憲派がたくさんいるからこそ、こういう表現になったわけです。すでに安倍が顧問をしている96条改正議員連盟が、自民・民主・みんなの議員を集めて活動を再開しています。

 そして今回の自公連立政権ができたとき、「憲法審査会の審議を促進、改正に向け国民的議論を深める」ことが合意されました。衆参それぞれの憲法審議会は国会の改憲案をまとめるところでもありますが、201110月に始動してから着々と審議を進めています。衆議院憲法審査会でいえば、11年に4回、12年に10回、今年に入ってから3回。このうち昨年531日と今年の314日には、衆議院法制局が9条について説明し、のち自由討論をしました。議事録がインターネットで読めますけれども、各党が9条をどうしたいのかを述べています。

 こうして、今度の参院選は憲法が争点になると思われます。3段階の改憲策動のどれにも反対する勢力を参議院で増やすことが必要です。

4.安保体制のゆらぎ

 大雑把に言えばTPP参加も憲法改正も、米国の要請に沿ったものであることは確かでしょう。しかし安倍政権は、米国の対日要求を読み違えているところがあるのではないか、という気がしてなりません。

 昨年の815日、第3次アーミテージ報告と呼ばれる、「日米同盟:アジアの安定を高める」と題する文書が米国で発表されました。元軍人のリチャード・アーミテージと、ハーバード大学教授のジョセフ・ナイがまとめた、米国民主党・共和党相乗りの日本に対する勧告文書です。2000年に第1次、2007年に第2次のアーミテージ報告が出ていますが、米国側から日本に憲法改正を勧告する文書として有名です。

 今回の第3次報告を読んでみますと、冒頭から「日本は一流国に止まる覚悟があるのか」と脅迫調ですが、要するに鳩山政権時代に一部に見られた日本の脱米傾向は許さない、米国との同盟を第一に考えろということです。興味深いのはその後に続く部分で、まずエネルギー政策(原発推進政策)、第2に経済協力(TPP)、そして安全保障(軍事同盟)という順番になっていることです。つまり憲法改正・軍事同盟強化は、米国の対日要求項目のトップではないのです。

 しかもアーミテージやナイは、かつてブッシュ政権の中枢部にいましたが、いまは民間人にすぎません。ジャパン・ハンドラーズと呼ばれた知日派が米国政権の中枢部にいる時代は終わっています。米国は東アジアでもっとも重要な二国間関係は日米同盟だと、日本に対してはリップサービスで言いますけれども、米国にとっては対中国のほうがずっと重要であることは、たとえば国務長官が東京をスルーして北京に往復していることでも分かります。

 その米国が国際的地位のうえでは落ち目であることは、米国自身が冷静に自覚しています。「グローバル・トレンド2030」という文書が米国国家情報局(CIAFBIなど米国の情報機関を束ねる部署)から昨年1210日に出ました。2030年までの世界の動きを予測する文書で、これを参照しつつ米国は対外・国内政策を立てていきます。この文書のなかで、米国の国際的地位に関する部分には次のように書かれています。

 ――中国は2030年の数年前には米国を超え、世界最大の経済大国となるだろう。ヨーロッパ、日本、ロシアの経済は相対的に緩やかに低下していくだろう。米国は2030年においても、他の国家の中での「同輩の中の筆頭」としてとどまる可能性が高い。パックス・アメリカーナ、つまり1945年に始まった国際政治におけるアメリカ優位の時代は、急速に終焉した。――

 要するに米国単独覇権の時代は終わる、米国の国際的地位の凋落傾向は止められない、ということを米国自身が自覚しているのです。そのなかで先に見た対日要求で軍事側面や憲法改正がトップ項目でなくなっているのはどういうことか。

 確かに米軍は中国海軍の太平洋進出を日本自衛隊にチェックさせようとしているでしょう。ミサイルを積んだ中国潜水艦が太平洋に出て来れば、直接米国本土を狙うことができますから。第3次アーミテージ報告では、中国軍拡の脅威に対抗するため共同対処を、と書いていました。しかし他方で米国は、日本が東アジアでトラブルを起こすことを迷惑と感じていますし、日本の軍拡が米国からの独立につながることを恐れています。尖閣諸島の帰属について、米国が絶対に日本の領土だと認定しないのはそのためです。米軍が中東で足を取られたままであるときに、東アジアでトラブルが起こっても充分な対処ができないのです。

 223日に行われた安倍・オバマ会談は、日米同盟強化を確認したと日本のマスコミでは報道されていますけれども、実態はたいへん貧しいものでした。オバマは安倍の歓迎晩餐会もせず、会談は昼食をとりながらのものでした。共同声明は短く、TPPに関してのものだけでした。共同記者会見では米国の記者は誰も安倍に質問しませんでした。

 自衛隊を国防軍にして米軍とともに戦えるような体制を整えれば米国に大歓迎されて、米国が中国の脅威から日本を守ってくれて、日本はアジアの盟主になれる、などと安倍首相が考えているとしたら、それはまったくの幻想だろうと思います。そんなに米国は親切ではありません。

 

まとめ

 安倍政権のたくらみが危険なものであることを、長々と述べてきました。危険性を強調することが大事だからですが、じつはそう簡単には阿倍のたくらみは実現しない、反撃は十分に可能だということも述べておきたいと思います。

 いま政権は自公連立ですけれども、これは衆議院でこそ自民党絶対多数でも参議院では自民党が過半数を占めていないという実態から、公明党の協力を得る必要があるためです。参院選までの期間限定の連立でしょう。創価学会は平和運動では大きな力を持っていますから、公明党がすんなりと9条改憲に賛成するはずもないでしょう。

 沖縄県の全自治体が基地強化に反対しています。福島県の人々は、原発事故の後始末がまるでできていないことに怒りを感じています。基地も原発も、もちろん沖縄・福島だけの問題ではありません。

 増税は、貧困を拡大します。何よりも青年が未来展望を持てない国に未来はありません。

 ですから、景気が回復しつつあるように見える今でこそ、安倍内閣支持率は高いですけれども、これがいつまで続くかは保障の限りではありません。

 しかし、もし参院選でふたたび自民勝利を許すならば、安倍政権のたくらみは成功し、改憲勢力が参議院の3分の2を制するなら、改憲への動きが現実のものとなります。

 護憲勢力である社民党は、今度の参院選で3議席獲得を目標としています。共産党は5議席獲得が目標です。すぐにお分かりのように、これだけでは改憲阻止に必要な、3分の1の議席確保に達しません。さらに多様な、大きな国民運動のうねりの中で参院選を迎えることが必要だと思います。

2013417日、練馬での学習会報告に加筆

 

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安倍の暴走が急加速している。改憲はむろんのこと、靖国参拝では「どんな脅しにも屈しない」と強弁、歴史認識では「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国の関係でどちらからみるかで違う」と断言し侵略を擁護。ところが同盟国である米国からは鋭い批判が浴びせられている。オバマの外交政策に影響力をもつブレジンスキー元大統領補佐官は尖閣問題を巡り「日本の発言は好戦的で問題解決の助けにならない」と発言。暴走のあげくに”自爆”事故にあわなければよいのだが・・・と敢えて書いておこう。

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