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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

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2013/10/25

日米の「より強い同盟とより大きな責任の共有」を拒否する

日米の「より強い同盟とより大きな責任の共有」を拒否する

大内要三(日本ジャーナリスト会議会員)

憲法改正安倍路線の3つの道

 まず安保と憲法の関係からお話しを始めます。

 憲法改正に熱心な安倍さんがまた首相になったので、みなさん相当に警戒心を持っておられると思います。彼は矛盾していますけれども、憲法改正の3つの道を同時に進めておりました。憲法をまるごと変える、憲法の変え方を変える、解釈を変える。それが今の時点でどうなったかです。

 まるごと変えるのはかなり長い道のりになりまして、2年や3年ではできないだろうことは、誰でも分かります。しかし道筋だけははっきり示しておきたいというので、自民党改憲草案が昨年4月にできている。

 2番目の96条改憲、変え方だけを先に変えておくというずるいやり方です。国政選挙で議席数を確保したからいつでもできるかというと、そうはならなかった。96条改憲に反対する声が非常に大きくなりましたので、もし無理に国会で発議をすると、国民投票で否定されてしまう可能性が高くなってきました。いちど国民投票で失敗すると、次はすごく難しいことになります。

 しかし、もうひとつの道があります。それが解釈改憲です。安倍内閣は今ここにいちばん力を注いでいます。その中心に集団的自衛権の問題があるわけですけれども、そこに留まらずにもっと世の中のあり方全体を変えてしまうところまで、憲法を変えずにやりたい。その道が、いま明らかになってきていると思います。

 ここで意味深長なのが例の麻生発言です。729日に「ナチスに学べ」という、とんでもない発言を麻生副総理がいたしました。「ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気付かないで変わった。あの手口学んだらどうかね」と言った。実際には誰も気付かないどころか、反対者を暴力的に抑圧して国会放火事件まででっち上げて、ナチスは政権を奪取したわけですが。憲法の文章を変えなくても中身を変えてしまえば同じことになると麻生さんは言いたかったわけで、まさにその通りのことをいま安倍内閣はやろうとしているのだと思います。

 1215日から臨時国会が開かれます。経済優先になるでしょうが、1月からの通常国会も含めて、憲法・安保問題でどこまで進むかが問題です。

憲法9条の空洞化が進んでいる

 今日の学習会に出席されているみなさんは、憲法9条を守ろうとしている方々だと思います。せっかく9条を一字一句変えさせずに守ったとしても、よく見たら中身はなかった、というのでは仕方がないわけでして、日本国憲法の平和条項を中身としても守っていくことをしないと、9条を守ったことにならないのではないかと私は考えます。

 その意味で、今年の64日に自民党が発表した「新『防衛計画の大綱』策定に係る提言」、サブタイトル「防衛を取り戻す」という文書が要注意です。先の選挙で安倍さんが「取り戻す、取り戻す」と言っていましたけれども、防衛も取り戻したいらしいですね。米国から取り戻したらいいのではないかと思いますが、そうはならないところが不思議ですね。

 新しい「防衛計画の大綱」、つまり日本の安全保障の10年計画を、今年中に変えたいと言っています。2年前に作られたばかりなのに、なぜいま変えなければいけないのかというと、現在のものは民主党政権が作ったものだから、とは決して言わないんです。世の中が変わったからだという言い方をしている。なぜかというと、民主党政権のときに大綱を作った中心人物のひとりと、いま書き直しをしようとしている中心人物のひとりが、同一人物だからです。すごく不思議なことですが。政府のブレーンとしてこれを作る手助けをした学者が、北岡伸一さんです。東京大学の名誉教授でいまは国際大学学長をされています。この方が民主党政権のとき関係閣僚会議に参加して現在の大綱を作った。またそれを書き換えようとしている。同じ人間が作るのだから、前のはダメだとは言えないのです。

 民主党政権下で日米同盟は大いに深化しました。野田政権は自民党だったら決してできなかったことをどんどんやった。

 今度の自民党の提言は日本国憲法ではなく、自民党憲法改正草案を前提に書かれています。憲法改正を射程に入れた提言だということです。この提言文書は自民党のホームページで読めますが、読んでも楽しくはないので、主な内容を以下にご紹介します。

基本的安全保障政策への具体的な提言として6点を挙げています。その1番目が憲法改正、国防軍設置です。そんなことは簡単にはできるはずがないですけれども、「国民の幅広い理解と指示を得て早期に憲法改正」をやりたい、そういう方向性のもとに新しい防衛計画大綱を作ると言っています。

 自民党は憲法92項を変えたいわけですけれども、かつては何のために変えるかというと、自衛隊を軍隊として認知したいということが基本だったのですね。いまは違います。集団的自衛権の行使、すなわち外国まで出て行って外国の軍隊と一緒に戦えるようにしたい。これが92項改正のいまのいちばん大きな目的です。このへんが大きく変わっていることを見なければいけないと思います。

 自民党提言の2番目です。「国家安全保障基本法」を制定したい。このための首相の諮問機関として、第1次安倍内閣のときの懇談会も再開しました。「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」という長い名前です。座長代理は北岡伸一さん。「柳井懇」と言われて座長は柳井俊二さんですが、この人は国際海洋法裁判所の所長になってドイツのハンブルクに行ってしまいました。実質的には北岡さんが中心です。

 そこで審議されている内容が、集団的自衛権の行使(外国軍とともに戦う)、文民統制のルール変更(自衛隊制服組の権限強化)、武器輸出3原則の空洞化(米国などと共同開発した武器を紛争当事国にも輸出)などです。どうやって実現するかというと、新しい法律を作ります。原案は石破茂さんが作ったものがありますけれども、まだ法案としてまとまったものにはなっておりません。雑然としたものが法案概要として昨年7月に発表されているだけです。しかし、来年にはこれを通常国会に出したいというので、準備が進んでいます。みんなひとつの法律でやってしまいたいというのですが、内容は先ほど挙げたほかにもうひとつの目玉が「国民の防衛協力義務」です。これも入れた法律を作りたいと考えている。

 提言の3番目です。「国家安全保障会議」を作りたい。米国にナショナル・セキュリティ・カウンシル(略称NSC)というものがありまして、防衛政策を大統領に進言しています。戦略の立案や、各省庁の調整を行ったりもしている。その日本版を作りたい。つまり防衛政策に関してはトップダウンでやりたい。首相、外務相、防衛相、官房長官、この4人だけで大事なことは全部決めてしまいたい。現在の「安全保障会議」は10人の閣僚メンバーで、ここで防衛政策大綱を作ったり、武力攻撃事態対処をすることになっています。これを4人に限定して、首相の強力なリーダーシップを発揮したい。すでに76日に法案が国会に提出されておりまして、今度の臨時国会で成立させたいと、そこまで行っているんですね。

 日本版NSCができたら、米国のNSCと定期協議をして緊密に協力することが、もう決まっています。この8月の磯崎首相補佐官と米国NSCのエバン・メディアス・アジア上級部長との会談です。

 4番目です。「政府として情報機能を強化」する必要があるというので、「特定秘密保護法」の制定を目指します。防衛、外交、外国の利益を図る目的の安全脅威活動の防止、テロ活動の防止、この4分野を「特定秘密」に指定して、秘密を漏らした者は最高懲役10年の刑に処する。いま国家公務員でも秘密漏洩の最高刑は1年です。自衛官の場合は5年です。それを民間人まで含めて10年にする。しかも何が秘密指定になっているかは分からない。特定秘密を扱う者は、行政機関の長や警察本部長が調査します。

こうして米国からもらった大事な軍事情報を日本で漏らしたりはしないという体制を作りたい。マスコミは「報道の自由」が守られるかどうかだけを心配していますが、何が秘密かが分からないわけですから、すべての国民が監視対象になる危険があります。この法律も、この1015日から始まる臨時国会に提出したいと言っています。ただしこの臨時国会はいろいろテーマを抱えていますので、どこまでできるかは分からないということはありますけれども。

 5番目は「国防の基本方針」の見直しです。1957年に作られた日本の防衛政策の基本中の基本を改定する。自衛隊のあり方の基本を「専守防衛」でなくして、外征軍、外へ出て行く軍隊へと変えます。見直しと言いますが廃止して、先に述べた国家安全保障会議が策定する「安全保障戦略」に差し替えるつもりです。このためにまた首相の諮問機関としての懇談会(安全保障と防衛力に関する懇談会)を作りましたけれども、これまた座長は北岡伸一さんです。

 6番目は防衛省改革です。防衛省には制服組と内局(背広組)があります。現職自衛官が何かやろうとしても、運用するのは背広組、という任務分担があるわけです。背広組が制服組の暴走を抑えていたということになります。それを運用業務は制服組トップの統合幕僚監部に一元化する。先ほどお話しした国家安全保障会議には、国家安全保障担当総理補佐官として現職自衛隊員が参加することも計画されています。関連して防衛省内の改革検討委員会が8月に「省改革の方向性」という報告書を出しています。

 大事なことを6点挙げましたけれども、こういうことを2015年度までに全部やってしまいたいというのが、自民党の考えです。憲法改正をせずに実質的に憲法9条の中身をほとんどなくすことになります。彼らはこれから数年で、日本の国のあり方自体を大きく変えようとしています。

 いろいろな課題があります。消費税率アップが決まりました。TPP交渉が、米大統領の都合で遅くなるかもしれないけれども、進んでいます。原発の汚染水ダダ漏れがどうにもなりません。みんな大事ですけれども、安保の問題についてもぜひ目を向けていただきたいと思います。

 なぜ安倍政権が駆け足でこういう変革を進めようとしているかというと、そこには米国の影があります。ここまで内容をご紹介してきた自民党提言文書の国際情勢認識の基本は「多極化」です。つまり米国の一人勝ちの時代は終わった、ということです。だからこそ米国は日本に任務分担させることで延命をはかる。ただし日本が東アジアで緊張を作り出すことを米国は迷惑視しています。米国は日本の軍備拡張を一方では歓迎して、他方では警戒するという、矛盾した態度を見せている。あくまでも米国の手の内での日本に軍備拡張をさせたいのですね。

ほんらいは、だからこそ日本は自立した外交へ、東アジアの平和共存へと進まなければならないのに、安倍政権にはそれができない。ここが問題です。

オバマはシリアで戦争ができなかった

 時間が限られていますので、次のテーマに移ります。米国はシリアで戦争ができなかったことについて。

 シリアは1970年のクーデター以降、親子二代続いてアサド大統領が政権を握っています。2011年にチュニジアのジャスミン革命、民主化運動が北アフリカ全域に拡がって、シリアでも内戦が激化しました。このなかで821日に化学兵器が使われて、世界中にアサド政権非難の声が上がりました。米国が軍事制裁に動くかが注目されました。

 827日までに、実際に米軍は地中海東部に駆逐艦4隻を配備して攻撃準備態勢に入っていました。いつでも戦争が始められる状況でした。米軍のやり方は、味方の損害を最小限にするため、ミサイルと無人機で攻撃することから始めます。

しかしオバマ大統領はすぐに開戦をせずに、同盟国の協力を得ようとしました。イラクで米国とともに戦ったイギリスでは、キャメロン首相は軍事介入に議会の賛同を得られませんでした。ロシアのプーチン大統領はむしろアサド政権と良好な関係です。米国と共同歩調を見せたのはオランド大統領のフランスくらいでした。日本はといえば、イラク戦争では小泉首相がただちに米国の戦争を支持したのですが、今回は菅官房長官は記者会見で「関係国と緊密な連携をとりながら」と慎重な態度を示しました。

オバマ大統領は次に、米国議会に「限定的な武力行使」の承認を求めました。ほんらい米国では戦争開始にあたって議会にはかる必要がありません。米国憲法では、軍の最高司令官でもある大統領に宣戦布告権があります。ただし60日以内に議会の承認を受ける必要がある。今回はわざわざ議会にお伺いを立てたところ、下院の過半数が反対しました。

 国連でも927日の安保理事会決議で、シリアの化学兵器を国際的に監視していくことが決まりました。アサド政権も化学兵器禁止条約に加盟する手続きをとることになりました。これでシリアが平和になったわけでは全くありませんけれども、国際的な大規模な軍事介入は避けられました。

 なぜ米国は戦争をできなかったのか。かつては「世界の憲兵」と言われて、いつでもどこでも軍を送るのが米国でした。今回はそれができなかったのは、当然、米国内の反戦運動の力(世論調査で開戦反対が51%)でもあり、国際的な反戦の声によるものでもありますけれども、米国の国家財政の赤字問題が大きかったということです。

 国防費が削減されています。年間に547億ドルの防衛予算削減が決まっています。日本の防衛予算が4兆円弱ですから、それよりも多い金額を削減しなければならない状況の下で、まだ中東から撤兵していませんからその費用もかかっていて、もうひとつ戦争をすることはできないんですね。

 国防費を削減すると悲惨なことになりまして、レーダー監視が24時間できないところが出て来ますし、緊急事態でも戦闘機がすぐに発進することができない基地も出て来る、それぐらい大変なことです。

 そういうふうに大変なことになっている米国だからこそ、日本の自衛隊に期待するわけです。というわけで、用意したレジュメはあと全部飛ばしまして、今日お配りした新しいレジュメに移ります。

より強い同盟とより大きな責任の共有

 一昨日103日、日米安保協議会が行われて、昨日その文書が発表されました。共同発表文書のタイトルが「より強い同盟とより大きな責任の共有」です。A410頁の文章を全部お読みになる方は少ないと思いますので、その主な内容をご紹介します。もっとも発表された日本語の文章は外務省による仮訳でして、正文は英文です。外務省はときにわざと誤訳に近い言い換えをしますから、注意しなければなりません。

日米安保協議会は22(ツープラスツー)とも言われています。日本の外務大臣と防衛大臣、米国の国防長官と国務長官、この4人の会議です。日本の防衛政策が米国からの要請で決められるのがこの席です。

日米安保条約は、条約そのものは変えないで、中身がどんどん積み増しされてきました。解釈条約改正をやってきたわけですね。どういう手でやってきたかというと、ガイドラインと22です。ここで合意して事実上安保条約を変えて、海外派兵もできるようになったし、武器使用も緩くなってきた。「安保体制」から「同盟」になったのも2005年の2+2でした。

22は数年ごとに、ずっと米国のワシントンで行われてきました。今回は初めて東京でやりました。安倍内閣にネジを巻きに来たんですね。今年中にやらなければならないことがたくさんあるだろう、ちゃんとやれよ、と。

ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が東京に来ましたけれども、彼らは靖国神社に行かずに千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行きました。政治的に大きな意味のあることです。安倍君、やりすぎだよ、と警告しているわけです。日本が中国や韓国とトラブルになるのは、米国にとって迷惑なことだからです。

さて、この文書に何が書いてあるか。4章立てです。

1章「概観」のところで、「アジア太平洋地域及びこれを超えた地域における安全保障及び防衛協力の拡大」と書いています。自衛隊と米軍は日本を守るだけではない、アジア太平洋地域の平和を守るだけでもない、それを超えた地域でも一緒に行動すると、冒頭に書いている。

米国はゆるやかに世界覇権国家から太平洋国家へと身を縮めています。自衛隊は専守防衛からアジアへ、世界へと活動の舞台を広げています。その接点が、「アジア太平洋地域及びこれを超えた地域」という表現になりました。

イラク派兵以後、自衛隊は現実にグローバルな展開を始めているわけで、アフリカのジブチ共和国には初めての海外基地を持っています。さらに海外基地を増やすという方向も出て来ています。集団的自衛権の行使とか防衛予算の増大とか、防衛大綱の見直しとか、これらは基本的には米国の望ましいことであるわけです。

2章「二国間の安全保障及び防衛協力」。

「日米防衛協力の指針」、ガイドラインと呼ばれる文書を来年までに改定します。ガイドラインは今までに2回作られています。最初のものは1978年でして、安保条約解釈改正になりますけれども、ここで言っているのは日本防衛は自前でやれということです。よほどのことがなければ米軍は助けに来ない。日本に米軍基地がたくさんありますけれども、いま日本防衛を任務としている米兵はひとりもおりません。

 1997年に新ガイドラインができました。また安保条約の事実上の改正ですけれども、ここで決まったのは周辺有事対応です。周辺と言っても、基本は朝鮮半島です。朝鮮半島で何か起こったときに、日本に波及するおそれがある。日本は自分で守って、朝鮮で戦っている米軍を最大限に支援する。それを決めたのが新ガイドラインです。

 今度の第3次ガイドラインで当然考えられるのが、自衛隊のグローバル展開ですね。アジア太平洋を重点とするけれども、もっと遠くでも自衛隊は米軍とともに戦う、そういうガイドラインになります。尖閣防衛をどうするかなど、もちろん表現上は非常に工夫されたものになると思います。

 まず日本を守らなければなりません。「日本に対する武力攻撃に対処するための同盟の能力を確保」すると言っていますが、日本国民を守ってくれるということではありません。何を守るかといえば、まず在日米軍基地です。尖閣諸島のうちの2島も、いまは使われていませんが、米海軍の訓練場です。日本の周辺でなにかあったときに、敵がいちばん先に叩くのは米軍と自衛隊のレーダー基地、航空基地、港です。米軍が出撃できないようにすることを、敵は最初にするはずです。それに対処するのが米軍と自衛隊の共同作業です。

 次は「日米同盟のグローバルな性質を反映させるため、協力の範囲を拡大」します。朝鮮有事だけではなくて、台湾海峡有事、南シナ海有事、さらに中東やアフリカでも働けるように、自衛隊は準備します。

 次に「地域の他のパートナーとの安全保障協力を促進する」。これまで朝鮮有事に対しては日本と韓国・米国が協力して対処することになっていました。範囲を広げるとそれだけでは足りません。そこでインド、オーストラリア、東南アジアの国々との軍隊とも協力しあう体制になっていきます。実際にこれらの国々の軍と自衛隊との交流が盛んになっています。

 次、「協議及び調整のための同盟のメカニズムを強化」する。日米の「調整メカニズム」が新ガイドラインでできました。各省庁の局長クラスまで、平時から協議できる体制を作っておく。実際に東北大震災・津波で米軍が「トモダチ作戦」を行ったとき、自衛隊・米軍の共同司令部ができました。このときに調整メカニズムが動いています。軍隊と公務員が連動して動きました。今後どのようにこの体制を詰めていくかで重要なのは、地方自治体との共同です。

 次、「防衛協力における適切な役割分担」。この点では有名な第3次「アーミテージ報告」が出ておりますけれども、ここでは文字通り「肩を並べて」、ショルダー・トゥ・ショルダーという言葉が使われております。

 以下、22文書には、大事なことがいくつもありますが、そのなかに「施設の共同使用」があります。「南西地域を含む地域で」と言っています。いま沖縄本島には自衛隊も米軍もいますけれども、西は宮古島までしかいません。そこで新しく石垣島・与那国島に基地を作ろうとしています。それを共同使用にすると、当然、朝鮮有事だけではなくて、対中国を強く意識することになります。日本に基地を作らせて普段は自衛隊を置いて、いつでも米軍が使えるようにしておくのです。

「情報保全が同盟関係における協力において死活的に重要」とも書いています。だからここで特定秘密保護法が出て来るんです。せっかく日米共同で戦争準備をしても、日本側から情報が漏れてしまったら意味がないので、厳しく取り締まるわけです。

 また自衛隊と米軍の「共同訓練・演習で相互運用性を向上」と言っていますが、これは同じ武器を持って同じように使えるようにしておくということです。いちばん単純なのは鉄砲の弾ですね。大きさが違うと借りても使えません。だから日米で同じ大きさの弾を使います。それと同じように、オスプレイを自衛隊も使うようにする、水陸両用車も自衛隊も持ちます。すでに日米共同訓練で自衛隊員は米軍と肩を並べてオスプレイにも水陸両用車に乗っています。来年度の防衛省予算には水陸両用車が計上され、オスプレイ導入の調査費が計上されています。

このように自衛隊と米軍がいつでもどこでも一緒に動けるようにしたいというのが、一昨日の22で決まったことです。これに従って安倍政権はこの臨時国会でも、1月の通常国会でも、次々と新しい法律案を出してまいります。私どもも心してかからねばならないと思います。

世論は同盟強化に賛成していない

 用意したレジュメの多くの部分を飛ばしましたけれども、最後のほうだけ少しお話しします。飛ばしたところに関連する私のすでに発表した文章は、今日の資料にリストを挙げましたので、ネットでご覧下さい。

資料に地図がひとつありますが、米国国防総省の議会への報告書からです。なぜ米国が急いでいるかが、これを見ると分かります。中国を中心とした同心円が描かれています。これは何かと言いますと、中国のミサイルがどこまで届くかという図です。

ファースト・アイランド・チェインの線が九州の南からずっと伸びています。これより外側に中国の潜水艦が行きますと、潜水艦発射のミサイルが米国に届くようになる。だからそうならないように、自衛隊にチェックさせるということがひとつ。

もうひとつ、同心円のいちばん外側は3300キロ飛ぶミサイルの届く範囲ですが、ぎりぎりのところにグアムがあります。つまりグアムの米軍基地はすでに中国のミサイルが届くところなんです。だから日本の金でグアムの米軍基地を整備しますけれども、グアム基地の重要度が変わってきています。いつでも使える基地はあちこちに置いて、日本と共同運営にして、いざというときに使う。本隊はもっと後ろにいる。それが米国のやり方です。

一昨日の22で日米グアム協定が改定されました。いちばんの眼目はグアムだけではなくなったことです。北マリアナ諸島のテニアンも含みます(テニアンは、広島に向かうエノラ・ゲイ号が原爆を搭載した島ですが)。米軍と自衛隊が共同経営する基地になります。ですからグアム基地は米軍だけでなく自衛隊の基地でもあることになります。日本の海外基地が増えるということです。ここを米軍とともに守るから集団的自衛権なんですね。

その集団的自衛権とは何かについてです。国会で何度も問題になって、そのつど政府解釈を出しているのですが、よく出てくるのは1981529の政府答弁です。「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」。これを行使することは憲法違反だと日本政府は一貫して言ってきたけれども、いま安倍政権は憲法違反でないと解釈を変えようとしています。いま引用した81年の政府解釈は、すぐには頭に入らないような文章です。もっと明快な政府解釈文書があります。19721014日に政府が国会に提出したものです。これを読みますと、集団的自衛権と憲法9条、13条との関係がずっとよく分かります。少々長いですが、重要部分を引用します。引用中の……部分は原文どおりです。

「ところで、政府は、従来から一貫して、わが国は国際法上いわゆる集団的自衛権を有しているとしても、国権の発動としてこれを行使することは、憲法の容認する自衛の措置の限界をこえるものであって許されないとの立場にたっているが、これは次のような考え方の基づくものである。

 憲法は、第9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において『全世界の国民が……平和のうちに生存する権利を有する』ことを確認し、また、第13条において『生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利については、……国政の上で、最大の尊重を必要とする』旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであって、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。しかしながら、だからといって、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、それは、あくまでも国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むをえない措置として、はじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためにとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。そうだとすれば、わが憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」

いま、このような憲法解釈を崩すような日米同盟強化を許すのかどうか。この点で日本の世論はまだまだ健康だと思います。

昨年に内閣広報室が行った「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」があります。設問はいくつもあって、それぞれ選択肢から複数選択可で回答する方式です。「自衛隊が存在する理由」として災害派遣を挙げているのが82.9%、これは自衛隊の本来の任務ではありません。「自衛隊が今後力を入れていく面」でも、回答の一位は「災害派遣」で76.3%です。国民が最初に自衛隊に期待しているのは災害対処であって、国の防衛ではありません。

続くいくつかの設問のなかで、「日米安保についての考え方」には、「役立っている」という回答が36.8%です。しかも女性は25.6%。20代は22.7%。安保万歳、同盟万歳という人はそんなに多くないんです。

ただし、世代による意識の差に注意する必要があります。団塊世代は日本経済の高度成長の恩恵を受けていますから「失うもの」がある。現在の生活水準を守りたい。若者は不幸なことに将来展望を持ちにくいです。

しかし全体として健全な世論があるなかで、安倍政権がいま強行しようとしているのが何なのか。それをきちんと伝えていくことで、憲法9条の中身を守りたいというのが、私の願いです。

(本稿は、2013105日の練馬でのお話に補筆したものです)

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10月25日付けの毎日新聞の「オピニオン」欄で日本体育大学准教授の清水雅彦さんが「現行法で対応十分可能」と題して写真入でインタビューに答えています。対しているのは自民党の町村信孝議員で「国民の安全のため必要」と主張。「友人」のアーミテージの助言があったとのこと。

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