日米安保ガイドライン改定中間報告を読む
日米安保ガイドライン改定中間報告を読む
2014.10.12 大内 要三
10月8日、日米防衛協力小委員会(SDC)は、ガイドライン改定協議の中間報告を発表した。全文は英文では国防総省HPに(The Interim Report on the Revision of the Guidelines for U.S.-Japan Defense Cooperation, 以下本文中ではAと略称)、邦訳文は防衛省・自衛隊HPに(日米防衛協力のための指針の見直しに関する中間報告、以下本文中ではJと略称)、掲載された。また発表に際して米国側では国防総省広報官Jim GaramoneによるOfficial Discuss Report on U.S.-Japan Defense GuidelinesがTwitterで流れ、日本側では小野寺五典防衛相による大臣臨時会見が行われた。これらの発表文書を読んでとりあえず感じたことを記す。
1.日米同盟の現実は安保条約も新ガイドラインも超えている
今回の協議では日米同盟の現実が安保条約の枠を超え、さらには1997年の新ガイドラインの枠をも超えてしまっていることを確認しながら、条約改正を提起することはしない。ガイドラインは政府間協定ですらない、SDC(外務省・防衛省・国務省・国防総省の局長級会議)がまとめた報告をSCC(日米安全保障協議委員会、外相・防衛省・国務長官・国防長官の4閣僚会議、俗称2+2)が了承・発表した(approved and issued)ものにすぎない。条約ではないから国会で批准されることもない。しかし実際にはガイドラインは安保条約の上位に立ち、日本の安全保障政策上の最重要文書であるとともに、日米共同作戦作成の根拠になっている。その重要性は、安倍内閣が集団的自衛権行使容認の閣議決定ならびに関連法改正を、年末にはガイドライン改定が控えているからそれまでに、と急いだ(関連法改正は来春以降に延期されたが)ことに現れている。しかしこのような状態は本末転倒であり、日本国憲法に基づき国会での熟議を経て日本の安全保障政策が作成され、国際協力体制が整備されるべきものではないのか。国の安全保障政策に関して国会軽視・反立憲主義がまかり通っている。
このことに関して中間報告には、「日米安全保障条約及びその関連取極に基づく権利及び義務並びに日米同盟関係の基本的な枠組みは変更されない」(J)とある。日米同盟が安保条約の枠を超えていることを確認している。また米国防省広報官による発表の2番目の中見出しは「Reflection of U.S.-Japan alliance」であり、新ガイドラインの枠を超えてしまっている日米同盟の実態を第3次ガイドラインに反映させなければならないと言っている。超えてしまっている部分とは、たとえば自衛隊イラク派遣やジブチ自衛隊基地、あるいはグアム・テニアン両基地の共同使用合意などになるだろう。
2.集団的自衛権行使を前提にしながら具体性に乏しい
中間報告は集団的自衛権「限定的」行使容認の7.1閣議決定「の内容を適切に反映し」(J)といい、それが「日本に対する武力攻撃を伴わないときでも、日本の平和と安全を確保するために迅速で力強い対応が必要となる場合もある」(J)ことだと確認している。つまり、海外での自衛隊の武力行使を前提にしている。しかしながら、具体的にどの分野でどこまで自衛隊が米軍とともに行動するかは、「次のものを含み得るが、これに限定されない」(J)と、箇条書きのリストを示すだけで明確にされていない。大事なことは先送りされている。米国は集団的自衛権行使のための日本国内法整備をしっかりとしないと納得しない、7.1閣議決定が「限定的」であることに不満を示していると思われる。
このことに関して防衛相は会見で「ガイドラインの見直し作業と安保法制の両方は、しっかり適用できるような形ということで議論が進んでいく」「両者を整合させていくということで一致した」と述べた。国内法よりガイドラインが上位であることの確認ではないのか。防衛相は7月15日に参議院予算委員会での答弁で、ガイドラインが先で国内法整備が後という順序でいいのかと聞かれて、「現在のガイドラインができました17年前におきましても、同じく、ガイドラインの一定の方向が決まった中で国内法整備が行われたということもありますので、そこは特にそごはない」と述べた。米国の要望に従って国内法を作ることに何の疑問も抱いていない。
3.適用地域はアジア太平洋か、グローバルか
日米防衛協力の地理的範囲に関して、新ガイドラインのいう「周辺事態」という概念は消えたが、「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域」と「グローバル」が文書中に併存して、相互関係が明らかでない。
「米国にとって、指針の見直しは、米国政府全体としてのアジア太平洋地域へのリバランスと整合する。日本にとって、指針の見直しは、その領域と国民を守るための取組及び国際協調主義に基づく『積極的平和主義』に対応する」(J)とあるので、米国側ではQDR、日本側では防衛計画の大綱、の擦り合わせで協議は進む。中間報告の文中には北朝鮮・中国の名は出て来ないが、QDRも大綱も日米と中国・北朝鮮を事実上の仮想敵国としている。ということからして、期待される自衛隊の働きは西太平洋中心で、一部グローバルの可能性も残しておく、と読める。
私は、当面、米軍が自衛隊に期待している役割は以下だと考えるが、ここでは詳述しない。
①朝鮮有事:ミサイル防衛
②台湾有事:中国海軍の西太平洋進出のチェック
③南シナ海有事:ASEANの中国軍対応能力構築支援
④中東・アフリカ有事:ジブチ基地活用
なお、ガイドラインが改定されたら大綱(10年先まで見越した日本の防衛政策)も改定する必要があるのではないかという問いに対して、安倍首相は7月15日の参院予算委でこう答えた。「現時点では自衛隊の態勢や防衛費の見直しを行う必要はないと考えております。このため、現行の防衛大綱及び中期防を見直すことは考えておりません」。つまり、昨年末に閣議決定・国家安全保障会議決定された大綱は、集団的自衛権行使もガイドライン改定も想定内に収めたものだ、という自信があるのだろう。
4.海外での「一体的」武力行使解禁へ
新ガイドライン作成にあたって発明された「後方地域支援」(rear area support)という語が、今回の中間発表では消えた。後方地域支援とは、自衛隊が海外に派兵されても戦闘地域には行かない、武力行使はしない、という縛りのためであり、戦地で米軍と「一体化」した行動はしないという説明のための用語であって、周辺事態法2条・3条、イラク特措法2条に反映している。
後方地域支援が消えた代わりに、これから詰めの協議が行われる具体的な日米協力の項目に「後方支援」(J)が登場した。「logistics support」(A)だから、常識的には後方から前線までの兵站支援であり、自衛隊は前線まで行くということだ。イラクで実施して違憲判決が出たような、武装米兵を運ぶだけで済むかといえば、「駆け付け警護」をするなら共に戦うことにならざるを得ない。
5.グレーゾーンと「切れ目のない」対処
平時からグレーゾーン(武力攻撃に至らない侵害だが、重大事態に転じる可能性が懸念される事態)、有事まで、「切れ目のない」対応が望まれている。このため新ガイドラインで創設され、東北大震災時の日米共同対応で準用された調整メカニズムの、常設化が語られている。中間報告では「全ての関係機関の関与を得る、切れ目のない、実効的な政府全体にわたる同盟内の調整を確保する」(J)という表現になっている。
包括的メカニズムが常設であるのに対して、新ガイドライン下の現状では調整メカニズムは必要に応じて設置され、課長級までを包括する。そのメカニズムが常設化される。「全ての関係機関」には政府機関外も含まれるだろうから、膨大なメンバーが、軍事対応のためにいつでも連絡・調整ができる態勢を組むことになる。当然、情報漏れが懸念されるだろう。秘密保護法が集団的自衛権論議に先立って制定された理由もここにあるようだ。
6.新しい「ビンのフタ」
中間報告の続く部分に、「議論は、自衛隊及び米軍各々の適切な役割及び任務を検討するための運用レベルの協議から、防衛協力に焦点を当てた政策レベルの対話にまで及んでいる」(J)とある。「運用レベル」とは当然、軍部隊の運用についてだから、ここは共同作戦について述べている。英文では「Discussions have ranged from operational-level deliberations to consider appropriate roles and missions for the respective forces, to policy-level dialogues focusing on defense cooperation」(A)とある。
旧ガイドラインに基づき日本有事対応共同作戦計画が作成され、新ガイドラインに基づき周辺有事対応共同作戦計画が作成されたことは議会で証言されているが、当然、内容は公表されていない。第3次ガイドラインに基づいてアジア太平洋有事あるいはグローバル有事での日米共同作戦計画作成に着手することになるが、これは民主党政権が続いていたならともかく、安倍政権下ではそう簡単にはいかないように思われる。
なぜなら米国のアジア太平洋戦略にとっていまもっとも気がかりなのは、日韓対話・日中対話が途絶えていることだからだ。したがって、米国にとってガイドライン再改定は、安倍政権の対米自立傾向を制約し自衛隊の単独行動を許さないという、新たな「ビンのフタ」の意味も持つことになる。
〔このメモを作成するにあたって、中間報告発表前の10月5日に平和憲法研究会例会でガイドライン再改定について報告をさせていただいたこと、同会のみなさんに報告当日の討議で、またその後も含めて、さまざまにご教示をいただいたことを感謝します〕
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