与那国町住民投票で自衛隊基地計画はどうなる
与那国町住民投票で自衛隊基地計画はどうなる
2014.10.31
大内 要三
(日本ジャーナリスト会議会員)
日本最西端の島、与那国に自衛隊基地を建設する計画はどうなっているか。
民主党政権下の2010年「防衛計画の大綱」が南西地域防衛態勢強化の方向を明確にし、この方向に沿って与那国島に自衛隊基地を新設する計画を防衛省が具体的に提示したのは2012年5月12日のことだった。
この件について私は13年6月7日付で「へいけんこんブログ」に、「南西地域防衛態勢強化とは」という長めの記事を書いて以来、機会のあるたびに発言してきた(http://heikenkon.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-a896.html)。石垣島・与那国島への自衛隊配備は尖閣有事対応を名目にしているが、じつは米国の要請を受けた「想定される、より烈度の高い紛争事態のなかに位置づけ」(『東アジア戦略概観2013』)られたものだと私は述べてきた。
与那国基地計画は当初、陸上自衛隊の沿岸監視部隊駐屯地(隊舎・宿舎・ヘリポート)を南牧場の一角に、航空自衛隊の移動警備隊(移動警戒レーダー)をインビ岳中腹に建設して、尖閣諸島を見張る、というものだった。地方紙報道と現地からいただいた通信をもとに、その後の経過をまとめてみよう。
13年8月11日の与那国町長選では、基地誘致派の外間守吉氏が47票差(有権者1128人)で当選した。この結果に勢いを得て、沖縄防衛局は基地建設予定町有地の賃貸借契約を交わし、南牧場を経営する農業生産法人に損失補償交渉を始めた。13年11月に提示した補償額は1億1000万円だった。14年2月には2億4000万円に跳ね上がった。
14年4月19日、小野寺防衛相は与那国町まで足を運び、離島総合振興センターで行われた「与那国沿岸監視部隊配置に伴う造成工事起工式」に参加した。小野寺氏は宮古を経て自衛隊機で与那国に飛び、起工式に参加するとすぐに那覇に飛んで県知事と懇談したという。忙しいことだ。工事が完了して部隊が配置されるのは15年末と予定された。
流れが変わったのは、9月7日の町議選からだった。基地誘致の与党と誘致反対の野党とがともに3人ずつになった。議長を出したほうが少数になる。9月29日の議長選は投票では決着がつかず、くじ引きで与党側の糸数健一氏が議長となった。その結果、議案採決にかかわる議員の過半数を野党が制することになった。
10月2日、町議会は基地建設関連の2議案を否決した。基地予定地周辺の町道2本の廃止案と、基地への給水施設整備のための補正予算案(670万円)である。
基地反対派である野党側は、自衛隊配備の是非を問う住民投票を実施する意向を示していた。これに対して外間町長は、自衛隊誘致を主張して町長選で当選したのだからすでに民意は出ている、住民投票をしても結果はあくまで参考にすぎない、と述べていた。この住民投票については10月1日付『琉球新報』が「与那国陸自配備 住民投票で是非を問え」と題する社説を掲載している。
じつは12年9月にも、住民の直接請求による「与那国島への自衛隊基地建設の民意を問う住民投票に関する条例案」が町議会で否決されて、住民投票が実施されなかった経緯がある。このときは町議会の議席は基地誘致の与党3に対して基地反対の野党2だった。それがいまや逆転している。
そしてこの10月29日、野党側議員3名は町長に臨時町議会招集請求を行い、町議会に提出予定の自衛隊基地建設の民意を問う住民投票(中学生以上の住民を対象とする)の実施に関する条例案を示した。地方自治法101条の規定によれば、議員定数の4分の1以上の請求があれば町長は20日以内に臨時町議会を招集しなければならない。なお与那国町には高校以上の教育機関はなく、進学を希望する者はみな島を出ているから、高校生・大学生はいない。
というわけで、与那国町では近く臨時町議会が開催され、自衛隊基地建設を容認するかどうかの住民投票に関する条例が可決され、実際に住民投票が行われる可能性が高い。沖縄知事選の結果とともに、注目されるべきことだ。
沖縄県知事選について言えば、問題の辺野古で防衛省は選挙前に実質着工の実績を作ってしまいたかっただろうが、海底ボーリング調査のための囲いの浮具が台風で引きずられ珊瑚礁を破壊する事態が発生した。選挙中は工事強行の実力行使はしにくいだろう。
同様に与那国でも、住民投票実施中に基地建設を進めるわけにもいかないとすれば、自衛隊配備計画は予定通りには進まず、尖閣有事の大宣伝との関係があらためて問われることになるだろう。
なお、沖縄知事選で各候補は政策を発表しているが、翁長雄志・仲井真弘多・喜納昌吉・下地幹郎の各候補の政策を見ると、自衛隊与那国基地計画に言及している者はない。
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