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「平権懇」☆関係書籍☆残部僅少☆

  • ●大内要三(窓社・2010年): 『日米安保を読み解く 東アジアの平和のために考えるべきこと』
  • ●小林秀之・西沢優(日本評論社・1999刊): 『超明快訳で読み解く日米新ガイドライン』
  • ●(昭和出版・1989刊): 『釣船轟沈 検証・潜水艦「なだしお」衝突事件』
  • ●西沢優(港の人・2005刊・5000円+税): 『派兵国家への道』
  • ●大内要三(窓社・2006刊・2000円+税): 『一日五厘の学校再建物語 御宿小学校の誇り』
  • ●松尾高志(日本評論社・2008刊・2700円+税): 『同盟変革 日米軍事体制の近未来』
  • ●西沢優・松尾高志・大内要三(日本評論社・2003刊・1900円+税): 『軍の論理と有事法制』

経済・政治・国際

2014/11/02

与那国町住民投票で自衛隊基地計画はどうなる

与那国町住民投票で自衛隊基地計画はどうなる
2014.10.31
大内 要三
(日本ジャーナリスト会議会員)


 日本最西端の島、与那国に自衛隊基地を建設する計画はどうなっているか。
 民主党政権下の2010年「防衛計画の大綱」が南西地域防衛態勢強化の方向を明確にし、この方向に沿って与那国島に自衛隊基地を新設する計画を防衛省が具体的に提示したのは2012年5月12日のことだった。
この件について私は13年6月7日付で「へいけんこんブログ」に、「南西地域防衛態勢強化とは」という長めの記事を書いて以来、機会のあるたびに発言してきた(http://heikenkon.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-a896.html)。石垣島・与那国島への自衛隊配備は尖閣有事対応を名目にしているが、じつは米国の要請を受けた「想定される、より烈度の高い紛争事態のなかに位置づけ」(『東アジア戦略概観2013』)られたものだと私は述べてきた。
 与那国基地計画は当初、陸上自衛隊の沿岸監視部隊駐屯地(隊舎・宿舎・ヘリポート)を南牧場の一角に、航空自衛隊の移動警備隊(移動警戒レーダー)をインビ岳中腹に建設して、尖閣諸島を見張る、というものだった。地方紙報道と現地からいただいた通信をもとに、その後の経過をまとめてみよう。
 13年8月11日の与那国町長選では、基地誘致派の外間守吉氏が47票差(有権者1128人)で当選した。この結果に勢いを得て、沖縄防衛局は基地建設予定町有地の賃貸借契約を交わし、南牧場を経営する農業生産法人に損失補償交渉を始めた。13年11月に提示した補償額は1億1000万円だった。14年2月には2億4000万円に跳ね上がった。
 14年4月19日、小野寺防衛相は与那国町まで足を運び、離島総合振興センターで行われた「与那国沿岸監視部隊配置に伴う造成工事起工式」に参加した。小野寺氏は宮古を経て自衛隊機で与那国に飛び、起工式に参加するとすぐに那覇に飛んで県知事と懇談したという。忙しいことだ。工事が完了して部隊が配置されるのは15年末と予定された。
 流れが変わったのは、9月7日の町議選からだった。基地誘致の与党と誘致反対の野党とがともに3人ずつになった。議長を出したほうが少数になる。9月29日の議長選は投票では決着がつかず、くじ引きで与党側の糸数健一氏が議長となった。その結果、議案採決にかかわる議員の過半数を野党が制することになった。
 10月2日、町議会は基地建設関連の2議案を否決した。基地予定地周辺の町道2本の廃止案と、基地への給水施設整備のための補正予算案(670万円)である。
 基地反対派である野党側は、自衛隊配備の是非を問う住民投票を実施する意向を示していた。これに対して外間町長は、自衛隊誘致を主張して町長選で当選したのだからすでに民意は出ている、住民投票をしても結果はあくまで参考にすぎない、と述べていた。この住民投票については10月1日付『琉球新報』が「与那国陸自配備 住民投票で是非を問え」と題する社説を掲載している。
 じつは12年9月にも、住民の直接請求による「与那国島への自衛隊基地建設の民意を問う住民投票に関する条例案」が町議会で否決されて、住民投票が実施されなかった経緯がある。このときは町議会の議席は基地誘致の与党3に対して基地反対の野党2だった。それがいまや逆転している。
 そしてこの10月29日、野党側議員3名は町長に臨時町議会招集請求を行い、町議会に提出予定の自衛隊基地建設の民意を問う住民投票(中学生以上の住民を対象とする)の実施に関する条例案を示した。地方自治法101条の規定によれば、議員定数の4分の1以上の請求があれば町長は20日以内に臨時町議会を招集しなければならない。なお与那国町には高校以上の教育機関はなく、進学を希望する者はみな島を出ているから、高校生・大学生はいない。
 というわけで、与那国町では近く臨時町議会が開催され、自衛隊基地建設を容認するかどうかの住民投票に関する条例が可決され、実際に住民投票が行われる可能性が高い。沖縄知事選の結果とともに、注目されるべきことだ。
 沖縄県知事選について言えば、問題の辺野古で防衛省は選挙前に実質着工の実績を作ってしまいたかっただろうが、海底ボーリング調査のための囲いの浮具が台風で引きずられ珊瑚礁を破壊する事態が発生した。選挙中は工事強行の実力行使はしにくいだろう。
 同様に与那国でも、住民投票実施中に基地建設を進めるわけにもいかないとすれば、自衛隊配備計画は予定通りには進まず、尖閣有事の大宣伝との関係があらためて問われることになるだろう。
なお、沖縄知事選で各候補は政策を発表しているが、翁長雄志・仲井真弘多・喜納昌吉・下地幹郎の各候補の政策を見ると、自衛隊与那国基地計画に言及している者はない。

2013/10/25

日米の「より強い同盟とより大きな責任の共有」を拒否する

日米の「より強い同盟とより大きな責任の共有」を拒否する

大内要三(日本ジャーナリスト会議会員)

憲法改正安倍路線の3つの道

 まず安保と憲法の関係からお話しを始めます。

 憲法改正に熱心な安倍さんがまた首相になったので、みなさん相当に警戒心を持っておられると思います。彼は矛盾していますけれども、憲法改正の3つの道を同時に進めておりました。憲法をまるごと変える、憲法の変え方を変える、解釈を変える。それが今の時点でどうなったかです。

 まるごと変えるのはかなり長い道のりになりまして、2年や3年ではできないだろうことは、誰でも分かります。しかし道筋だけははっきり示しておきたいというので、自民党改憲草案が昨年4月にできている。

 2番目の96条改憲、変え方だけを先に変えておくというずるいやり方です。国政選挙で議席数を確保したからいつでもできるかというと、そうはならなかった。96条改憲に反対する声が非常に大きくなりましたので、もし無理に国会で発議をすると、国民投票で否定されてしまう可能性が高くなってきました。いちど国民投票で失敗すると、次はすごく難しいことになります。

 しかし、もうひとつの道があります。それが解釈改憲です。安倍内閣は今ここにいちばん力を注いでいます。その中心に集団的自衛権の問題があるわけですけれども、そこに留まらずにもっと世の中のあり方全体を変えてしまうところまで、憲法を変えずにやりたい。その道が、いま明らかになってきていると思います。

 ここで意味深長なのが例の麻生発言です。729日に「ナチスに学べ」という、とんでもない発言を麻生副総理がいたしました。「ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気付かないで変わった。あの手口学んだらどうかね」と言った。実際には誰も気付かないどころか、反対者を暴力的に抑圧して国会放火事件まででっち上げて、ナチスは政権を奪取したわけですが。憲法の文章を変えなくても中身を変えてしまえば同じことになると麻生さんは言いたかったわけで、まさにその通りのことをいま安倍内閣はやろうとしているのだと思います。

 1215日から臨時国会が開かれます。経済優先になるでしょうが、1月からの通常国会も含めて、憲法・安保問題でどこまで進むかが問題です。

憲法9条の空洞化が進んでいる

 今日の学習会に出席されているみなさんは、憲法9条を守ろうとしている方々だと思います。せっかく9条を一字一句変えさせずに守ったとしても、よく見たら中身はなかった、というのでは仕方がないわけでして、日本国憲法の平和条項を中身としても守っていくことをしないと、9条を守ったことにならないのではないかと私は考えます。

 その意味で、今年の64日に自民党が発表した「新『防衛計画の大綱』策定に係る提言」、サブタイトル「防衛を取り戻す」という文書が要注意です。先の選挙で安倍さんが「取り戻す、取り戻す」と言っていましたけれども、防衛も取り戻したいらしいですね。米国から取り戻したらいいのではないかと思いますが、そうはならないところが不思議ですね。

 新しい「防衛計画の大綱」、つまり日本の安全保障の10年計画を、今年中に変えたいと言っています。2年前に作られたばかりなのに、なぜいま変えなければいけないのかというと、現在のものは民主党政権が作ったものだから、とは決して言わないんです。世の中が変わったからだという言い方をしている。なぜかというと、民主党政権のときに大綱を作った中心人物のひとりと、いま書き直しをしようとしている中心人物のひとりが、同一人物だからです。すごく不思議なことですが。政府のブレーンとしてこれを作る手助けをした学者が、北岡伸一さんです。東京大学の名誉教授でいまは国際大学学長をされています。この方が民主党政権のとき関係閣僚会議に参加して現在の大綱を作った。またそれを書き換えようとしている。同じ人間が作るのだから、前のはダメだとは言えないのです。

 民主党政権下で日米同盟は大いに深化しました。野田政権は自民党だったら決してできなかったことをどんどんやった。

 今度の自民党の提言は日本国憲法ではなく、自民党憲法改正草案を前提に書かれています。憲法改正を射程に入れた提言だということです。この提言文書は自民党のホームページで読めますが、読んでも楽しくはないので、主な内容を以下にご紹介します。

基本的安全保障政策への具体的な提言として6点を挙げています。その1番目が憲法改正、国防軍設置です。そんなことは簡単にはできるはずがないですけれども、「国民の幅広い理解と指示を得て早期に憲法改正」をやりたい、そういう方向性のもとに新しい防衛計画大綱を作ると言っています。

 自民党は憲法92項を変えたいわけですけれども、かつては何のために変えるかというと、自衛隊を軍隊として認知したいということが基本だったのですね。いまは違います。集団的自衛権の行使、すなわち外国まで出て行って外国の軍隊と一緒に戦えるようにしたい。これが92項改正のいまのいちばん大きな目的です。このへんが大きく変わっていることを見なければいけないと思います。

 自民党提言の2番目です。「国家安全保障基本法」を制定したい。このための首相の諮問機関として、第1次安倍内閣のときの懇談会も再開しました。「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」という長い名前です。座長代理は北岡伸一さん。「柳井懇」と言われて座長は柳井俊二さんですが、この人は国際海洋法裁判所の所長になってドイツのハンブルクに行ってしまいました。実質的には北岡さんが中心です。

 そこで審議されている内容が、集団的自衛権の行使(外国軍とともに戦う)、文民統制のルール変更(自衛隊制服組の権限強化)、武器輸出3原則の空洞化(米国などと共同開発した武器を紛争当事国にも輸出)などです。どうやって実現するかというと、新しい法律を作ります。原案は石破茂さんが作ったものがありますけれども、まだ法案としてまとまったものにはなっておりません。雑然としたものが法案概要として昨年7月に発表されているだけです。しかし、来年にはこれを通常国会に出したいというので、準備が進んでいます。みんなひとつの法律でやってしまいたいというのですが、内容は先ほど挙げたほかにもうひとつの目玉が「国民の防衛協力義務」です。これも入れた法律を作りたいと考えている。

 提言の3番目です。「国家安全保障会議」を作りたい。米国にナショナル・セキュリティ・カウンシル(略称NSC)というものがありまして、防衛政策を大統領に進言しています。戦略の立案や、各省庁の調整を行ったりもしている。その日本版を作りたい。つまり防衛政策に関してはトップダウンでやりたい。首相、外務相、防衛相、官房長官、この4人だけで大事なことは全部決めてしまいたい。現在の「安全保障会議」は10人の閣僚メンバーで、ここで防衛政策大綱を作ったり、武力攻撃事態対処をすることになっています。これを4人に限定して、首相の強力なリーダーシップを発揮したい。すでに76日に法案が国会に提出されておりまして、今度の臨時国会で成立させたいと、そこまで行っているんですね。

 日本版NSCができたら、米国のNSCと定期協議をして緊密に協力することが、もう決まっています。この8月の磯崎首相補佐官と米国NSCのエバン・メディアス・アジア上級部長との会談です。

 4番目です。「政府として情報機能を強化」する必要があるというので、「特定秘密保護法」の制定を目指します。防衛、外交、外国の利益を図る目的の安全脅威活動の防止、テロ活動の防止、この4分野を「特定秘密」に指定して、秘密を漏らした者は最高懲役10年の刑に処する。いま国家公務員でも秘密漏洩の最高刑は1年です。自衛官の場合は5年です。それを民間人まで含めて10年にする。しかも何が秘密指定になっているかは分からない。特定秘密を扱う者は、行政機関の長や警察本部長が調査します。

こうして米国からもらった大事な軍事情報を日本で漏らしたりはしないという体制を作りたい。マスコミは「報道の自由」が守られるかどうかだけを心配していますが、何が秘密かが分からないわけですから、すべての国民が監視対象になる危険があります。この法律も、この1015日から始まる臨時国会に提出したいと言っています。ただしこの臨時国会はいろいろテーマを抱えていますので、どこまでできるかは分からないということはありますけれども。

 5番目は「国防の基本方針」の見直しです。1957年に作られた日本の防衛政策の基本中の基本を改定する。自衛隊のあり方の基本を「専守防衛」でなくして、外征軍、外へ出て行く軍隊へと変えます。見直しと言いますが廃止して、先に述べた国家安全保障会議が策定する「安全保障戦略」に差し替えるつもりです。このためにまた首相の諮問機関としての懇談会(安全保障と防衛力に関する懇談会)を作りましたけれども、これまた座長は北岡伸一さんです。

 6番目は防衛省改革です。防衛省には制服組と内局(背広組)があります。現職自衛官が何かやろうとしても、運用するのは背広組、という任務分担があるわけです。背広組が制服組の暴走を抑えていたということになります。それを運用業務は制服組トップの統合幕僚監部に一元化する。先ほどお話しした国家安全保障会議には、国家安全保障担当総理補佐官として現職自衛隊員が参加することも計画されています。関連して防衛省内の改革検討委員会が8月に「省改革の方向性」という報告書を出しています。

 大事なことを6点挙げましたけれども、こういうことを2015年度までに全部やってしまいたいというのが、自民党の考えです。憲法改正をせずに実質的に憲法9条の中身をほとんどなくすことになります。彼らはこれから数年で、日本の国のあり方自体を大きく変えようとしています。

 いろいろな課題があります。消費税率アップが決まりました。TPP交渉が、米大統領の都合で遅くなるかもしれないけれども、進んでいます。原発の汚染水ダダ漏れがどうにもなりません。みんな大事ですけれども、安保の問題についてもぜひ目を向けていただきたいと思います。

 なぜ安倍政権が駆け足でこういう変革を進めようとしているかというと、そこには米国の影があります。ここまで内容をご紹介してきた自民党提言文書の国際情勢認識の基本は「多極化」です。つまり米国の一人勝ちの時代は終わった、ということです。だからこそ米国は日本に任務分担させることで延命をはかる。ただし日本が東アジアで緊張を作り出すことを米国は迷惑視しています。米国は日本の軍備拡張を一方では歓迎して、他方では警戒するという、矛盾した態度を見せている。あくまでも米国の手の内での日本に軍備拡張をさせたいのですね。

ほんらいは、だからこそ日本は自立した外交へ、東アジアの平和共存へと進まなければならないのに、安倍政権にはそれができない。ここが問題です。

オバマはシリアで戦争ができなかった

 時間が限られていますので、次のテーマに移ります。米国はシリアで戦争ができなかったことについて。

 シリアは1970年のクーデター以降、親子二代続いてアサド大統領が政権を握っています。2011年にチュニジアのジャスミン革命、民主化運動が北アフリカ全域に拡がって、シリアでも内戦が激化しました。このなかで821日に化学兵器が使われて、世界中にアサド政権非難の声が上がりました。米国が軍事制裁に動くかが注目されました。

 827日までに、実際に米軍は地中海東部に駆逐艦4隻を配備して攻撃準備態勢に入っていました。いつでも戦争が始められる状況でした。米軍のやり方は、味方の損害を最小限にするため、ミサイルと無人機で攻撃することから始めます。

しかしオバマ大統領はすぐに開戦をせずに、同盟国の協力を得ようとしました。イラクで米国とともに戦ったイギリスでは、キャメロン首相は軍事介入に議会の賛同を得られませんでした。ロシアのプーチン大統領はむしろアサド政権と良好な関係です。米国と共同歩調を見せたのはオランド大統領のフランスくらいでした。日本はといえば、イラク戦争では小泉首相がただちに米国の戦争を支持したのですが、今回は菅官房長官は記者会見で「関係国と緊密な連携をとりながら」と慎重な態度を示しました。

オバマ大統領は次に、米国議会に「限定的な武力行使」の承認を求めました。ほんらい米国では戦争開始にあたって議会にはかる必要がありません。米国憲法では、軍の最高司令官でもある大統領に宣戦布告権があります。ただし60日以内に議会の承認を受ける必要がある。今回はわざわざ議会にお伺いを立てたところ、下院の過半数が反対しました。

 国連でも927日の安保理事会決議で、シリアの化学兵器を国際的に監視していくことが決まりました。アサド政権も化学兵器禁止条約に加盟する手続きをとることになりました。これでシリアが平和になったわけでは全くありませんけれども、国際的な大規模な軍事介入は避けられました。

 なぜ米国は戦争をできなかったのか。かつては「世界の憲兵」と言われて、いつでもどこでも軍を送るのが米国でした。今回はそれができなかったのは、当然、米国内の反戦運動の力(世論調査で開戦反対が51%)でもあり、国際的な反戦の声によるものでもありますけれども、米国の国家財政の赤字問題が大きかったということです。

 国防費が削減されています。年間に547億ドルの防衛予算削減が決まっています。日本の防衛予算が4兆円弱ですから、それよりも多い金額を削減しなければならない状況の下で、まだ中東から撤兵していませんからその費用もかかっていて、もうひとつ戦争をすることはできないんですね。

 国防費を削減すると悲惨なことになりまして、レーダー監視が24時間できないところが出て来ますし、緊急事態でも戦闘機がすぐに発進することができない基地も出て来る、それぐらい大変なことです。

 そういうふうに大変なことになっている米国だからこそ、日本の自衛隊に期待するわけです。というわけで、用意したレジュメはあと全部飛ばしまして、今日お配りした新しいレジュメに移ります。

より強い同盟とより大きな責任の共有

 一昨日103日、日米安保協議会が行われて、昨日その文書が発表されました。共同発表文書のタイトルが「より強い同盟とより大きな責任の共有」です。A410頁の文章を全部お読みになる方は少ないと思いますので、その主な内容をご紹介します。もっとも発表された日本語の文章は外務省による仮訳でして、正文は英文です。外務省はときにわざと誤訳に近い言い換えをしますから、注意しなければなりません。

日米安保協議会は22(ツープラスツー)とも言われています。日本の外務大臣と防衛大臣、米国の国防長官と国務長官、この4人の会議です。日本の防衛政策が米国からの要請で決められるのがこの席です。

日米安保条約は、条約そのものは変えないで、中身がどんどん積み増しされてきました。解釈条約改正をやってきたわけですね。どういう手でやってきたかというと、ガイドラインと22です。ここで合意して事実上安保条約を変えて、海外派兵もできるようになったし、武器使用も緩くなってきた。「安保体制」から「同盟」になったのも2005年の2+2でした。

22は数年ごとに、ずっと米国のワシントンで行われてきました。今回は初めて東京でやりました。安倍内閣にネジを巻きに来たんですね。今年中にやらなければならないことがたくさんあるだろう、ちゃんとやれよ、と。

ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が東京に来ましたけれども、彼らは靖国神社に行かずに千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行きました。政治的に大きな意味のあることです。安倍君、やりすぎだよ、と警告しているわけです。日本が中国や韓国とトラブルになるのは、米国にとって迷惑なことだからです。

さて、この文書に何が書いてあるか。4章立てです。

1章「概観」のところで、「アジア太平洋地域及びこれを超えた地域における安全保障及び防衛協力の拡大」と書いています。自衛隊と米軍は日本を守るだけではない、アジア太平洋地域の平和を守るだけでもない、それを超えた地域でも一緒に行動すると、冒頭に書いている。

米国はゆるやかに世界覇権国家から太平洋国家へと身を縮めています。自衛隊は専守防衛からアジアへ、世界へと活動の舞台を広げています。その接点が、「アジア太平洋地域及びこれを超えた地域」という表現になりました。

イラク派兵以後、自衛隊は現実にグローバルな展開を始めているわけで、アフリカのジブチ共和国には初めての海外基地を持っています。さらに海外基地を増やすという方向も出て来ています。集団的自衛権の行使とか防衛予算の増大とか、防衛大綱の見直しとか、これらは基本的には米国の望ましいことであるわけです。

2章「二国間の安全保障及び防衛協力」。

「日米防衛協力の指針」、ガイドラインと呼ばれる文書を来年までに改定します。ガイドラインは今までに2回作られています。最初のものは1978年でして、安保条約解釈改正になりますけれども、ここで言っているのは日本防衛は自前でやれということです。よほどのことがなければ米軍は助けに来ない。日本に米軍基地がたくさんありますけれども、いま日本防衛を任務としている米兵はひとりもおりません。

 1997年に新ガイドラインができました。また安保条約の事実上の改正ですけれども、ここで決まったのは周辺有事対応です。周辺と言っても、基本は朝鮮半島です。朝鮮半島で何か起こったときに、日本に波及するおそれがある。日本は自分で守って、朝鮮で戦っている米軍を最大限に支援する。それを決めたのが新ガイドラインです。

 今度の第3次ガイドラインで当然考えられるのが、自衛隊のグローバル展開ですね。アジア太平洋を重点とするけれども、もっと遠くでも自衛隊は米軍とともに戦う、そういうガイドラインになります。尖閣防衛をどうするかなど、もちろん表現上は非常に工夫されたものになると思います。

 まず日本を守らなければなりません。「日本に対する武力攻撃に対処するための同盟の能力を確保」すると言っていますが、日本国民を守ってくれるということではありません。何を守るかといえば、まず在日米軍基地です。尖閣諸島のうちの2島も、いまは使われていませんが、米海軍の訓練場です。日本の周辺でなにかあったときに、敵がいちばん先に叩くのは米軍と自衛隊のレーダー基地、航空基地、港です。米軍が出撃できないようにすることを、敵は最初にするはずです。それに対処するのが米軍と自衛隊の共同作業です。

 次は「日米同盟のグローバルな性質を反映させるため、協力の範囲を拡大」します。朝鮮有事だけではなくて、台湾海峡有事、南シナ海有事、さらに中東やアフリカでも働けるように、自衛隊は準備します。

 次に「地域の他のパートナーとの安全保障協力を促進する」。これまで朝鮮有事に対しては日本と韓国・米国が協力して対処することになっていました。範囲を広げるとそれだけでは足りません。そこでインド、オーストラリア、東南アジアの国々との軍隊とも協力しあう体制になっていきます。実際にこれらの国々の軍と自衛隊との交流が盛んになっています。

 次、「協議及び調整のための同盟のメカニズムを強化」する。日米の「調整メカニズム」が新ガイドラインでできました。各省庁の局長クラスまで、平時から協議できる体制を作っておく。実際に東北大震災・津波で米軍が「トモダチ作戦」を行ったとき、自衛隊・米軍の共同司令部ができました。このときに調整メカニズムが動いています。軍隊と公務員が連動して動きました。今後どのようにこの体制を詰めていくかで重要なのは、地方自治体との共同です。

 次、「防衛協力における適切な役割分担」。この点では有名な第3次「アーミテージ報告」が出ておりますけれども、ここでは文字通り「肩を並べて」、ショルダー・トゥ・ショルダーという言葉が使われております。

 以下、22文書には、大事なことがいくつもありますが、そのなかに「施設の共同使用」があります。「南西地域を含む地域で」と言っています。いま沖縄本島には自衛隊も米軍もいますけれども、西は宮古島までしかいません。そこで新しく石垣島・与那国島に基地を作ろうとしています。それを共同使用にすると、当然、朝鮮有事だけではなくて、対中国を強く意識することになります。日本に基地を作らせて普段は自衛隊を置いて、いつでも米軍が使えるようにしておくのです。

「情報保全が同盟関係における協力において死活的に重要」とも書いています。だからここで特定秘密保護法が出て来るんです。せっかく日米共同で戦争準備をしても、日本側から情報が漏れてしまったら意味がないので、厳しく取り締まるわけです。

 また自衛隊と米軍の「共同訓練・演習で相互運用性を向上」と言っていますが、これは同じ武器を持って同じように使えるようにしておくということです。いちばん単純なのは鉄砲の弾ですね。大きさが違うと借りても使えません。だから日米で同じ大きさの弾を使います。それと同じように、オスプレイを自衛隊も使うようにする、水陸両用車も自衛隊も持ちます。すでに日米共同訓練で自衛隊員は米軍と肩を並べてオスプレイにも水陸両用車に乗っています。来年度の防衛省予算には水陸両用車が計上され、オスプレイ導入の調査費が計上されています。

このように自衛隊と米軍がいつでもどこでも一緒に動けるようにしたいというのが、一昨日の22で決まったことです。これに従って安倍政権はこの臨時国会でも、1月の通常国会でも、次々と新しい法律案を出してまいります。私どもも心してかからねばならないと思います。

世論は同盟強化に賛成していない

 用意したレジュメの多くの部分を飛ばしましたけれども、最後のほうだけ少しお話しします。飛ばしたところに関連する私のすでに発表した文章は、今日の資料にリストを挙げましたので、ネットでご覧下さい。

資料に地図がひとつありますが、米国国防総省の議会への報告書からです。なぜ米国が急いでいるかが、これを見ると分かります。中国を中心とした同心円が描かれています。これは何かと言いますと、中国のミサイルがどこまで届くかという図です。

ファースト・アイランド・チェインの線が九州の南からずっと伸びています。これより外側に中国の潜水艦が行きますと、潜水艦発射のミサイルが米国に届くようになる。だからそうならないように、自衛隊にチェックさせるということがひとつ。

もうひとつ、同心円のいちばん外側は3300キロ飛ぶミサイルの届く範囲ですが、ぎりぎりのところにグアムがあります。つまりグアムの米軍基地はすでに中国のミサイルが届くところなんです。だから日本の金でグアムの米軍基地を整備しますけれども、グアム基地の重要度が変わってきています。いつでも使える基地はあちこちに置いて、日本と共同運営にして、いざというときに使う。本隊はもっと後ろにいる。それが米国のやり方です。

一昨日の22で日米グアム協定が改定されました。いちばんの眼目はグアムだけではなくなったことです。北マリアナ諸島のテニアンも含みます(テニアンは、広島に向かうエノラ・ゲイ号が原爆を搭載した島ですが)。米軍と自衛隊が共同経営する基地になります。ですからグアム基地は米軍だけでなく自衛隊の基地でもあることになります。日本の海外基地が増えるということです。ここを米軍とともに守るから集団的自衛権なんですね。

その集団的自衛権とは何かについてです。国会で何度も問題になって、そのつど政府解釈を出しているのですが、よく出てくるのは1981529の政府答弁です。「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」。これを行使することは憲法違反だと日本政府は一貫して言ってきたけれども、いま安倍政権は憲法違反でないと解釈を変えようとしています。いま引用した81年の政府解釈は、すぐには頭に入らないような文章です。もっと明快な政府解釈文書があります。19721014日に政府が国会に提出したものです。これを読みますと、集団的自衛権と憲法9条、13条との関係がずっとよく分かります。少々長いですが、重要部分を引用します。引用中の……部分は原文どおりです。

「ところで、政府は、従来から一貫して、わが国は国際法上いわゆる集団的自衛権を有しているとしても、国権の発動としてこれを行使することは、憲法の容認する自衛の措置の限界をこえるものであって許されないとの立場にたっているが、これは次のような考え方の基づくものである。

 憲法は、第9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において『全世界の国民が……平和のうちに生存する権利を有する』ことを確認し、また、第13条において『生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利については、……国政の上で、最大の尊重を必要とする』旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであって、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。しかしながら、だからといって、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、それは、あくまでも国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むをえない措置として、はじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためにとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。そうだとすれば、わが憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」

いま、このような憲法解釈を崩すような日米同盟強化を許すのかどうか。この点で日本の世論はまだまだ健康だと思います。

昨年に内閣広報室が行った「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」があります。設問はいくつもあって、それぞれ選択肢から複数選択可で回答する方式です。「自衛隊が存在する理由」として災害派遣を挙げているのが82.9%、これは自衛隊の本来の任務ではありません。「自衛隊が今後力を入れていく面」でも、回答の一位は「災害派遣」で76.3%です。国民が最初に自衛隊に期待しているのは災害対処であって、国の防衛ではありません。

続くいくつかの設問のなかで、「日米安保についての考え方」には、「役立っている」という回答が36.8%です。しかも女性は25.6%。20代は22.7%。安保万歳、同盟万歳という人はそんなに多くないんです。

ただし、世代による意識の差に注意する必要があります。団塊世代は日本経済の高度成長の恩恵を受けていますから「失うもの」がある。現在の生活水準を守りたい。若者は不幸なことに将来展望を持ちにくいです。

しかし全体として健全な世論があるなかで、安倍政権がいま強行しようとしているのが何なのか。それをきちんと伝えていくことで、憲法9条の中身を守りたいというのが、私の願いです。

(本稿は、2013105日の練馬でのお話に補筆したものです)

2013/06/07

南西地域防衛態勢強化とは

学習会報告

南西地域防衛態勢強化とは

大内要三

 いまオスプレイ配備問題を中心として、沖縄基地問題が注目されている。本稿では、辺野古や東村など沖縄本島の問題から少し離れて、さらに「辺境」の八重山からの視点で日米同盟強化をチェックしてみたい。

 沖縄県八重山郡は石垣市(行政上は尖閣諸島を含む)、竹富町、与那国町の1市2町からなる。現在、ここには自衛隊も米軍も駐在せず、尖閣諸島の2島は米海軍の射爆撃場だが、70年代からずっと使用されていない。

「南西諸島」とは九州と台湾の間に点々と連なる島々、つまり奄美・沖縄本島・宮古・石垣を含めて言うので、八重山はその西端になる。与那国島から台湾までは111キロしか離れていない。与那国・石垣間は137キロある。

安保問題の公式文書で「南西地域」という言葉が出て来たのは新しく、2010年「防衛計画の大綱」に基づく中期防衛計画からで、「島嶼防衛」がクローズアップされてきたのも、この頃から。「島嶼部」の着上陸対処の記述は、『防衛白書』では2003年版が初出と思われる。

 島嶼防衛は最近になってから強調されているが、ほんらい戦後日本は3方面で「領土問題」を抱えてきたはずだった。そしてこれまで、米国あるいは米軍が日本の「領土問題」解決のために何かをしてくれたことなどなかった。それなのに、いま尖閣の日米共同防衛(の幻想)が語られるようになっている。

Ⅰ 2010大綱の南西地域重視

 2010年12月17日に閣議決定された「防衛政策の大綱」の、今日のテーマに関連する部分を確認しておこう。

 まず、事実上の仮想敵国が設定されている。日本の周辺地域には「領土や海洋をめぐる問題や、朝鮮半島や台湾海峡等をめぐる問題」があると指摘したうえで、北朝鮮の動きは「地域の安全保障における喫緊かつ重大な不安定要因」であり、中国の動向は「地域・国際社会の懸念事項」だという。朝鮮有事・台湾海峡有事は日本に波及する恐れのある周辺有事だと明示している。

 そして、これが2010大綱でもっとも注目された部分だが、事実上、専守防衛を放棄している。「従来の『基盤的防衛力構想』によることなく、各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障の一層の安定化と、グローバルな安全保障環境の改善のための活動を能動的に行い得る……動的防衛力を構築する」。自衛隊は国土防衛にとどまらず、アジア太平洋の安全保障のためにも、グローバルな安全保障のためにも出動するわけだ。しかし建前上の「専守防衛」は「防衛の基本政策」として『防衛白書』2013年版の記述にも残っており、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略」なのだという。建前としてはここが崩れると憲法違反になってしまう。

 大綱でいう「各種事態」とは何か。「大規模着上陸侵攻等の事態が生起する可能性は低いが」「我が国を取り巻く安全保障課題や不安定要因は、多様で複雑かつ重層的」だから、「これらに起因する様々な事態(各種事態)に的確に対応する必要」があるという。敵の大規模侵攻はなくても地域的攻撃やゲリラ攻撃、ミサイル攻撃があり得る、というわけで、ここから島嶼防衛の課題が出てくる。

「島嶼部に対する攻撃への対応」として大綱は、次のように述べる。「機動運用可能な部隊を迅速に展開し、平素から配置している部隊と協力して侵略を阻止・排除する。その際、巡航ミサイル対処を含め島嶼周辺における防空態勢を確立するとともに、周辺海空域における航空優勢及び海上輸送路の安全を確保する。」陸自・海自・空自の統合運用で島嶼防衛に当たるわけだ。では具体的にどのような部隊をどこに配置するかは、大綱と同時に決定された中期防衛計画に示された。

 ――南西地域の島嶼部に陸自の沿岸監視部隊を配置、初動を担任する部隊新編に着手する。移動警戒レーダーを南西地域の島嶼部に展開する。南西地域において早期警戒機の整備基盤を整備する。潜水艦を艦齢延長により16隻態勢から22隻態勢に増勢する。

 以上、2010防衛大綱で南西地域防衛態勢強化の基本方針が示された。この大綱は民主党政権下で策定された10年計画なので、改定する必要があると、政権に復帰した自民党安倍内閣は言っている。しかし改定されても内容的に、基盤的防衛力構想から動的防衛力構想へという転換には変化はないだろう。なぜなら防衛省防衛研究所が編纂した『東アジア戦略概観2013』の指摘によれば、「動的防衛力という概念が、民主党政権発足以前からの防衛政策と多くの面において共通点を持つ」からだ。要するに民主党政権であろうが自民党政権であろうが防衛政策の基本は一貫している、ということだ。

Ⅱ 日米安保協議委員会での合意

 ではこのような南西地域防衛態勢強化方針は、日米政府間合意ではどうなっているか。

 前提として、米国の世界覇権国家から太平洋国家への後退・縮小傾向がある。これについては「安倍改憲政権の矛盾について」(へいけんこんブログ掲載)でいくつかの基本文献を分析したので再論しない。

クリントン国務長官の2010年ハワイ演説、同じく11年『フォーリン・アフェアーズ』論文によれば、オバマ政権のアジア太平洋政策は「同盟国・パートナー国・中国、地域的枠組への重層的な地域的関与」となる。日米同盟が地域でもっとも重要な二国関係というのは、日本の首脳と会談するときのリップサービスであって、米国外交の基本文献には決して出て来ない。日本は横並びのうちのひとつに過ぎない。

軍事的にも、米国の11年QDR(4年ごとの議会への国防報告)また国家軍事戦略によれば、米軍は「地理的な分散、作戦上の強靱性、政治的な持続性」を追求する。この中では自衛隊を最大限に活用しつつ、オーストラリア、韓国、ASEAN、インドとの防衛協力を強化する。他方では中国軍をリムパック演習に参加させるような柔軟性も見せる。

このような傾向は、オバマ政権下で始まったことではない。11年6月シンガポールでのアジア安保会議でゲイツ国防長官が語ったことは重要だ。「太平洋沿岸に強靱な軍事的関与と抑止態勢を維持しつつ、同盟国へのコミットメントを維持するのが、党派を問わず米国の指導者共通の認識」だという。共和党政権であろうが民主党政権であろうが、アジア安保政策の基本に変わりはないということだ。

すると前に見た『東アジア戦略概観2013』の指摘と合わせて、米軍・自衛隊の共同作戦計画の基本は、米日それぞれの政権がどのような組み合わせになろうが揺るがない、ということになる。ただしこれは既定の基本路線が、ということであって、米軍撤退の詳細が未定である以上、どこをどう揺るがせていくかが私どもの課題となるだろう。

さて、2011年6月21日、菅直人政権下の日米安保協議会(2+2)のメンバーは、松本外相、北澤防衛相、クリントン国務長官、ゲイツ国防長官だった。この会談での合意事項でもっとも重要なのは「共通の戦略目標」改定だった。同目標は05年の2+2で、つまり米軍再編協力の時点で設定され、07年に改定されていたが、11年版で目を引くのは次の4項目だろう。北朝鮮による挑発を抑止、拉致問題の解決。中国による国際的な行動規範の遵守を促す。対話を通じた両岸問題の平和的解決。北方領土問題の解決を通じた日露関係の完全な正常化。

このうち拉致問題と北方領土問題は、それまでも日米「共通の戦略目標」に掲げていながら、米国がまじめに取り組んだことはない。両岸問題とは中国・台湾の緊張のこと。

中国に関しては柔らかな表現になっているが、防衛省防衛研究所編『東アジア戦略概観2012』の解説によれば、次のようになる。「総合的に見ると、名指しはせずとも、接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の追求を含む軍事力の広範かつ急速な近代化を伴いつつ台頭する中国に対して、日米両政府がどのように対応していくかという問題意識を共有」。中国軍拡への対応だけでなく、両岸問題すなわち台湾海峡有事への対応でも、自衛隊・米軍は共同対処する。

そのための当面の具体的な防衛協力として、共同演習、施設共同利用、情報共有拡大方針が11年2+2で確認された。

続く2012年4月27日、野田政権下での2+2メンバーは、玄葉外相、田中防衛相、クリントン国務長官、パネッタ国防長官だった。人は変わっても基本方針は一貫している。共同発表文書の南西地域に関する部分は以下のとおり。

「閣僚は、同盟の抑止力が、動的防衛力の発展及び南西諸島を含む地域における防衛態勢の強化といった日本の取組によって強化されることを強調した。また、閣僚は、適時かつ効果的な共同訓練、共同の警戒監視・偵察活動及び施設の共同使用を含む二国間の動的防衛協力が抑止力を強化することに留意した。」

 自衛隊の南西地域重視は、日本防衛のためだけのものではない、日米同盟の対中国抑止力強化のためのものだと言っている。「動的防衛協力」という新しい概念が出ている。

 こうして日米合意のもとに進められる「共同の警戒監視・偵察活動」の一環として、八重山諸島への自衛隊進出が行われることになった。

Ⅲ 与那国に自衛隊基地新設計画

 八重山への自衛隊進出に先立ったのは、米艦の寄港だった。2007年6月、与那国島の祖納港に2隻の米海軍掃海艦が入港した。アジア太平洋戦争でも地上戦のなかった八重山に、米艦寄港はこれが初めてだった。のちに沖縄県民への侮蔑発言で有名になった、当時在沖米総領事だったケビン・メアの「台湾海峡有事の際の掃海拠点に」との進言による。ゴーサインを出したのはネグロポンテ国務副長官だった。この間の経緯はウィキリークスが暴露したし、のちにメア自身が尖閣防衛問題として書いている(『決断できない日本』文春新書)。台湾海峡有事と尖閣防衛との、このすり替えが重要だ。

 掃海能力、掃海艦艇装備では、米海軍より海上自衛隊のほうが高い。台湾海峡有事のとき祖納港を拠点とするのは、米海軍ではなく海自だろう。

 09年4月には石垣港に2隻の米海軍掃海艦が入港した。自衛隊員募集事業にも協力してこなかった革新大浜市長は、非常事態宣言で抗議した。しかし翌年の市長選で大浜は敗れ、石垣市政は保守に急転していくことになる。

 与那国島に自衛隊、という声は与那国町民のほうから出た。07年、与那国防衛協会が設立された。同協会は自衛隊誘致の署名運動を開始し、08年9月、町議会に自衛隊誘致決議を出させることに成功した。

 かつて台湾との交易・交流で栄えた与那国には、1948年に町制が敷かれた時点で1万2000の人口があった。現在は1600を切っているのは、近い台湾との自由な交流を断たれ、沖縄本島・九州に遠い離島苦のためだ。観光でアジアリゾートに負け、サトウキビ農業の未来が明るくないとすれば、本来は望ましくないものを誘致してでも経済発展の契機としたい。このような論理は原発誘致や産廃処理場誘致に良く似て、結局はヤマトや東京に都合のよい理屈になってしまう。並べて論ずるのは失礼だが、各地の原発立地に充実した地域経済を育成すれば、原発マネーに期待する必要はなかったし、むろん事故被害もなかっただろう。

 町議会の自衛隊誘致決議を受ける形で、09年には浜田防衛相が、10年には北澤防衛相が与那国を現地視察した。浜田は与那国を訪れた最初の現役防衛相だった。

 防衛省が具体的な基地新設計画を提示したのは12年5月12日のことだった。陸自の沿岸監視部隊約100名。島の南西にある南牧場の一角(大半は町有地)125ヘクタールを買い上げて隊舎・宿舎・ヘリポートを建設して駐屯地とする。軽武装だからゲリラ対処能力はあっても米海兵隊のような侵攻戦闘能力はない。だから尖閣に敵上陸、という事態になっても、与那国駐屯の部隊が対処するわけではない。ただ有事の出撃拠点を確保する、という意味はあるのだろう。与那国駐在部隊を対馬の警備部隊と同格にするなら、指揮官は連隊長クラスの1等陸佐となる。

また島中部のインビ岳西側に移動警戒レーダーを設置して、航空自衛隊の移動警備隊を駐屯させる。大型トラックに載せたようなレーダーだから、探知する方角によって移動させることができる。那覇の警戒隊、宮古のレーダーサイトとの連携・補完関係になる。これで尖閣を見張るというのだが、台湾海峡も見張ることになるだろう。有事にはレーダー基地は最初に攻撃されると思われるが。また整備部隊が付いてこないのなら当然、ヘリは常駐しない。急病人を運んでもらえるという島民の期待は外れる。

与那国島の島をめぐる道路は舗装されているが、交通量は少ない。南牧場は道路の両側に拡がり、小柄なヨナグニウマが自由に道路を横断している。下には青い海が見える。インビ岳中腹には林道が通り、こちらも舗装されている。祖納港は直接外海に面して、大型艦船が入港できる設備はない。与那国空港も小規模で、大型ジェット機は発着できない。那覇にいる空自のF15がスクランブルで飛んできても、与那国までは40分かかるという。なお与那国島の真上を通っていた防空識別圏境界線は、すでに西の海洋上に移されている。

与那国に基地を新設することに、どのような意義があるのか。少数でも部隊が常駐するだけで抑止効果がある、という考え方もあるだろう。「ソ連の脅威」がなくなって以後、北海道駐在の大部隊の意味がなくなり、定員削減続きの陸上自衛隊に新たな任務を与える、ということもあるだろう。しかし、本稿で見てきた流れからすれば、これは日米の「共同の警戒監視・偵察活動」の一環以外の何物でもない。与那国で得られた中国軍の動静情報はリアルタイムで米軍に流れる。

誘致派の期待としては、人口減に歯止めをかける、経済の活性化をはかる、ということがあるだろうが、少数の部隊では経済効果は小さく、基地労働での地元雇用もきわめて限定されたものとなるだろう。

Ⅳ 島嶼防衛共同演習の実態

 島に置かれるのが警戒監視・偵察部隊だとすれば、実際の「島嶼防衛」はどのように行われるのか。日米共同演習・訓練を見てみよう。

 昨年11月5日から16日までの日程で行われた日米統合実動演習「キーン・ソード13」は、統幕・陸海空の自衛隊3万7400、米軍約1万が参加する、きわめて大規模なものだった。その目玉は離島奪還であり、舞台は那覇市沖にある周囲2キロの無人島、米空軍の射爆撃場になっている入砂島(なぜか施設名では出砂島)に設定されていた。しかし直前になって政治的配慮で「沖縄周辺海域での模擬訓練」に変更され、非公開で行われたため、実際にどのような演習が行われたのかは分からない。

 キーン・ソード13の全体像も、部分的にしか公開されないため、よく分からない。報道されたのは、佐世保での基地警備共同訓練、北海道から九州・日出生台への陸自の転地訓練などに限られ、また広報はキーン・ソードの一環であることを否定しているが、同時期に石垣・西表・与那国でも「西部方面隊訓練」の名で通信演習が行われた。

 それまでに行われたキーン・ソードは朝鮮有事想定のシナリオが多かったと思われ、実際に米韓共同演習と時期的につながっていることが多かった。しかし今回は米韓共同演習フォール・イーグルは3月に行われているから、時期的に隣接しない。キーン・ソード13のシナリオは台湾海峡有事の日本波及だったのだろうか。

 またキーン・ソード13が実施されていたのは、なんと米大統領選挙の真っ最中であり、次の10年間の指導者を決める中国共産党大会開催中でもあった。さらに翌月には韓国大統領選挙を控えていた。このような状況のなかで大規模な軍事演習が日米共同で行われたのは、米軍・自衛隊の共同作戦体制はどのような国際情勢のもとでも不変であることのアピールだったのだろうか。

 より実戦的な日米共同島嶼奪還訓練が、アイアン・フィストの名で行われている。06年1月にカリフォルニアで、米海兵隊と陸上自衛隊西部普通科連隊(西普連)との共同訓練として行われたのが最初だった。直近ではこの1月15日から2月22日まで、サンクレメント島を使用して行われた。「日米混成部隊による接近戦・近接航空支援の訓練」と発表されているが、オスプレイにも水陸両用車にも、自衛隊と米軍が、文字通り肩を並べて乗った。絵に描いたような「ともに戦う」姿である。

 また12年9月にはワシントン州ヤキマで陸上自衛隊の派米訓練として、初のC4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)部隊実験が行われている。

 このような共同演習・訓練の実態を見ると、自衛隊が米軍から島嶼防衛の方法を教授されているだけでなく、上陸侵攻共同作戦の準備をしている、との印象が強い。「島嶼」は尖閣に限らない。

 不思議なのは、島を守ると言いながら、絶対に敵を上陸させない作戦ではなく、取らせて取る「奪還」作戦になっていることだ。専守防衛の建前から、ということもあるだろう。こちらから挑発はしない、相手が侵攻したら必ず取り返す、と説明されるが、それだけの実力を演習で見せつけて抑止力にする、と言いたいのだろう。しかし有人島だったら住民はどうなるのか。また、相手が戦力を増強すればこちらも戦力を増強せざるを得ないという、エンドレスの対峙となる。

 島嶼防衛の実戦部隊として設置されたのが、先に挙げた西普連だった。02年3月に600名で創設され、猛烈な訓練で自殺者が続出した精強部隊。対馬から与那国までという広範囲を守備範囲とする。沖縄に置きたかっただろうが、反対運動を恐れ佐世保に置かれた。移動には「おおすみ」他の輸送艦、ヘリ、LCAC(ホバークラフト)、ゴムボートを使用する。13年度に水陸両用車の予算がつき、オスプレイ導入計画が語られているのは、やはり米軍との共同作戦には同じ装備が必要だからだろう。

 島嶼防衛共同演習の意義は何か。これは先に見た12年4月の2+2文書の「適時かつ効果的な共同訓練」にあたる。1978年のいわゆる旧ガイドラインですでに日本の国土防衛は自衛隊が行うことになっているし、1997年の新ガイドラインで周辺有事の日本波及でも日本の国土防衛はもっぱら自衛隊が行うことになっている。だから、いま共同演習が行われているのは、日本を守るための日米共同作戦の演習などと考えないほうがいい。台湾海峡有事、南シナ海有事まで含めた自衛隊活用を想定すべきではないか。

Ⅴ 第3次日米ガイドラインに向けて

 いまガイドライン(日米防衛協力指針)の再改定作業が始まっている。78年旧ガイドラインは日本有事「共同対処」、97年新ガイドラインが周辺有事(メインは朝鮮有事)共同対処の基本についての政府間合意だった。第3次ガイドラインはグローバルな日米同盟へと解説されることも多いが、全世界というよりはむしろ縮小しつつある米帝国にあわせて、インド洋までを含めての東アジアを対象とすることになるのではないか。

 ガイドラインの再改定を必要とした理由のひとつには、自衛隊イラク派兵前後にすでに日米同盟がグローバルに拡散している実態の追認があるだろう。そして凋落する米国のアジア戦略を支える、よりきめ細かい日本の補完的役割の強化という、もうひとつの理由があると思われる。

 ガイドライン再改定協議に先立って12年4月27日の2+2では、日米政府はグアム、北マリアナの基地共同使用で合意した。自衛隊はアフリカのジブチ基地に続いて、グアムと北マリアナに海外基地を持つことになる。

 だいたい米軍グアム基地の拡大強化に米議会が抵抗しているのは、すでにグアムは中国のミサイルが届き、中国潜水艦が接近し、あるいは近く北朝鮮のミサイルさえ届くようになるような、前線になりつつあるからだ。だから有事に使える基地自体は絶対に手放さずに、本部隊はハワイまで下げておき、グアムの駐在は減らして、その分、自衛隊に任せる。見え透いている。

 再改定をするという合意は、12年8月3日の森本防衛相・パネッタ国防長官の会談で成立した。再改定協議そのものは、13年1月17日の日米外務・防衛課長級協議で始まった。そして4月30日の小野寺防衛相・ヘーゲル国防長官会談では、再改定での情報監視偵察(ISR)分野の重要性が強調された。まさに南西地域の監視部隊もこれに含まれるだろう。

 このような流れのなかで、13年度防衛予算で「南西諸島」はどのように扱われているか。

 ひとつは「南西諸島を含む領空の警戒監視・防空能力の向上」だ。宮古と高畑山(これは南西諸島ではなく宮崎県)の警戒監視レーダーをFPS-7という、より高性能なものに換装する。89億円。那覇基地における早期警戒機E-2C受け入れ態勢の拡充、3億円。那覇基地における戦闘機部隊2個飛行隊化に向けた施設整備、34億円。南西地域に1個飛行隊しかない状況では、頻発するであろうスクランブルに耐えられないということか。

 もうひとつは「南西諸島を始めとする島嶼を含む領土の防衛態勢の充実」だ。ここで、水陸両用車の参考品購入、4両、25億円。与那国に沿岸監視部隊の配置等、62億円。南西諸島における各種事態対応の初動を担任する部隊新編の調査、0.5億円。

 日米の防衛担当相・外務担当相が目まぐるしく交代するなかで、いわゆるジャパン・ハンドラーズの米政府への影響力が落ちていることに注目する必要がある。現職のジョン・ケリー国務長官、チャック・ヘーゲル国防長官、ジョン・ルース駐日大使はいずれも知日派ではなく、より中国に近い。おなじみのリチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイはともに政権の中枢から離れている。米国のアジア太平洋政策は明らかに日本対応が中心ではなく、中国対応が中心だ。

 結論になるが、南西地域防衛態勢強化は、日本の国土防衛のためではない。そのことを防衛省自身が正直に書いているのが、『東アジア戦略概観2013』の次のような指摘だろう。「単に『島を守る』という発想だけでなく、南西諸島方面の防衛を、想定されるより烈度の高い紛争事態のなかに位置づけることも必要」なのだという。

Ⅵ 地域自立と基地反対運動

 八重山での自衛隊基地建設をめぐる対立状況はどのようになっているか。それを説明するには、先に八重山の戦争経験を説明しなければならない。

 与那国島の中心地、祖納の集落に隣接して、浦野墓地がある。沖縄に独特な巨大な石造りの亀甲墓が、それぞれ違った方角を向いて並んでいる。礼を失した表現になるが、壮観というほかはない。亀の甲の形の墓には前庭があり、清明祭(シーミー、旧暦3月に行われる)には遠くからも一門の者が集まってここで供養・会食をする。先祖供養を大事にする、門中墓を大事にすることでは、沖縄は他に例を見ないほどだと思われる。

 先祖を思うとき、当然、八重山の戦争被害の記憶が甦るだろう。

 沖縄本島の場合とは異なり、八重山ではアジア太平洋戦争で米軍の上陸はなく、地上戦は行われなかった。しかし戦争被害は大きかった。軍命令での強制疎開があり、疎開地でマラリアに罹患した「戦争マラリア」での死亡者は、与那国島366、波照間島477、小浜島124、西表島75、新城島24、黒島19、竹富島7名を数える。加えて、米軍の爆撃・機銃掃射等による直接的戦争死亡者が178名。石垣から台湾へ疎開の途中で攻撃を受け尖閣に漂流した戦時遭難死没者が約80名。米軍の攻撃による死亡者よりも旧日本軍の軍命による犠牲者のほうが多い。

 そして、かつて八重山と台湾との交流は濃密だった。西表炭鉱には多くの台湾人が働いていたし、八重山炭は台湾の鉄道で使われた。パイン栽培技術も水牛も台湾から伝わった。高等教育機関のない八重山から、台湾の学校に進学した者もあった。八重山に移住した台湾出身者は徴用に応じ、日本の敗戦後は国籍問題で悩まされた。

 このような記憶が鮮明に残る与那国町で05年4月5日、町議会で全会一致で決議された「与那国自立・自治宣言」を読むとき、あるいは日本国憲法前文をも超えるようなその精神性の高さに、襟を正さざるを得ない。同宣言はいう。「私たちは、既に友好関係を深めている花蓮市をはじめとする台湾など、近隣・東アジア地域と一層の友好・交流を推進するとともに、相互発展の道を築き、国際社会の模範となる地域間交流特別区の実現に向け努力することを誓う。」「私たちは、東アジアの平和維持と国土・海域の平和的保全等に与那国が果たしてきた役割への正当な評価のもとに、日本国民としての平穏な暮らしを実現しながら、平和な国境と近隣諸国との友好関係に寄与する『国境の島守』として生きることを誓う。」

 しかし日本政府は、与那国の国境交流特区・教育特区・環境特区の構想を「適用不可」と却下した。それでも与那国町は「国際村」を支える国際航路ネットワークを中国・台湾との間に作ろうと努力した。そこに自衛隊基地新設問題が降って湧き、島は招致派と反対派に二分されてしまったのだった。

 八重山全体での政治対立を深めた問題としてもうひとつ、教科書問題がある。先に述べた石垣市政の革新から保守への転換後、八重山採択地区協議会は12年度中学公民教科書として、「つくる会」系の育鵬社版を採択したのだ。その審議過程への疑問から各市町教委、協議会、沖縄県教委、文科省の間で二転三転。最終的には竹富町のみ東京書籍版を使用するが、無償給付とならず町で購入することになった。『琉球新報』『沖縄タイムス』がたびたび1面トップで報道し、地元紙『八重山毎日新聞』と『八重山日報』のスタンスの違いが鮮明となったこの教科書問題を、ヤマトの新聞はごく小さくしか報道しなかった。

 与那国の自衛隊基地問題に戻る。反対派の与那国改革会議は11年9月、自衛隊誘致活動中止を求める要請署名を島内556、島外1775筆集めた。13年2月末の統計で人口1570人、783世帯という島でのことである。11年11月には自治労・地区労・沖縄平和センターと共催で大集会・デモも行った。さらに住民投票実施の請求署名を集め、これは588筆になったが、町議会は賛成少数で請求を否決、外間守吉町長は再議に付す義務があるがこれを行わなかった。現在、町と町長を被告とした損害賠償裁判が行われている。また、請求署名の縦覧中に選挙管理委員会が一部を紛失するという不祥事も起こっている。

 今年に入って基地建設の予算が成立する直前になって、外間町長が防衛省に対して協力費10億円を要求したため、建設計画は中断した。5月、与那国防衛協会が次の町長選で外間氏を支持せず他の候補を立てると決議すると、町長は10億要求を撤回した。町長選は8月に行われる。現職、防衛協会、改革会議の3候補の間で争われるのか、自衛隊誘致派が候補者を一本化するのかが注目されている。

 南西地域防衛態勢強化とは何かは、すでに本文で示した。それは日本防衛のためではなく、南西地域で増強された自衛隊部隊を「より烈度の高い紛争事態」で活用するためだった。「島嶼奪還訓練」はそれをいかにも日本の島嶼防衛のためであるかのようにカモフラージュするためのものに過ぎない。

尖閣問題が安保問題ではなく外交問題であることは、この4月10日に日本政府が台湾との間で尖閣諸島周辺海域に関する漁業協定を締結したことに現れている。日本側に不利な、したがって沖縄県知事が抗議したような協定内容の妥当性はここでは問わない。大事なことは、尖閣の領有を主張しているのは日本、中国、台湾の3者だということだ。その台湾と日本との間で尖閣周辺海域での漁業交渉が成立したということは、明言せずとも、尖閣領有問題を日本も台湾も棚上げにしたからこそ可能だった。中国政府はこの交渉成立に抗議しなかった。つまり、尖閣の領有問題についてはすでに日中台の間で、あらためて事実上の棚上げ状態になっていると見ることもできる。

「東アジア内海文化圏」という言葉が近年、研究者の間で使われている。オホーツク海も日本海も東シナ海も、千島諸島、日本列島、そして南西諸島に囲まれた海域だ。ここでは前近代では「国境」を問題にせずに、かなり自由な交易・交流が行われていた。近世日本・中国・朝鮮の各管理貿易体制のなかでも、それは変わらなかった。近代国家としての新政府成立時期にズレがあるために、国境問題が生じた。冷戦中にサンフランシスコ体制が成立したことで国境問題の亀裂は深まった。

島と海はそこを生活圏とする人々のものだ。そこに国家の論理、国家の利益が優先されると、地域住民が犠牲にされる。国家の論理で地域の自立を妨げることがあってはならないだろう。東京在住の者として、八重山で自衛隊誘致に反対する人々への「連帯」の表現はためらわれ、「援助」などという失礼なことではもちろんない。ヤマト政府に八重山の自立を邪魔させないためのささやかな言論活動を、私は続けていきたい。

(本稿は2013年6月4日に行われた平権懇学習会での報告に最小限の加筆をした。その後6月6日に左藤章防衛相政務官は石垣を訪れ、与那国町長選の結果によっては自衛隊基地新設は与那国以外の場所を検討すると語り、与那国の現地視察を見送った。露骨な町長選へのゆさぶりといえる。与那国新基地計画を撤回するなら、これまでに費やした調査費を溝に捨てることになる。毎年、与那国町の防災訓練に陸自を参加させてきた努力も無駄になる。もし「日本西端」の新基地建設地を与那国以外に求めるなら、3月に開港した新石垣空港の隣接地、あるいは石垣旧空港跡地(県立八重山病院建設計画がある)が考えられるが、いずれにしても左藤発言は、防衛省は日本最西端の島、与那国の防衛など考えていないことを示す発言だろう。本稿執筆に当たっては、4月の与那国・石垣取材に関して与那国町議の田里千代基さん、フォトグラファーの山本英夫さん、ほかから貴重な情報協力を得た。また畏友・小幡利夫さんに校閲をしていただいた。記して御礼を申し上げます。 2013年6月7日

参考文献

『防衛白書』『防衛ハンドブック』『東アジア戦略概観』『海上保安レポート』『朝雲縮刷版』各年版

松田良孝『八重山の台湾人』南山舎、2004年

宮里政玄・新崎盛暉・我部政明編『沖縄「自立」への道を求めて』高文研、2008年

小西誠『日米安保再編と沖縄』社会批評社、2010年

『都市経済研究』2010年1号特集「国境・離島・海洋から考える新しい邦づくり」

田里千代基『平和な与那国島に自衛隊はいらない!』2011年

ケビン・メア『決断できない日本』文春新書、2011年

新崎盛暉『新崎盛暉が説く構造的沖縄差別』高文研、2012年

三荻祥『脅かされる国境の島・与那国』明成社、2012年

渡瀬夏彦「与那国島に自衛隊は必要か」『世界』2012年2,4月号

井上和彦「『三里塚化』する国境最前線の島々」『正論』2012年8月号

『現代思想』2012年12月号特集「尖閣・竹島・北方領土」

仲新城誠『国境の島の「反日」教科書キャンペーン』産経新聞出版、2013年

『軍事研究』2013年1月号「中国に示した日米の結束“Keen Sword 2013/24FTX”」

山田吉彦「与那国島を台湾との交流拠点に」『新潮45』2013年3月号

『けーし風』2013年3月号特集「島々の未来に軍事的緊張はいらない」

2013/06/05

『脱原発テントといのちを守る裁判』のめざすもの

次回 「平権懇」学習会のご案内です
日時  8月29日木曜日 午後6時半より
会場  新宿御苑・スモン公害センター

東京都新宿区新宿2-1-3 サニーシティ新宿御苑1001 スモン公害センター内
TEL 03-3357-6977 FAX 03-3352-9476

テーマ 「『脱原発テントといのちを守る裁判』のめざすもの」
講師  正清太一さん
お問い合せ先 杉山 隆保
携帯電話 090-5341-1169
メールアドレス nora@cityfujisawa.ne.jp

2013/05/23

「南西地域防衛態勢強化とは」

「へいけんこん」学習会「南西地域防衛態勢強化とは」 日時 6月4日(火)午後7時より

会場 新宿御苑駅 徒歩1分 

日本民主法律家協会の会議室

http://www.jdla.jp/image/map.gif  

テーマ「南西地域防衛態勢強化とは」

講師  大内要三氏 石原慎太郎前都知事による買上げ発言以後、尖閣諸島の緊張が続いています。このなかで自衛隊は「島嶼防衛」の名のもと、南西方面つまり奄美・沖縄地方への配備を強化し、新基地を建設しようとしています。その真の狙いは何か。石垣・与那国の現地取材をもとに考えます。 

(「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」運営委員)

2013/04/23

アベノミクス・TPP・そして改憲

アベノミクス・TPP・そして改憲

安倍政権のたくらむものは……

大内 要三(日本ジャーナリスト会議会員)

序 第2次安倍政権の成立事情

 昨年末の総選挙では、誰もが驚くほど自民党が圧勝して、1226日に第2次安倍内閣が成立しました。今日は「安倍政権のたくらむもの」というお題をいただきましたけれども、時間も限られていますので、経済と憲法にテーマを絞ってお話をいたします(文章化にあたっては、人名に敬称を略させていただきます)。

 安倍政権が何をしようとしているかは、じつは総選挙のときに自民党がばらまいた「重点政策2012」というパンフレットに、みんな書いてあるんですね。「まず、復興。ふるさとを、取り戻す。」「経済を、取り戻す。」「教育を、取り戻す。」「外交を、取り戻す。」「安心を、取り戻す。」そして「みんなで、新しい日本をつくろう。」というもので、かなり詳しく書いてあります。自民党各候補者のテレビの政見放送では冒頭に安倍が出て来て「取り戻す、取り戻す」と繰り返していましたけれども、滑舌が悪いのか「トリモロス」としか聞こえない。私は自民党は日本をトリモロスのか取り漏らすのか取り壊すのか、と思って聞いていました。

 選挙で圧勝した安倍はこれで国民の支持を得たとして着々とこれらの政策を実行に移しているわけですが、実際には現国会・現政権は民意を反映しない選挙制度で作られたものです。自民獲得票は、対有権者数で言うと小選挙区で25.5%、比例区で27.6%にすぎません。有権者の4分の1の支持で安倍政権は成立したのです。小選挙区制によるマジックですね。

 自民圧勝というよりは、民主大負けの選挙でした。いわゆる「政権交代」に期待したのに、福祉は充実しない、景気は良くならない、消費税は上げることになった。東北大震災・福島原発事故に適切な対応ができなかった。この民主党政権への批判の高まりによって、自民党が漁夫の利を得たわけです。

 しかし、後からどのような分析をしようと、いったん国会で多数を制すれば、次の選挙までは政権党が日本政治の方向を決めてしまうのが事実です。選挙制度がおかしいと言っても、その選挙制度を決めるのも国会です。だとしたら、次の国政選挙である7月の参議院選挙、もうあまり日数がありませんけれども、ここに向けてどうするかを考えていくことが必要だと思います。

1.アベノミクスとは

 では、安倍政権のたくらみについて、まず経済政策からご説明します。

 アベノミクス、という言葉が新聞やテレビによく登場します。ミックスジュースのミックスではなくて、エコノミクス(経済学)と「アベ」をつなげた言葉で、「レーガノミクス」にならって日本のマスコミが作った言葉です。米国のレーガン大統領の経済政策がレーガノミクスでした。レーガノミクスや、最近亡くなった英国のサッチャーによるサッチャリズムは、福祉を切り捨てて弱肉強食社会に戻る、新自由主義で知られています。

 首相になった安倍は228に国会の施政方針演説で、「『三本の矢』を、力強く、射込みます。大胆な金融政策であり、機動的な税制政策、そして、民間投資を喚起する成長戦略です。」と言いました。残念ながら、それだけ聞いても何のことだか分からない。少し分析してみましょう。

 第1の矢「大胆な金融政策」。インフレによるバブルの再現です。インフレターゲット(物価上昇率の目標)を2%に定めて、ここに達するまでは政府主導で景気を刺激する。どのようにするかというと、国債をどんどん発行して日本銀行に買わせる。政府の財政赤字を無制限に日銀に引き受けさせるわけですから、政府が使えるお金が増えます。ですから金融緩和と言っても、庶民にどんどん銀行がお金を貸してくれることではなくて、あくまでも日銀が対象、今まで禁じ手だったことを日銀がするわけです。

 流通するお金が増えればインフレになる、インフレになれば塩漬けになっていたお金も購買に向けて動く。したがって景気が良くなる。というもくろみですが、日本だけでインフレが進めば円安になって、輸出産業には有利になります。しかし物価上昇でいちばん困るのは年金生活者です。輸出には有利でも輸入品の値段は上昇します。すでに安倍政権成立以後、ガソリンも電気代も小麦も、じりじりと上がっていますね。

 いま円安と日本企業の株価上昇が続いていますけれども、これは期待感からの投機によるもので、実体はありません。実体経済以上に見かけの好景気になる、それがかつてのバブル経済であって、そのなかで格差が広がるのを私たちは経験しました。インフレは大資産家には有利でも庶民には不利になるのではないでしょうか。

 第2の矢「機動的な財政政策」。国家予算の使い方です。日銀から引き出したお金をどう使うか。

 2012年度補正予算は13.1兆円、13年度予算は92.6兆円、これを切れ目なく使うというのですが、うち10兆円は公共事業に使います。道路、橋、建物などの建設で景気を刺激する。田中角栄の日本改造計画を思い出す、新味のない政策ですね。とりあえず建設業は潤いますが、採算の合わない新幹線や高速道路を作っても、維持管理が大変ではないでしょうか。

 財源はもちろん国債ですけれども、それだけではありません。来年4月に8%に上がる消費税、これも「我が国経済の成長等に向けた施策」に使うことが、昨年8月の消費税法改正の際に附則18条で決まっています。

 国債とは国の借金ですね。13年度末には750兆円という巨額になります。国民ひとりあたり589万円。金利だけで年に22兆円を超えます。いつ、誰が、どうやって返済するのでしょうか。

 では、ふくらんだ国家予算は福祉など、本当に必要なところにも回すかといえば、これはしないんです。老齢社会の進行で社会保障費が増えるのは、生活保護費を削って対応します。いま生活保護受給者は215万人、収入が生活保護基準未満の世帯は500万を超していますけれども。医療費増は高齢者の窓口負担増で対応します。1割から2割に負担が倍増することはすでに決まっているのですけれども、これまではその実行を猶予してきました。地方の貧困化による地方交付税増は、地方公務員の給料減で対応します。

 それなのに、原発事故を起こした東電は税金で救済します。出資1兆、交付国債24262億円です。東電は電気料金も値上げしますから、国民からは二重取りですね。

 防衛費は11年ぶりに増加します。自衛隊員287人増、大型護衛艦(要するに軍艦です)の健造、新型戦闘機F35の購入、ミサイル防衛の充実、島嶼防衛用と称して水陸両用車の輸入。

 こういう国家予算の使い方でいいのでしょうか。

 第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」。またまた大企業への規制緩和です。どういう分野で緩和するかはTPP交渉(後ほど説明します)をにらみつつになりますけれども、重点分野は米国からの要請で決まっています。

 ひとつは医療分野の民間開放です。混合診療が全面解禁されます。最先端の医療を受けようと思えば、健康保険が適用されないので自己負担。まともな総入歯を作ろうとすれば保険適用外で何十万円、という時代がありましたね。これと同じように高度ながん治療を受けられるのは金持ちだけ、という時代になるのでしょうか。健康保険では間に合わないなら民間のがん保険に入って準備しておかなければならない。国民健康保険と民間保険の両方が必要になる。手ぐすねを引いて待っているのは、テレビコマーシャルを垂れ流している、外資系の保険会社です。

 もうひとつは「多様で柔軟な働き方の実現」です。正社員でも終身雇用の保障はない、時間外労働に賃金が保障されない雇用になります。

 これらは日本市場への大幅参入をもくろむ米国の通商代表部からの規制緩和要求でもありますけれども、日本財界からの要求でもあります。日本経団連は昨年9月に「規制緩和要望」を発表していました。

 このように規制緩和は所得格差を広げますけれども、大企業の経営を楽にします。そして大企業に対する税制優遇は改めないのです。日本の大企業の内部留保は莫大で、昨年度末で267兆円にのぼると推定されます。ここに1.8%課税するだけで消費税率増は不要になります。内部留保は「いざという時」のためにため込んだお金ですが、いまが「いざという時」でなければ、いつ使うのでしょうか。

2.TPP参加で国民生活は

 こうした安倍政権の経済政策の影の主役がTPPです。

 TPPとは、トランス・パシフィック・パートナーシップ(環太平洋連携協定と訳されます)の英語の頭文字を並べた略称です。関税をなくして物品やサービス、人とお金の移動の制限をとりはらうことを目的とする国同士の取り決めです。関税をなくしますから、安い外国の製品が入ってくれば国内産は競争に負けます。

 2009年、4か国で協議が始められました。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ。どれも経済小国ですから、小国同士の助け合いから始まったわけです。その後、米国が参加したことで性格がまったく変わりました。世界一の経済大国、米国の権益を守ることが優先されるようになったのです。

 問題は、環太平洋とはいっても、肝心の中国、ロシア、韓国などは参加を表明していないことです。いま日本の貿易相手国のランキングを見ますと、2011年の輸出入総額で、1位は中国、全体の20.6%を占めています。2位が米国で11.9%、3位が韓国で6.3%。こういう実態があるのに、中国・韓国などが参加しない経済協力協定に日本が参加するのは異常ではないでしょうか。

 2009年にすでに協議は始まっていると申し上げましたが、どのような交渉が行われているか、内容は4年間は公表されません。また途中から参加した国は、参加以前の合意事項はすべて認めさせられます。ですから、TPPに参加するとこうなる(だろう)という話はすべて、参加国からこっそり聞いていることと、米国から要請されていることとを合わせた話です。

 日本の参加を検討すると言い出したのは菅首相、2010年のことでした。野田首相が米国と「参加のための協議を開始」したのは2011年。そして安倍・オバマ会談を経てこの315日、安倍首相が参加を表明しました。

 関税をなくしていちばん打撃を受けるのは日本農業です。日本政府自身が315日の参加表明と同時に発表した「関税撤廃した場合の経済効果について」という文書に、はっきりと書いています。国産米は3割減、小麦・大麦・乳製品・砂糖・澱粉は壊滅、牛肉9割減、豚肉7割減。食糧自給率は39%から27%に落ちる。それでも、トータルには日本経済にとって有利だというのです。日本農業の国際競争力を高めるよい機会だとも言います。すでに超高齢化が進み、専業経営が限りなく不可能に近くなっている日本農業の実態を見ますと、国際競争力を高めたければ大資本による大規模経営化か、付加価値の高い、つまり超高級な産品に頼るしかなくなるでしょう。米作農業を中心とした農村社会の崩壊は、日本の伝統文化の基盤をゆるがすことになると思いますけれども、「美しい日本」を求める安倍首相は米作より米国を選んだのでしょうか。

 関税をなくして米も牛肉も安くなって、牛丼はもっと安くなる(今でさえ、こんなに安くて大丈夫かと思いますが)、良かった良かった、ということになるのか。問題のひとつは、食品の安全基準が「国際標準」に合わせて引き下げられて、遺伝子組み換え食品、残留農薬、食品添加物の危険が増すことです。もうひとつは、世界人口がさらに増加していくなかで、国際的に食糧不足になる危険があることです。しばらくは食品が安くなっても、だんだん高価になる、あるいは輸入されなくなることを考慮しなければならないでしょう。

 そして、TPP参加の影響は農業・食品にとどまりません。たとえば知的財産権の保護強化で、特許使用についての規制は厳しくなり、実験データなどが公表されなくなる恐れがあります。その結果ジェネリック医薬品が製造できなくなると、薬の値段が上がります。

 また、投資家対国家紛争条項というものがあります。関税をなくして物品やサービスが国を越えて自由に行き来できるようにするわけですから、ある国がこの自由化をさまたげるような行為をすると、そのために損失をこうむった企業からその国が訴えられるのです。つまり食品の安全基準も「国際標準」より厳しくすることができなくなるわけです。

 ざっと見てもこれだけ問題のあるTPPに、ではなぜ安倍政権は加盟を推進しているのでしょうか。

 もともと自民党はTPP参加に否定的でした。選挙ポスターに「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。日本を耕す! 自民党」というのがあったことは有名な話ですね。それが2月の安倍・オバマ会談で「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」というので参加表明をした。日本の事情も考慮して、関税全部を撤廃することは勘弁してくれることになった、日本の聖域は残った、というわけですが、本当でしょうか。日米合意文書は玉虫色の表現になっていますし、日米間合意だけでTPP参加国すべての合意をとりつけたことになるわけでもありません。

 日本が米国いいなりになっている根元に、日米安保条約があります。この条約は基本的には安全保障にかかわるものですが、第2条には日米が「国債経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を推進する」とあります。これを根拠に米国は日本の経済政策に介入しているのです。

 そして日本の財界もこれに追随していまして、2010年の日本経団連提言では、「世界第一の経済大国である米国を含むTPP交渉に参加し、先進的なルール作りを進めることは、わが国の戦略的な地位を高める」と書いていました。彼らが守るのは日本経済ではありません。すでに多国籍に展開した企業です。すでに日本企業の海外投資・海外生産の利益は年間14兆円に達しています。海外で生産したものを世界で売るためには、国際的に、関税の壁がないほうがいいのです。

 さて、このように問題の多いTPPへの参加に「反対」する、日本農業を「守る」というだけでは、守勢に立って元気が出ないですね。発想の転換が必要です。それは「国益」に惑わされることなく「民益」を考えることです。海外需要の増加に期待して輸出競争力を強化するより先に、内需の拡大を考えることです。少々高くついても自給率を上げて食糧安全保障をはかることです。米国一辺倒ではなく、東アジア全体の共存共栄を考えることです。日本経済は、そのように組み替えることが必要だと思います。

 安倍政権はTPP参加を表明しました。しかし、これで参加が決まったわけではありません。先に協議を進めている国々それぞれに同意をとりつけることが必要です。米国との協議もまだ終わっておりません。TPP全体の協議は7月、9月、12月に会合が予定さていますが、そのどこから日本が参加できるか、まだ分からない。そして、たとえ安倍政権が途中からの参加を許されてTPP協定に調印したとしても、それで終わりではありません。TPPのような国際協定は要するに国同士の約束ごとですから、条約の一種です。条約は国会が批准を承認しない限り有効になりません。日本国憲法733項の規定です。内閣が何をしようと、国会がノーと言えばTPP参加は避けられるのです。

3.憲法改正へのたくらみ

 経済、TPPに続いて、憲法のお話をします。

 安倍政権が憲法改正に意欲を燃やしていることはよく知られています。そのたくらみには、3つの段階があります。第1は、憲法そのものは変えずに読み方を変えること。第2は、中身に入る前に憲法の変え方を変えること。第3は、憲法を全面的に変えること。少々複雑になりますので、ひとつずつご説明します。

 第1段階。憲法改正はしないけれども、読み方を変える。解釈改憲といいます。どこの読み方を変えるかというと、92項です。92項の読み方を変えて自衛隊が米軍と肩を並べて戦えるようにする。集団的自衛権行使の解禁、というふうに言われます。

 よく知られていますように、日本国憲法第91項は戦争を放棄しています。2項は軍隊を持たないと決めています。では自衛隊は何なのかというと、政府解釈では「自衛のための最低限の実力」であって軍隊ではありません。自衛隊はそういう性格のものですから、たとえ外国に出かけて行っても「武力の行使」はしません。武器が使えるのは「正当防衛又は緊急避難」のときだけです。こういう縛りはもちろん、憲法9条に細かく書いてあるわけではありません。国会での憲法9条の読み方、適用をめぐっての論議の結果として、政府を代表しての内閣法制局の答弁として定着してきたものです。

 ですから、そう簡単に変えることはできません。政府解釈だから政府が「変えることにした」と言うだけでは済まない。そこで、自民党の重点政策2012、最初にご紹介した昨年の総選挙での自民党のマニフェストですね、ここには「国家安全保障基本法」という新しい法律を作って憲法の読み方を変えようという方針が書いてあります。

 集団的自衛権とは何か。先ほど、これを解禁して自衛隊と米軍が肩を並べて戦えるようにする、と説明しました。これまでの政府見解では集団的自衛権とは、「日本の同盟国が攻撃されたとき、日本が直接攻撃されていなくても日本への武力行使とみなし、反撃する権利」だと言っています。日本を守るのではなく同盟国を守るために戦うのが集団的自衛権の行使だと。これは「自衛」の範囲を越えてしまうので、どう考えても自衛隊の仕事ではない、憲法違反だというのがこれまでの政府解釈、これまでの公式な憲法9条の読み方だったわけです。

 しかも日本政府はこれまで、日本は集団的自衛権を持っているけれども使わない、と言ってきました。使わないなら持っていないのと同じではないか、という論議もされていますが、これは違います。持っていても使わない権利はいくらでもある。タバコを吸う権利は成人ならみなもっているけれども、その権利を行使するかどうかは個人の自由です。タバコを吸う権利を行使しないことが尊敬に値するのと同様に、集団的自衛権を行使しないと決めた国は国際社会で尊敬される、そこに9条の価値があります。

 集団的自衛権という言葉は比較的新しい言葉でして、1945年に国際連合ができたときに国連憲章51条に出て来たのが最初です。国連は最初から「自衛権」に関しては矛盾をはらんだものでした。というのは、1928年のパリ不戦条約で戦争が国際法違反になったあとも、「武力の行使」は、武力攻撃を受けたときの自衛権の発動として、それも国連が対処するまでの限定的に、許される、というのが国連憲章の規定だからです。

 日本の憲法9条は、確かにすばらしいものです。しかし、国連憲章、安保条約、憲法9条の関係をこれまでどう日本政府が説明してきたかを理解していないと、足下をすくわれることになりかねません。それがこの集団的自衛権の問題だと思います。

 本日は安保の問題に深入りする余裕がありませんので、お話を進めます。

 改憲のたくらみの第2段階。憲法の変え方を変える。憲法96条に改憲についての規定があります。大事なので少々長く引用します。「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」

 衆議院・参議院ともに議員の3分の2以上が賛成しないと、国民に対して改憲の提案ができません。国民に提案した後の国民の承認を得る方法については、第1次安倍政権のときに成立した国民投票法で、そのやり方が決まっています。

 ですから、いまの憲法を変えることは、けっこうハードルの高いことであるわけですね。国会議員の3分の2以上、そして国民の過半数の賛成が必要ですから。とりわけ9条を変えることには抵抗が強いでしょう。ですからまず憲法の変え方を変えておいて、つまり96条を変えて国会議員の過半数の賛成があれば改憲の提案ができるようにして、それから憲法の全面改正をしたいと自民党は考えました。第2次安倍政権が成立したとき、安倍首相はこう言っています。「国民投票法という憲法を変えていくための橋をかけた。いよいよ橋を渡って最初に行うことは96条の改正だ。」

 しかし憲法の変え方を変える、というのはいかにも姑息です。民主党も、「96条よりも改正の具体的な中身の議論が必要」だと言っています。

 そして、96条をまず変えるにしても、その手続きは現在の96条にしたがって行われることになります。もし96条改正について国会の3分の2の賛成を得ても、国民投票で否定されたら、当分の間、改憲への動きは止まるでしょう。しかし96条が変えられてしまったら、全面的改憲が容易になることは間違いありません。

 改憲のたくらみの第3段階が、全面改憲です。自民党は昨年4月に出した「日本国憲法改正草案」がその全貌を示しています。これまた自民党「重点政策2012」からの引用ですが、その中身については次のように要約されています。

 ①国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三つの原則は継承

 ②わが国は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴である天皇陛下を戴く国家であることを規定

 ③国旗は日章旗、国歌は君が代とする

 ④平和主義は継承しつつ、自衛権の発動を妨げないこと、国防軍を保持することを明記

 ⑤家族の尊重、環境保全の責務、犯罪被害者への配慮を新設

 ⑥武力攻撃や大規模自然災害に対応した緊急事態条項を新設

 ⑦憲法改正の発議要件を衆参それぞれの過半数に緩和 など

 この改憲案を詳しく批判的に解説した論文や書物がいくつも出ていますし、ここ練馬でも何回か学習会が持たれていますので、詳しく述べることは控えます。しかし大事なことは、自民改憲案は9条を変えることに止まらない、ということです。権力を縛るのが憲法という現在の発想から、国民を縛るのが憲法だという発想に転換しようとしています。たとえば「国民の権利」に代わって「国民の責務」をいい、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と規定しています。

 以上、ご説明してきた3段階の改憲策動を、同時に進めているのが安倍政権です。もちろん第3段階が本命ですけれども、その前に第1、第2段階を実現したい。ここにはたいへん大きな矛盾がふたつあります。

 ひとつ。読み方を変えることで済むなら憲法自体を変える必要はない。逆に憲法を変えることを目指すなら、いま読み方を変える必要はないでしょう。

 もうひとつ。自民党はずっと改憲の理由について、いまの憲法は米国から押しつけられたものだから、独立日本の新しい憲法が必要だ、と言ってきました。米国から独立したいのなら、なぜ米国の戦争にいっそう協力できるように9条の読み方を変えるのか。たいへん矛盾しています。

 それでも、憲法を変えようとしているのが自民党だけではないということ、衆議院は改憲派が3分の2以上になっていることを見ておかなければなりません。昨年の総選挙のマニフェストを見ますと、12党のうち自民のほか維新の会、国民新党、幸福実現党、新党大地、新党改革が改憲を主張していました。みんなの党、未来の党は、解釈改憲を主張していました。民主党と公明党は憲法については明記しませんでしたが、日米安保強化を主張していました。日本国憲法の読み方を変えることにも、条文を変えることにも反対していたのは、社会民主党と日本共産党だけでした。総選挙の結果は、護憲派の敗北だったということです。

 昨年は憲法について党内の意見調整ができずマニフェストに書き込めなかった民主党は、今年の224日に開いた定期大会で「民主党綱領」を採択して、憲法について次のように書きました。「私たちは、日本国憲法が掲げる『国民主権、基本的人権の尊重、平和主義』の基本精神を具現化する。象徴天皇制のもと、自由と民主主義に立脚した真の立憲主義を確立するため、国民とともに未来志向の憲法を構想していく。」なんとも抽象的で玉虫色ですが、「未来志向の憲法を構想」というところは改憲につながります。

 もちろん、民主党のなかに明確な改憲派がたくさんいるからこそ、こういう表現になったわけです。すでに安倍が顧問をしている96条改正議員連盟が、自民・民主・みんなの議員を集めて活動を再開しています。

 そして今回の自公連立政権ができたとき、「憲法審査会の審議を促進、改正に向け国民的議論を深める」ことが合意されました。衆参それぞれの憲法審議会は国会の改憲案をまとめるところでもありますが、201110月に始動してから着々と審議を進めています。衆議院憲法審査会でいえば、11年に4回、12年に10回、今年に入ってから3回。このうち昨年531日と今年の314日には、衆議院法制局が9条について説明し、のち自由討論をしました。議事録がインターネットで読めますけれども、各党が9条をどうしたいのかを述べています。

 こうして、今度の参院選は憲法が争点になると思われます。3段階の改憲策動のどれにも反対する勢力を参議院で増やすことが必要です。

4.安保体制のゆらぎ

 大雑把に言えばTPP参加も憲法改正も、米国の要請に沿ったものであることは確かでしょう。しかし安倍政権は、米国の対日要求を読み違えているところがあるのではないか、という気がしてなりません。

 昨年の815日、第3次アーミテージ報告と呼ばれる、「日米同盟:アジアの安定を高める」と題する文書が米国で発表されました。元軍人のリチャード・アーミテージと、ハーバード大学教授のジョセフ・ナイがまとめた、米国民主党・共和党相乗りの日本に対する勧告文書です。2000年に第1次、2007年に第2次のアーミテージ報告が出ていますが、米国側から日本に憲法改正を勧告する文書として有名です。

 今回の第3次報告を読んでみますと、冒頭から「日本は一流国に止まる覚悟があるのか」と脅迫調ですが、要するに鳩山政権時代に一部に見られた日本の脱米傾向は許さない、米国との同盟を第一に考えろということです。興味深いのはその後に続く部分で、まずエネルギー政策(原発推進政策)、第2に経済協力(TPP)、そして安全保障(軍事同盟)という順番になっていることです。つまり憲法改正・軍事同盟強化は、米国の対日要求項目のトップではないのです。

 しかもアーミテージやナイは、かつてブッシュ政権の中枢部にいましたが、いまは民間人にすぎません。ジャパン・ハンドラーズと呼ばれた知日派が米国政権の中枢部にいる時代は終わっています。米国は東アジアでもっとも重要な二国間関係は日米同盟だと、日本に対してはリップサービスで言いますけれども、米国にとっては対中国のほうがずっと重要であることは、たとえば国務長官が東京をスルーして北京に往復していることでも分かります。

 その米国が国際的地位のうえでは落ち目であることは、米国自身が冷静に自覚しています。「グローバル・トレンド2030」という文書が米国国家情報局(CIAFBIなど米国の情報機関を束ねる部署)から昨年1210日に出ました。2030年までの世界の動きを予測する文書で、これを参照しつつ米国は対外・国内政策を立てていきます。この文書のなかで、米国の国際的地位に関する部分には次のように書かれています。

 ――中国は2030年の数年前には米国を超え、世界最大の経済大国となるだろう。ヨーロッパ、日本、ロシアの経済は相対的に緩やかに低下していくだろう。米国は2030年においても、他の国家の中での「同輩の中の筆頭」としてとどまる可能性が高い。パックス・アメリカーナ、つまり1945年に始まった国際政治におけるアメリカ優位の時代は、急速に終焉した。――

 要するに米国単独覇権の時代は終わる、米国の国際的地位の凋落傾向は止められない、ということを米国自身が自覚しているのです。そのなかで先に見た対日要求で軍事側面や憲法改正がトップ項目でなくなっているのはどういうことか。

 確かに米軍は中国海軍の太平洋進出を日本自衛隊にチェックさせようとしているでしょう。ミサイルを積んだ中国潜水艦が太平洋に出て来れば、直接米国本土を狙うことができますから。第3次アーミテージ報告では、中国軍拡の脅威に対抗するため共同対処を、と書いていました。しかし他方で米国は、日本が東アジアでトラブルを起こすことを迷惑と感じていますし、日本の軍拡が米国からの独立につながることを恐れています。尖閣諸島の帰属について、米国が絶対に日本の領土だと認定しないのはそのためです。米軍が中東で足を取られたままであるときに、東アジアでトラブルが起こっても充分な対処ができないのです。

 223日に行われた安倍・オバマ会談は、日米同盟強化を確認したと日本のマスコミでは報道されていますけれども、実態はたいへん貧しいものでした。オバマは安倍の歓迎晩餐会もせず、会談は昼食をとりながらのものでした。共同声明は短く、TPPに関してのものだけでした。共同記者会見では米国の記者は誰も安倍に質問しませんでした。

 自衛隊を国防軍にして米軍とともに戦えるような体制を整えれば米国に大歓迎されて、米国が中国の脅威から日本を守ってくれて、日本はアジアの盟主になれる、などと安倍首相が考えているとしたら、それはまったくの幻想だろうと思います。そんなに米国は親切ではありません。

 

まとめ

 安倍政権のたくらみが危険なものであることを、長々と述べてきました。危険性を強調することが大事だからですが、じつはそう簡単には阿倍のたくらみは実現しない、反撃は十分に可能だということも述べておきたいと思います。

 いま政権は自公連立ですけれども、これは衆議院でこそ自民党絶対多数でも参議院では自民党が過半数を占めていないという実態から、公明党の協力を得る必要があるためです。参院選までの期間限定の連立でしょう。創価学会は平和運動では大きな力を持っていますから、公明党がすんなりと9条改憲に賛成するはずもないでしょう。

 沖縄県の全自治体が基地強化に反対しています。福島県の人々は、原発事故の後始末がまるでできていないことに怒りを感じています。基地も原発も、もちろん沖縄・福島だけの問題ではありません。

 増税は、貧困を拡大します。何よりも青年が未来展望を持てない国に未来はありません。

 ですから、景気が回復しつつあるように見える今でこそ、安倍内閣支持率は高いですけれども、これがいつまで続くかは保障の限りではありません。

 しかし、もし参院選でふたたび自民勝利を許すならば、安倍政権のたくらみは成功し、改憲勢力が参議院の3分の2を制するなら、改憲への動きが現実のものとなります。

 護憲勢力である社民党は、今度の参院選で3議席獲得を目標としています。共産党は5議席獲得が目標です。すぐにお分かりのように、これだけでは改憲阻止に必要な、3分の1の議席確保に達しません。さらに多様な、大きな国民運動のうねりの中で参院選を迎えることが必要だと思います。

2013417日、練馬での学習会報告に加筆

 

2013/04/07

イラク10メインイベント全体会の各発言要旨

2013.3.20 イラク10メインイベント全体会の各発言要旨

全体会では、イラク10実行委員会共同代表の志葉玲から基調報告が行われた後、イラク人ジャーナリストのアリ・マシュハダーニさん、イラクで死亡したイギリス兵の母でブレア政権の責任を追及するローズ・ジェントルさん、元外交官の孫崎享さんが発言しました。それぞれの発言要旨をご紹介します。

◯イラク10実行委員会より基調報告

 基調報告では、11万人以上のイラクの一般市民が殺され、現在も犠牲者が出続けている、

300万人もの人々が避難生活を続けている、などイラク戦争が終わったとは言えないことを改めて確認。英国やオランダでの検証で、イラク戦争が国連憲章違反の違法なものとみなされていること、民間人虐殺や非人道的兵器の多用、拷問や虐待が国際人道法に反することで、責任追及されるべきもの、と指摘しました。また日本にとっても、憲法問題、在日米軍問題などとも、平和国家、民主主義国家としてのあり方が問われている、と問題提起しました。

◯アリ・マシュハダーニさんの発言

女性や子どもを含むイラクの民間人を虐殺する等、米軍による戦争犯罪を追及していた、アリさんは、米軍に不当拘束され、拷問を受けた体験に触れ、「私のカメラが、彼らのいう“大量破壊兵器”だったのかもしれない」と皮肉りました。「イラク人ジャーナリストの行く末は、殺されるか、逮捕されるか、誘拐されるか、行方不明になるかのどれか」と現地での取材活動の困難さも語りました。また、「日本がイラク戦争に関わったことはショックだった」として、「日本は戦争に自ら関わったのか、問いただしたかった」と日本の政治の責任についても触れました。その上で、平和と発展を基盤とする国のあり方を、日本とイラクから始めていこうと呼び掛けました。

◯ローズ・ジェントルさんの発言

ローズさんは、「息子の死後、なぜ彼がイラク戦争に行かなくてはいけなかったのかと自問自答してきた」と語り、イラク戦争の検証委員会設立を求めてきた経緯を振り返りました。また、検証委員会により、当時首相としてイラク戦争を推進したブレア氏のウソが暴かれ、「現在イギリスでは、多くの人々がブレアの主張が誤りだったと考えている」と報告しました。さらに、「私達が次に取る行動は、国際刑事裁判所にブレアを連れていくこと」とさらなる戦争責任追及を行う意向を表明。「日本でもイラク戦争検証委員会が設立されると期待しています」「一人一人の力は思ったよりも大きい。一緒にたたかっていきましょう」と日英の市民の連帯を呼び掛けました。

◯孫崎享さんの発言

孫崎さんは、集団的自衛権の行使容認や、改憲などに触れ、「安倍政権の政治的方向と大きな関係がある」とイラク戦争の検証が正に今日の課題であることを強調しました。今も責任逃れに終始する、当時の政権関係者らについて「イラク戦争が合法性を持たないことは、開戦前から充分に把握できた」と批判。「間違っていても、その時々の流れに乗って発言していれば、どんどん出世する」と戦争を支持した学術会や、言論界の責任も指摘しました。「米国に追随することは日本のためになるのか」と繰り返し問題提起した上で、「米国が『脅威』を決め、『脅威』とされた者を殺してもいいという流れが作られている」「国連憲章にあるように、世界中が他国を攻撃しないと約束することが、平和につながる。それを説得させ得る一つの材料が、イラク戦争がいかに間違っていたかを検証することだ」とイラク戦争の検証は日本のみならず世界の平和のため必要だと訴えました。

2013/03/27

イラクと日本および世界の平和を実現するための早稲田宣言

いかなる国や地域の人々であれ、生命や尊厳、平等という譲ることのできない権利を保障されることは、世界における自由、正義および平和の基礎です。20033月に米英両国を中心として開始され、日本が支持・支援したイラク戦争は、世界人権宣言に謳われる精神とは正反対のものであることを、ここに確認します。

イラク戦争では、少なくとも11万人もの命が奪われ、現在もなお、300万人近くもの人々が、国内外での避難生活を余儀なくされるような状態を招きました。それが「自由と民主主義」を標榜する先進諸国によって引き起こされたことは断じて許されないことであり、この戦争を止められなかった市民社会にとっても痛恨の極みです。ファルージャなどイラク各都市での無差別虐殺や、アブグレイブ刑務所などでの組織的な拷問や虐待、クラスター爆弾や劣化ウラン弾など非人道的兵器の多用など、米軍ほか多国籍軍がイラクで行なってきたことは国際人道法に著しく反することは明白であり、また「人道に対する罪」にあたる可能性があります。

自国のイラク戦争への関与について検証を行ったオランダで、独立検証委員会が結論づけたように、イラク戦争は国連憲章に定められた武力行使の法的根拠を持たない、国際法上も違法なものでした。そうした戦争を日本が支援・支持したことは、日本国憲法前文の「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占める」という精神に反し、また名古屋高裁が憲法判断を示したように、航空自衛隊による米軍の人員・物資の輸送支援は、集団的自衛権の行使、参戦行為であり、憲法違反です。

これらの事実が持つ重大さは、決して風化させてはならず、日本のイラク戦争への関わりの検証は歴史的、国民的な課題です。したがって、私たちは、以下の行動を提起します。

◯政府は、第166回国会閣法第89号附帯決議に従い、イラク戦争への日本の関わりについての

検証を行うこと。市民側も政府任せでなく、検証を行うこと。

◯政府は「石油の確保のため」「周辺国の脅威に対抗するため」という理由で、イラク戦争を支持す

るなど、自らの利益のために他者の犠牲を顧みない姿勢を改め、平和共存の道を模索すること。

◯市民は、戦争を始めた当事者たちの責任を問い、国際刑事裁判所での訴追や「普遍的管轄権」の行使を含む追及を、国際社会に求めていくこと。

◯市民は、今後もイラクの状況について関心を持ち続け、情報収集や共有に務めること。

◯政府、市民それぞれは、困窮するイラク難民・避難民や、劣化ウランが原因と思われる健康障害を抱える人々など、戦争被害者に対し、今後も、あらゆる支援を行なっていくこと。

◯政府、市民、それぞれは、平和憲法の精神に基づき、戦争に参加、支援する動きに断固反対し、あらゆる国際紛争について平和的な解決を目指すこと。

◯本宣言を、市民側は広め、協力の輪を広げていくこと。政府は政策に反映すること。

2013320

イラクテン集会「イラク戦争の10年と日本」参加者一同

2013/03/24

安倍改憲政権の矛盾について

安倍改憲政権の矛盾について 

主に軍事的側面から

大内 要三

1  安倍政権のシナリオへの疑問

 昨年(2012年)12月の総選挙で改憲をマニフェストに掲げる自民党が絶対多数の議席を占める結果となり、第2次安倍政権が成立した。本年7月の参院選で改憲勢力が議席の3分の2以上になれば、改憲への道が見えてくる。日本国憲法最大の危機という表現も、決して大げさではない。

 安倍首相は一方では任期中の明文改憲をいい、他方では早期に集団的自衛権行使を可能にする解釈改憲をしたいという。これは誰にでも分かる矛盾であって、解釈改憲で済むなら明文改憲の必要はないし、明文改憲の目算が立つなら解釈改憲の必要はない。明文改憲はいかにもハードルが高いが、それ以前に解釈改憲が急がれる理由がある、という状況認識があるのだろう。

 9条改憲以前に集団的自衛権の政府解釈を変更するのは、日米同盟強化=米国の戦争へのいっそうの協力への見返りとして、日本の領土紛争への米国の介入を期待するからだろう。確かに尖閣問題で日中間の緊張がある。これまで北方4島問題、竹島問題で米国が日本のために何もしてくれたことがないにもかかわらず、というか、ないからこそ、いっそうの同盟強化を望むわけだ。

 しかしながら、ここにも明らかな矛盾がある。明文改憲は占領軍からの「おしつけ憲法」を廃棄して独立日本の新憲法を制定すること、すなわち米国からの独立宣言であるはずなのに、解釈改憲は日本の米国へのいっそうの従属を深める結果になる。従属を深めてから独立するのか。

 そして、とりわけ対中国対応に関して、第2次安倍政権の思惑は明らかに第2次オバマ政権の思惑と食い違っている。以下、軍事・安保問題を中心に米日それぞれの重要文献をいくつか読み解くことによって、そのズレ具合を見る。

 なお、本稿は119日に平権懇学習会で行った報告をもとに文章化したものであり、以後の事象を取り込んでいない。

2-1  グローバル・トレンド2030

 Global Trends 2030 は昨年1210日に米国のNational Intelligence Council (NIC)が発表した文書で、Alternative Worlds という副題がついている。NICは国家情報局と訳されるが、CIAFBIなどの諸情報機関を統轄する部署だから、この文書もそれなりに権威のある、2030年までに世界がどう変わるかの予測であり、これを参照しつつ米国は対外・国内政策を立てていくことになる。2009年に発表されたひとつ古い版、Global Trends 2025は日本の外務省や防衛省がきわめて重視してきたし、全訳もある。

 まず、国際社会のなかの米国の地位がどうなっていくかについて。

・中国は2030年の数年前には米国を超え、世界最大の経済大国となるだろう

・ヨーロッパ、日本、ロシアの経済は相対的に緩やかに低下していくだろう

・米国は2030年においても、他の国家の中での「同輩の中の筆頭」としてとどまる可能性が高い

・パックス・アメリカーナ、つまり1945年に始まった国際政治におけるアメリカ優位の時代は、急速に終焉した

 要するに米国単独覇権の時代は終わる、米国の国際的地位の凋落傾向は止められない、と自ら認めているわけだ。昇る中国と沈む米国、という基本的枠組みがここにある。

 では、今後の国際紛争に米国はどう対処するか。

・国内紛争が起こることは少なくなり、その規模も小さくなるが、国家間紛争の可能性が残ることに注意

・今後15から20年間は、米国はある程度まで、世界秩序の組織的な守護者・保証人の役割を果たし続けるだろう

・イスラム教徒によるテロリズムは、2030年までには終焉するだろう

・多極化が進むアジアに地域安全保障の枠組みのないことが、地球上の最も大きな脅威のひとつ

 弱くなっても憲兵は憲兵。そして国際紛争の焦点は「アジア」。中東イスラム圏が脅威でなくなるなら、懸念されるのは東アジアになる。

 ではズバリ、未来世界はどのように予想されるか。これが全然ズバリでない。4つの可能性が並列されている。だからこそこの文書の副題はAlternative Worldsと複数になっているわけだ。

①立ち往生の世界(Stalled Engins) 。米国・ヨーロッパが内向きになり国際社会をコントロールする能力を失って、国家間紛争が起こる

②連携の世界(Fusion) 。中国の政治改革が進み、アメリカンドリームが復活する

③格差の世界(Gini-Out-Of-The-Bottle) 。国際的にも各国内でも、ユーロ内でも勝者と敗者の格差が広がる。中国は愛国主義を強め、多くの国が破綻し、主要国同士の紛争が起こるかもしれない

④非国家の世界(Nonstate World)。国家よりも NGOや多国籍企業がリーダーとなる、不均衡な世界

 もちろん米国にとっては③がベストなのだろうが、それが困難であることもよく承知している。だから全体としてこの文書は、ゆるやかな米国のスローダウンの中での諸国が国際協調のために努力することを望み、とりわけ、地域での安全保障が確保されることを望んでいる。くれぐれも東アジアで紛争など起こしてくれるな、という願望を含んでいるわけだ。

2-2  世界のリーダーであり続けるために

 次に読む文書は昨年13日に米国国防省が発表したSustaining U.S. Global Leadership : Priorities for 21st Century Defense。いちおう2020年までを見据えた国防基本政策文書だ。オバマ政権は2010年に議会に対してQDR4年ごとの国防見直し)、NSS(国家安全保障戦略)を発表しているにもかかわらず、このような文書を出したのは、5年間で約20兆円の国防費大幅削減を求める議会への対策と、既成権益確保を求める軍への対策の両にらみだろう。

 ざっと中味を見る。

・国土防衛:もし抑止に失敗し、相手が脅しや軍事力によってわれわれの国益に挑戦す る場合に備えて、米国の国益を守るために対処する準備を整えていなければならない

・過去8年間の作戦は、陸軍に不均衡な負担を強いてきたが、今後はかなり長期にわたる航空および海上の会戦も予想し、備えなければならない

・アジア太平洋と中東でのプレゼンスを維持し同盟を強化する

・軍を削減するがよりフレキシブルで即応性の高い、テクノロジーの進化したものに

・軍の主要ミッション10項目:①テロ・非正規戦争対応、②2正面作戦能力の維持、③中国・イランのA2/AD(接近阻止・領域拒否)対応、④大量破壊兵器対応……

 以上、「強大な米軍」の看板は維持するが中身は細ることが見え透いている。2正面作戦能力、つまり世界の2つの地域での紛争に対応できる能力の維持は、すでに2006年のQDRで事実上放棄されている。中国とイランが当面の対応対象となっているが、その対応は同盟ですることになる。そこで対中国では自衛隊の役割が重くなる。ただし米国の国防政策があくまでも抑止能力が先で戦闘能力が後、という構造は確認しておく必要がある。

 

2-3  中国の軍事力・安全保障の進展に関する年次報告書

 では中国の軍事力強化に対して、米軍はどのように対応するのか。昨年518日に国防省が発表したMilitary and Security Developments Involving the People's Republic of China 2012を見る。この文書は毎年新版が発表されている。

・中国の指導者は21世紀最初の20年間、経済成長・発展に焦点を絞り、自国周辺の平和と安定の維持を求め、米国他の国々との直接的な対決を避けてきた

・中国が国際社会における新たな役割や責任を担うようになるにつれ、中国軍の近代化は、より遠方地域でも幅広い任務が遂行可能となることに重点が置かれている

・主要な焦点は台湾海峡の不測事態への備えであり、中国の軍事投資の大半を占める

2011年にA2/AD戦略を可能とする能力を向上させ、以後はその任務を大きく拡大しようとしている

・米国防省は中国との健全で、安定的、信頼できる、継続可能な軍レベルの関係構築を模索している

 文書の末尾にはさまざまなデータが挙げられ、A2/AD戦略に関して、例の第一列島線・第二列島線を示す地図も大きく掲げられてはいる。しかし本文では、米軍にとって対中国では今なお「主要な焦点」は台湾有事であって、東シナ海有事はもちろん、南シナ海有事も二の次になっている。これは米国内台湾ロビーへの配慮、台湾への武器輸出を続ける防衛産業への配慮もあるのだろう。

2-4  第3次アーミテージ報告

 昨年815日にCenter for Strategic & International Studiesが発表した日米同盟強化に関する文書、The U.S.-Japan Alliance : Anchoring Stability in Asiaは、Richard Armitage & Joseph Nye が著者代表となっている。おなじみの民主・共和両党共同による日本への勧告文書であり、2000年、2007年のものに続く「第3次アーミテージ報告」と呼ばれる。今回は冒頭から脅迫調になっている。この文書について私はすでに簡単な別稿を書いたし、ネットで探せば全訳もあるので、ここでは大筋のみを見る。

・日本は一流国であり続けることを望むのか、二流国に転落するのか

・エネルギー安全保障(原子力、天然ガス、メタンハイドレード、石油):原子力は日本の包括的安全保障に必要不可欠

・経済・貿易:TPP推進

・近隣諸国との関係:歴史関係で日韓がぎくしゃくしているなら、米国を加えた3国の非公式有識者会議を活用してはどうか 

・新たな安全保障戦略:南シナ海で中国軍拡の脅威に対抗するため米軍のエアシーバトルと自衛隊の動的防衛力による共同対処を

 特徴的なのは、原発、TPP、防衛の順になっており、軍事優先ではないことだ。もちろん憲法に関して、集団的自衛権に関しての対日要求は従来通りではあるけれども、3.11事態での「トモダチ作戦」が集団的自衛権行使禁止、憲法9条の縛りを乗り越えて成立したと評価していることは見逃せない。

3-1  日本を、取り戻す。

 ここまでは米国側の基本文書を読み解くなかで、凋落する米国からの対日要求がどのようなものであるかを見てきた。以下で安倍政権の基本的姿勢についての文書を2点だけ読む。他にも自民党の改憲試案は、私どもにとっては「平和に生きる権利」の全否定という点でも大問題だが、すでにこれを分析し論ずる文書がいくつも出ているので、ここでは扱わない。まずは昨年の総選挙における自民党のマニフェスト文書「自民党重点政策 日本を、取り戻す。」の、注目すべき部分を箇条書きにしてみる。

・日米同盟の強化のもと、国益を守る、主張する外交を展開します

・官邸の司令塔機能を強化するため、「国家安全保障会議」を設置します

・日本の平和と地域の安定を守るため、集団的自衛権の行使を可能とし、「国家安全保障基本法」を制定します

・防衛大綱・中期防を見直し、自衛隊の人員・装備・予算を拡充します

・憲法改正により自衛隊を国防軍として位置づけます

・統合運用を進め、自衛官と文官の混合組織への改編、部隊運用組織の統合など防衛省改革を推進します

・米国の新国防戦略と連動して自衛隊の役割を強化し、抑止力を高めるため、日米防衛協力ガイドライン等を見直します

・在日米軍再編を進める中で、抑止力の維持を図るとともに、沖縄をはじめとする地元の負担軽減を実現します

・国際貢献をさらに進めるために、「国際平和協力一般法」を制定します

・尖閣諸島の実効支配を強化し、島と海を断固守ります

 見られるとおり、じつに正直に、自民党は改憲志向政策を述べている。しかもこのマニフェストをくまなく収録した立派なパンフレットを、全戸配布に近い形で普及した。その上で総選挙で絶対多数を得たことで、このマニフェストが国民多数の支持を得たつもりで各項目の実現をめざしているわけだ。

 しかしながら「日本を、取り戻す。」といいながら対米従属を強める結果となる矛盾を、自民党は感じていないのだろうか。

3-2  柳井懇報告

 1次安倍内閣当事、首相の諮問による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(柳井俊二座長)の答申は、首相が交代した2008624日になって出されたため、凍結されたものと思われていた。それが第2次安倍内閣の成立によって、答申も懇談会そのものも、ゾンビのごとく再生しようとしている。08年答申の主要部分は以下のとおり。

「我が国による集団的自衛権の行使及び国連の集団安全保障への参加を認めることについては、憲法第9条の下で認められるのは個別的自衛権の行使のみであって、それを超える武力の行使は憲法に違反するというこれまでの政府解釈を変更することになる。このような憲法解釈は、長年にわたって確立したものであって憲法改正によらなければ変更できないという意見もある。しかしながら、つぎの理由により、このような変更は、解釈によって可能である。第一に、憲法第9条が禁じているのは、『国際紛争を解決する手段として』の『国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使』であり、国際法上我が国が固有の権利として有する集団的自衛権の行使及び国連憲章に基づく集団安全保障措置への参加を明文上禁ずるものではない。第二に、個別的自衛権しか行使できないという従来の解釈は、過去その時々の安全保障環境や政治状況に照らしつつ、個々具体的な問題に直面して、政府が主として国会答弁で表明してきたものである。第三に、これまでの解釈が過去の安全保障環境や政治情勢を反映した歴史的なものである以上、その解釈はこのような環境や情勢が激変した前世紀末から21世紀にかけての時代に適合せず、その変更が迫られているものと考えられる。よって、解釈の変更は必要であり、かつ、変更は政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能であり、憲法改正や立法措置を必要とするものではない。」

 せっかくの答申だが、政府の憲法解釈変更だけではあまりに安易だというわけで、第2次安倍政権は立法による解釈改憲を志向しているわけだ。

4.  まとめとして若干の考察

 以下、走り書きになるが、読み解いた諸文書から若干の考察。

 本稿の冒頭に述べたように、安倍政権は幾重にも矛盾した改憲政策を実施しようとしている。明らかな矛盾があるのは、米国の対日要求が国際政治の次元と軍事の次元で異なっているからだ。日米同盟強化をあくまでも軍事優先志向で考えるところに、安倍政権の読み違えがある。

 安倍首相は第1次内閣を組閣した当事のままの精神状態で、レンジで解凍したごとく第2次内閣を組閣した。しかし米国側を見ると、ブッシュ・ジュニア政権下で重要な地位にあったジャパン・ハンドラーたちはいまやみな引退して、オバマ政権下の重要人物はみな東京上空をスルーして中国に飛んでいる。この状況変化を安倍首相がなぜ認識できないのか、不思議だ。

 政治・外交の論理と軍の論理とを分けて考える必要がある。誰も戦争を望まないが、戦争能力を国際政治上の手段のひとつとして使う。軍のほうでは、命ぜられたときに確実に任務が遂行できる態勢を望むから、どうしても軍拡志向、同盟拡大志向になる。偶発戦争回避のためには軍縮交渉や軍同士の交流が必要であり、軍の暴走を防ぐシステムが必要であり、よりラディカルには、軍備撤廃=日本国憲法9条の論理が必要だ。

 国際的地位の低下を免れないと自認している米国は、自ら安らかな衰退を望んでおり、その妨げとなるような地域紛争、たとえばEUの分裂、日中韓の間の対立・紛争、イスラエルの暴走のような事態が起こることを迷惑視している。しかし現実にその可能性がある間は、米軍はいかなる事態にも対応できる態勢を維持しようとするだろう。自力で対応できなければ、同盟軍への要求が強まる。

 当面、米国・米軍が日本政府・自衛隊に望むのは、①中韓との間での紛争への自力対処、②中国海軍の太平洋進出のチェック、③朝鮮有事対処への協力強化、④在日米軍基地機能の強化、⑤米国の戦争への協力、ということになるだろう。

 とにかく、米国はグローバルな軍事的負担を軽減したい。中国軍の脅威に対しては日本・韓国・オーストラリア・ベトナム等との共同で対処したい。しかし同時に中国の経済発展に期待し、その市場を確保したい。中国が大量の米国債を保有することからも、米中全面対決などあり得ない。尖閣「領土」問題で東アジアに波風が立つことなど米国にとっては迷惑以外の何物でもないから、尖閣領有については日中のどちらにも与しない。

 1997年新ガイドライン(日米防衛協力指針)が周辺事態対処=朝鮮有事とそれに連動する日本有事対処を眼目としていたのに対し、公式にはこれから協議が進められる2013年第3次ガイドラインは、自衛隊イラク派兵以後の実態の公認・拡大としてのグローバル同盟を眼目とする。

 現実に自衛隊ジブチ派兵は在日米軍なみの在外自衛隊の特権を規定する地位協定に支えられており、危害射撃容認のハードルを越えている。海空自衛隊は専守防衛をはるかに超えた装備をもち、日米共同演習は実戦的になっている。

 しかし米軍が自衛隊の役割分担拡大を望んでいるとしても、米国は日本が東アジアで紛争を起こすことを回避したい。ここに米国の対日要求の最大の矛盾がある。第2次安倍政権はこれを解読できていないように思われる。   2013年3月14日稿)

  

2013/02/20

イラク戦争の10年と日本

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「イラク戦争10年」キャンペーン メインイベント
       イラク戦争の10年と日本

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【日時】2013年3月20日(イラク戦争開戦日)10時~17時30分
【会場】早稲田大学社会科学部棟1、2F(東京都新宿区西早稲田1-6-1)
東京メトロ東西線、早稲田駅下車
住所:東京都新宿区西早稲田1-6-1 (会場への地図)
アクセス:JR高田馬場駅よりバス、または東京メトロ東西線、
早稲田駅下車
【参加費】無料(資料代は実費)
【主催】「イラク戦争10年」キャンペーン実行委員会
    共同代表:池田香代子、志葉玲、高遠菜穂子、谷山博史、富山洋子、吉岡達也(五十音順)
【共催】早稲田大学平和学研究所

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「終わった」ことにされているイラク戦争ですが、現在も治安は 回復せず、300万人以上の人々が故郷を追われたままになっています。人々の記憶からは消えさろうとしていますが、日本が戦争を支持・支援した事実は消えません。世界情勢も混迷するばかり。私たちは、自衛隊が参加したこの戦争の当事者なのです。

開戦から10年目の2013年3月20日、イラクのジャーナリストや戦争検証。を行う英国から「イラク反戦の母」が来日、国内からもNGOや市民団体、ジャーナリストが勢ぞろいします。このままで本当にいいのか、私たちに何ができるのか、イラク戦争を問い直す機会にしていきましょう。

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*当日、会場内で写真展も合わせて開催します。

プログラム

(1) 全体会 10:00~12:00 (201教室)
アリ・マシュハダーニさん(イラク/フォトジャーナリスト)
ローズ・ジェントルさん(英国/「反戦軍人家族の会」及び「イラク戦争反対キャンペーン」創設メンバー)孫崎 享さん(日本/評論家、元外務省国際情報局長)

   ランチタイムイベント
   12:00~13:00 (201教室)
   リーディング「あきらめない 2003-2013 イラク戦争の10年」
   構成・演出 : 非戦を選ぶ演劇人の会 関根信一

出演予定:渡辺えり、根岸季衣、大鷹明良、流山児祥、西山水木、小林あや 他

(2) 分科会(予定) 13:00~16:30
   13:00~14:30
   [1]イラク戦争と劣化ウラン (101教室)
   [2]ローズさんと語るイラク戦争検証 (102教室)
   15:00~16:30
    [3]アリさんと語るイラク占領の現実 (101教室) 

[4]イラク戦争と自衛隊・在日米軍 (102教室)

(3)まとめの会 16:45~17:30分(201教室)

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参加費 無料(資料代は実費)
主催:「イラク戦争10年」キャンペーン実行委員会
共同代表:池田香代子、志葉玲、高遠菜穂子、谷山博史、富山洋子、吉岡達也(五十音順)
共催:早稲田大学平和学研究所
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ゲストスピーカー紹介
◆アリ・マシュハダーニさん
1969年 ラマディに生まれる。フォトジャーナリスト(TV &報道写真)。ロイター通信社、BBC、NPRのカメラマンとしてアンバール、ティクリートの地域を取材・報道する。またアメリカのフロントラインのドキュメンタリー作品「Rules of Engagement」(2008年イラク・ハディーサで米海兵隊がイラク人24人を虐殺する事件を追った映像)の一部も担当。その他、中東地域の5社のテレビ、5社の新聞社にて特派員として活動。フランス文化センター、イラクシネマクラブ、ジャーナリスト協会、イラク写真家協会、イラクジャーナリスト連盟、アラブ写真家連盟に所属。

◆ローズ・ジェントルさん
「反戦軍人家族の会」及び「イラク戦争反対キャンペーン」創設メンバー。 ローズ・ジェントルさんは、スコットランド・ポロック出身。2004年6月、イラク戦争従軍中に19才で亡くなったフシエル・ゴードン・ジェントルさんの母親。息子の死亡から、イラク戦争反対の表明を始める。息子が亡くなった戦争には、大義もなければ法的根拠もないと議論している。戦争は、政治的手段としての存在もしていない大量破壊兵器という虚偽に基づくものとし、トニー・ブレア元首相の責任を追及している。ジェントルさんは、イギリス軍のイラクからの撤退を求めるキャンペーンを展開するための軍人家族の会である「反戦軍人家族の会」を共同設立している。また、英国高裁および欧州委員会法廷においても訴訟を起こしイラク侵略に対する英国政府の決定に関する調査を求めるキャンペーンを展開。その判決は、今年の後半まで持ち越されている。

◆孫崎享(まごさき・うける)さん
1943年生まれ。1966年、東京大学法学部中退。外務省入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を経て、2009年まで防衛大学校教授。著書に『日米同盟の正体―迷走する安全保障』『不愉快な現実―中国の大国化、米国の戦略転換』(講談社現代新書)、『日本の国境問題―尖閣・竹島・北方領土』(ちくま新書)、『戦後史の正体』(創元社)など。

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お申し込み、お問い合わせはこちらへ
「イラク戦争10年」キャンペーン実行委員会
http://iraqwar10.net
E-mail:iraqwar10years@gmail.com
TEL: 090-9328-9861
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☆イラク戦争10年会議には多額の費用がかかります!どうかご支援を!!

ゆうちょ銀行
*加入者名:イラク戦争10年実行委員会
*00110-8-263690
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